「うぅ、体が…熱い……!!」
今回は少し説明回です。
それと少し……いや、私にとっては結構グロイです。
例えるなら、粘土にプスプス穴をあけてそれを見るくらいのゾワゾワ鳥肌もんです。
5/18指摘された誤字を直しました。
パーティを文字通り抜け出して目覚めた時の部屋に帰ったウィンシー。穴をあけたパーティ会場の壁は速乾性粘土で埋めてきたので、明日にでもなれば完全に乾いて色も目立たなくなるだろう。
「でも……、話の途中で帰っちゃったけど……大丈夫かな…?」
なんとも今さらな心配をするウィンシー。
「そうだ……準備をしなきゃ……」
ポスンとベットに座り、これから来るであろう景品の下準備を始めるためにウィンドウを開く。
そこでふと、鎧達の会話場であるログを確認してみた。
いきなりではあるが、鎧達と意思疎通する媒介が行動や会話を記録したログにあり、スレッドがたっている時があるのだ。ウィンシーが知らないうちにできていて、最初に発見した時彼は心底驚いてウィンドウを閉じたり開いたりを繰り返しバグじゃないかを様々な方法で検証し、アイテムを自分のアトリエに必要な分だけギチギチになるくらいに移してからスレッドを開いたものだ。
このログスレッド、魔獣を使役する[魔獣使い]や自我を持つ人形を扱うタイプの[人形使い]などの職業などではポピュラーな機能である。
そして今、たっているスレッドが、
『アイテムボックスにある材料勝手につかって武器造ったけど質問ある?』
『私の作った食べ物を食してくれる方がいない……、どうしてだい?』
『黒靄が動けた理由を考察するスレ』
『我が創造者よ!遂に我が思想を|《理解》する者が顕現す!!弟子を採りたい!!』
『誰だよ、俺のマントに変な紋様描いたやつ!!!』
「……、ふむぅ。【武鎧造子】はまた勝手に……」
本格的な武器や防具を造る際に着用する【武鎧造子】。この鎧は時たま勝手にアイテムボックス内の材料を使ってスクラップ同然の物を造る困ったちゃんだ。昔、砂漠の中で砂塗れで半壊したコンタクトレンズを見つけるより困難な激レア物のアイテムを勝手にスクラップし、ウィンシーはプツリと何かが切れ、敵を封印するための【印刻の縛剣】で一週間もの間 雑魚敵が中級ボスクラスの領域『終点区域|《禁断の間》』に放置して反省させた過去がある。
このことは後で叱るとして、黒靄の鎧が動けた理由は気になっていたので開いてみる。
『黒靄が動けた理由を考察するスレ』
白霧:黒靄さんだけズルイです!!
戦闘執事が入室しました。
戦闘執事:嫉妬ですか。
白霧:うるさいのです!!戦うしか能のない奴は黙ってろです!!!
戦闘執事:おや?貴女は戦うこともできたのですか?紅茶の淹れられ、お菓子を焼けて、その貧相な防御力でテラファイターゴブリン程度の棍棒も防げるのですか。驚きです。
白霧:うぬぐぎぎぎぎ……!!!!
黒靄が入室しました。
ウィンシーが覗いています。
黒靄:いじめてやるな、戦闘執事。しかし、この議題はとても重要だ。私の心当たりは一つくらいなんだがな……。
戦闘執事:それは?
白霧:さあ吐くのです!!
マジシャンが入室しました。
マジシャン:それは攻撃を受けたことでしょう?ですよね?ね?
マジシャンが退室しました。
白霧:いきなりすぎて文句も言えなかったです!それはそうと本当ですか黒靄さん!!
黒靄:それもあるが……、条件としてスキルでの攻撃を受けたからだと推測するな。
ウィンシー:でも俺は受けた覚えがないよ?
黒靄:いや、メイドに一撃もらいまして……、その時ウィンシー殿は気を失っていましたからな。
ウィンシー:ああ……。そうだった……。明日から調べてみよう。
白霧:おねがいします!
