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異世界No.2―ノクターナル―30

 王妃様の愚痴を延々と聴かされ空腹のあまり倒れそうになったノワールです。


 王妃とシマ王のいざこざは一応収束致しましたが、そもそも離縁は避けられない(シマ王自身避ける気がなかったらしい)ので完全な収束はまだ先のことだそうです。うん、後は勝手に私の居ないところで私を巻き込まない程度にしてくださいな。


 一応の休戦をさせた功労者(厳密に言えば私の空腹を訴える腹の虫)である私には感謝を告げる眼差しが集中したが、それは脇にでも置いておこう。



 どうやらこれ程までにとはいかないがこんな王妃の愚痴は日常茶飯事に最近はなりつつあったらしく、周囲は困っていたらしい。王妃の苦労は皆知っているので強く注意することも出来ず、だからと言ってこのままでは国の威信に関わるとも思うが、王妃もそこは自覚しているらしく自身を律していたのだが・・・それに味をしめたかシマ王や側室達は好き放題に・・うん、で、爆発するのだ。周囲も呆れるが王妃に非は余りないと認識されている。


 王妃の人柄が良いのか。普通ならもう少し反感を買うはずだが。



「さあノワールちゃん、遠慮せずお食べなさい」



 そんな王妃の怒り爆発に巻き込まれた私はただ今その王妃に食事に誘われ王妃と三人のお子さん(血縁的には異母兄弟)達と食卓を囲んでおります。それと兄弟子も同席を許されて隣で緊張しながら魚料理にナイフを入れてます。


 私はというと、王妃の三人のお子さんにガン見されて居たたまれなく、食が捗っていません。食べたいのに食べれない。何このジレンマ。口内炎みたいに質が悪いぞ。



「こら、余り見すぎてはノワールちゃんも食べ辛いでしょ。食事が終わるまで見つめ続けるの禁止よ」


「「「すいません」」」


「(・・・・)」



 うん、何て言うか、うん。


 見られ過ぎて穴が開くかと思うくらい見られてたら食べられなくなるの普通だよね。それにしても見すぎだよ王子達よ。いや、兄たちと言うべき?


 ま、私は家族ごっこは勘弁なんだけど。



「もぐもぐ・・」


 やっと胃に料理を納められたのもつかの間、今度は重たい沈黙が訪れて居たたまれない中料理の味も半減する状況の下、私は機械的に黙々とフォークとナイフと口を動かすことに専念していた。兄弟子も黙々と食べ続けていた。


 食べながら三人の王子達を眺める。王太子である長男は黒い鬣を綺麗にまとめスマートな出で立ちの獅子で父親であるシマ王の色を反転させた黒地に白縞の虎柄の黒獅子だ。睨まれたら大抵の相手はビビるだろう。

 第二王子である次男は湯殿の脱衣所でメイドさんと私が黒豹か黒猫かを談義していた王子だ。彼も立派な鬣を持っているが王太子である兄よりも控えめなボリューム。言うなれば若獅子だろうか。漸く鬣らしくなってきた感じ。

 第四王子の鬣は未だ生え揃っていないらしくとても短く不揃いで、何処と無く幼い様にも見えるが、歴とした二十歳を越えた成人だ。が、そうは見えない容姿をしている。そして唯一母親である王妃と同じ色合いをしている。

 私が自分を棚に上げているって?お前だって背が低い?解ってるよ。



 王子三人も黙々と食べます。そしてチラチラと私を見てます。王妃は王子達が30秒以上私を見詰めていると笑っていない笑顔で諌めてくれますが、そちらの方が怖いです。



「ふう、さて。」



 あらかた食べ終えた王妃がまだ食べ足りない私を横目に口をナプキンで上品に拭く。それを合図に下げられていく料理の皿達・・・あ、まだ食べ終わってないのにっ―――



「あら、まだ下げなくて良くってよ。ノワールちゃん、焦らずにお食べなさい」



 お言葉に甘えて私は食べ続けた。例え相手の気遣いがうわべだけのものであっても私はその通り食べ続ける。常識的には止めるべきかもしれないが、それは貴族や上流階級の常識であって私の常識ではない。乱暴な考えだが腹を空かせたまま眠るのは辛い。ここで食べなければ泣きを見ることになる。実際泣いた。


 ひもじい思いを思い出すよりはお言葉に甘えて食べ続ける選択し以外あり得ない。私としては。




「本当によく食べるわね」



 懐かしむような声に耳だけは傾けつつ暇は行儀悪くならない程度に食べ物を口に頬張る。うん、やっぱり王族の食べている物は野菜から肉まで旨い。多分野菜は取れたての物をふんだんに使い、肉は熟成された物を使っているのだろう。取れたて新鮮、血が滴る方が旨いと思われている肉は実は余り美味しくない。店で売っている肉はある程度熟成された物が売られているので知らない人も居るかもしれないが。新鮮な血の滴る肉は酸味があったり本当に美味しいとは言えない。


 とは言え、素人が肉を熟成させようとすれば腐らせるのが落ち。なので私はご都合主義なスキルでどうにか出来ないかと試行錯誤している矢先にこうしてこの国に連れてこられたわけだが。



「もぐもぐ・・・もぐもぐ」


「彼女も大食体質で、年頃ゆえに空腹で倒れたことがあったわ・・・懐かしいわ」


 どうやらこの燃費の悪い腹ペコ体質は母親譲りなようです。年頃ゆえにってダイエットとかかな?

