夏休みと宿題と金髪と
メガネっ娘萌え…なんて、ぜんぜん 対象外! 認識外!
そんな風に考えていたんだけど、
これって…、
第参話『夏休みと宿題と金髪と』
そんなこんなで なし崩しに 生来の強引な私の性格に引っ張られたのか、はたまた 真央の適応力という名の懐と心の広さ故か、私達は あっという間に 親友となった。
うーん、ず~っと『親友』って言葉は なんか嘘っぽい言葉だなと思っていたから、今まで使ったことなんて無かったけれども、真央に会ってから 親友ってものが この世に存在するんだなって信じられるようになったんだから不思議だ。
コレこそ、「おぉお~~!! 心の友よ!!!」ってやつなのかもしれないな。
時間が経つのは早いもので、真央が 夏休みの直前に転校してきてから すでに幾星霜…というのは大袈裟だけど、いつの間にか 夏休みに突入していた。
…てか、夏休みの宿題と大学への受験勉強は 夏休みに入ったら もう死に物狂いで取りかかるぞ!! …と心に誓ってから幾星霜……。
ふと気づくと 真央と洋平の馬鹿との三人で 海に行ったり、サ店(喫茶店)で 駄弁っていたりしていたら 八月になってしまっていたのだった。
あはは……、まだ なんにもしてないのに…。 不思議だなーーー(棒)
兎にも角にも 時間の流れは待っていてはくれない。
時の神様クロノスは 運命の女神様以上に 情け容赦がないのだと 思い知った次第でありますマル
「なんて、ふざけた事を言っている場合じゃないよ!! 夏子! どうすんの!?」
という 真央からの厳しい指摘により、我が海野家において、めでたく 夏休み集中講座が開催される運びになりました!
《拍手~~♪》
「なに馬鹿なこと言ってんだ!? 夏子!
さぁ、次は この設問を 3分以内に解け!」
失念しておりましたが、情け容赦がないのは 時の神クロノスや運命の女神様だけではなく、我が家にも 一柱 いらっしゃったのでした。
「兄貴! そんなゴムタイな!?」
「お前なぁ、今 片仮名で考えてただろう? ゴムタイヤって聞こえたぞ!
『御無体なっ』てのは、こう書くんだ!!」
「うぇぇ…、なんで分かったの…お兄貴さま。 てか、今は 数学の時間では?」
「お前の頭の中なんて、お見通しなんだよ。 何年の付き合いになると思ってるんだ?」
すかさず、兄貴が手にしていた 今どき珍しい竹製の刃渡り45㎝の定規が 私の右肩に 禅宗のお坊様の 叩く棒( 警策 / 長さは 通常四尺二寸の けいさく 又は きょうさくと読むらしい棒。← あとから 兄貴に教え込まれた…)の如く、バシリと叩き込まれた。
「痛いったら、も~!!」
私が 痛みに悶絶しているのを見て、真央が クスクスと 下を向いて笑ってる。
その隣では、洋平の馬鹿が ニヤニヤしなから自分の宿題を片付けている。
そうなんだよ。 我が家の2階の私の部屋には、真央と洋平と私と 無慈悲な兄貴…こと 松島水族館勤続三年目の海野春彦(24)の四人が 集結していたのだった。
まあ、夏休み中は 特に水族館が忙しくて ろくに休みがとれない兄貴が 出来の悪い妹の勉強を見てくれているのだから、そうは文句も言えないのだけど…さ。
「洋平は いいよな。 推薦枠が 余裕で取れそうなんだもんな!」
「へん、俺様は 日頃から きちんと勉強してるからな。 誰かさんと違って♪」
「あーもー、洋平は 馬鹿のくせに 成績だけは良いんだから」
クスクス笑いしていた真央が たまらずに声をあげて笑いだしてしまった。
「あー、真央も 酷いなぁ。 そんなに笑わなくたって…」
「だって、洋平君のこと 馬鹿だ 馬鹿だって言いながら…」
真央は あまりに笑いすぎて 涙を流してしまって レンズが濡れたもんだから 視界不良。
ポーチから 眼鏡拭きの布を取り出すと 眼鏡を外して 丁寧にレンズを拭いている。
勿論 涙と笑いをこらえながら…。
ドキッとした……。
もとから可愛かったけれど、真央が 眼鏡を外したら 可愛さが 数段増したみたい。
まるで輝いてるように見えた。
そう、女の子の私でさえ きゅん…とくるくらいに。
真央は 極端に視力が悪いからと言って 眼鏡を外すことが 全然 なかったから、素顔を見るのは 考えてみれば 今が初めて…で、
メガネっ娘萌えってのは、本当に存在するんだと 実感してしまった瞬間だった。
いやいや、正確には メガネっ娘萌えというのは 洋平の定義によれば、普段は地味な女の子が 眼鏡を外すと 意外と可愛いことに気づいて ドキッとする ギャップ萌えとのことのはずだから、真央の場合は ちょっと違う。
てか、普段から可愛いんだから 余計にタチが悪いじゃないか!?