ウィンシー:とりあえず被験者第二号は決まってるから。
黒靄:造子ですか?
ウィンシー:いや、違うよ。
ウィンシーは覗き終えています。
黒靄:行ってしまわれたか。うむ、では誰なのだろうか……。
「ふう、支度を今度こそ……、ん?」
黒靄の鎧が動けた一つの仮説を明日あたりに検証することを頭の隅から少し中央寄りに置いといて再びウィンドウを見た時、ステータス欄に最初は気にしなかったがなんだか違和感を覚える所があった。
種族[ヒューマン(▽)]
(この(▽)は何だろう?)
何の記号なのか調べるため、触ってみると、
種族[ヒューマン(人族)]
[エルフ(森族)]
[ドワーフ(鉱族:業:力)]
[ドラゴニュート(龍族:有角、有尾)]
[デビルハーフ(魔族:有角、無尾)]
[ビースト(獣族:卯人)]
[ソウルランプ(半霊族)]
「これは…たしか……」
ウィンシーが転生を繰り返した種族群だった。もしかしたら種族変更が出来るのかもしれないとウィンシーは思った。ちなみに最初は皆ヒューマンかビーストかドワーフからしか始められないが、転生する際に転生可能な種族が増えていく仕様になっている。
最初の種族の選べられる種類は少ないがビースト等は種族の種類が多彩で、様々なキャラメイクが可能だった。
「えーっと……、ドワーフは髭もじゃにしてたからどうなるんだろう……?」
渋い顔つきで背は小さいが筋肉はモリモリのキャラデザインだったので執事服は脱いで下着姿になり[ドワーフ]をタップする。
ポーンというタップ音と共に身体の構造が変化するのが感じられた。
全身が発光しメキメキと体の中から音が鳴り、痛いのか痛くないのか分らない刺激が体中を侵す。
「うぅ、体が…熱い……!!」
一分くらいだったか、体の熱が徐々に下がり落ち着いた所で部屋に備え付けの鏡を見る。
そこにいたのは人間の小学三年生くらいの姿をしたドワーフが立っていた。
「あれ……?」
近づいたり離れたりを繰り返し、手を振ってみたり自分にしかできないであろうくらいに素早く反復横とびをしたり実は鏡ではなく中に人が入った板なんじゃないかと調べたりもしたが、確実に物を映す板に映っているのはウィンシーであった。
ヒューマンより長生きなドワーフは三十年近くは小学生くらいの姿で過すが三十代半ばに髭が生え、顔つきも大人になって筋肉もついてくる。そのため若いウィンシーは齢基準で小三くらいの姿になってしまったのだ。
「うーん……なんでだろう…?」
この真実を知るためには長い年月を経るか、ドワーフの生態を詳しく本などで調べるしかない。
「まぁいいや、……次はドラゴニュートで……」
ウィンシーのドラゴニュート歴は過去に二回でどちらも同じ姿にしてあり、薄い青色の髪をした優男の風貌に設定していた。ドワーフは黒髪でもしかしたらドワーフ時代のキャラが幼くなっただけかもしれないし、勝海、つまりは普通の人間時代の自分がドワーフ化しただけなのかもしれない。実際、先ほどまでのヒューマンの姿は殺される前の姿だった。
「えい」
ドラゴニュートの欄をタップすると、小さい体から大きな体へ変化するためなのか、痛みが前より随分と強い。
ステータスが高いと龍に近づけると称される龍人ドラゴニュート。その変化は並みの物ではない。
「ぐっ……!?ああぁ……あああああああああ!!!!!」
痛みは増していきウィンシーはまず尾骶骨から尻尾が、そして次に頭から角が生える感覚が、頭の痛みが強かったことによりとっさに頭を抱えた。
そして見てしまった。
自分の腕から龍鱗が生えてくる場面を……。
「うわあああああああああああああああああああああ!!!??!」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!
一心不乱に腕から生えてくる鱗をかさぶたを勢いよく剥がす様に掻き毟る!!
