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与謝ログ G first story  作者: てら
第一章 その男は
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5/22

Faille 4

「あのね佳志、聞いてほしいことがあるんだけどさ」

「ん……どうしたんですか?」

「私、今すっごく不満なの」

「え!? 僕そんなに嫌だったんですか? じゃあもう帰ります……」

「いやいやいやいや! そっちじゃなくて! 私、不満で仕方のない人がいるのよ」

「はっ……はぁ。お友達?」

「いやまだ一日しか会ってないからよく分かんないんだけどさ。そいつすっごく凶悪な犯罪者なの!」

 強気で愚痴をこぼすと、佳志は懸命に相づちをして話を聞いてくれていた。

「そんな知り合いが警察の人にいるんですか……」

「いやそいつ犯罪者かつ警察なのよ、私の同僚ってことなんだけど。とにかく凶暴で、人を殺すことに何の躊躇もないクズなのよ! アナタその人どう思う?」

「嫌な人ですね。何となく自分の事を言われてる気がするのは、気のせいなのか分からないですけども……」

「あ…アナタのことではない……いや、ある、のかな? ん? もう分からないや」

「え!? 僕そんな事したんですかやっぱり!?」

「いや、分からない……。本当にどう言えばいいんだろ……」

「僕も、そういう人を恨んでるんですよ」

「え?」

 佳志はその場で立ち止まり、空を見上げてそう言った。

「さっき言った姉のことなんですけども、姉貴はもう亡くなったんです」

「そ……そうだったの? 病気?」

「ううん。凶悪犯に殺されたんです」

「ど……どういう事なの?」

 亜里沙はそう真剣に佳志に問う。佳志は今でも涙を流しそうな顔になり、それを手でとった。

「その犯人、今でも捕まってないんです。色々調査したんですけど、いつの間にか自分、この前起きたばっかで、よく覚えてないんですが……。あのう、その犯人捕まったんでしょうか?」

「いいえ、分からないわ。そもそもそんな事件あったの?」

「ありました。姉貴は誰かに殺されたんです。今でも捕まっていない、それが僕、ものすごく悔しくて……! もし捕まったら、一度この手でそいつをぶん殴りたい……!」

 己の未練に彼は泣き崩れてしまい、亜里沙は困ってしまった。

(本当にこの人はあの与謝野佳志なのだろうか? もしかしたら別人……)


