異世界No.1―アテナ―28
不機嫌な魔王の側近に睨まれながらも必死にことの顛末を説明すると渋々ではあるものの何とか納得したらしい側近に内心戦々恐々のニーアです。
どうも、皆さん。側近が隠れていた貨物室からお送りしてます。
「成る程……で、何故こんな危ない役目を買って出たので? 失礼ですがあなたには何の義理も無いでしょうに」
「まぁ、確かに。だが放って置いてもまた頭を狙われたらウザイしな。早めにどうにか片をつけたかった」
「あなたも陛下に似たばっかりに……」
あれ?何か同情してもらってる? さっきまでの不機嫌な側近はどこにいった。
「それにしても……いったい何処で造られたのでしょうねあなたは……我が国で造られた魔導人形は全て管理下に………」
あぁ……やっぱり魔国って進んでるんだね。なら、この体を製作した女性もこの国出身なのかもしれない。まぁ、もうかなり昔の話みたいだし……生きてもいないだろうし、知ってる人なんていないだろう。私もその事にたいしてあまり興味も無いし。
「いえ何でもありません。あなたの心遣いに感謝を……私まで助けられました。この借りはいつか…」
「その借りとか要らないから魔王に頭を返してもらえたら……嬉しいんだけどな。」
魔王に会わなくても別にいいし。気苦労が絶えない魔王に胃薬も頭と一緒に渡しとけばいいし。
ぶっちゃけ厄介事は懲り懲り。
「いえ、是非とも城までお越しください。恩も返したいので……国をあげての歓迎を!」
「面倒だから内密に、穏便にしてくれ……それがダメならちょっと勘弁してほしい」
なーんか嫌な予感がさっきからしてるんだよね……だから早く帰りたい。
歓迎してくれるのなら嬉しいけど、馴れ合うとか後々面倒になりそうで……遠慮する。
すっかり回復したらしい側近のシアンさん(先程自己紹介は済ませた)は元気な足取りで貨物室から出ていった。
いいの?あんだけ騒がれていたのに張本人が出ていって。また上はパニックになるんじゃないの?
案の定上の船室に上がっていって乗客達に物を投げ付けられて帰ってきた……この人もしかしたら抜けてる?頭のネジとか一本ほど。
そんな訳で自分の部屋にも帰れないシアンさんの暇潰しの為にネロの居る動物様の貨物室に場所を移すのだった。
シアンさん動物好きなんだってさ。
「おおっ!なんと、立派な馬か……フム……気性も荒いな♪」
「ブフッ(#`皿´)」
「はい、どうどう……」
「ソレに主人のいうことはしっかり聞く……頭もいいな♪」
「………((((;゜Д゜)))」
「引かなくていいからねネロ」
シアンさんの動物好きは半端なく凄い事が分かった。噛みつかれても(しかも頭)かえってニコニコしている。彼、マゾなんだろうか……
魔国の側近がこんなんで大丈夫なんだろうか……まぁ、大丈夫なんだろう。うん。
あっと、ネロ…が呆れを通り越して怯えてる……うん。気持ちわかるよ。変態を目にしたときとか……その気持ち痛いほどよくわかる。
逃げる痴漢を背負い投げしたときとか頬を赤らめてたし……そのオヤジ…。あれは鳥肌もんだったね。
あぁ、キショイキショイ。昔の嫌な事思い出しちゃったよ。
痴漢とか撲滅すれば良いのに。後、迷惑な変態共も撲滅すればいいよ。マジで。
「ソレにしても……陛下の頭は何処ですか?見た限りその様な物は持ってませんよね?」
「ああ……まあ、見えたら大事になるし、隠してる」
追っ手がどうの関係なく人の生首を持ち歩いてたら……誰だってヤバく見えるって。特にこの世界の人はどうも勘違いしやすいように思うから尚更バレたらヤバイだろう。
私も人の生首をチラつかせるなんてちょっと常軌を逸してる行動はあんまりしたくないし。
それじゃなくても敵を作りやすいのだから。
(なあ、白神)
『何だ?』
(もうコイツに魔王の頭預けていいか?)
『――そうだな……コイツは魔王に忠実だろう。だがどうせ会うのだから今渡さなくとも…』
(嫌な予感がするんだよね~。嫌な予感は昔からよく当たるんだよね……無視すると必ず悪いことが起こるし)
『…………そうだな。』
何だか考えて黙りこんだ白神に若干の疑問がわいたが今は魔王の頭だ。これを予め側近に渡しておこう。
昔からよく当たるんだよね悪い予感。前それでも世も死ぬ直前の嫌な予感を無視して……親子共々死んでしまったし……もう無視してはいけないような気がするのだ。
《船内アナウンスによりあと二時間後に到着予定とのことです。この場所まで聴こえない様ですね》
(まあ、そんな作りだもんね……)
奥まった場所だもんね貨物室。人も居ないし船内アナウンスって言っても船員が言い回っているらしいし……うん、こっちまで回っては来ないだろうね。荷物しかないし。
「それにしても―――この馬は本当にお利口ですね。本来馬は神経質で臆病で船に乗ればもっとそわそわして落ち着きがないものなんですけどね……」
「少し前まで船酔いしてたけどな。」
「フン!……(-""-;)」
もしかしたら船に乗るより泳いだ方がネロにとっては楽なのかもしれない。体力あるし、泳げれば本当に泳いでいけそう……ネロってホントに何者?中の人いるとか?
「―――うーんと、でた。頭は」んたに預けるよ。俺が持ってて何かあるといけないし」
「あ、いえ、隠しているのでしょ?なら着いてからで…」
側近の遠慮は無視してウエストポーチ(収納無制限)からガラスのケース――某夢の国の美女と野獣の薔薇が入っているガラスのケースみたいなもの――を取りだし渡す。勿論中身が見えないように布で覆っている。
「いま陛下の頭よりもそのポーチが気になります」
「あぁこれはエルフ達に貰ったものなんだ。あいつ等に聞いてくれ(教えてくれるかは別だけど)」
側近は布を外して中を確めて頷く。間違いないと告げた顔は青ざめている事から彼は荒事には適してないのだろう。そんなんで側近が勤まるのか不安だか、デスクワーク派なんだろう。普通はよく知った顔がこんな頭だけになっているのを見たら吐きたくなる事はごく普通の反応だ。
ま、私も自分に似ている――そう言えば前世も紅蓮の顔も今の体も似たり寄ったりな顔をしているのは偶然か?――顔が血の気を失ってガラスケースに鎮座しているのはいい気はしない。例え赤の他人でもだ。
それにしてもよく似てる。どちらかと言えば魔王の方が朱李よりも男らしい顔付きかな。私?父さんとどっこいどっこいかな。でも今の姿の方が男に見えるかも。声も若干高めだけどちゃんと男性だってわかる声だし。父さんはどちらかと言うと中性的な声だね、少年声って奴なのかな?
まあ、無事に頭を届けたってことでいいよね。異論は認めない。
え?最後まで、魔王の頭がくっつくまでが遠足ですかそうですか。
それから無事にネロと私は船を降りて魔王の治める地に足をつけたのだった。
うん。ここまでは良いとして……何で私の体真っ二つに別れてるの?
おい、こら。側近あんたは逃げなさい。立ち向かって頭を紛失したらどうする。
それもってさっさと魔王の所に行きなって。
どうも私の嫌な予感は当たるみたいですヤッパリ。
それと私ってこの頃体を張った事多すぎない?
次回またしても急展開な予感……?




