表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第1話 始まりの日

 わたしは今、荒野にいる。





 ー遡ること2時間前ー


 ぽんっ


 可愛らしい音が脳内に響くと同時に視界の端のアイコンが一つ点灯した。


「ん?」


 アイコンをタップして出てきたのはゲーム会社である運営からの通知メール。

 その件名には「重要なお知らせ」と書かれてあり、そう書かれている時に限って新しいイベントの告知や大規模イベントの開始を知らせるためのもの。

 わたしは今回もそうだろうと確信を持ってメールを読み進めていく。


「えーっと…?URLが一つだけ?」


 重要なお知らせであるメールの内容がURLの一文のみということに引っかかるが、新しい趣向なのだろうと疑いもせずにタップする。


 刹那、わたしの視界が揺らいだ。








 暫くの時間が経ち、恐る恐る目を開けた。

 そこには数人ほどがわたしと同じ状態で立っていた。

 わたしが現状把握に努めている間にも次々と人間の影が現れる。

 恐らく、わたしも相手から見ると影なのだろうと推測した。


 最後の影が出てきてから既に体内時間で30分。

 影はもう出てこないし、他にも何も起こらない。

 それに加えて自分の体を動かせず、口の形を変えることも出来ない。

 更に呼吸している感覚も無いから混乱の極みに陥っている。

 唯一動かせるのは目だけで、それに気付いた影も同じようにキョロキョロと辺りを見回している。

 少し落ち着いてきて影の数を数えると99人だった。わたしを入れて100人ちょうど。


 わたしたちは円形に広がっているため、中央で何かが起こるという確信を抱いた。




 更に30分が過ぎて目が多少疲れてきた頃、それはやってきた。

 突然中央に台座が現れ、影たちの目線が釘付けになっている。わたしもそれのお零れを預かっている。

 台座が現れたと思った次の瞬間には1人の男が立っていた。その男は見覚えがある。


 確かー



「皆様、初めまして。わたしはフェアリーリーディング開発部長、築地一馬(つきじかずま)と申します。皆様に置かれましては突然お呼びしたことをお詫び申し上げます」



 ー築地一馬


 そう、この男はわたしが普段プレイしているVRMMO・フェアリーリーディングオンラインの基礎となる部分をたった1人で組み上げたという天才プログラマー。


 フェアリーリーディングオンライン、通称FRD(フェリド)

 このゲームは仮想空間であるゲーム内を自由に動き回り、様々なことが体験できるという優れたもの。


 時には小学校の農作業体験で使われる。

 時には某国の特殊部隊の訓練に使われる。

 時には娯楽に興じるために使われる。


 わたしはこのゲームのβ版からしている。

 そのため、累積プレイ時間はトップランカーと言っていいだろう。

 ただ、わたしは飽きっぽいからか、ゲームはするものの様々な分野に手を出していた。

 後少しでコンプリートというほどに。

 ある程度までその職業のステータスを上げると別の職業にクラスチェンジする。

 クラスチェンジ先でも少し飽きを感じると、それまでにしたことのある職業をカンスト直前にして、カンストボーナスでもらえる全ステータス1.5倍というスキルをあえて受け取らない縛りプレイをする。

 そういう楽しみ方をしていた。



 話は少し戻ってスキルのお話。

 わたしは約6年前からプレイしている最古参プレイヤー。

 β版からずっとしている人などもうわたししかいない。

 そのため、今では約5年のプレイ時間が最古参と呼ばれつつある。


 その最古参プレイヤーが例えば100個のスキルを持っていたとする。

 でも、わたしたちβ版プレイヤーはその倍は持っていると言っていい。

 何故なら、β版ではスキルを与える回数がとても多かった。

 そのことがあってパッチを当てての正規版。

 β版プレイヤーはβ版から引き継いでいる人のことを指している。正規版は最初からやりたいという人のために、運営が専用のアイテムを全β版プレイヤーに配布した。

 わたしはそのアイテムをすぐに破棄したことを覚えている。






「皆様は見事、抽選に当選しました。わたしからの贈り物をアイテムボックスに入れましたので、是非使用してください」


 抽選なんてした覚えがない。

 でも、運営が勝手に全プレイヤー対象でやったんだろうと思いアイテムボックスを開く。


【現し身】


 なんだか嫌な予感がする。

 わたしはそれを払いのけ運営が用意したものだから大丈夫だと決めつけた。


 そして、それを軽くタップする。



 わたしは淡い光に包まれた。

 その光が収束すると同時に体を動かせることに気づく。

 しかし、足元に広がる反射率の高い水面に映し出された容姿はわたしではなかった。

 否、わたしだった。


 わたしのさっきまでの姿はゲーム内キャラクター(・・・・・・・・・・)