 この腹ペコ体質でダイエットとかって拷問以外の何物でもないよ。



「ご免なさいね、貴方を通して彼女を見るのは不躾ね。でもね、親友と呼べるのは彼女以外に居なかったから、ついね」


「母上と彼女の武勇伝の数々は最早伝説ですからね」


 と、第二王子。すると今度は王太子が一言


「だが、それを言えばお前の武勇伝も中々に面白いぞ」


 と、やや呆れ気味に言った。第四王子は少し膨れっ面で未だに料理(鶏肉の香草の蒸し焼き)と格闘中。あの蒸し焼き匂いがキツすぎて味が損なわれていると思うんだ。それに好き嫌いも別れそう。第四王子は匂いが強いものは好きではなさそうだ。



「お前の武勇伝、そうだな・・蛇に求婚されたとか面白話には事欠かないからなお前は」


「その話は二度としないでください。思い出したくないです」


「あら、あの話は解決したのかしら?」


「しましたよ!俺はキチンとお断り致しました!」



 ややオーバーに否定する第二王子に面白がる王太子と王妃にたじたじになる第二王子。そして冷や汗を欠きつつも鶏肉の香草蒸し焼きを平らげ勝利した第四王子はワインを一気に煽り一息ついた。お疲れ様です。


 因みに兄弟子は好き嫌いなく食べていたが、獣人の一人辺りの量は辛いらしく、でも残すのも勿体無いと食べ続けているようだ。無理すると胃もたれするぞ。胃が強くないんだから程々にしときなよ。



 私には丁度良い量だが。一般人には多いなこれは。



 よく考えてみると私の料理の量がみんなのよりも多かったと気が付く。王妃の口調から私の母親も大食いだったので私もそうだと思ったのだろう。明らかに他よりも多目だ。ありがたいが。



「さてと。ノワールちゃん、貴方に聞いてもらいたいことがあるの。食べながら聞き流しても良いわ」


 貴方からしたら言い訳に聞こえるだろうから。そう話を一旦切ってから、王妃は息を整え話し出した。


 それはシマ王が私の母親に対してしてきた仕打ち、そしてそれを見ていられなかった王妃が秘密裏に城の外に逃がしたこと。私がお腹に居るのを知らずに母親は逃げ回っていたこと。シマ王が母親を諦めきれずか不明だが血眼になって探したこと。

 そしてそれを予期して隣国に逃げて力尽きたこと。私が生まれてまもなく母親は無くなりシマ王の手の者が私の存在を聞き付け始末しようとしたこと。

 結果的には奴隷商人に売って金を得ることにした刺客ははからずも私の命を救った。が、その罪状が消えることはないので現在服役中との事。そしてチラッと第二王子が「母上が拷もn、いや何でもない」と言いかけたことから酷い目にあった事は予測できる。


 それにしてもシマ王は何故一度手を付けて興味をなくした彼女を血眼になってまで探したのだろう。逃げられたら捕まえたくなる獣の狩猟本能か?傍迷惑な。



 そして私は現状宙ぶらりんな存在らしく、王位継承権を持つか否かで貴族達の意見が別れているらしい。これ以上王位継承権保持者を増やしたくない王家の親戚筋や側室の実家達は否定をし、王妃にこれ以上権力を持たせたくない者、自分が甘い汁を啜れるのではないかと画策する者、あわよくば私を踏み台にしようとする者などが肯定しているらしい。


 良くもまぁ本人の居ないところで盛り上がっているものだ。


 勿論私は王位に何て何の魅力も興味もない。だからと言って権力もいらないし、王族の仲間入りも正直したくない。


 だから正直に思っていることを伝えた。


「俺は王族の仲間入りも、貴族として生きることも、政治の駒にもなりたくない。今まで通り普通に暮らしたい」



 ―――――と。



 王妃は私がそう答えると知っていたのか冷静に今後の生活が今まで通りにはいかないことを私に説いた。





 勿論それは百も承知だ。私は確かに無知かもしれないが、分からないことを分からないままにはしない。そこまでバカではない。



「お聞きしてもよろしいですか?」


「ええ、どうぞ」


「どの程度私の生活は元に戻りますか? ――――と言うよりも、この国から出られるのですか?」



 それが一番の問題だ。隣国にあるあの居心地の良くなったマイホームに帰れないのは痛手だ。せっかく苦労して(チート乙なのでそれほど苦労してない)作ったマイホームが無駄になるのは不服だ。


「そうねぇ、陛下が貴方にどれだけ執着するかにもよるけれど・・・その時はあらゆる手段をもって妨害するわ」


 フフフフ―――と黒い笑みでさらっとすごいことを言ってのける王妃にシマ王の妨害を任せることにして、私は全面的にnot王族の仲間入りnot王位継承権を掲げることにした。


 私のマイホームへの帰郷はまだ遠そうだ。




 それまでにネロの機嫌が持てば良いのだが・・・無理かな。






 


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