「動いてくれ…俺の腕……!」
日間ランキングがスゴいことになりましたね。
これも皆様のおかげです。ビックリして鼻水出そうでした。
しかし出たのは鼻血でした。一度出ると出やすくなるんですよねあれ。
今回は一度消えた文章を再現しようとしましたが、なんか違うものになってしまいました。
※1/13指摘された誤字を直しました。
ガリガリガリガリ……ガリガリガリガリ……
ウィンシーは早朝、家を囲う程の大きさに円を描いていた。
「何をしているんですか?」
エルリーナは彼が円を描く様子を少し離れた場所から眺めていた。
「ん……家を持っていく、準備中…だよ」
「家を持ち歩く事なんて出来るのですか?置いて行った方がいい気がしますが…」
彼女は家を直接アイテムボックスに入れる方法が自分が知らないだけで存在すると思い込んだ。もしアイテムボックスに家を丸ごと入れるとなるとアイテムボックスを圧迫してしまい、他の生活必需品が入らなくなってしまう。
それならば家は置いていき、他の冒険者や旅人に無償で貸した方が良いと考えた。
「ねぇエルリーナさん、太陽石って知ってる?」
唐突に質問し出すウィンシー。その意味をエルリーナは分からずにいた。
「え、はい。空に浮かぶ太陽が欠けて石になったと伝わる鉱石ですね。非常に貴重で粉であっても価値の高く、拳くらいの大きさの太陽石を巡って戦争が起きた事もあります。今は教会の象徴とされておりとても有名です。」
エルリーナを見ずにガリガリと模様を描いていくウィンシー。少し棒先が震えている気がする。
「へ、へー。物知りだ…ね。じゃ、じゃあ火山に住む老甲獣グラドメルトって知ってる?」
「亀の形をした大型のモンスターですね。普段は火山の溶岩溢れる中に眠っており、食事は様々な鉱石を食べて自分の体の一部にするとか。五十年ほど前にグラドメルトの幼生体であるプチグラドが火山の梺まで降りてきてしまい近くの町や集落は全滅しました。結局、プチグラドは討伐されず、火山に帰りました。その時の懸賞金額は大金貨150000枚でした」
お金の単位が違う事に気になったが、聞いた限りとんでもない金額なのだろうと考えた。腕が思うように動かないが、持ち前のDEXに物を言わせ更に細かい模様を描いていく。
「動いてくれ…俺の腕……!」
動いてはいるのだがいつもより出来の悪い仕上がりになってしまう。気に入らないのでげしげしと足で消して描き直していく。
何故いきなりウィンシーが太陽石やグラドメルトの話をしだしたかと言うと、家の電球の代わりや熱を使う設備に使われているからだ。今挙げた物の他にも、水がたくさん出てくるラガーナの水瓶やアイスを作る為だけに使った獄凍石等がある。
(ちょーっとレアな太陽石でそれって……、なんでぇ…)
さっさとこのとんでもホームを片付けないと新たな戦争の火種になりかねない。それに知らない誰かに盗まれるのが嫌だったからでもある。
エルリーナはただ質問されただけだと思っているのでそれ以上ウィンシーの行動を邪魔しないよう見守っている。
地面に描いた円から出て水銀の入った大きめのビンと一つの首飾りを取り出す。首飾りには卵くらいの大きさに削って出来た透明な紫色のアメジスト。そして銀による装飾が、妖しく惹き付けられる光を放つアメジストにどこか高貴な気質を纏わせる。
エルリーナが一瞬なれど欲しいと思ってしまった程だ。
首飾りを着け、ビンを傾けていく。
流れていく水銀は模様を辿って広がっていき、細部まで行き渡る。下手すると土壌汚染になるので良い子は真似しないように。
「【ダンジョン生成】」
水銀に魔力が流れて淡く光る。すると家が地面に沈んで無くなり、淡い光が首飾りに入っていく。
【ダンジョン生成】とは、まんまダンジョンを生成する事である。宝石をダンジョンコアとし、描く模様によって性能が変わる。今回は家をダンジョン化しアメジストをコアとして持ち歩ける仕様にした。勿論モンスターが家に湧き出る事はなく罠もない。
「じゃあ、…行こうか」
「………」
唖然とした表情のエルリーナは何も言えず、もしかして気に障る事をしてしまったのだろうかと心配になるウィンシーは思わず尋ねる。
「ど、どうしたの…?」
彼女はコクコクと頷くだけだった。意味が分からなかったが、ただ怒ったりはしていないみたいなのでホッと一息つき歩き出す。
「こんな技術が在るなんて……」
ついてくる彼女が呟いた言葉は彼に届いたが、ただ知らなかったのだろうと結論づけて森を東に歩き続けた。
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首都インタリアから西に真っ直ぐ進むと森の東口に着く。竜麻達はその入口付近で屯していた。