 今のわたしの姿は現実世界で(・・・・・)のわたし。


 慌てて周りの影の様子を伺う。

 だが、それは杞憂に終わった。


 他の影たちもわたしと同じように光に包まれていたりしているものの、その姿は影から変わらない。



「皆様は今、本来の姿に戻っているかと思います。安心してください。他の方々には見えてはいませんので。それでは、ここからが本題となります。今世紀、いえ、この世界が出来た頃から数えて初めてのゲームイベントの始まりです」


「皆様には異世界転移をして頂きます。【現し身】を使った瞬間から確定事項となっております。ここから先は一度しか言いませんので、ご静聴願います」


「皆様の転移先はフェアリーリーディング。これは実際に存在する異世界ですので、死ねばそこで終わりですし、【現し身】を使った時に地球では行方不明になっております」


「皆様に抽選と言いましたが、訂正します。皆様の選考基準はステータスが最高位(・・・・・・・・・)の100名。ここでのステータスは一つの職業に対しての合計ポイントです。とは言っても99名はカンストしています。なので、全員の得意な職業がばらけているはずです。そして、わたしがお願いするのは異世界転移をするまで。そこから先はどうなろうと構いません。【現し身】でわたしの目的は達成されておりますので」


「とは言っても、もちろん帰ってくる方法もあります。しかし、その方法をお答えすることは出来ません。皆様ならすぐにでも理解できると思いますが」


「なので、わたしはあるプログラムを作りました。それはプレイヤーが死ぬとスキルが一つ与えられるというもの。スキルは全プレイヤーへ渡ります。それからゲームでの機能はほぼ全て使えるようにしていますので後程ご確認ください」


「あぁ、一つだけ補足しておきましょう。ステータス画面にはある項目が追加されますので是非活用してくださいね。フェアリーリーディングはゲームとほぼ全て同じですので、コアプレイヤーである皆様であれば問題なく過ごせるかと。そろそろお別れの時間ですね」




「いってらっしゃいませ。皆々様、フェアリーリーディングの世界をご堪能ください」








 そして、気が付いたら荒野にいた。


「ほんとに…あれって現実だったのかな?」


 誰に問いかけるでもない問を空中に投げる。もちろんキャッチボールをしてくれる人間などいない。

 先ほどから風の音が凄まじく、自分のつぶやきすらまともに聞こえない有様。


「スキル使うかぁ…『スキル・遮音』」


 やはり、このスキルは便利だ。

 ゲームだったころも内緒話をするときや一人でぶつぶつ言うほど集中してしまうときなんかに有効活用している。

 これは盗賊という職業を取得して30レベルで自動的に手に入るスキルだ。


 職業は全部で100種ある。

 各職業は200レベルが上限で全ステータス1,5倍スキルを除けば、最後にもらえる職業スキルは190レベルとなる。当然だが、そのスキルも持っている。


 わたしは既に90近くの職業が199レベルだ。

 6年もの時間があったとは言え、これは異常と言える。これも一重にとあるスキルのおかげだ。


 ―取得スキル熟練度10倍


 スキル熟練度はそのままの意味だ。スキルを使えば使うほど熟練度が上がっていく。スキル熟練度を上げることによってレベルアップの基準を超えると任意でレベルを上げることが出来る。

 この任意がなければ今頃199レベルの職業のほとんどが200レベルになっているはずだ。

 だって…全ステータス1,5倍のスキルがあったらわたしのステータスがバグってしまうんだよ。1,5倍が1,5倍されて最終的に80数個のステータス1,5倍が合わさるのだから、何倍になるのか堪ったものじゃない。そんなことをすれば絶対に運営に目をつけられてしまう。…時すでに遅しだが。


