異世界No.1―アテナ―3
紅蓮さん巻き込まれる、の巻。
この話にはネタ要素が含まれています。苦手な人はブラウザバック推奨。
お茶請けのクッキーは半分以上無い。数分間の内に既に無くなりそうだ。相変わらず嫁さんはお菓子が好きだね。
「食べ過ぎたら晩御飯食べれなくなるよ?」
「話し聞きながらだと何か食べたくなるんだよ。」
そういって私の分のクッキーをガン見するのだ。欲しいのだろう。……だがあげない。
「( ・ω・)」「(  ̄ω ̄;)」
声なき闘いが幕を開け……はしない。
「さて、続きを話そうか…」
「(´・ω・`)」
………オホン……え~、何処まで話したかな?ちょっと確認確認……
旅の記憶はかなり膨大だ。そんな膨大な記憶を私の足りない頭に詰め込めばパンクは必至。なので白神に頼んで私の記憶を本に記録してるのだ。勿論プライバシーのため私以外には読めないよう細工してある。
「え~と、そうそう。二人を担いで逃げ出したんだね。」
「その本ってさ、色んな情報も入ってるんだよな?」
私の分をまだ見ている嫁さんはクッキーをガン見しながら私に質問する。そんなに食べたいならどうぞ。
「情報はネットで調べてるよ。これ、ノートパソコンみたいな機能もついてるから。私の記憶も入ってるの。」
私の分のクッキーを嫁さんの方に移動させて質問に答える。嬉しそうにまた食べ始めた。最近食べ物、特にお菓子に対する執着が強くなってきた気がする。
そう思いながらも記録した記憶の続きを話し始める。
侵入者二人を抱えて警備員達のど真ん中を駆け抜ける。感覚があるからか目がチカチカして涙が出てきそうだ。クラウドに感覚器官を切っといてくれと伝え走り続ける。
壁はさっきまで居た部屋より無機質で真四角な通路が続いている。何時まで走ることになるのやら……
『機械が痛みを感じるのはスゴいな。しかし大丈夫か?』
《もう目を開けても大丈夫です。》
(そう? 何か体がダルくなってきたんだけど…
《当たり前です。エネルギーが無いのに動いているのですから。単純に燃料切れです。》
『…………』
(…………)
今、聞き捨てならない言葉を聞いた。え?燃料切れ?……そう言うことは早めにいって欲しいもんだ。
(クラウド、今度からそう言うことは早めにいって。)
《分かりました。》
フラついてはいるけど二人を担いで走れるのだ……まだ走れる。まだ走らないといけない。
いつの間にか鳴り止んでいた警報が無い通路はまるでこれから何かに遭遇しそうな予感がする。あれだ、こういう風に考えると、必ずといっていいほど何かあるのだ。所謂「自分でフラグを建てる」だ。
油断してた。フラグを建てるってフラグの種類では死亡することもあるんだ……ヤバイ?
(どうしよ白神……私死亡年齢最短記録更新しそうだよ。初っぱなで……)
『案ずるな~。私の力でどうにか……( ; ゜Д゜)』
なぁ、白神よ。お前もしかして……テンパってるか?
《フラグ? 何ですか?》
『うむ、フラグとはな建てたり投げたり時には折ったりするものだ。爆発する物もある。』
(建てたり折ったりはあってるけど……投げないから。)
『よく思い出してみろ。フラグ投下…とか誰か言ってなかったか?』
なんつー現実逃避か。
『戦争の歯車とかそんなゲームだ!』
(お前……それ好きだろ)
答えがない。詰まり肯定か?
「……ッ…ゲホッゲホッゲホッ!!」
「…ゴホッゴホッゴホッ…ゲホッ!」
あ、コイツら忘れてた。両脇に抱えてたんだった。
「忘れてた。ごめん、大丈夫?」
苦しそうに咳き込む二人の侵入者に一応謝っとく。今の私は機械……力加減ができてないかも知らなかったから。
「ゲホッゲホッ…ゲホッ!!……ハァ……苦しいっての!何時まで行き止めてれば良いのよ!ゲホッ」
「………」(そっちでしたか)
「ゴホッゴホッ……ッ…君がいいと言うまで息をなるべく止めてたんだよ……ゴホッ……苦しかったよ…」
「ごめん……忘れてた。」(今そんな余裕無かったし……理由にならんか)
『紅蓮、その角を右だ。その次は階段を上がれ。』
白神があの時のようにナビケートするようだ。今一信用できない気がする。が、あの時と同じで従うしか選択権がない。
『階段は……できるだけ上れ。階数はあまり見るな。気が滅入る……。』
うぁ……聞きたくなかった。聞きたくなかったよ。今のだけでも気が滅入るよ。
(マジでか……)
『マジだ。な?クラウド』
《はい。後、200階上る必要があります。》
ゲッ……本当に聞きたくなかった。
未だに私は走りつつける。だが、どんなに上がってもゴールが見えない。抱えた二人はグッタリして返事がない。が、高性能な私の目や耳は確かに二人がまだ生きていることを確認できた。
私の残されたエネルギーは後ほんの僅か……このままでは地上にたどり着くまで持ちそうにない。これは違う方法を考えなければ……
《おや?……マスター、その角にエレベーターがあるので使ってみては?ちなみに止まっていますが、ハッキングすれば私が動かします。》
お?渡りに船。でかしたクラウド♪
そうと分かれば善は急げ! が、こういうのは何かあるもんだ……例えば……
(罠の可能性は?)
