『アイテムボックスにも穴は有るんだよな……』
やっほー久しぶり。バレンタインのチョコは貰えましたか?
私ですか?貰いましたよ。母とお婆ちゃんに。
※指摘された誤字をなおしました。
「…あれ?俺、落ちたはずじゃ……」
暗闇に落ちた竜麻はいつの間にか白い部屋の中に立っていた。
そこは不思議な部屋だった。上を向くと天井は見えず、バーコードの様な太さの異なる線が縦横無尽に走っている。壁らしき物も見えないのでこの部屋はかなり大きいみたいだ。
「っ!皆は!?」
周りを見渡すと誰も居ない。
代わりに何かが立っていた。
「燕尾、服?」
「はい、そうで御座います」
「キャァァァシャベッタァァァァ!?」
誰も着ていない筈なのに燕尾服から青年の声がし、その服は白い手袋を何も無い顔の部分へと持っていき首を傾げる仕草をした、様に見えた。顔が無いから分かりにくい。
「おや、喋らなかった方が良かったですか…」
「ま、待ってくれ、質問っ!質問ターイム!!」
疑問をぶつける為に思い切り挙手をする。いいですよ、と燕尾服が言ったのでこの状況を把握するため質問をする。
「実菜達はどうしたっ!」
竜麻の一番の心配はそこだった。周りには見渡す限り誰も居ないこの不気味なほど白い部屋には窓も扉も見当たらない。
「他の方々は別の空間に居ますよ?」
あっさりと、かつ不安になるような事を言う燕尾服。
「……無事なのか?」
「それはその方次第です。ですが安心してください。死にはしません」
「どういう事だ…?此所は一体……」
何にも知らないのか。と言った感じで燕尾服は説明をし出した。
「ここは製作者ウィンシーが造った魔装【時空亜空の銀時計】からの魔装解放【0と1の世界】によって造り上げられた…、いえ、繋ぎ合わされた世界。貴殿方はいつも武器や装備品は何処に仕舞いますか?」
いきなりの質問返しに戸惑いながらも竜麻は答える。
「アイテムボックスだけど…」
「そうですよね?アイテムボックスです。私達はいつもアイテムボックスへ仕舞われます」
「おい……待て…もしかして此所は……」
「ええ、此所は改造されたアイテムボックスの中です」
燕尾服はとんでもない事を言い放ち丁寧なお辞儀をする。
「ようこそお客様。過去と未来の現在が無い電子世界へ。ご安心してお過ごし下さい。外の時間では一秒にも満ちません。何の気兼ね無く戦えますよ?」
何処からか取り出した銀の食事用ナイフを八本、指に挟むよう両手でもつ。
竜麻も慌てて武器を取り出し構える。
「聖剣ですか、しかし無銘のようですね。良くて下の上くらいですか」
「うるせぇ!使う方が上手けりゃ弘法筆選ばずなんだよ!てかこれでも国宝級らしいぞ!」
「左様ですか。では戦いましょう。私の名前は【戦う執事服】。以後お見知り置きを」
「変な名前だなっ」
「そう言われたのは初めてです。まぁ兄の【貴方はだぁれ?な燕尾服】よりマシでしょう…。ではいきます」
【戦う執事服】は思い切り振りかぶりナイフを投擲する。なんとかナイフを避けた竜麻は外れたナイフをチラリと見る。果てなく飛んで行ったナイフはその影すら見えないくらい遠くに消え去っていた。竜麻は離れて居ると不利だと思ったのか燕尾服に向かって駆け出した。聖剣とナイフが交差する。
戦いの火蓋が今切られた。
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「ですが此所がアイテムボックスだと言うのならば、外の時間が一秒も経たないのはおかしいです。普通逆の筈では?」
所変わって別空間。エルリーナは白い部屋に置かれたお洒落な白色の椅子に座り、これまた白色のティーカップに注がれた薄茶色の紅茶を優雅に飲みながら後ろに立っている顔のボヤけてよく見えない燕尾服に質問する。と言うより顔がない、はずだ。
この目と頭が痛くなる部屋にいて取り乱さないのは流石王族。肝が座ってらっしゃる。
「まあ、普通ならば此所は時が流れないはずですからね」
この世界では、『アイテムボックス内は不変の空間であり時間が止まっている』。と、学者が結論付けた。
その解釈は少し間違っている。正確には『アイテムボックスの中は時間がない』。
「昔話をしましょう」
突然燕尾服は語りだした。
「むかしむかし、あるところに、課金をしてアイテムボックスを拡張しようとする若者がいましたとさ」
