7 ~にじいろと井戸~
11月3日の夕方、井戸を見つけたという報告が上がり、全員が翌日井戸に向かう準備をするために引き返した。一同は、町のホームセンターへ向かった。手が空くように身につけて使える灯りと、磁石をありったけと、大量の魚の缶詰を何種類か買った。魚の缶詰は、探索中の食料のほかに森から持ち帰った綿ぼこりに与えるためもあった。
4日の朝、井戸を見つけた班と道案内に強い者、そして綿ぼこり数匹を先頭に、12人の男女が井戸へ向かって出発した。数人は怪我や恐怖症、遺体の引渡しの手続きなどの理由で館に残った。
夕方に差し掛かる少し前、アフタヌーンティとばかりに休憩をしている一同の頭の上に虹が掛かった。綿ぼこりはきゅっ、と鋭く鳴き、一同は軽い頭痛を覚えながら後ずさった。しかし、一人は惑わされるようにぼんやりした表情になり、ふらふらと森の奥へ歩き去ろうとした。大声で呼びかけても反応しない。
虹が消え頭痛がなくなると、何人かの男たちが歩き去ろうとした者を捕まえ、頬を叩いて正気に戻した。
井戸に近づくにつれ、植物はますます巨大化し、本来なら足元で咲くような雑草の花が頭上から顔を向けている有様であった。
頭痛はひどくなり、空は夕焼けに染まっていくはずが、虹で見えないか、奇妙な色に見えて一同の感覚を奪うのであった。もちろん、道は獣道どころか、植物を切り開いて進まねばならない。途中で野犬が数匹飛び掛かり、何人かが軽い怪我をしたし、井戸のある開けた場所にたどり着く少し前から、空は植物で覆われて見えず、不気味な緑を背景に虹が見えた。
井戸からは煙のように虹がもわりと流れ出ていて、体の一部が変色した綿ぼこりどもが何か歌いながら井戸を囲んで踊っていた。一部は井戸のそばに落ちている、自らの体より大きな石をせっせと井戸から遠ざけている。
よく見ると、変色していない綿ぼこりがざっと見ただけで10体以上、石を運んで投げつけていた。
「俺たちも加勢しよう!」
一人が叫び、磁力の石や買った磁石を抱えて井戸に近づこうとしたが、急に力を失ったように倒れた。他のもので倒れた者を連れ戻し、一同は石や磁石を投げ始めた。
時折虹が鼓動のように強くなり、人間たちは頭痛や吐き気、めまいで動きが緩慢になり、逆に変色した綿ぼこりである『にじいろ』どもが石をどける動きが早くなった。
人間が投げて途中で落ちた磁石を、綿ぼこりが拾っては井戸へ向かっていく。時折『にじいろ』どもは人間のひとりに襲い掛かり、人間は身をよじったり払い落としたりして抵抗した。ナオミが慌てたせいか間違って缶詰を投げて、綿ぼこりが悲鳴を上げたりした。