「闘い……だ」
お久しぶりです。
本当は8/1に書くつもりでしたが昨日が8/1だと今日気付きました。ごめんなさい。
8/18誤字を訂正しました。
【毒耐性】の訓練中知らぬうちに命を助けてその存在がじわじわと天界と冥界に伝わったのだが、そんな事知る由もなくウィンシーは竜麻達の訓練を次々と終えさせていた、その途中。
「ウィンシー殿、いるかの?景品を受け取りに来たぞい」
「……師匠、になって?」
オルスとレイミーが、訓練場にウィンシーが居ると聞いてここまで来たようだ。
一気に二人も認識量が増えたのでウィンシーの足がガクガク震えている。
「あー…、じゃあ俺達は休むな。明日も頼む」
竜麻が気を効かし訓練所から出ようとする。
「私は少し用があるから先に行ってて?」
だが遥は訓練所に残るようだ。理由は二つ。
一つは二人がウィンシーをパニックにする行為を事前に防ぐこと。
もう一つは、
「(今のうちにカメラを仕掛けておくわ)」
「(わかったぜ、ねーちゃん)」
ウィンシーの戦闘が起こるかもしれない事を予想して動画を録ることだった。むしろこれが本命と言って良いくらいだった。
彼の戦闘データは貴重ではないが、公開されている動画なぞジグソーパズルの一片にも満たないほど秘匿されている部分が多い。データは有ればある程良いのだ。
彼女達は彼がもう元の世界に戻れないかもしれないのに動画を録る理由は、彼のファンでもあると同時に生き残る術を模倣する為でもある。
「ではワシから欲しい物をいうかの」
「ど、どうぞ」
「秘伝書は貰えるかの?景品の二つは其で御願いしたい」
秘伝書はスキルを覚える方法の一つで秘伝書の『リトルフリーダムオンライン』での利用率は高かった。様々な形式の秘伝書が存在し、使用方法がそれぞれ違う。
「レベル…は?」
「152じゃ」
「……、所望の技は?」
「うむ……、できれば長く使える物がいいのぉ」
オルスが希望を述べるとウィンシーは羊用紙を取り出すとスラスラと何かを書き込み始める。
「……………、はい。ここにサイン…下さぃ」
配達の受け取り証明のサインを貰うくらいの気軽さにオルスは困惑する。
「ぬぅ…、如何にも妖しいが、これはなんじゃ?」
一見意味不明な記号と文字の羅列、その羅列すら崩れて文字が独りでに動き回っている。
「秘伝書…です」
オルスはにわかに信じられなかった。今まで見てきた秘伝書とは全くの別物。それにウィンシーが今書いたのは何かが封入された秘伝書だという。三十秒もしないうちに作り出せる代物ではないのだが、目の前で書かれたら信じるほかない。
(何か力、魔力が感じられるな…、本物か)
名前と記された欄にオルスは名前を書き、これをどうするのか疑問に思っていると、カメラの準備をしていた遥が見かねてアドバイスをする。
「破かないんですか?」
「……破くのか?読むのではなく?」
これまで秘伝書を読んでは書いてある物事を実践し技を習得していたオルス。破く行為は考えたこともなかった。ある意味、彼は真の武闘者であった。
「オルスさん、それは破くのが正解ですよ?」
オルスは遥を信じて秘伝書を縦に破る。
すると秘伝書は光となってオルスの中に入っていった。
「……まるで終焉の刹那に垣間見る希望の輝き」
レイミーは綺麗だったと感想を述べる。
「して、何のスキルじゃったのかの?」
「【仙息】、【脈引の金剛】………です」
ウィンシーは二つのスキルを一つの秘伝書にまとめていた。
「相変わらず、出鱈目な器用さですね」
「あ、ありが…とう」
遥がカメラの設置を済ませて呆れ言葉を口にする。といっても過去に五個のスキルをまとめた秘伝書が高価格で出回った事があり、出元不明謎クオリティの秘伝書は今でもwikiに伝説として残っている。中身は【壁歩き】、【壁隠れ】、【壁殴り】、【壁通し】、【即席ゴーレム】という壁リスペクト。
彼女はウィンシーが書いたと予想していた。まぁ、当たっているが。
「これからは、仙息で息を…して生活してください」
「ふむ、仙人にでもする気か?」
「え、えと…、常に使っていた方が……孫にモテるって」
「すぅぅぅぅぅうううううううはあぁぁぁぁぁああ!っすぅぅぅうううううはあぁぁぁあああああ!!」
この一言により孫バカお爺ちゃんは肺の全てを最大限に活動し呼吸を繰り返し始めたのだった。
ウィンシーの発言だが、知り合った仙人達は最年長は400歳を超えていてその孫も300歳はゆうに超している家族で「じい様はすごいのぉ、わしの憧れじゃ」「ほっほっほ、これも日頃の仙息のおかげじゃ」という会話から導き出された結論なので正論なのか怪しいところだ。
仙息は空気中の魔素分を取り込むほか、肺が強化され酸素じゃない気体も体のエネルギーを動かす燃料として活用できるようになる。
「脈引の金剛って……如何なる業?」
健気なMAGOBAKAを無視しレイミーはスキルの質問をする。
「…龍脈上で使用すると、防御力が……上昇…、ついでに体術の威力があがる……」
「師匠、一枚所望す」
「……まだ師匠じゃない」
師匠経験豊富なウィンシーとしては、既にオルスという師を持って方針を定めて育てられていたレイミーを弟子にとるのは気が進まなかった。もし成長方向が違うのならウィンシー自身が方針を変えればいいのだが、それで万全に育てられるかが不安だったからだ。
「だけど……、弟子をとるか判断するのなら、まずは……」
秘伝書を一枚書き終え、それをレイミーに投げ渡し【早着替え】で【酒帝】に着替える。
両腕は包帯で隠れており手にはレザーグローブ。袖や裾の擦り切れたダークグレーのロングコート、その間から覗く服に鎧を関節箇所にあしらったズボン。足には強硬な安全靴。顔はマフラーで口を隠し、右眼は波の紋様が縫われている眼帯を装着していた。
「それを貴殿が望むなら……」
レイミーはウィンシーからの闘気を感じたのだろう。秘伝書に名を刻み破り捨て、【脈引の金剛】を習得してから半身になって構える。
「闘い……だ」
まずウィンシーは拳ほどの杭をそこらに投げて地面に突き立てる。レイミーには何をしたのか分らないがウィンシーが答えを教えた。
「龍脈の回路を……十分だけ造った……」
レイミーはさっそく貰ったスキルを試す場を整えてくれたと理解し、それと同時に龍脈を十分とはいえ造ったことに対し冷や汗を流していた。
「流石は邪と聖の体現者我の想像を優に超す……!!」
ウィンシーは自分で造った龍脈の上に乗り、
「……先手はそっちからで」
その余裕の態度にレイミーはカチンときて最初から全力で技をかけることにした。
「後悔し、……懺悔しろ!【烈覇核滅脚】!!」
高速でウィンシーに近づき心臓部に破壊の乗った蹴りが連続で叩きこまれる!だが、
「感触が……?!」
足裏に伝わる感触はまるで風船を蹴っているかの様な不思議な感覚を覚えた。それと同時に、感じていた気配が増した。
『相変わらず、この世界は歪んでいる……。そうとは思わないか?創造者よ』
酒帝の覚醒だ。
『右腕が疼くっ!!』




