第1話 呪いの教室
『ねえ知ってる?この学校にある噂』
『旧校舎の4階の端にある教室のこと?』
『そうそう。その教室は呪われていてそこに入った生徒は……二度と戻ってくることはないんだって』
「二度と戻ってくることはない……か」
目の前にある重たそうな扉を見ながら、自然とそう呟いていた。私は今、クラスメイトたちが噂していた呪いの教室の前に立っている。扉についている窓の部分は黒いカーテンで覆われており、中の様子は伺うことができない。
何故私がそんな呪いの教室に来ているのか、それは自分でもよく分からない。ただ、代わり映えのしない日々に飽き飽きしていたから、何か新たな刺激が欲しかったのかもしれない。
未来に希望なんて持っていないし、そんな私に将来の夢なんてある筈がない。
生きるということが、少々面倒になっていたところだったのだ。
呪いの教室の詳細は知らない。そして、オカルトに興味がある訳でもない。『二度と戻ってくることはない』その言葉に惹かれただけ。
もしかすると、新しい世界に飛ばされるのかもしれないし、あわよくば、この人生に終わりを告げることも出来るかもしれない。そんな少しの希望を持ちながら、私は扉に手をかけた。
「──何してるの?」
突然後ろから聞こえた声に、私は慌てて扉から手を離す。
ま、待って……?これ振り返っても大丈夫なの……?ていうか、足音聞こえてたっけ?
誰もいない筈の旧校舎。階段を上がる音、廊下を歩く音くらい聞こえる筈だ。
私は覚悟を決めて、後ろを振り返る。もっと遠くから声が聞こえていた筈だが、声の主は目の前に立っていた。
「ひっ……!?」
私は軽い悲鳴を上げる。すると、その人は冷たい目で私を見下ろしてきた。
制服を着ているので、とりあえず生徒のようだが……あまりに肌が白い。不健康な白さだ。例えるなら幽霊のよう。
片目を覆い隠す前髪、色素の薄い瞳。スラッとした体。……ズボンを履いているから男性なんだろうけど、中性的な顔立ちだ。
「ここに何の用?」
「え、あ、その……」
「……はあ、困るんだよね。興味本意でここに来られるの」
「……すみません」
自然と謝っている自分がいた。
ん?でも、待てよ?この人、今この教室のことを『ここ』って言ったよね?興味本意は困るとも言った。そんな言い方するぐらいだから、よく知っているってこと?
「あの」
私が話しかけると、彼はまだか……と面倒臭そうな顔をした。私は構わず続ける。
「この教室に入れば死ぬことは可能ですか?」
「……は?」
沈黙が流れる。その間も、私は彼から目を反らさなかった。
「君、死にたいの?」
「そうですね」
「……はあ、これだから人間は嫌いなんだよ」
「え?」
「何でもない。とりあえず中に入ろう」
「良いんですか?」
彼は、扉に手をかける。そして、私の方を振り返る。
「今の発言で君に興味を持ったみたいだ。中が騒がしいからさっさと入ろう」
「……はあ」
「そして、ここに入れば君は二度と戻れないからな」
「分かりました」
ガラララ──ようやく重たい扉が開いた。