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ねぇ、メガネかけない?  作者: 時帰呼
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第四話 馬鹿と眼鏡と真夏の鍋料理と

兄貴と喧嘩して飛び出してきた夏子が 偶然 出会ったのは、遥か遠く北の国から(2年前に)やって来た ピーター・キアク・クリステンセンだった。


ピーターが 日本へ来た目的は…。



第四話『 馬鹿と眼鏡と真夏の鍋料理と』




夕闇迫る 茜色の砂浜で、二人で 交互に頭を下げながら しばらく謝り合った後に 落ち着いてから 彼の話を聞いてみると、こういうことだった。



彼のフルネームは、ピーター・キアク・クリステンセン。



年齢を聞いてみて 今度は私の方が吃驚する番だった。


デンマークのフェロー諸島出身の大学生で 現在 21歳。


ずいぶん少年っぽい外見だから、てっきり私より歳下ということもあるだろうと思っていたが 四つも歳上というのは 意外なことだった。


背の高さは 私と同じか 少しだけ低いかもしれないくらい。


話してみると、第一印象通りの いい意味で少年らしいキラキラしたものを感じさせてくれる男の子だった。


あ、年上だから 失礼かな…、今のは。


とにかく、外国人の男の子と こんなに身近に話したのは 生まれて初めての体験。


私の英語力も たいしたものだな♪ と 錯覚を起こしそうになってしまったが、よく考えてみれば ピーターは 先刻より ずっと日本語を流暢に話している。


そもそも デンマークのフェロー諸島で話している言葉は フェロー語であり、デンマーク語の影響は受けているけれど どちらかと言うと アイスランド語に近縁の言語で、フェロー語を使用しているのは フェローに住む わずか50,000人弱とのこと。


勿論 これは、後になって もっと色々と詳しく話せる間柄になってから 聞いた話だけれど。


彼は、フェロー諸島の首府トウシュハウンの国立大学『フェロー諸島大学』の学生で、母校では 学べない事を勉強するために 休学して、2年前から日本へ やって来ているそうだ。



「母校では学べない事ってなんなの?」


私とピーターは、砂浜の波打ち際に 二人並んで座って 今にも沈もうとしている夕陽を見てた。



「うーん、海の生き物に関してのことなんだけどね…」


なんとなく 言葉を濁す言い方に 図々しい私は 突っ込んだことを聞きたくて仕方がなかったけれど、先だっての勉強会の一件があったから ちょっと遠慮がちに聞いてみた。


つまりは、好奇心が抑えきれなかったのだ。



「夏子は、海の生き物に興味はありますか?」


「あるって言えばあるし、あんまり考えたことないな。 これだけ海が近いところで生まれ育っていると、そんなに意識しなくても ずっと関わっていることだし」



ピーターは やはり 少し考え込んだような目をして 夕陽を見ている。


そして、私は おとなしく 彼の言葉を待った。



「フェロー諸島っていうのは、北海の真ん中に浮かぶ 幾つかの島で構成された自治政府をもつ デンマークの一部なんだ」



私は じっと彼の目を見て ふむふむと頷いている。


ピーターは その私の様子に ちょっとだけ笑顔を見せて 話を続けた。


「日本も そうだけど、周りを海に囲まれたフェローは 漁業が盛んで、日本にも 沢山の魚が輸出されているんだ。

きっと 夏子も フェロー諸島でとれた魚をたべたことがあると思うよ」




「ふーん、そうなんだ。 ここら辺りは 地元の漁師が 沢山の魚をとって生活しているけれど、たしかに外国産の魚も スーパーに行けば 沢山 売っているものね」



「……で、唐突だけど 夏子は 鯨やイルカのことを どう思う?」


うん、それは たしかに唐突な質問だった。


ちょっと戸惑ったけど、私は 心に浮かんだ そのままの言葉を口にした。


「可愛いと思うよ。 それにカッコいい」




その答えを聞いて、ピーターは また 複雑な表情を浮かべた。



「そうだよね。 確かに可愛いし カッコいい。 でも それは 一面的な見方だと思うんだ」


彼は 何を言いたいのだろう?


なんとなく おおよその察しはついたけれど、あえて 私は質問してみた。


「一面的な見方って、どういう意味なの? さっきから なんとなく奥歯に物が挟まったような言い方が 気になって仕方がないんだけれど」




そうしたら、ピーターは とても とても真剣な顔をして、思っていることを 率直に言ってくれた。



「奥歯に物が挟まったような言い方って?」



そっちかよ!?


