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異世界No.1―アテナ―8

 通貨について説明をしていますが結構雑に考えています。今後出てくるかは分かりません。あまり気にしないでください。




 戸棚にしまっていた饅頭だけでは足りないのか、自分のウエストポーチから餡まんを取りだしかぶり付く嫁さん。


「よく食べるよね。晩ご飯入るの?」

「余裕で入る。」



 余裕だと断言する藍苺。しかし、確かにいつも残さず食べるのだ。今夜も残さず食べるだろう。しかし、これだけ食べて晩ご飯も私より食べるのは……やはり前衛と後衛の違いだろうか……それとも、日頃の運動量の違いか? 燃費の違いか?



 まあ、どちらにしても私より食べるのは食い意地もあるのだろうと結論を出した。



「それにしても、神様がまどろっこしい言い方するのは決まりだったのか……面倒だな。」

「簡単なことでも難しく言うから頭こんがらがるよ……」



 少し大きめに作ってある餡まんにかぶり付きながらうんうんと頷く。嫁さんは基本口に食べ物を入れているときは喋らない。たまに喋るけど、大体は行儀悪いので喋らない様にしているらしい。


「モグモグ……ゴクッ…ほら、続き」

「ハイハイ」




 口一杯に食べながら話の続きを最速する嫁さんを微笑ましく見ながら続きを語りだした……














 メリル家から飛び出し森に入ってから5ヶ月経った。


 えぇ、あれから5ヶ月経ちましたよ。あれから色々あり、今は森の奥深くに家を建てて狩りや野菜を育てながら生活している。


 うん、色々あったよ。あの後寝床にする大きな木を探して森の奥深くまで入ったり、そこでモンスターと遭遇して初エンカウントして慌てて右ストレートかましたら怖そうな熊型モンスターを一発KOしたり。そのモンスターに追いかけられていたらしい(小さすぎて見えなかった)ドワーフ……ドワーフ居たよ、ファンタジーの常連さんのドワーフ……おっと、話がずれた。


 その図らずも助けた事になったドワーフに恩返ししたいとせがまれ「寝床が欲しい」と、どうしてこんな森深くに来たのか訳を話した。私自身どうしてこうも深くまで来たのか改めて考えるもわからなかった。別に深くまで来なくても良くね?と後から何度思ったか……



 理由を話すとドワーフは走り出して何処かに行ってしまったので逃げたのかと思い寝床の木探しを再開した。


 が、モンスターとエンカウントするわするわ……さっさとそこら辺の木に登って寝てしまおうと適当に選んだ木の枝で眠った。最初からそうすれば良かったよ。


 朝になり目を覚ますと……ドアップのドワーフがじぃーと見つめていた。あまりにも驚くとリアクション出来ずに固まることってあるでしょ?私も固まって動けなかった。ま、そのお陰か木から落ちずに済んだけど。


 てか、君は木登り得意なのね……。


 実はそのドワーフ、逃げたのではなく仲間を呼びに言って恩返しに家を建てていたらしい。一晩で作ってしまうなんて……耐震強度大丈夫かと聞くと……


「(`ヘ´)b」(グッ!)


「(・・;)」


 どうもドワーフって無口らしい。私があった彼が特別無口なのか謎だけどね。怒っているわけではないらしいが不機嫌に見える。


 その彼が問題ないと大言するので大丈夫だろう。自尊満々で何度も頷いている。


 ドワーフの彼についていくと……家が建ってた木と融合しかけている結構大きめの家が。


「!Σ( ̄□ ̄;)」


「(`ヘ´)bb」



 どうだスゴいだろうと言いたいようで両手でグゥ!としてた……。いつの間にか出てきた大勢で……


 君喋れるだろ?恩返し云々の時普通に喋ってただろ? どうしたよ。それにどうやって建てたよこの家!?


 皆で建てたにしては早すぎるだろ……ファンタジーだから普通なの?








