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異世界No.1―アテナ―9

 書き貯めしていた分が終わったので投稿ペースが落ちます。ご了承下さいm(__)m

 さて、ショッキングなピンクの店主と女将さんに別れを告げ私は愛馬ネロの手綱を引きながら街の目抜通りを歩く。次の目的地は食堂も営んでいる宿屋に向かっている。小腹も空いたし、ちょうどお昼近いからね。


 私の馴染みの宿屋は「熊の手」という名前だ。何でもそこの一人で切り盛りしている女主人が引退した狩人で、初めて仕留めた獲物が熊だった……という逸話があるとか無いとか。


  私がその店にする理由は、その1、厩が完備されているからネロを安心して預けられる。その2、料理が美味しいし量も多い。その3、良心的な値段。これが一番の理由かな。安くて美味しいなんて選ばない手はないでしょ?



 さて、今日は何を食べようかなぁ。ラーメンとうどんをミックスした様なスープスパかな。それともジャガイモのオムレツが乗ったカレーかな。


 ん~~……今日はカレーな気分。よっし、カレーにしよ。



 暢気に歩いていると背後から不振な気配が……ふっ……今日も懲りずに来たか……



《後方よりスリが接近。マスターの横にも以前スリとして捕まえた者が潜んでます。》



 クラウドの忠告により私にバレたのも知らずスリは徐々に私に近づいてくる。目抜通りに馴染むため素顔を曝しているのだ、捕まえるのは簡単。私には……だけどね。コイツらこの街で幅を利かせている札付きのワルだって言うし……中々捕まえられない様だ。ま、そこまで底意地が悪いとかじゃないのだが。



 コイツらの獲物は貴族のボンボンや鼻持ちなら無い商人とかだ。後は新参者も餌食になる。元から街に暮らしている人達には手を出さない。所謂義賊ってやつだ。



 私が狙われるのも、新参者だからってのもあるけど……



「(絶対これは嫉妬だ。)」

《嫉妬ですか?》



 これから行く食堂の女主人に奴がホの字なのは周知の事実だ。それで、顔が良い常連客に嫉妬して色々と妨害してくるのだ。良い奴なんだけど……



『ほぉ。紅蓮が男に良い奴と言うとはな。ならホントにそうなのだろう。珍しいものだ。』



 白神、それじゃ私がいつも男を毛嫌いしてるみたいじゃないか……実際してるけど。



 ま、そんな憎めない奴だからこの街で捕まらないのだ。皆少なからずお世話になっていたり、助けてもらったりしているから。そこいらのゴロツキ共はソイツに束ねられているし、新参者が暴れたらソイツが打ちのめす。たまに子供に遊ばれたりしてるけど。



 さて、妨害と言っても、相手をボコボコにするとかそんな事はしない。そんなことしたら女主人に嫌われると自身が公言していた。


 そんな奴なのだが……どうにも私には恥をかかせたいのかお金をすろうとするのだ。迷惑な。


 大方、お前は金も無くて飯を食いにかたのか?とか言いたいのだろう。



 後ろの奴が動いた。



 後ろを振り向かず歩いているとズボンのポケットから財布を抜かれる。しかし、


 ガイィィィン!



 ベルトに繋いでいるミスリルチェーンが財布が盗まれることを防止する。元々このチェーンは落とし物と忘れ物防止の為につけているのだ。しかし、結構役に立った。スリってもう少し巧妙に財布からお金を抜き取るもんだと思ってた。


「うわっ!!」


「あ、財布落ちた。」



 反動で転けた奴はまるっと無視して落ちた財布を拾う。周りの人間は「なんだまたか」と直ぐに元通りに歩き出す者、「なんだスリか?」と自分の財布を心配して早足で立ち去るものと、色々だ。ここではそれだけスリが日常茶飯事なのだ。



 日常茶飯事なので誰も助けなんかしない。それに私とスリ達の攻防はある意味楽しみのひとつなのだ。この街の人にとっては。どちらが勝つか賭けをしたり、見物して楽しんでいる。楽しそうで何よりだ。ま、そのお陰で買い物の時おまけしてくれるから助かるんだけどね♪



「おい!今のスリだろ!」



 何時もならしない横やりが入った。なんだ?新参者か?お上りさんのボンボンか?正義感振りかざす勇者気取りか?


「そこのお前!今スラれたぞ!」


 やれやれ……また面倒なことに。



「逃げんな!!」


「ぐっ…無くて放せ!」


「犯罪者を放す訳無いだろ!!」



 どうやらその正義感振りかざす少年?青年?は意地でも捕まえる気だ。やれやれ……何処の田舎の山奥から来たのか……あ、それ私だわ。


 ま、その土地にはその土地のルールがある。郷に入れば郷に従えと言うように、その土地のルールに従わないとかえって大事になる。今がその典型的な場面だ。



「ちょっと。その人放してやりな。知り合いなんだ。ちょっと驚かせるのが好きな奴でね。何時も俺を驚かせるんだよ。今日のは驚いたぞ。」

《マスター…驚いたにしては表情が無表情でした》

(あれ、そう?いやぁ表情筋を動かすのって大変だなぁ~)



 これ以上大事にならない内に声をかけた。だって、横の方で野次馬に紛れて見ていた奴が…ホの字のあいつが暴れて今にもこっちに来そうになってるんですもん。部下に押さえられてまだ来れないみたいだけど……ここであいつが来たらもっと事態が悪化する。ここは阻止しないと。それに、この場所は贔屓にしている肉屋と八百屋の前だ。これ以上大事にしたら商売あがったりだ。