「早く行こう!俺の聖剣が血を欲している!」
「完全に呪われた聖剣ですねぇ……」
「はっはっは、この森から俺の伝説が始まるんだ!……きっと」
竜麻の発言に里沙はツッコミを入れる。
「待つんだ勇者。ここで一旦三班に別れて行動しよう」
メイノルは竜麻に停止をかけ、これからの行動方針を提案する。
「大丈夫なのか?戦力が分散するのは危険だと思うけど」
心配する竜麻の意見はもっともだ。敵の実力が未知数なのだから。しかしメイノルは自信有りげに否定する。
「心配はいらない。これでも皆それなりにできる奴等だからな」
「そうですか…」
竜麻も渋々納得したのでさっそく班を決めようという時、フェイがまったをかける。
「少し気になる事がある。私は一人で行かせて貰いたい。五人六人の二班にして別れていてくれ」
「おいおい、抜け駆けかぁ?俺も連れてけよ」
フェイの言葉に対しサディスが絡む。
「お前は来るな。妖精が逃げる」
「あぁ?上等だ!得物を抜きな!!」
「サディスさん落ち着いて…」
コンクルがサディスを宥めるも、彼女はアイテムボックスから身体に不釣り合いな斧を出し構える。
「私の武器は弓なのだが…良いだろう、このナイフで相手してやろう」
フェイはと言うと弓でなく懐に隠し持っていた抜き身のナイフを取り出す。
「はっ!そんなちんけな得物で俺の斧とやり合おうってか!」
「舐めない方がいい。このナイフは昔から私と共に歩んできたお守りだ」
柄に近い刀身に刻まれたリアルな波の紋様が竜麻について来ていた遥の目にとまる。
「あの銘柄は……確か…」
遥の呟きはこの一触即発の雰囲気の中では誰も聞いていなかった。
「いくぜっ!!!」
斧を振りかぶりフェイへ走る。
「こい。その斧を三枚に卸してやる」
ナイフを逆手に持ち、下段に構えサディスを迎え打とうとする。
「止めんか馬鹿者っ」
「全くだ」
オルスが力が乗らないうちに斧を押さえ、ロクシャスの盾がフェイが持つナイフの進行を止める。
「邪魔すんなジジイ!」
「ふむ、力任せではワシには勝てんぞ」
悔しそうに顔を歪めサディスは叫ぶ。
「うがー!!妖精俺も見たいのに!!」
粗暴乱暴傍若無人な性格のサディスだが、実は可愛いものが大好きで乙女チックな部分がある。所謂『雨にうたれて震えている子猫に傘をあげる不良少女』的な性格だった。
「妖精なぞ滅多に見れる物ではない。諦めるんじゃな」
オルスの言葉にガックリするサディスであった。
「取り敢えず、私は一人で行かせて貰う」
ナイフを盾から抜き、そう言い残しフェイは森の中へ消えてしまった。
「危なかったなサディス。もう少しで斧が三枚卸しにされる所だったぞ」
「あん?何でだよ」
「これを見ろ」
ロクシャスは盾を掲げる。その盾には穴が空いていた。
「この盾は固さだけが取り柄のガグルガ鉱石で出来ているんだがそれを容易く貫いたんだ。お前の斧も只では済まなかっただろう」
サディスは興味深そうに盾を眺め、一つの結論に辿り着いた。
「成る程、まずはロクシャスをぶった切れるくらいに強くなれば良いんだな!」
「……。いや待て。その脳筋思考を止めろ」
「この依頼が終わったら模擬戦しようぜ!!」
こうなったサディスは止まらない。
(終わったら……、遠くに逃げよう)
「それでは班分けだが、勇者とその連れには一緒になってもらい、レイミーとサディスが加わってくれ」
メイノルはフェイの言う通りに五人六人で二班を作る。
「……わかった」
「ちっ、ガキの子守りかよ。しゃぁねーな」
「我輩やグモイル嬢がついて行った方が良いのでは?」
二人は承諾するがロクシャスはこの采配に不満があるようだ。
その答えにメイノルは首を横に振る。
「確かにその方が安全だろう。だがそれでは勇者達が育たん」
「うぬ……。それもそうか」
ロクシャスが納得し、二手に別れて行動する。
メイノル、ロクシャス、グモイル、オルス、コンクルの五人は南西方向へ。
竜麻、実菜、里沙、遥、レイミー、サディスの六人班は真っ直ぐ西へ進む事となった。
「では何かあったらこの昇煙玉を使ってくれ。危険だと感じたらそこの二人に必ず従うんだぞ」
「ああ、分かった。それじゃ気をつけて」
「そっちもな」
メイノルと竜麻は話を済ませ、それぞれ行動する。
竜麻達は数十分進んだ後、レイミーが急に止まる。
「どうした、レイミーちゃん」
「白いのと……黒いのが、いる?」
レイミーが指を指した草かげに白のワンピースを着た銀髪の少女と黒い靄を纏う怪しい黒騎士がいた。
「あ、ぁぁぁ………。み、見つかっ、見つかっちゃった……!」
今回はなかなか進まない展開でしたね。
少し変な部分があるかもしれません。
次回は別行動のフェイさんに焦点を当てたいです。