恐る おそる、そっと洋平の方を見ると……、
思った通りに 鉛筆を咥えて、ぼぉぉぉ~~…と してやがった。
ギクッ…とした。
なにこれ? ナニコレ?
さっきは 真央にドキッとして、今度は ギクッ…かよ。
なんなのコレ!?
キュッ♪ キュッ♪
一同の沈黙の中、眼鏡を綺麗に拭き終わると、何事も無かったかの如く 真央は 眼鏡を再装着した。
それこそ、ビシッと音がするくらい 正確に、可愛い顔の真ん中の定位置に。
一同「…………」
「どうしたの?」
きょとんと 残りの三人の呆けた顔を 一通り見回した真央が、そのこじんまりとして愛らしい薄桃色の唇から 一言もらした。
あざとい!
…と言いたいところだが、それが ごく自然に見えるから 効果は抜群だ!
三体のスライムに それぞれ3,000のダメージ!!
じゃないッ!!
落ち込んだ。
同じ 女の子として 落ち込んだ。
古来より『天は 二物を与えず』とか言うらしいが、神様は やはり残酷で不平等のようだ。
小さい頃から 海の生き物が大好きな兄貴は、海洋生物学を学びたいって目標を持って 東京の大学に進学して、四年間 ずっと主席で 卒業して、
そのあと大学院へ進んで 本当だったら 沖縄や外国の海を飛び回って 色々な海の生き物を研究するはずだったのが、 急なアクシデントがあって 休学せざるをえなくて、この冴えない街に帰ってきて 古くて小さな水族館勤め…で。
それに 私は、洋平を いつも 馬鹿だ馬鹿だと言ってばかりいるけれど、ほんとは 洋平が頭が良くって スポーツマンで 度胸があって 優しくて…、男友達にも 学校の女子にも人気があるのを知っている。
真央だって、転校してきて 友達になって 付き合い始めてから ほんの半月程度だけれど、本当に可愛くて 勉強が出来て、素直で 女の子らしくて…
それでもって……
メガネっ娘で…………。
三人とも 私が持ってないモノを 沢山 持っている。
こんなのって、アリなのかな? 神様って……、
ずっと思ってた。
「いやぁ、初めて 山野さんの素顔を見たなって」
川畑洋平の声が なんか遠くで聞こえた気がした。
「あー、なんだ。 まぁ、ビックリしたな。 眼鏡を外した真央ちゃんが 可愛くて」
兄貴まで そんなこと言うんだ。
ナニコレ?
「あっと、もうこんな時間か!」
兄貴が、なんだか落ち着かないみたいな感じで 腕時計を見て言った。
窓の外からは ジワジワ ジワジワと蝉が五月蝿く鳴いている。
はは…、蝉のくせに五月蝿い…か。
この漢字は、漢字が苦手な私でも なんだか面白いから覚えてるんだ……。
「もう三時を過ぎたから、そろそろ今日は お開きにしようかな。
夏子も 疲れたろ?