 とまぁ……そんなことがありまして、寝床というか家を手に入れました。家の外見は大きな大木に浸食されつつある赤い屋根の結構デカイ家だ。見た目もファンタジーだよね。こういう家って憧れてはいたけど、家を木に潰されないかちょっと心配になる。


 ドワーフの彼ら曰く200人乗ってもいいらしい……どこぞの物置ですか?それ。





「………と、そんなこと考えてる暇なかった!洗濯物干さなきゃ。」


 そんな私はもらった家に住みながら周りのモンスターを狩って街に売っている。勿論そんなに数は狩らない。森に影響がでない様に配慮している。



「うしっ!終わり。」



 実は、この森かなりの高難易度のモンスターがウヨウヨいる所謂ラスボス手前に訪れる森らしく人間の来客は少ない。いや、人間の来客は全く無い。大半が迷い混んだモンスターか動物、残りはドワーフとエルフ位だ。


 そうそうこの森、エルフも住んでいるのだ。


 人間嫌いのイメージに漏れず、この世界のエルフ達も人間が嫌いなそうで、初めの内は襲撃紛いの訪問を受けたよ。ま、私が生き物ではなく紛い物の魔導人形と何か納得していった。仲は良くないが邪険にされないから良しとする。でも魔導人形ってなんだろ。あれか?魔力で動く機械の事?




「ふぅ……今日はなめした毛皮と狩ったモンスターを売りにいく日か……さっさと行かないと。」

《当初の予定より30分オーバーしています。》

(ハイハイ、分かってますよ。)



 この通りクラウドに急かされ外出の仕度をする。真っ黒に色を変えた髪を密編みにして、鏡で変なところがないかチェックする。余談だけど私は黒髪に憧れていたのだ、ちょっとテンションが上がる。


 さっさとチェックを終えて銃が入ったホルスターを二丁服で見えない様に両脇に装備する。


 私はこのところ弓矢を使うのでお守り変わりに装備する以外に使わないのだ。燃費も悪いし。


 マガジンは街でしか調達出来ない。矢はエルフ達から買うことが出来る。それも街で買うよりも上質で安いので弓矢を必然的に使うようになっていた。火薬の臭いも気にならないしサプレッサーも不要だしね。


 矢を入れる矢筒を肩に背負う。実はこれ腰に掛ける事も出来て、いちいち腕を上に上げずとも矢が取れるのだ。見た目も筒ではなくヘラべったい。筒というよりは籠に近いな。何かの矢鱈丈夫な植物で編んでいる……これもエルフから物々交換で貰いました。菜食主義なエルフ達は木の実をかなりの頻度でトレードしている。


(エルフ様様だよね。感じ悪いけど。)


 いつも睨んで来るのでそれだけは馴れない。エルフ達はその美貌の所為で狙われる為に集落を森の中に作る。その為滅多に外に出ない。昔はそうでもなかったらしいが、ここ100年前辺りから捕まるエルフが増えてこうして隠れて暮らすようになってしまった。人間嫌いはそこから来るのだろう。


 もっとも、エルフは騒がしいのを嫌うのでそうでなくとも外に出ないけどね。


 そのエルフから貰った(交換した)緑のマントを羽織る。このマントは何でか押し付けられた。何でも隠れようと思って被ると姿を消せるらしい。


 ファンタジーだね。ホントに。



 もう、科学とか要らなくね? 私は科学の粋を集めた様な物何だけどね~。私はなんなんだろ。



 弓も……はい、エルフ製ですよ。でも、これは何故か木で作られた物ではなく、金属製の折り畳めるコンポジットボウって代物で、普通の人間では持つのもやっと、弓を引くのはもっと不可能……何で腕力が人並みのエルフが持ってるの?


 聞くと、ドワーフから作り方を聞いたので作ってみたら自分達では使えなくて倉庫で埃を被っていた……所詮は在庫処分に貰ったものだ。


 けど、重宝してます。ありがたいです。




 さて、ウエストポーチを腰に着けて、折り畳んだ弓を腰に装備し、出掛ける準備完了。


 戸締まりを確認して鍵をかける。誰も泥棒になんて入らないだろうけど、つい癖でしている。




 街につくまで約2時間かかる。

 


 だが、私が本気で走り抜けば半分程……が、そんなところを見られたらロボとバレるので馬で生きます。


 家の裏手にはご丁寧にも厩まで完備している。ドワーフの彼らは凝り性で作り出すと何でも揃えたくなるとか……




「ま、それでこっちは助かってるから良いか。」



 ドワーフも見た目はファンタジーでお馴染みの姿と大差ない。



「街に行くよ~ネロ」


「………♪」



 我が家の厩に唯一いるこの子はネロ。黒の綺麗な毛並みの牡馬だ。推定2歳。馬系のモンスターで心臓が丈夫でその上二個もある歴としたモンスターだ。見た目と気性はちょっと気が荒い馬にしか見えない。


 この子は街で売られていたのを一目惚れ(可愛い動物として)して衝動買いしてしまったのだ。何か目がジンに似ていたとか……うん。性格もそっくりだったよ。


「ニンジン嫌いで甘いものが好きなのも……そっくり。」

「………?」



 想像してみてくれ、真っ黒の毛並みに真っ黒の目で首を傾げる馬……可愛いでしょ(確定)!!