「『カキーン』ですって!?あの伝説上の儀式!今は失われた、神話よりも御伽噺に近いあの『カキーン』ですか!?」
「え、ええ…。多分その解釈で間違いないかと……。ゴホン、話を戻しますよ」
「す、すみませんでした」
「若者は【アイテムボックス拡張チケット】なる物を買いました。……買いすぎました」
「わくわく……!」
「すると若者は鎚を取り出し言いました『ま、まさかこれ一枚だけで十分だったなんて……二百枚買っちゃったよぉ……。まぁいいや。このチケット金属板だし、なんか作れるかも』と。
トンカントンカン。トンカントンカン。
作り出されたのは時計でした。お見事あっぱれ出来が良い!丈夫で長持ちな銀の時計。
しかし使い道がありませんでした……。
悩んだ末、若者はポイっとアイテムボックスに入れてしまいました」
「ふふっ、時計をアイテムボックスに入れては時間が遅れてしまいますよ」
「その通り、遅れてしまいますね。それに気づいた若者は、慌てて時計を取り出しました。
するとどうでしょう……。時計は永遠の時を過ごしたかのようにボロボロになっていました。時計は壊れていましたとさ」
「なんか怖いお話になってませんか?」
「この話はこれで終わりです」
「この様な終わりでは話の後が凄く気になります!」
ブーブーと不満を上げて話の催促をする王女に燕尾服はやれやれとジェスチャーを行った後、話を続ける。
「そうですね……。貴女には教えても大丈夫でしょう」
「お願いします。【貴方はだぁれ?な燕尾服】さん」
この燕尾服は竜麻と戦っている戦闘用燕尾服【戦う執事服】の姉妹服、奉仕用燕尾服【貴方はだぁれ?な燕尾服】。どちらも性能と名前は違うが、魔装解放の名前は一緒である。
「それではお話致しましょう。と言っても最古参の【絶対採取くん】様に聞いた話ですけどね」
勿体ぶって燕尾服は語る。
「若者はこの現象に驚きました。トライエナジードラゴン(Lv.240推奨)の滅粒子砲ですら壊せないと自信がある作りたての作品がこうも簡単に壊れてしまったからです。
『運営のミスだろうか……』そう考えた時です。若者は思い付きました。
『アイテムボックスにも(システムの)穴は有るんだよな……』
若者は運営には報せず研究を始め、最初は失敗続きでした。
最初のうちは、【アイテムボックス拡張チケット】の金属板で様々な物を作りアイテムボックスへと入れ実験を繰り返していました。剣から裁縫針、孫の手に至るまで様々な物を作っては入れ作っては入れ。
しかしどれも結果はイマイチ。時計の様には上手くいきませんでした。
ですがそれでは諦めないのがこの若者。この失敗からある推測に至りました。
『アイテムボックスには時間と言う概念は無く、【アイテムボックス拡張チケット】というアイテムボックスへ干渉する特殊な金属板から作られた時間の概念を持つ時計が、独立した無限の時を過ごした』。
と言う屁理屈染みた推測からこの空間は造られたのですよ」
到底理解の及ばないとはこの事だろう。エルリーナは話の最中に出てきた『ウンウェイ』と伝えられる神話の人々が畏怖と敬意を持つ組織の名前が出てきたあたりから、この話は歴史の新たな発見かもしれないと一字一句聞き漏らさぬよう静かに聞いていた。
(話から察するに若者はウィンシーさんでしょう……。それでは彼は神話の時代の……)
「おっと、そろそろ決着が着いた頃ですね。勝者はいないみたいです」
まぁそうそう負けてもらっても困りますが。と【貴方はだぁれ?な燕尾服】が苦笑する様に肩を竦める。どうやらエルリーナが考え事をしている最中に戦いは終わった様だ。
エルリーナの目の前が光に覆われていく。
「お話楽しかったです。紅茶も美味しくてとても快適でした」
「至極恐悦です。製作者ウィンシーとこれからも仲良くしてくださいね。彼、普通の友達少ないですから……」
まるでお袋の様なことを言う燕尾服であった。
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『制限時間が終了しました。勝者はウィンシー様です。お疲れ様でした』
「ワシは戻って来れたのか……」
格闘家オルスは自分の体の様子を確める。先の戦いで負った傷は嘘のように消えているが、少し道着がボロボロになってしまった。