 そう思ってる最中、他方から高い声がゾロゾロと聞こえた。

「あれれー? あそこにいるの、与謝野佳志じゃね!?」

「うわぁ、何やってんだアイツ。女の前で泣いてやんの! だっせぇなぁおい!」

 四人はいるだろうか、派手な服装をした不良達が亜里沙と佳志に近寄った。


 今の佳志では抵抗もできないと察した亜里沙は、彼をかばった。

「アンタ達何よ。この人の知り合い?」

「あぁ? 何だこのアマ? どけよ、俺らはそいつに用があんだよ!」

「何の用があるっていうの?」

「この前そいつ俺らに棒ぶちかましてきたんだよ! ちょっと金せびったからってなぁ。過剰防衛だろうが!」

「そんなの関係ないわ。この人は佳志であって佳志じゃない。アンタ達を殴った張本人じゃないのよ」

「何言ってんだお前? 頭おかしいじゃねぇの!?」

 そう睨んで来る男に亜里沙は耐えて動かず佳志を守る様に両手を横に上げたが、亜里沙はすぐに男に打たれ、横に倒れてしまった。

 男は泣き崩れている佳志の胸ぐらを掴んだ。

「おい、テメエ何泣いてんだよ。恥ずかしくねぇの? ムカつくんだよコラァ!」

「俺らに喧嘩売ってタダで済むと思うなよゴラァ! メイルバールなめんなや」

 佳志を殴ろうとする男に亜里沙はドロップキックでぶちかまし、男達は同時に壁に身を当てた。

 しかし後ろに残っていた男が亜里沙を襲おうとし、それに気付いた彼女は既に遅かった。

 男は彼女の両腕を掴み、うつ伏せにして倒した。

「へへへ、女だからってな、許す訳にはいかねーんだよ! お兄さんたちに可愛がってもらおうかなぁおい!?」

 嫌気な笑みをする男だったが、次の瞬間、男は気を失ってしまった。


 亜里沙はその異常な変化を察し、上を見てみると、一週間前で見た与謝野佳志の顔が瞳に写っていた。


「オメエ、何やってんの?」


 佳志は亜里沙を襲おうとしている男の髪の毛を掴んでおり、強引に後ろへと投げた。

「け……佳志!? アンタさっき泣いてたんじゃ……」

「寝言言ってんじゃねえよ。それより何だよコイツら」

「えっと……、この人たちはアンタに恨みあるらしくて……今ヤバい状況っちゃヤバい状況……かも」

「……そうかい」

 佳志は黙ってその辺にある木片を持ち、さきほど亜里沙に手を出そうとした男に近づいた。

「質問に答えなよ。オメエ何やってんの?」

「て……テメェこそ何やってんだよ……! さっきあんだけ泣いといて今じゃまるで――」

「オメエ、何やってんだよ?」

「敵討ちだよ! テメェをぶっ殺す敵討ちに来たんだよバーカ!」

「何で亜里沙が怪我してんだよ」

「変に抵抗するからだろうが! テメェが泣いてたからこの女が急に守り始めて……」

「寝言言ってんじゃねえよ。コイツと俺はさっき(・・・)喧嘩したばっかなんだよ。そんな奴が俺を守る訳ねえだろうが」

「は……はぁ!?」

 そう、亜里沙が一番困惑していたのだ。一週間も経ったはずなのにそれを「さっき」と置き換える訳がない。

「佳志アンタ……何言ってるの?」

「何だよ。お前らさっきから何なんだ? 意味の分かんねえ事ばっかぬかしやがって。泣いてた? ふざけんじゃねえぞ。俺は年少入ってから一回も泣いたことねえんだよ」

 そして佳志は、倒れているその男を何度も叩きのめし、残りの三人も気絶するまで叩きこんでしまった。

 何度も、何度も。四人の血が交わるほどに――。


 呆気にとられている亜里沙に、佳志は殺気しか感じられないそのオーラで見下ろした。

「オメエ大丈夫かよ」

「だ……大丈夫な訳ないでしょ!? アンタのせいでどんだけ苦労したと思ってんのよ!」

「…………。何か悪いな」

 思わぬ謝罪に、彼女は一瞬驚いた。

 謝らなければいけない状況なのに、なぜ自分がかしこまってしまうのだろうか。彼女自身、疑問に思っていた。

「あ、アンタ……。今まで何してたのか、覚えてるの?」

「お前と揉めて、そっから何したのかは…………あんまり」

「まぁ、良い人間のアンタなんて何だか気持ち悪いから、いいんだけどさ」

「はっ……は?」

「いや何でもないわ。とりあえず、一週間も来てないの。部長も心配してたわよ」

 佳志は自分の状況をあまり把握できず、とりあえずという形で頷いた。時間は既に夜になっており、佳志が寝るところはまるでなく、それにオドオドしている様子を見る亜里沙が彼の肩を叩いた。

「アンタが今までどこで寝てたか分からないけど、体冷えてるでしょ?」

「………あぁ。なぜか滅茶苦茶寒い」

「ちょっと来なさい」

 彼女は佳志の袖を掴み、強引にある場所へ連れて行った。中道に入り、何回か曲がり、コンビニの近くに入り、そこを右に曲がると白いアパートがあった。



 彼らはその白いアパートの二階を上り、そこの302号室の鍵穴に亜里沙は鍵を差し込み、ひねって開けた。

「はい、ここ私の家」

「……誰もオメエの部屋で泊まりたいなんて言ってねえだろ」

「いいのよ!」

 そう言いながら亜里沙は佳志の背中を強く押し、彼は玄関に転げそうになる勢いで部屋に入り、鍵を閉められた。


 部屋の中はいたって一般的で、五畳程度の広さである。中にはベッド、ちゃぶ台、ごく普通の水色のジュータンが敷いてある。ちなみに和風のフスマもあり、前には全面窓がある。お洒落なのは赤色のカーテンのみ。

「女の割には案外シンプルだな」

「悪かったわね。寝るってだけの目的で住んでるからそんなに気にしないのよ」

「夢なき乙女だな。彼氏でもできたらどうすんだよ」

「そ…その時はその時よ。アンタこそ彼女できたらどうするつもりよ! 家ないなんて言ったらすぐに逆ナン終了よ!」

「うるせえな。言うまでもなく断るに決まってんだろ」

「あら? それは本当なのかしらねぇー?」

 亜里沙はそう険悪な笑みをかざして佳志に言った。


 彼は黙ってちゃぶ台の横に座り、ため息を吐きながらその場で寝そべった。

「何つーか。こういう普通のところで住むの、久しぶりな気分だな」

「まぁ今まで殺風景なアスファルトの上で寝てたからね。当然よ」

「でもよ、布団は1人分しかねえぞ。結局俺はベランダで寝る羽目かな」

「ちょっ……ちょっと待ちなさいよ!」

 ベランダの戸を開けようとする佳志に亜里沙は手首を掴んで止めた。佳志が振り向くと、そこには赤っ面をしている亜里沙の姿がいた。

「お……お布団じゃないと風邪引くでしょ」

「…………」

「これ持っていきなさい」

 そう言って彼女は佳志に布団を分けた。


「って結局外なのかよ」



 佳志は結局その日の夜はベランダに布団を敷き、そこで横に寝た。



 ――なぜ俺には父親ってのがないのだろうか。昔からそうだ。どこかしら疑問を持つ。『オヤジ』『お父さん』『パパ』などと時々聞くが、ハッキリ言って俺はその意味をつい最近まで知らなかった。

 少年院にいた監視官にその事を聞いた時、彼女は「自分を生んでくれた男」と教わった。だがその『男』の顔を、俺はまだ一度も見たこともないし聞いたこともない。

 俺は母親しかいなかった。しかしその母親も、もうどこに行ったのかも分からない。

 だけど、なぜだろうか。他人の家族愛を見ると、それに限って手が止まってしまう。この前もそうだった。あの時、本当はそのまま金を自分の物にするつもりだった。なのになぜ……。

 正直、俺がいつ少年院に入ったのかも、なぜ俺があんなところに行ったのかも、分からない。どうしてそんなところにいたのかも。

 身に覚えのない人間に襲われ、何も知らないのに敵からも味方からも唖然とされ、俺もどうしていいのか分からなかった。

 ただ、これだけは確信している。



 ――俺は世間では、紛れもない与太者だということだけは。


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