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異世界No.2―ノクターナル―7

 本当に最悪なことは突然来るものだ。




「やぁ、君が神の言っていた勇者の仲間だね……俺と一緒に悪い王を討ちに行こう!」


「……嫌だ」



 反射的に答えた。すると男はぶつぶつと「あぁ…これも仲間にするイベントか…」とか「攻略方法は……」とか言っている。


 私をゲームのキャラと勘違いしてないか? しかも勇者って……プププっ…嫌だわぁ……そんな子供みたいな事を言ってるなんて。痛いわぁ……大人一人くるめる位の絆創膏欲しいくらいだわぁ……無いわぁ……


 そんな妄想が許されるのは小学生までだよ。




「―――っと、君の力が必要なんだ!」


「鉄のダガーは20Gになります」


「君の狩人としての腕前を……」


「初心者の冒険者見習いの方には革の防具一式をお勧めします。値段も腕・胴・脚・頭の四点一式合わせて800Gと比較的お求め易いお値段です」


「―――なんだ。だから俺は仲間を探していて……」


「更に此方の指輪や首飾りも冒険者見習いの方には重宝するスキルを付呪しております。是非お一つは持っていると重宝いたします」


「そんな事よりも俺は君を仲間に……」


「より良い防具や武器を持っていると生き残ることもできましょう……生き残れば話の種にもなりますよ」


「話の種よりも仲間が……」


「初心者の冒険者見習いの方にはパーティを組むのも一つの手でしょう。この町には有りませんがここから3日程東へ歩くと大きな街が有りますからそこの酒場で仲間を探すとよいでしょう」


「君がなってくれ!」


「この短剣はこの町一番の名匠が鍛えた剣です。私はまだ見習いなので商品には出してませんのでご安心下さい」


「……俺の話聞いてます?」


「今日は何のご用でしょう? 最高の武器と防具を各種取り揃えております」


「ねぇ……」


「欲しいのは武器?それとも防具?」


「………」



 私の無視が効いたのか黙って出ていった。カウンターの裏で見ていた兄弟子には後でキツい鳩尾に肘鉄をお見舞いしておいた。



 店を閉じる時間になって今日一日の売上と諸々の報告をしていると兄弟子から今日の可笑しな客について聞かれた。ずっと立ち聞きしてたのに何を他に聞くことがあるのかと面と向かって言ってみると親方と奥さんが血相を変えて兄弟子に詰め寄った。




「おい、ノワールが変な野郎に付き纏われてるなら助けてやれ!」


「ここのところ変な奴は多いからねぇ……寒さが和らぐと変なのが出てきて嫌だねぇ」


「いや、対処してた。ノワールちゃんと対処してた。一人で撃退してた」


「当然」


「うん、あれは凄く傷付く……俺マトモな感性で良かった」


「たまにいるのよ……自分が勇者で悪を討ち取るってモンがね。何年かの周期で現れるんだよ」


「まるで流行病みたいにな」




 ふーん……それって何年かの周期でちょっと頭の弱い転生者が来てるってことでいいのかな?


 最もマトモな感性を持ってる転生者来い……って、マトモなら名乗り出たりしないわな……うん。



「今日の奴は典型的な変人タイプだな。ノワール……お前明日から接客じゃなくて作業場で鉄打ってろ」


「分かりました」


「ならあたしがカウンターに立つよ……あんなん奴が来たら追い返しとくさ」


「もしも上手く打てるようになってたら……専用の道具一式やるぞ」


「頑張ります!」


「親方ノワールには優しいよな……俺には道具何てくれなかったし……」


「お前は飲み込みが遅い……その分努力してるのは認めれやらぁ……が、実力がなぁ……」


「親方ひどいっ!」



 こんな調子だが師弟仲は良好だ。あれでも兄弟子をいたく気に入っているのだ。でなければ頑固親父の親方が飲み込みの遅い兄弟子の面倒など見ない―――とは言い切れないが、注意している辺りそれなりに期待もしているのだろう。


 それに、兄弟子はああは言われているが、親方の腕が匠レベルの所為で霞むのであって、普通の鍛冶屋とでは圧倒的に技術は上だ。町を出て大きな街にでも店を出せば繁盛するだろう。それくらいに腕が良い……。


 飲み込みが良いとは言われているが、それは中身が子供ではなくおばさんだから要領よくこなしているだけであって、決して才能が有るわけではないのだ。



 


 後に兄弟子は語る……



“あいつは怒ると無表情で無視し続ける。そして目が笑ってない…”



 ―――と。無表情なのに目が笑ってないのは当たり前である。








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