自分の消耗は少ないと確認し、ふと周りを見渡す。
そこはまさにカオスの体現であった。
先ず目に飛び込んできたのはトランクスパンツ一枚のロクシャスの姿だった。その肉体美を惜しげもなく晒す。
「なんとか……パンツは、死守出来たか……それにしても寒いな」
寒いのはパンイチだからでもあるが、近くに白い雪の塊があるせいでもあった。
それは大小の雪の球体が重なって出来ている雪だるま。ご丁寧に顔が描かれている。
『出してー!!』
「実菜!やっぱりそこにいるのか!予想がハズレて欲しかった!」
今さっきから何かを探す様に辺りを歩いていた竜麻と里沙と遥は雪だるまの目の前まで集まる。
「あー、こりゃ【暴坊雪達磨】にやられたな」
「状態異常【雪だるま】ですね~。ふふふ」
「笑ってる場合じゃ無いでしょ!遥さん!このままじゃ実菜が凍死して…」
「大丈夫です。この中、とっても暖かくて他人の力無しでは脱出が出来ないくらい心地良いんですよ?」
「何ですかそれリトルカマクラ!?」
『うぅ~この中にこれ以上いたら駄目人間になっちゃうぅ~…竜麻ぁ…そこに居るんでしょ!助けなさいよ!』
「あ、ああ!!」
オルスは竜麻達が実菜を救出している様を見ていた。
そしてチラリと見てしまった。
その救出劇の現場の隣にフリフリなゴスロリに身を包む赤髪の少女。腕の中には斧でなく可愛い猫のぬいぐるみが抱かれていた。まるで生きているかのように動いている。
「うへっうへへへ……」
「サ、サディス……お主一体何が……」
どうしたんだとオルスが聞こうとする間に、くいくいと道着の裾が引っ張られ、そちらを向くとオルスの愛しの孫レイミーがいた。特に変わった様子はない。
「おお!大丈夫じゃったか!?怪我はないか!?ああワシという者が有りながらごめんのぅごめんのぅ……」
「……フッ。……心配するでない我を産みし者を創った男オルスよ。……我は邪滅脚神レイミー……。……この程度の障害、我が絶技【黒炎龍殺烈脚斬】の前では塵に等しい……」
「レイミィィィィイイイイ!?」
孫の変貌に驚愕し過ぎて顎が外れそうになるオルスであった。
「な、何故このような事に……?!」
「……真なる師【酒帝】に出会った。……これが……、
因果か……」
ワシの可愛い孫がー!と叫ぶ孫バカは最終的に、これはこれで可愛いのぉ!と孫バカぶりを発揮させ、落ち着いて周りを見渡すと体育座りをしている三人を見つけた。
「私は影が薄いんじゃない…私は影が薄いんじゃない…」
「僕の魔法はヘッポコヘッポコ……ぽっぽこぽー……」
「パンで……パンでぶたないで下さいまし……」
「メイノル…コンクル…グモイル嬢…お主らもか……」
オルスが比較的ダメージが少ないのはあの白い部屋で戦った装備の性格がまともだったからだ。
一歩間違えば自分もああなっていたのかと思うと冷や汗が止まらない。安堵していると後ろから声が聞こえる。
「ウィンシー!酷いじゃないかぁ!いきなり勝負を仕掛けてくるなんて!これは罰が必要だなぁよし決めた!お前は一生私に仕えるんだぞ!!」
「待ってください!今は私が彼を雇っています!ウィンシーさんの知り合いみたいですけど今ウィンシーさんは私に仕えているんです!」
「はん!人間王族の小娘が!コイツはお前には過ぎた力だ!それにコイツは繊細なんだぞ!人間の王宮なんていたら胃に穴が開くぞ!」
「大丈夫です!私が不穏分子を排除します!クリーンな王宮ですよ!」
私が!いいえ私が!と両腕を掴まれながら引っ張られてT字になるウィンシー。いつの間に着替えたのか黒甲冑に戻っている。
「のう、お前さん方。そやつ生きているのかの?」
「「え?」」
二人同時に手を離すと、
ドシャ
と音を発ててウィンシーは倒れる。
「「しっ、死んでる……!?」」
慌てだす二人にオルスは冷静にウィンシーの様子を【観察眼】で観察する。
「落ち着くのじゃ、まだ生気に満ち溢れているぞ。気を失っているだけじゃ」
「本当ですか!?」
「寧ろ生気が溢れすぎて引くくらいじゃよ」
それは良いことを聞いたと言わんばかりの笑みで両手を合わせながらエルリーナは宣言した。
「でわ今のうちに運んでしまいましょう!」
この日、謎の集団が森から出ていくのが観測され、一週間近くその森に近づく人はいなかったという。
なんか詰め込み感がある仕上がりになってしまいました。