 でも、このスキルによって他の人よりも10倍成長が早い。

 このスキルを手に入れたのは本当に偶然だった。




「これで登山職もゲットできたかな?」


 わたしは様々な職業を取得することに重きを置いている。レベリングは職業を手に入れてからでも遅くないだろう。

 今で13個目となる登山職。職業取得条件はクリアしたはずだから、街に戻って職業斡旋所で鑑定してもらわないといけない。


「ん?なんだろ」


 ぴかっと何かが光った気がした。

 ここは富士山よりは高いけど、登りやすさではゲーム内で一番となっている初心者向け。

 そんな山の頂上で何かが光る。おもしろい出来事が起こりそうでわくわくしてきた。


 近づいて行くとだんだん光が強くなっていることに気付いた。

 もしかして爆発するのかな?なんて思ったりもしたけれど、そうなったらまた登ればいいだけだ。わたしは何度だって登ってやろう。

 職業取得中に死んでしまうとリセットされてしまうから他プレイヤーは絶対死なないようにしていると聞いている。そんなことではとてもゲームを楽しめるとは思えないのだけど、そこは価値観とかが違っているだろうしわたしみたいなのがたくさんいたら困るだけだ。


「これ…もしかして噂のスキルの実?」


 β版で10種類の職業を手に入れた後はレベリングをして楽しんでいた。そして正式サービスが一か月前。

 この一か月でβ版と違うところが少しずつ発見されているのだが、その中にスキルの実というものがある。


 とある攻略掲示板にこう書かれていた。


 ―輝いてる実食ったらスキル増えたんだけど


 その投稿主の新スキルは水中呼吸。

 水泳職をある程度のレベルまで上げないと手に入らないスキルと聞いている。

 投稿主の後を追うように少しずつだけどそう言う人が増えてきた。

 そしてごく自然に「スキルの実」という名前がついた。

 このスキルの実は実際にある職業を育てていけば必ずもらえるスキルしか与えられない。

 たった一つしかないスキルというのは運営から直接プレゼントされること以外に何もないため、ユニークスキルを持っている人は圧倒的に少ない。

 わたしは珍しくダブルだ。

 一つも持っていない人をノーマル。

 一つだけ持っている人はシングル。

 二つ持っている人はダブル。

 三つ持っている人は一人だけいてトリプルと呼ばれている。

 持っている人のほとんどがβ版を引き継いでいる人で、それ以外の人は圧倒的に持っている人が少ない。なにしろ、ユニークスキルは最初にランダムで選ばれた5人だけがもらえたのだから。

 発売当初から大人気を誇っているゲームなだけあって、最初のログイン時にもらえる5人がとても確率の低いものとなっていた。

 わたしはその5人に選ばれなかったけど大したスキルは渡されていないようだった。


 スキルの実を食べるとスキルが手に入る。そして目の前にあるのはスキルの実の可能性が高い。

 輝いている実を無造作に手に取り、口へと運ぶ。

 それを全て食べ終わった時、頭の中にスキル取得のファンファーレが鳴り響いた。


「あの噂本当だったんだ!どんなスキルなんだろう?」




 この時に得られたスキルが取得スキル熟練度10倍。

 でも、未だにこのスキルには出会ったことがない。残り数個しかないのにも関わらずだ。

 出会ったら出会ったらで同一スキルは結合されるからあまり意味がない。ただ、3つ重なるとスキルが進化するというものがある。

 わたしも何回も進化させている。様々な職業を選んではいるけど、100種もの職業全てのスキルを被らせないようにするのは骨が折れるだろう。

 運営は始めこそ被らせないように頑張っていたらしいけど、妥協してしまったらしい。

 妥協しても進化という新しいものが出来たのだから気にしなくていいというのに。

 むしろ感謝している。

 進化したらスキルの性能は格段に上がるしスキルポイント、通称SPの消費量も減って高効率となる。


 スキルを扱うためには当然その対価が必要だ。

 ゲームで魔法を使うときにMPを消費するように、FRDではSPを消費する。

 SPもプレイ時間に左右され、更に職業数と合計スキル数と合計レベルが合わされてSPが算出される。

 職業が2つでスキル数が10個で各職業のレベルが10レベルずつだった場合、SPは20+100+100となる。

 それぞれを10倍した数になるから割と大きい数字になる。レベルをカンストさせただけで2000ものSPが手に入るけれど、レベリングは案外つらいものだ。必要経験値が増えて行くのが何よりもつらい。当然と言えば当然だとは思うけど…この場合の経験値とは敵を倒して得る経験値ではなく、各職業のスキルを使った回数や精度などがよくわからない計算式の元算出されて経験値となる。



「まずは街を目指そう!こんな荒野の真ん中がスタートだなんてね。しかも全員バラバラで顔もわからないのかぁ」


 とりあえず機械職で作っておいた乗り物…マリカ―に乗って移動しようかな。

 マジックボックスの一覧表を取り出して確認する。

 絶対に使わないと思うものまで入っていた。いつかは使うかもしれないってずっと持っていてしまうあれだよ。わかるよね?


