5 ~道をひらく~
1日の夜、A班は他の班とともに情報の交換を行った。ある班が、小屋の位置を目指して、地図の道を探しだしたということがあった。不気味な草が伸び、低木が育って、遠くに小屋の屋根らしきものが見えながら、それ以上近づけなかった。一番うまく地図が読めることが分かったその班には、様々なところを回って地図に書き込みをしてもらう事にした。
そして、別の班に、低木を刈って小屋へ道を開いてもらうことになった。学生や科学者が居るA班には、小屋の中の調査を任せるということになり、道が開くまでは、午前中はレインボウウィード家の蔵書を調べ、午後は草や低木を刈る手伝いをすることに決まった。
蔵書を丁寧に調べ始めると、森の中には恐ろしい生き物が多数住み着いている可能性があることが、6人にははっきり理解できた。それが、言い伝えのような化け物でなくとも、野犬とか、野生動物とかがいて、人間は容易にしかばねに変わることも。
実業家らしく広大な屋敷をもっているジェイコブは、野犬は訓練された番犬でも相手すれば怪我を負う獰猛な生き物である事を知っている。ナオミの祖母が住む日本の山では、絶滅した野生動物が今でも生きているかもしれない痕跡が時折見つかり、生態をつかむ事の難しさを示している。
安易に森に入る人間が多ければ、森の動物は、大型のものが居れば人間たちをえさと認識しているかもしれない。モーリスと大学生が簡単にまとめたメモをつくっていた。
・赤くて、ぐしゃぐしゃしたもの……鉱石や宝石を与える。目撃例が全体的に古く詳細不明。
・『漁の民』……首を蹴ってえらのようなひだをつぶす。暗いところを好む。灯りを嫌がる。2メートル弱と背が高く、露出の少ない古臭いぼろぼろの服装をしている。
・近隣住民の捨て犬……接近されないうちに猟銃で撃つ。接近された場合は、3体以内なら撲殺する。数が多い場合は専用の臭い装置を手榴弾のように投げつけ、麻痺させること。
・巨大な『豊穣の神』……不明。最低で3メートル以上はある。中央から少し西よりの湖付近の湿地からは出ないらしいが参考として記しておく。
・綿ぼこり……何もしなくて良い。屋敷で見た個体の他にも数多くいるらしい。日向を好む。10センチ程度。
・空とぶ肉の塊……静かに通り過ぎるのを待つ。見つかったら死ぬらしい。最も時代が新しい目撃例を証言した人は10人以上の集団で、他のものが応戦している間に逃げて助かったと記録されている。目撃例が他と比べて非常に少ないが全て集団で遭遇した者の記録である。犠牲者に似た状態の遺体が発見されることもあり遭遇数自体はもっと多いと思われる。
・にじいろ(を慕う者)……綿ぼこりの変種。灯りなどを向けると逃げる。手で払えばとれる。体の一部が虹色に変色している。
・虹色の主……井戸に居るとされる。気体のようにもやが外に漏れ出して、虹を作る。虹を見たら逃げるしかない。もやを吸い込むと狂気に陥って死ぬ。虹発生以外に察知する方法や対処法など不明な点が多い。隕石そのもののことか、そこから発生する毒性のガスかなにかを指していると思われる。
まずは何か居たら隠れる事、という決まりごととともに、6人はまとめた情報を昼食で他の班に伝えた。