《50%ですね。》
『半々か……だが、このまま地道に階段を上がっても力尽きるだけだ。』
(だね。仕方無い。乗ってみるか。クラウド頼んだ!)
《尽力を尽くします。》
このまま人間二人担いで上るのは無理だ。エネルギーが底を尽きるのが早い。罠と分かっていてもそこに行かなければいけない主人公の気持ちがちょっとだけ分かった。
「ど、どうすんのよ!このエレベーター止まってるわよ!追っ手がすぐそこまで来てるかも知れないのよ!」
「落ち着いてリタ……彼に何か考えがあるのかも。ちょっと様子を見ようよ……」
「あんたちょっと悠長過ぎんのよ!」
「耳元で叫ばないでよ」
高性能な耳は普通よりもよく聞こえるのだ、それを耳元で叫ばれたらたまったもんじゃない。鼓膜があったならダメージ受けて血が出てたかも。
(うるせぇ……と、着いたよクラウド頼んだ!)
《了解。ハッキング開始します。20%……40%………》
ハッキングを待っていると担いでいる奴らが騒ぎだした。もう勘弁してよ……耳元で叫ばないで。
「ちょっと!冗談じゃないわよ!足音がそこまで来てるじゃない!」
「落ち着いて……あぁでも君は何がしたいんだい?」
「黙っててくれない?」
「なっ!なんなのよコイツ!」
「リタ……」
「…ッ………」
漸く静かになった。鼓膜は無いけどホントに地獄だった。
《90%……100%…ハッキング完了。地上まで上がります。》
(でかしたクラウド!ありがとう。)
《出来ることをしたまでですマスター。》
一息つきたいが今はまだ気は抜けないだろう。地上に戻ってもそこに部隊が居れば……終わりだ。
一先ず担いでいた二人を落とす……じゃない下ろす。
「ッ痛ッ」
「イタタタ……酷いなぁ」
すまん。わざとだ。悪気はない、悪意はあったが。
《地上スキャン中……大丈夫ですマスター。地上には誰もいません。どうやら小麦畑の様です。》
よく遥か上の景色が見えるね……防犯カメラでもハッキングしたのかな?
しっかし……それじゃまるでどこぞのゲームのエンディングの様な。ちなみに小麦畑は2のエンディングだ。あれは神ゲーだと私は思う。曲も好きだが。キャラが主人公以外無機物……機械なのだ。言い回しも面白かった。謎は解けないままな部分もあったけど、それはそれで夢が膨らむよね。
《神ゲー…?》
『うむ。あれは神ゲーと言っても差し支えない。私はタレットが歌っているのが印象的だったな。』
《タレット? 索敵や敵を排除する自立型の銃器武装されたロボットですか? 下の階層にいましたよ?》
会わなくてよかった。蜂の巣はごめんだ。
それに、白神が言っているタレットと寸分違わぬ姿なら……ちょっと躊躇するかも。だってあのタレット可愛げがあるって言うか……ねぇ?