 このマリカ―の出来はすごくいい。

 わたしがデザインしたこの車は愛らしいのだ。

 まるまるとしていて中はぷよんぷよんした感覚。人によっては気分が悪くなる人がいるみたいだけど、わたしはこれがお気に入り。

 マジックボックスを見たついでにステータスも見ておく。


 ‣ ‣ ‣


 名前:リーディ

 年齢:17

 性別:女

 体力:15000/15000

 空腹度:99/100

 SP:192315/192370

 職業

 ・魔法職(199)

 ・魔術職(199)

 ・弓職(199)

 ・銃職(199)

 ・縄職(199)

 ・剣職(199)

 ・刀職(199)

 ・槍職(199)

 ・聖剣職(199)

 ・機械職(199)

 ・織物職(199)

 ・馬術職(199)

 ・斥候職(199)

 ・登山職(199)

 ・盗賊職(199)

 ・

 ・

 ・

 etc

 合計97職種

 合計18115レベル


 職種外スキル

 ・マジックボックス

 あらゆるものを入れることが出来る。ただし生物不可。入れた時の状態で固定され、出した時に固定が解除される。職種によって大きさも消費SPも変わる。

 ・取得スキル熟練度10倍

 全職業で得られるスキル熟練度が10倍になる。

 ・滞空

 一定の高さを保つことが出来る。

 ・中級調合

 中級薬を調合することが出来る。

 ユニークスキル

 ・不明瞭

 ステータスを見られても誤魔化すことが出来る。どんな相手でも、どんな術でも見破れることはない。

 ・不死

 一度のみ、死んでも生き返ることが出来る。その際体力は半分回復。体力全回復及び使用後24時間でリセット。

 死亡プレイヤースキル(死亡したプレイヤーの数だけ増えていく)

 ・プレイヤー鑑定

 プレイヤーとの接触時、相手の名前とランキング順位を見ることができる。

 ・仮死

 プレイヤー以外にのみ通じる。仮死状態になることによって危険を回避することも出来る。


 合計1027スキル


 ・

 ・

 ・


 順位:100位


 ‣ ‣ ‣


 年齢はリアルに合わせられているな。あとはゲーム通り…かな?

 魔法職と魔術職は同じじゃないの?って思うだろうけれど、魔法職の上位互換が魔術職になる。他にも剣職の上位互換が聖剣職だし。それから確か、何故かわからないけど斥候職の上位互換が盗賊職だった気がする。

 上位互換の職業は同じスキルを使うことになるけど威力が桁違いとなる。中には10倍以上の威力になったりもする。その代わり、燃費も悪くなるから考え物だ。

 それから、空腹度というのはお腹の空き具合を教えてくれる便利なもので、空腹度が0になると次は体力が減っていくことになる。

「そういえばステータス画面に追加項目があるはず…これかな?」


 ‣ ‣ ‣


『残り98人』


 ‣ ‣ ‣


 何が98人?


 ……あ!

 100人が転移したということはこれの元の数字は100?もう2人も死んだってこと?

 それにしても、速過ぎる。

 こんなに速く死ぬなんてよっぽど出現位置が悪かったんだろう。わたしでも火口に落とされては成す術がない。なくはないけど咄嗟に使えるわけがない。

 上位スキルになってくると下位スキルを何個か発動しておかないといけないっていう発動条件が存在する。

 だから誰であってもそんな危機的状況になれば脱出は不可能。



「荒野でよかった…」


 自然とそう思えた。

スキル熟練度とレベルアップについて

剣職で1レベから2レべに上がるときに必要なのが『不動の構え』のスキル熟練度10とした場合10を超えればいつでもレベルを上げることが出来ます。上げなくてもスキル熟練度自体は上がっていき、レベルが上がるにつれて複数個のスキル熟練度が必要になってきます。



読んでいただきありがとうございます。


作者はブクマ、評価、感想をおまちしています。


お読みいただきありがとうございます。


1/8

スキル欄変更しました。

順位を追加しました。

あらすじを少し改変しました。

取得経験値から取得スキル熟練度に変更しました。

説明文を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