「それは、日本的な表現というか 慣用句というか、つまり ピーターが さっきから 言いたいことが胸の中にあるのに、それを素直に話してくれなくて すごく気になって仕方がないって意味なの」



「あ、そうか…、そうだよね。ゴメンナサイ。

僕が言いたかったことは、鯨やイルカ等の鯨類を食べ物として見ることを 夏子が どう思っているのか知りたいということ。

僕たちの フェロー諸島では、毎年 千頭以上のゴンドウイルカの追い込み漁が行われている。 僕たちは それを『 グリンダドロップ 』と呼んで、フェロー諸島に 人間が入植してから ずっと伝統的に行ってきた。 そして、それを止めるつもりも予定もない。

イルカの追い込み漁は 僕たちの住む島の湾では 普通のことで、湾の近くに イルカの群れが現れた事が漁師から 役所に連絡が来ると、漁師だけじゃなくて 他の一般の仕事をしている人も 仕事を途中で休んでまで 女の人も男の人も 総出で 浜辺にやって来て イルカの追い込み漁に参加するんだ」



私は ピーターの話を じっと黙って聞いていた。 その追い込み漁の光景は どんなものなのだろうと想像しながら。



「一つ聞いてもいい?」



ピーターが 一通り話をしてくれたのを待ってから、私は質問してみた。



「ピーターは、日本が 調査捕鯨やイルカの追い込み漁をしている国だと知ったから、日本へ来たんでしょう?」


ピーターは ギクリとした。



「うん、その通り。 それを知ったから日本へ来た。


デンマークは捕鯨国だけど 鯨やイルカを捕っているのは ほとんどフェロー諸島の限られた一部だけなんだ。

だから 国外だけじゃなく、国内からも 批判される事がある。

僕は 世界中から 批判されながら 捕鯨を続けている日本に とても興味があって、その事を もっと知るために…。 そして自分の生まれた土地の捕鯨というものの意味を知るために 日本へ来たんだ」



