異世界への行き方
私は天道アキナ。中学2年生のごく普通の女の子だけど、私にはすごく大きな夢があるの。それは、異世界に行って、かっこいい王子様と結婚すること!
「アキナ、また変な事言って。異世界なんてないよ。あるのはこの世界だけだって」
「あるもん! マヤちゃんは何もわかってない! 毎晩夢に出て来るんだもん!」
昔絵本で異国の王子様が格好良く魔物を倒すお話を読んで以来、私はその王子様に恋をしてしまったの。
どうせ叶うわけないから忘れようと思っても、毎晩夢に出て来るし、姿形が頭の裏側にずっと張り付いて消えてくれない。
そう、これは運命の恋に違いないの。
私は異世界を探すために土を掘ったりマンホールに入ったり立ち入り禁止のところも全部入った。
どれも失敗しちゃったけどまだ諦めない。
世界のどこかに異世界はあるんだ!
「快眠で羨ましいよまったく。こっちは眠くてたまらないというのに」
「とにかく! 王子様が待ってるの!どこか異世界に通じてそうな所あったら教えてね!」
「わかったわかった、でもあんまり危ない所行くのはやめなさいね。心配だから」
「大丈夫! 誰にも迷惑かけないから!」
「もうすでにかけてるんだよ……って聞く耳持たないか」
「持たない! 私は絶対幸せになるの!」
心配してくれるのはマヤちゃんくらいだけど、異世界を探し当てて結婚したらマヤちゃんを絶対に招待する!
だって私の唯一の友達だし、すっごく優しいし、いい子だから!
「あ、あとあそこがあった!」
唐突に探し当ててない場所を思い付いた私はすぐにその場所へ向かった。私の通う中学校の体育館の裏側。
「ついた!」
ちょっと暗くてぶきみだからあまり近寄りたくなかったけど、こういうところに異世界はあるものなのよね。
私はすぐに調べていない場所のフタを開ける。
なんだか臭くて、汚いけど私は負けない!
すぐに飛び込んでガサガサした壁に何かないか触っていると変なくぼみがあった。
それを押してみると、ボコンとへこんで凄い音がし始めた。
これが異世界への入り口!?
私は期待に胸を膨らませて思わず目を閉じた。
しばらく目を開けると、そこはテレビや漫画でしか見たことがないような華やかな世界。
まさに武器と魔法の冒険ファンタジー世界! 私が求めていたのはこれよ!この世界だったのよ!
私はさっそく城下町を走ってお城へ向かう。私のオーラに恐れをなしたのか兵士の人たちもすぐに門を開けてくれた。
そして階段を駆け上がり、扉を開けるとそこには絵本で読んだ王子様がいた!
「待っていたよ。愛しのアキナ姫」
「王子様!」
私は思わず王子様に向かって飛び付いていた。
なんてかっこいい王子様。現実の男とは大違いだわ!
「毎晩君の事が夢に出てきて……眠れなかったよ」
「私もよ! 会いたくてたまらなかった」
「君もなのかい!? 唐突だけど、君は僕の運命の人に違いない。結婚してくれないか?」
「もちろんよ!一生愛します!」
意気投合した私たちはすぐに式場へ向かい、結婚式を挙げた。
異世界に来たばかりの私をみんな祝福してくれた。
ほんとしあわせ。異世界に来てよかった。
「アキナ姫。愛してるよ」
「ええ、私もよ」
ピュアなキスをして温かい王子様の手を握って……私は涙を流した。
木々が風で揺れ、体をすうっと通り抜けて行く。けたたましいサイレンが鳴り響いたと思うと、私の横を通り過ぎて学校内に走り込んでいく。何台も、何台も。
あの場所は、体育館裏。湿気が多く、ナメクジが大量発生しているので自分から近寄るのは物好きな男子ぐらいか、掃除当番くらいだろう。
ふとアキナの顔が頭に浮かんだが、私は諦めたように視線を落とすと、学校とは反対に歩き始めた。
翌日、アキナが体育館裏の焼却炉で死体になって発見された。
話を聞くと、焼却炉に忍び込んだアキナに気付かず掃除当番が燃やしてしまったそうだ。なぜあんなところに入っていたのか皆が口を揃えて分からないというが、私にはわかる。
おそらく異世界を探していたのだろう。
けど、アキナは別の世界に本当に旅立った。アキナの、望み通りになったのだ。
周りは皆泣いているが、私はむしろ祝ってあげたくて、焼却炉の真上に向かって拍手をした。皆の視線が刺さる中、私はつぶやいた。
「おめでとう」