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智恵さん
彼女がこの街を去った。去ったと同時に、僕は大学時代のギターサークルの友人に紹介してもらった女性、智恵さんと付き合い始めた。智恵さんは年上で、可憐で頼りがいがあり、いろんな局面で僕を導いてくれる。すべからくして万事をうまく運んでくれるという意味で出会うべきして出会う女性という気がして、「僕は最愛の人じゃん!」と思い、今アイフォンの中に格納された写真を眺めてはニンマリとしている。自然にこんな顔をしている自分に驚き、本来自分が求めている人生設計の中に智恵さんの存在を自らほのめかし始めていることを実感する。
智恵さんとはフェスにも行ったし、海外旅行も行ったし、ラブホテルにも行った。智恵さんと会って、大げさだが始めて自分が人に理解されたという経験をし、そのことが今の僕の現在進行中の生活の糧になっている。
「智恵さんに会えて本当に良かった」
そう思いながら床に就き、アイフォンのアラームを午前11時にセットし、読みかけの森博嗣を読みながらまどろみに徐々に埋まっていく。