プロローグ
※1/7 読者様のおかげで誤字を発見できました。これからも(あれ?コイツぁ…)と思ったら気軽に感想などに書いてくださいね。
※1/13 指摘された部分を直しました。
※2/16 指摘された脱字を足しました。その他もろもろ直しました。
ある日曜日の昼下がり。カーテンを閉め薄暗い部屋の中、ベットの上で寝ている男がいた。頭には頭部を覆い、頬をロックする型のVRマシンだ。こめかみ辺りに「オンライン接続中」のランプが光っている。その光が点滅し完全に消え、寝ていた男が起きた。
「腹へった……」
そう呟いた後、マシンを外しのろのろと寝室から出てリビングを通りキッチンにある冷蔵庫を開けた。
(うわ……なにもない)
冷蔵庫の扉を閉め、 リビングの窓を開け、庭に出る。庭には畑があり、育てている野菜が太陽の光をさんさんとふりそそがれている。
「あつ″ぃ」
夏真っ盛り!と言わんばかりに太陽が照りつけるので、窓付近に置いてあるサンバイザーをつけてサンダルを履き畑に向かう。
(あれ?あんまり実ってない?)
そう、まだ畑には熟れてない野菜ばかり。これでは食べれない、と言うより食べたくない。
(ま、ま、ま、まさか、そ、『外』に行かないといけないのか……!?)
もう既に外に出てるではないかと思われるが、彼にとっては庭はまだ『外』の領域ではないのだ。
庭からはちらほらと通行人が見える。
(ひ、ひ、ひ、人っ)
彼にとっての『外』は『他人がいる』ということ。
(お、落ち着け…西条勝海……!何の為に『リトルフリーダムオンライン』を買ったと思ってるんだ……!!)
『リトルフリーダムオンライン』そのキャッチフレーズは「少しでも自由に」。
勇者になるもよし。魔王になるもよし。王様になって国を創るもよし(土地を買ったり手続きしたりとめんどくさいが)。フィールドが広くモンスターも豊富でやろうと思えば神とだって戦える。その自由度に惹かれてプレイする人が膨大にいる、今流行りのVRMMOだ。
対人恐怖症の勝海は、現実となんらかわりない世界で日夜、話し方の練習(NPCに対して)や、人に対する恐怖心を抑える訓練(もちろんNPCに対して)をしている、いわば『前進型ひきこもり』(自分ではそう思っている)なのだ!
(クク、クヒッ!大丈夫だ!最近NPCにもどもるけど会話ができてきている。近くのスーパーまでの距離なら……堪えきれる………はず)
自分を鼓舞し、さっそく出掛ける準備をするため寝室へ向かう。
そして………
「ありがとーございました~」
見事、目標を達成した勝海。
(ヌフフフッ…俺は……やったぞ……)
近所のスーパーにたどり着くまでに、最大限気配を殺したにも関わらず犬に追いかけられたり、トラックに轢かれそうになったり、幼女に「ねぇねぇおにいちゃんなにしてるの~?」と話しかけられ、キョドりながらも会話をして多大な勇気を貰ったり、工事中の鉄骨が上から落ちてきたり、女の子を三人侍らしたリア充男が突然光ったと思ったら跡形もなく女の子共々消え去ったり、いつの間にこの世界は危険になったんだと嘆いたりもした。
しかし後は帰るだけ。
(帰ったらご飯食べてゲームしよ……ん?)
帰り道の途中、あの勇気をくれた幼女と怪しい雰囲気の男がいた。
そして見てしまった。
男の手には刃渡り15cm程の刃物。
男は幼女に向けてその凶刃を振りかぶる。
気づいたら勝海は幼女を助けるため走り出していた。
勝海自身も驚くほど全力で。
そのかいあって幼女と男の間に入り込み、凶刃を体で受け止めた。鋭い痛みが全身を走る。しかしここで倒れたら名も知らぬ幼女も自分と同じ二の舞になってしまう。
咄嗟に、
「ズーバーにに″…げろっ」
上手く言えたか分からない。必死の形相だったお蔭か、幼女は悲鳴をあげながら走り逃げていく。
彼女は助かるだろう。だが自分は助からない。
なんだか今までしてきた事が一瞬で崩された気分だった。正しくそうなのだが。
今も刃物を降り下ろそうとしている男のせいで抑えていた恐怖心が最高潮に達する。
(クソ…クソ……。もうやだ…こわい……らいせ…ぜったい……ひきこもる)
そして意識がプツンと途切れ……
太陽の日が目蓋を焼く。鬱陶しいと目を開ける。
「キヒッ!?」
気づいたら勝海は森の中に居た。