冷蔵庫に アイスを買ってあるから、皆で食べようか?」
「兄貴ッ!! 五月蝿い!!」
私は 思わず叫んでしまった。
*****
あー最悪だ。 最悪だ。
何が 最悪だって言ったら、私の性格が最悪なんだ。
そんなことは分かってた。
海岸沿いの防波堤の上を 一人で歩きながら、私は 最悪の気分で 独り言を ぶつぶつと言いながら あてもなく歩いてた。
あ、二回 歩いてたって、独り言。
頭の真上の空を見上げれば、夏の青い空が 高く高く広がっていて、(また二回…)
真っ白な雲が 水平線の向こうから もくもくと延び上がって(三回目)
夏 真っ盛りだと報せるように、トンビが 気持ち良さそうに上昇気流に乗り、 頭の上で(四回目)輪を描きながら 翔んでいる。
けれど、もうそろそろ西の空が赤く染まりだしてきた。
昼間は 海から陸地へ吹いていた海風が 日没が近づくと ピタリと止んで凪になり、
やがて陸から海へと風が吹く 山風に変わるんだ。
その頃には、きっとトンビも 山へ帰って行くのだろう。
私は 堤防の上に仁王立ちになり、水平線の向こうを 睨みやりながら 大声でさけんだ。
「洋平のバッキャロォーーーッ!!!」
当然 海だから 木霊は返ってこないと思ってた。
「洋平のバッキャロォーーーッ!!!
……か」
私の足元 真下から、意外なことに その木霊は返ってきた。
ハッとして 下を見ると、海側の真下で 一人の男の子が 防波堤を背に座り込み、私を見上げて ニコニコと笑っていた。
その男の子は 金髪で まだ青い空の色を映した金色に近い琥珀色の瞳をしていた。
年の頃は、私と同じか 少し下に見える。
…ん?
見える…?
みえるぅぁぁあ!?
きゃあぁー…! …!!
私は 声にならない悲鳴をあげた。
それもそのはず、その時の私は 普段ならば 絶対に履かないだろう膝上15㎝のミニスカートを掃いていたからだ。
私は その場にしゃがみこんだが、それは事態を 一層 深刻な状況にしたにすぎない。
何故ならば その金髪の男の子との距離が しゃがんだ分 近づいてしまったからだ。
相変わらず 彼は すごく嬉しそうに ニコニコと微笑んで見上げている。
カッとなった私は その笑顔を目掛けて、足元の砂を おもいっきり蹴落とした。
「酷いなぁ…、まったく……」
夕陽を浴びて 赤銅色に輝く金髪から 砂を払いながら、彼は 文句を言っていた。
それは そうだろう。
彼は 少しも悪くない。 ちょっとデリカシーが足りなくて、視線を反らすという配慮が無かっただけなのだから。
私が 勝手に 彼の頭の上で 大股を拡げて仁王立ちになり 絶叫していたのだから、彼が吃驚して固まったまま 見上げていたのも当然の帰結と言える現象なのだから。
若い男の子としては当然の好奇心旺盛な精神構造的なものが、多少なりとも反映していたであろうことも 考慮に入れれば 情状酌量の余地も無しにしもあらずと言うか、なんと言うか…
とにかく 恥ずかしくて身が縮まる思いとは この事だ。
(このように思考し 自分なりの解答を導きだすのに要すること およそ3秒の間)
「ごめんなさい……」
私は そう一言謝るだけで 精一杯であった。
「あ、いいよ…。 と言うか、こっちがゴメンナサイだよね」
彼は あまりにも爽やかで少年らしい屈託のない笑顔を 私に向けて謝るものだから、いかな無神経で 女の子らしくない私としても 恐縮しきりになって その場で砂浜に穴を掘って埋まりたいくらいに(色々な意味で)恥ずかしくて仕方がなかった。
「謝るのは、やっぱり僕の方だ…。
Orsaka 」
「大阪 !??」
「あああ、ゴメンナサイ。 母国語で ゴメンナサイの意味なんです」
うわぁ…、
一方的に 私が悪いのに、下手をしたら 国際問題に発展しそうな事態を招いてしまい、挙動不信なうえに思考停止しそうな私だった。
to be cotinued……
鬼より神様より怖いお兄様の出現により、夏子の夏休みは 本能寺の如く炎上するのであった。
それにつけても、洋平めぇ~!!