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『お月様の月への手紙』  作者: 朔太郎
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『がたんごとん』


拝啓 

 がたんごとんという電車の音が気にならなくなり、むしろその音がないと寂しくも思える今日この頃ですが、お元気でお過ごしでしょうか。

 窓の外からは夏の日差しが降り注ぎ、日向ぼっこの好きな猫たちはさすがに暑さに参ったのか、冷たい床の上でごろごろと手足を伸ばして寝転んでいます。僕はといえば、本を読んだり、猫と遊んだり、部屋の片付けをしたり、君にこうして手紙なんかを書いて適当に過ごしています。こんなゆっくりな昼下がりはそうして過ごすことが一番の贅沢だな、って最近よく思うのです。そうだよね?

 贅沢といえば、やはり何も考えずにぶらぶらとその辺を歩くことも忘れてはいけません。ついさっきもタバコがないなと思い立って、近所に散歩に行ってきました。「ねえ、どこに行くの?」「お土産を買わないお出かけを認めることはできないわ」とにゃあにゃあ鳴く猫たちを尻目に、きちんと鍵を閉め、少し浅めにキャップを被り、半袖と短パンという格好をすると、とても気分がさっぱりとなりました。猫たちも連れて行くことができれば良いんだけど、さすがにそれは難しいので、イヤホンで一人の世界に入るのです。相変わらずマンションのゴミ捨て場を見ると、早朝の新宿駅を見ているようで気が滅入りますが、踏切りを越えたところまで進むとまた気分が戻りました。そうやって好きな音楽を聴きながら、頭を空っぽにして歩いていると、その空っぽのスペースが少しづつ君のことで埋まっていくのがわかります。君のその声や、仕草や、笑顔、という具合に、まるでお店の陳列棚の上に商品を次々と埋めていくように、隙間なく満たされていくのです。そうすることで、一人でいる時間の退屈さも少しは紛れるのではないかな、と思ってます。寂しさなんかもね。


 街はとてもゆっくりと時間が流れていました。小型犬を散歩させている女性、部活帰りの中学生、自転車で通り過ぎる若いカップル、玄関先で語り合っている主婦たち、手を繋いで歩いている親子連れ、そういった人たちを眺めるお婆さん、いつもの駅までの風景です。変わらない日常、変わっていく季節。これからもっと暑くなることを考えるといささかうんざりしますが、来月には旅行も控えているので、自然と口角が上がり優しい気持ちになれます。色んな思い出に変わっていく出来事が未来に控えていることを思うと、本当に君に出会えてよかったなあと思います。そして、今この隣りに君がいて、君と一緒に肩を並べて歩くことができれば、それはどんなに素晴らしく素敵なことなんだろう、と思いました。


 仕事はどうですか? 眠くはないですか? 今この僕の過ごしているゆっくりと流れる時間を、少しでも君の睡眠時間に充てることができれば良いのだけど。。


 では、また会える日を心待ちにしてます。 敬具

 

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