太陽は もうすっかり水平線の彼方に沈んでしまい、辺りは 真っ暗になりかけていた。



「ピーター、立って♪」


私の 不意の言葉に 彼は 素直にしたがってくれた。




「ちょっと ピーターに紹介したい人がいるの。 時間があるようなら…って言うか、是非 これから付き合ってほしいなって思うんだけど♪」



私の笑顔に ピーターも笑顔を見せてくれた。


「うん、勿論だよ! 夏子が 紹介したいって人がいるなら、どこにだってついてゆくよ」


「ふふん、後悔しても知らないからね」



私は 出来るだけ邪悪な笑みに見えるようにと思いながら、ピーターの手を牽いて 歩きだした。




*****



陽が落ちると、私の住む 水戸浦和市は けっこう静かなというよりも寂しい街並みの様子になる。


駅の周辺には 大きな量販店やスーパーも在るけれど、ちょっと駅から離れると 住宅が 散見されるだけの典型的な田舎町だ。




ピーターと私の二人は 港近くの浜辺から 駅前通りを通り抜け、どんどんと歩いた。


途中、ピーターからは フェロー諸島の自然の様子や ピーターの家族のこと、


私は 自分の唯一の家族である兄貴のことを 彼に話した。


そして、自分のことも 沢山 たくさん。


勿論、ピーターも 初めは 私のお喋りに面喰らっていたけれど、しまいには 二人とも 長年の友人のように お互いのことを知るようになっていた。



そう、それほど 我が家は 水戸浦和駅前通りからは遠いのだ。



ピーターに ことわって、家への帰り道の中程で スマホを取りだし 3ヶ所に電話した。


私は サプライズ好きだから、スマホでは 細かい事情は話さなかったけれど、事細かに指示を出すことは 怠らなかった。




一時間近く歩いての帰宅になったけれど、これは 少しばかり時間稼ぎのために 遠回りをしたとは ピーターには悟られないようにした。


ピーターは、話したいことが 沢山ありすぎて、私の計略には 全然 気づいていないようだった。


うんうん、なんて可愛いやつなんだろう♪




懐かしの我が家前に到着すると、連絡しておいた通り、アシスト付き自転車と原付、そして兄貴の軽自動車が 置いてあることを確認してから 玄関ドアを開けた。




「ただいま♪」


私は 大きな声で 帰宅を報せた。



なにやら、ダイニングルームで ドタバタと慌てふためいている物音がする。


ピーターは、私の家に 突然 招かれたことに ドギマギしながらも とても嬉しそうに笑顔を見せている。



玄関をあがって直ぐにある引き戸を開けて 兄貴が飛び出してきた。



「ようこそ♪ 遠路 遥々 よく来てくれたね♪」


いつも澄まし顔のインテリメガネが なにやら挙動不信なのを見るのは 愉快なものだ。


その原因を作ったのは、なにを隠そう この私なんだけどね。



遠慮しがちにも ピーターは 兄貴と私の言われるがままに 靴を脱ぎ、私に背を押され 兄貴に手を惹かれて ダイニングルームへと 引っ張り込まれた。



「わぁあ!?」


ピーターは 満面の笑みを浮かべて 喜びを全身で表現した。 こうやって 素直に自分の感情を表に出すことは 日本人には なかなか出来ないこと。


こうまで 喜んでくれると 計略を張り巡らせた甲斐があったというものだ♪



我が家の たいして広くもないキッチンと一緒の部屋にあるダイニングルームには、突然呼び出しを喰らって 不機嫌な振りをしている洋平とニコニコ笑顔の真央が 遠い国からやって来た珍客を待ち構えていて、ダイニングルームの真ん中に置かれたテーブルの上には 真夏だというのに ぐらぐらと煮えたった大きな鍋と ところ狭しと置かれた 兄貴の得意料理の数々が並べられていたんだ。


ピーターは、喜びすぎて なんだか涙目になっている。 きっと 自分の国から 遠く離れて 一人きりで生活しているから 家庭料理なんて久し振りなんだろう。


ただし、我が家の場合は おふくろの味ではないけれどね。


「さぁさぁ 座って!」


ピーターは 兄貴たち三人と私に勧められるままに 食卓につかされた。


さっそく 真央は 鍋から丁度よい塩梅に煮えた鍋料理を 甲斐甲斐しく取り分けてくれている。


洋平は 腕まくりをしているところをみると 力仕事担当だったらしい。


長袖を着ているのは よほど慌てて出張ってきたからと言うより、原付に乗るには 安全のために 長袖を着ないといけないという洋平の拘りなんだと ピーターに説明をした。


私は ここに集った人間がどんな奴等なのかを簡単に説明をして、兄貴たちは ピーターに 料理を どんどん食べろと勧めた。



ピーターは、勧められるがままに 実は 人生初という日本の鍋料理を一口食べた。


勿論 肉を 始めに食べろと私が言ったのは 言うまでもない。(←変な日本語)



ピーターの目の色が 変わった。


これは、あくまでも比喩的表現だけどね。



「これって!?」


「そう、鯨だよ♪ うちの兄貴の得意料理のうちの 特に旨いやつ! 味噌仕立てだから ちょっと不安だったけれど、ピーターの口に合ったようで良かった♪」


「口に合うなんてものじゃないよ! めちゃくちゃ美味しいです!!

でも なんで こんな……」



私は してやったりという笑顔をしながら、言いはなった。


「つべこべ言わずに 料理を楽しもうよ♪ 今日は 突発性のピーター大歓迎会なんだから」


「そうそう、話は あとあと! とにかく 腹へったぁ~」


洋平も 食卓につく。


兄貴と 私と 真央も 椅子に座って 大きな声で 声を揃えて言ったんだ。



「いただきまぁす!!」



こうして、新しい友達を加えて 人生で一番充実した 本当の夏休みが始まった。



気まずくなりかけてた、兄貴達との仲直りの架け橋に ピーターがなってくれたことへの感謝は、ずいぶん後になってから 彼に伝えた。




私は 意外と シャイで 恥ずかしがり屋なんだ♪





『ねぇ、メガネかけない?』 ……了



追記……


私が 洋平の好みに合わせて 伊達眼鏡なんて かけるわけがない事だけは この場で 宣言しておく!!


完♪


…というわけで、恋愛要素気迫な短編でありました。


なにが 書きたかったかと言うと、「みんな、仲良くしようぜ!」ってとこでしょうかね。


では、ごきげんようです。

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