しかし、流石人外といえるであろう高ステータスと、自動にMP消費をする【自己再生】のパッシブスキルによって鱗はどんどん生え代わる。すると、体中の痛みが一層強くなる。特に増した部位は角の付け根だった。
「ぐぅぅるるぅ……っ!?」
ウィンシーは側頭の後ろ左右に伸びた角に手をかけ、
「ふんっ!!!」
ボキッ★
ドラゴニュートにとって誇りとも言える角を盛大にへし折った。
ニョッ……キリッ☆
しかし【自己再生】の前では誇りも新たに生え代わる。一方ウィンシーは、
「ああああああっ!!!??!うああああああああああああああああぁぁぁぁぁ…………!!!!!」
角を折られる、恐らく普通の人では経験できない体験により身悶えていた。自業自得?……なのだろう。
兎に角この事態をどうにかせんとウィンドウを良く見ないで種族欄のどれかを拳で叩きつける。叩きつけた際空気が割れるかのような音が響き部屋を震わせた。
「はぁ……、はぁ……」
数分経ったであろう、落ち着いたウィンシーは鏡を見た。そして……、
「大丈夫かウィンシー!!!……ウィンシー?」
悲鳴を聞きつけたフェイが扉をブチ破って入ってきた。
部屋の真ん中にポツンと黒髪ショタエルフのウィンシーが頭や腕から血を流し、辺りに龍鱗をばらつかせ、両手には龍の角を握って座っていた。
フェイはこのスプラッターな状況下でショタエルフを眺め、
「き、君……」
ツカツカ近寄り、がしっと両肩を掴んでこう言った。
「私の養子にならないか?なんというか魂的なものが私の大好きな人にそっくり、いやまったく同じなんだ!!なぁに心配するな、まだ結婚していないがお父さんはもう決まっているぞ。あいつもいきなりで驚くだろうが何時もビクビクしているくせに覚悟を決めた瞬間の横顔はもう心臓が掴まれるようにキュンとくるのだ。なんというか……その……もっと一緒に寄り添いたいんだがな……、あいつはそういうの少し苦手だからな……。でも私はめげない!君も協力してくれ!」
「ぇあ……え、え?」
ウィンシーにゾッコンなフェイさん。あんた魂まで愛しているのか……。
そんな熱い告白をされたウィンシー、だが混乱していて半分も理解できていなかった。
とりあえず返答することにするウィンシー。
「お、俺だよフェイお嬢様、ウィンシー、だよ……?」
「ハハハ、おかしなこと言うなぁフェイシー。あいつが転生でもしない限りそんなことがあるわけないだろ~。あとお嬢様をつけるな」
フェイシー、勝手に名付けられてしまったよウィンシー。
「気付いてる、よね?」
「…………」
「フェ、フェイお嬢さま……?」
「いや……えと……そのなんだ……、き、聞いた?」
「え?聞いたけど……?」
その至近距離で聞き逃す奴は難聴の人だけだろう。しかしウィンシーの場合ただ聞いただけで何がなんだか分っていない状態だった。
「ちょ……」
「…ちょ?」
「ちょっと外行ってくる!!!」
大声で硬直したウィンシーを置いて素早く部屋を出ていくフェイ。そのすれ違いざまにエルリーナがやって来た。
「い、一体何が!?」
エルリーナの目に入ったのはフェイが最初に見た光景に扉の残骸がプラスされたものだった。
「きゃああああああああああああああああ!?」
悲鳴を上げ、へなへなと体が崩れエルリーナは気を失ってしまった。これが普通の女の子の反応です。
「………………、はっ!?」
驚きすぎて頭が空っぽ状態だったウィンシーが気を取り戻し周りを見渡して一言。
「ど、どうしよう……」
ちなみにヒューマンのウィンシーは殺される前の勝海の姿です。そして種族変換すると勝海がもし○○だったら~という感じで勝海ベースでウィンシーが構築されます。
そしてお忘れの方に申し上げときますと勝海はウィンシーの前の名前です。
私は忘れていませんでしたよ?ホントですよ?




