第3話 仲間たち
「あ、良かった。生きてた」
目を開けた時に、ボソッと呟いたのは……名前を忘れてしまったけど、あの男子生徒。それなりに安心したような顔をしている。
男子生徒に続けて隣に並んでいるのは、髪の長い女の人。そして、私を気絶させた張本人の女の子。その隣には赤鬼。
え、待って。何か一人増えてるんですけど……!?
「お姉ちゃん、驚かせてごめんね。杏子ね、ただお姉ちゃんと遊びたかっただけなの」
女の子は申し訳なさそうに呟く。いや、ごめん。今はあなたじゃなくて、隣の赤鬼のことが気になって仕方がないんだけど。
そう考えながら、赤鬼のことを見ているとギロッと睨み付けられてしまった。出そうになる声を、必死で抑える。
「で、こいつ誰だよ」
私を睨み付けた赤鬼は、明らかに不機嫌な顔で男子生徒に尋ねる。その声色があまりに恐ろしくて、ガバッと起き上がった。そして、その場で正座をする。
「ん?僕も知らない」
「あら、知らないのに連れてきたの?」
「君たちが騒いでいたからね」
「へー、珍しいわね」
また訳の分からないまま進んでいく会話。チラッと赤鬼の方を見ると、さらにイライラが増しているようで、顔がひきつっている。
こ、怖い……!!
「分かった!じゃあ今から皆を紹介しようよ!杏子もお姉ちゃんのこと知りたい!」
立ち上がって楽しそうに提案する女の子。先ほどの怖さはどこへ消えたのか、今は彼女が可愛くて仕方がない。
それはきっと他の3名が怖すぎるからだろうけど。
「まずはお姉ちゃんを連れてきてくれたのが狐井琉斗!いつもは、高校3年生なんだよ!」
「え?先輩だったんですね」
「どう見ても先輩でしょ」
冷静にそう返す狐井さん。この人、確か名前で呼ぶと怒るんだよね。先輩だし、狐井先輩と呼ぶことにしよう。
「その隣が貞花さん!私にとってのお母さんのような──」
「──お姉さんと言ってちょうだい」
「……えーと、私にとってのお姉さんのような存在です」
怖い……。一瞬にして空気が凍った。この人は、貞花さんでいいか。
「それで、私の隣にいるのが鬼城薫!見た目は怖くて、近寄りがたい雰囲気があるんだけど、本当はとってもピュアで優しいんだよ!」
「こ、こら杏子!余計なこと言うんじゃ──」
「──ね?かおるんっ!」
ズキュンッ!と激しい音がした。きっと、ハートを射抜かれてしまったのだろう。既に赤い鬼の顔が、さらに赤くなっているのがよく分かった。
そして、この人は悪い人では無さそうだということも同時に分かった。
「そして、私は杏子です!皆のムードメーカーなんだよ!よろしくね!」
杏子ちゃん。うん、可愛いから杏子ちゃんって呼ぶことにする。本当に可愛い。鬼城さんのハートが射抜かれるのも仕方がない気がしてきた。
「それでっ?お姉ちゃんのお名前はっ?」
「あ……檜原來奈です。2年生です。どうぞよろしく」
「檜原か」
と狐井先輩。
「來奈って呼ぶわね」
と貞花さん。
「……」
特に反応のない鬼城さん。
「來奈お姉ちゃんかー!!」
と瞳を輝かせる杏子ちゃん。
それぞれの反応を楽しんでいると、狐井先輩が続ける。
「よし、とりあえず今日のところはこれで解散にしよう」
「え?私二度と戻れないんじゃなかったでしたっけ?」
「うん、戻れないよ。……でもその言葉を理解するのは、きっとまだ遠い先の話だろうけどね」
その言葉を聞き、まばたきをした一瞬で、目の前の景色がガラリと変わった。あれっ……?ここって私のクラス……?慌ててまわりを見ると、それぞれが帰る準備をしているところだった。
……どういうこと?
慌てて時計を見ると、16時を指していた。えっ、時間が巻き戻ってる……!?
先ほどまでの呪いの教室での出来事は夢だったのだろうか?でも、それにしてはリアルな夢だったように感じる。
とりあえず、また明日あの教室を訪ねることにしよう。私には知りたいことがまだまだあるんだから。
そう思い、私もまわりと同じように鞄を背負うと教室を後にした。