 死線、じゃなくて、視線であいつに「来るな」と念を押して、転けた奴には合わせろと目配せする。


「ほれ、さっさと飯屋行こうぜ。アンタも、間違いだったんだから良いだろ。じゃぁな。」


 転けた奴を起こし、正義感野郎を無視して歩き出した。転けた奴も後ろから着いてくる。そうそう、物わかりがよくて助かるよ。



 本当はスリは犯罪と思うよ。けど、この世界では、この街では容認されていて、しかも皆に慕われている。私が育った世界は違うって嫌でも気付かされたよ。


「ちょっと。ちょっと待ってくれ。」



 正義感野郎は尚も食って掛かってくる気だ。やれやれ……ここでは自分の考えは罷り通らない事に気づけ。ほれ見ろ、お前の周りの人間はお前に不振な目で見てるぞ。ここではお前の正義感はただの難癖付けるしつこい野郎としか見られないことに気付け。




『おい!ソイツは……』

《マスター!ヤツです!》



 クラウドと白神がハモりながら叫ぶ。ちょ、二人と私の頭に響くからボリューム抑えて。



「犯罪は犯罪だよ。役所に届けないと……」



 未だに後ろから声が聞こえる。なんだ二人とも……まさかゴッキーか?黒光りする平たいボディの台所の住人か?こんな真っ昼間の道端で出るなんて……何処かにごみ捨て場であるのかねぇ……



「聞いてるかい?その人をこっちに渡してくれ。」



「あ、あの……」


「今日は何を食べッかなぁ……なぁ、今日は何がオススメか知ってるか?」


「え?姐さんの店ですか?………え~と……兄貴が言うには…オムカリィがオススメだそうです。」


「あぁ、あれな。旨いよなあれ。」



「――――だから役所に引き渡すのは国民の義務……って、聞いてたの?」



「あの店は安いし美味いで二度お得だよな。」


「兄貴が言うには姐さんが居るから三度ほど美味しいらしいですよ。」


「俺は誰が居ようが美味くて安ければ文句なしだけどな。」


「うわぁ~…今の言葉にこの街の女性が泣きましたよ。」


「何でだよ。」



「ねえ、聞いてくれないか?」



 ムシムシ。無視ったら無視。サイナラ、もう会いたくないのでその辺で迷子にでもなっててよ。



 奴の舎弟?と共に裏路地に入り、正義感野郎の視界から外れた瞬間私たちは走り出した。


 ふっ。この街の構造は迷路そのもの。無闇に入ろうものなら熟練の住人がナビゲーションしない限りは出てくるのは至難の技だ。奴の縄張りでもあるし正義感野郎も無闇に入ろうとはしないだろう。



 ま、入ったなら財布の中味は寒くなるだろうさ。特に、仲間を捕まえようとしたなら奴が黙っていても他の奴らが黙ってないだろう。仲間意識はとても強いのだ。




「……ハァッ……た…助かったぁ……」


「ふぅ……たぁく、何て間の悪い。」


「す、すいません。」


「ま、何時もの事だ。人をスリの練習台にするのは慣れた。」


「でも流石兄貴の認めたお方! お見事でした。」




 キラキラしい目で見られると居たたまれない。そんな目で見ないでくれ。私は面倒で逃げたんだよ。君がどうなろうが知らんこっちゃないんだよ。




「いやぁ…本当に助かりました。まさかあのお人が居るとは……」


「………ん?あのお人?」



 あのお人って誰よ。



「さっきの人ですよ。俺を捕まえて役人に突き出そうとした……」



 ……………あぁ、あのお人って正義感野郎の事か。ん?でも何で知ってんだ?



「あの人は最近噂になってるギルドの新人なんですよ。何でも傭兵の中でも凄腕の伯父を持つとかなんとか……それに実力も他の追随を許さないほどだとか…。兄貴もこの街に来なけりゃいいなと言ってました。……結局来ちゃった見たいですけど…」



 ふーん。なるほどチートな訳か。触らぬチート主人公に何とやら。関わらないようにしよう。



『と、言うと必ずと関わることになるフラグだな。』

《難儀ですね。》



 ちっ、やっぱりそうなるか。



 奴の(手下曰く兄貴)所に帰るように言い私は食堂に向けて最短ルートを頭のなかで辿るのだった。機械ってこんなとき楽だね。





 で、やって来ました馴染みの食堂・熊の手。店の佇まいは至って普通のファンタジーの宿屋。内装は……やっぱりファンタジーの宿屋。ここらではごく普通の内装だ。とても落ち着く。


「いらっしゃい!」

「…………ちっ、」



 明るく挨拶してくる女主人と舌打ちをする。そう、奴が居た。まぁ分かってたことだけど。手下に引きずられて此処に連れてこられたのだろう。ここの女主人なら大人しくさせる事が出来るから。



「なにやってんだ!!」

「イダッ!!」



 ゴッツンと聞こえそうな物凄い音を出して殴られた奴は頭を抱えて蹲る。多分女主人は手加減しただろう。風の噂で女主人が素手で岩を砕いた……とか聴いたぞ。手加減してなかったら今頃グロい光景が広がっていただろう。



「あ、そうそう。あなたの馬、ちゃんとウチにやって来て厩の方に居るよ。お利口さんな馬だね。噂通りだ。」

「(`´)」


「……ああ、ネロちゃんと来たのか……流石俺の愛馬。」



 睨んでくる奴を無視してオムカリィ(オムレツ+カレー)を頼んでカウンター席に座る。さて、後でネロに何かおやつでも買って帰ろうかな。










 愛馬ネロは一人(一頭)で店に来ていました。路地裏に入った辺りから別行動してます。なんてお利口さんなんだ!


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