持ち上げた時の反応が面白くて……進むときは端に避けたよ。
「いきなり扉は閉まるし、動き出すしっ!何なのよここは!!」
「落ち着いて……落ち着けないけど落ち着いて!」
「言ってることが分かんないわよ!」
「僕だって知りたいよ!」
「二人とも落ち着いたら?上に向かっているんだよ。良かったね侵入者さん。逃げられるよ。おめでとう。」
「………何が目的?」
女侵入者さんが睨みながら問いただす。確かリタと呼ばれていた。そんな彼女の様子にワタワタしているもう片方の侵入者は慌てて止めにはいる。が、彼女はやめる気はないらしい。
「心配? いつ裏切るのか……安心しなよ。そんなメリットはこっちには無いから。強いて言えば目的は外に出ることかな。」
「信じろって?冗談じゃないわ!あんたみたいな不審者、どう信じろっての。」
「君は何者なんだ。」
「それはこっちが聞きたいよ。こんな施設に侵入するなんて……泥棒なら余程の命知らずか馬鹿位さ」
等と言ってみるものの、私もこの施設を知らない。ま、私は――厳密にはこのボディーが――凍結されていた経緯は何となく分かるけど。コイツらの目的はさっぱりだ。
「で?何しに侵入したのさ。命知らずのおバカさん?」
「なんですって!!」
「リタ……」
「私達はここに封印されてる戦闘用アンドロイドを奪取しに来ただけよ! これは崇高な任務だわ。あんたが言うような馬鹿じゃないの!」
「……リタ…君はもう少し考えて喋ってよ……」
「ふーん……奪取ねぇ…。立派な泥棒だな。で?そのアンドロイドは見つかったのか?」
すると彼女、リタはしまったと口に手を当てるもすでに遅し。彼は頭を抱えてしまった。二人の様子を見るとアンドロイドは見付からなかったのだろうか?
(てか、これってまんま私の事じゃね?アンドロイドってのは……)
《100%マスターのことです。他のアンドロイドは破棄されたか、地上で活動しています。》
『厄介事に巻き込まれたな。仕方無い、頃合いを見てソイツ等から逃げ出せ。戦闘には向いてないようだし……チョロいだろ。』
(チョロいだろって………うん、それは確かに。分かった。コイツらから逃げれば良いんだな?)
『あぁ。無用な争いに手を貸すことはない。(それにこの男と共に居るのは……)』
どうやら私は中立の立場を保つことを強いられるようだ。ま、闘いの道具にされたくはない。ここは白神に従おう。
エレベーターの操作盤の横に手を当てて寄り掛かる……うん、操作している様に見えるでしょ?
案の定、侵入者は私に質問してきた。こうしていれば私がエレベーターを動かしていると思うのだろう。シメシメ……
「今何階辺りなんだい?」
(何階なの?)
《丁度地下100階層に突入した辺りです。後少しほどお待ちください。》
「ねえってば!こっちが聞いてんでしょ!」
「今、何階か? 表示盤見れば?」
クラウドに聞いた私が言えたもんじゃないが、あの言い方には頭に来た。そこにある表示盤見れば聞かなくても分かるでしょ。
「あ、ホントだ。上にあったね。」
「だとしてもそんな言い方って無いじゃない!」
「さっきは君の言い方も悪かったよ。」
「………ふんっ!」
「痴話喧嘩は終わった?」
「はははっ。付き合ってないよ僕たち。」
「ふーん……(女の方はそう思ってたかもよ?)」
ツンとしているリタ(仮)を見ながら思う。分かりやす過ぎ。ま、どうでもいいな。
《まもなく地上に着きます。》
(そう。さてと……どうやって逃げようかな……)
さっきから男の方が私をチラチラ見てくるのだ。もしかしたら、私が件のアンドロイドだと気づき始めているのでは?
これはさっさと逃げた方がいい。
「何階あるのかなぁ?」
「知らないわよ。そこの奴に聞いてみたら?知ってんじゃない?」
えぇ知ってすとも。けど、残念。教えませんよ。私が逃げるタイミングを逃したくないし。
しっかし……このエレベーター高性能な作りの割りに性能は普通だな。エレベーターに高性能とか無いだろうけど……何か何となく……エレベーターは高性能の物があるとか……囁いている。私の頭のデータベースが。
何か、この世界には有るらしいよ……空飛ぶエレベーター。なにその無駄なハイテク。どこぞのお菓子工場のガラスのエレベーターかっての。ちなみにガラスのエレベーターは無いらしい。良かった……あれは怖いだろ。持ち主も見えずにぶつかってたし。
「……ねえ、何階なんだい?」
「コイツ……さっきから黙りで何か企んでるんじゃないの?」
「聞こえてるけど? どこまであるかなんて知らないよ。(知ってるけど)ここに来たときに確かめなかったの?(不用心だね。それともただのマヌケ?)」
「……落ちたからよく分からないんだ……あの部屋に着いたのだって落ちた水路から偶々見つけた場所だし……」
「………コイツに教えてやる必要なんて無いじゃない。私がドジに聞こえるし……」
「詰まり……ドジった…と。」
「うん。」
「……ふんっ!」
わかりやす。にしてもコイツらの本当に何なんだ。民間人にしてはこんな危ない所に来るなんて可笑しいし……金にでも困ったか?
そんな少々失礼な事を考えながら地上に出るまで待っていたのだった。
厄介な事に巻き込まれるとも……いや、知っていたけどね、巻き込まれる事くらい。
さぁ何個ネタが含まれてたかな?
そんなに多くないよね?