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独想マーメイド

前に目を向ける。未来は見えない。

後ろに目を向ける。過去はどこにもない。

右に目を向ける。行き先のない標識が通せんぼしていた。

左に目を向ける。千切れた糸が地面を絡め取っていた。

上に目を向ける。灰色の空だけが広がっていた。

下に目を向ける。形のない足場だけが浮かんでいる。

もう一度前を向く。果てのない砂漠が広がっていた。


右手を見る。真鍮で取り繕った手は嘘を積み上げてた。

左手を見る。傷だらけの玩具が自壊と再生を繰り返してた。

両足を見る。千切れた尾ひれをひらひらと泳がせていた。

また前を向く。電子の海が私を飲み込んだ。


光が私を駆け抜ける。体が斬られ形を変える。

玩具が崩れ、靴が生まれる。尾ひれが裂かれドレスに変わる。真鍮が溶けてティアラを形作る。

波に流されながら、私は前へと進んでいた。


いつの間にか海は消えていた。

右手を見た。真鍮は砕けて山へと姿を変えていた。

左手を見た。玩具は砂になって宙を舞った。

両足を見た。尾ひれは溶けて空を青に染め上げた。


下に目を向けた。真っ白な土が広がっていた。

上に目を向けた。青い空に我楽多の雲が浮かんでいた。

左に目を向けた。透明な糸が遥か彼方へと伸びていた。

右に目を向けた。地図が世界を埋め尽くしていた。

後ろに目を向けた。過去は相変わらずそこにはない。

前に目を向けた。人の喧騒が絶えることなく響いていた。

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