 それに食い意地もはってて……ホントに本人じゃないかと思うほど似ているんだよ。


(ホントに……会いたいなぁ……)


 体も大きいネロは成人並みの私も軽々と乗せて全力疾走してもバテない程パワーとスタミナが半端ない。ちょっと買いすぎた時も無理させたと思ったらけろっとていた……この子ホントに図太い……チートか?



 ネロに鞍を着けて荷物も括り付け準備万端。馬銜はみを噛ませ手綱を引き厩を出てから跨がる。このネロの背中の上から見る景色はとても高く高所恐怖の人にはお勧めできない。私は結構好きだけど。


「ハッ!」


「……!!!」



 小さめに嘶いて走り出す。この子はあまり鳴かない。どうも無口なのだ。最初の早足から徐々にスピードを上げて疾走する。この疾走感は結構癖になる。けれど、下手をすると振り落とされるので確り内腿で体を固定して乗らなければいけない。だがそこは高性能アンドロイド。抜かりはない。体が勝手に玄人顔負けの乗馬テクを知っている。予めプログラムされているのだ。


 しかし、まだこの体に馴れない私は気を抜くと……転ぶのだ。冗談じゃなく、割りと本気で。初めての狩りも転ける転ける……頭から岩にぶつかり岩を真っ二つにしたよ。ハハハハ……(涙)


 ロボだからね、血は出なかった。けど、日頃は痛覚を遮断してないから死ぬほど痛かった。


 今、ネロに乗ってる時に落馬しようものなら、死なないにしても壮絶な痛みで……絶対嫌だ。私は痛いのは嫌いだ。お産よりも痛くはないが……痛みの種類が違う。絶対に落馬はしない。フリじゃないぞ!




「ネロ」


「フッ!」


 ネロの首筋を2回軽めに叩く。すると心得たと鼻息で返事をした。頭の良いネロはその合図をちゃんと理解して従ってくれる。2回軽めに叩くのは「自分のペースで走って良いよ」という合図。道順も分かっているのでネロの楽なペースで走らせるのだ。別に急いでいないし、その方が疲れないだろう。



 森のはかなりの広さだが、ドワーフ達は作った家の前まで道まで作ってくれた。とはいえ、道と言っても砂利もタイルも敷いていない土の道ではあるが、森では馬が通れるほどの道は他にはなく、結構重宝する。一晩で作ったにしては至れり尽くせりなので不満はない。


 雨が降るとゲジャゲジャのドロドロになるのだけはいただけないけど。


 余談だけど、狩りの教えはエルフとドワーフ両方に教えてもらった。ドワーフは正面からのガチンコな狩りだけどエルフは隠密行動を伝授してくれた。ドワーフ達は比較的好意的で無口ながら何度も一緒に狩りに行った。それに比べてエルフ達は仕方ないと割り切って狩りに同行していた。借があるからね。エルフ達には。



 何せ、彼らの代わりにモンスターを狩っているんだから。




 さて、乗馬に専念しましょうかね。


 乗馬ってのはダイエットにいいと言うが、そんな生易しいものではない。腰は痛いわ尻は……これ絶対生身だったら皮剥けてるよ。初日は酷かった。


 やっぱり高性能でも中身が平凡だと意味がないと改めて分かった。









「やっぱり遠い……」


「フンッ」



 なら何であんな辺鄙な所に住んでんだよとネロが鼻で呆れた様に返事をした。


 あれから約1時間。漸く街に着きました。乗っているとき神経を張り巡らしていたおかげで精神的に疲れた……甘いものが食べたい。……あれ、藍苺の性格が移ったか?


 ああぁ……会いたい……




「ブルルッ!」


「ああ…ごめん。早く街に入ろうか。」



 この辺で一番大きな街、アプリコット。その昔、杏栽培で大きくなった街で今でも果物や野菜、物資の流通拠点になっているとか。


 街の周りも畑や果樹園が立ち並びその季節毎に色々な作物が採れる。美食家にも人気の街だ。海にも近いため、魚もある辺り成る程と頷ける。


 因みに海は高台に上がれば直ぐに見える程近い。



 大きな街には勿論厳重な見張りと城壁がある。この街も例に漏れず堅牢な城壁を構えている。


 私は今その城壁に四つある内の南門に来ている。門は東西南北にそれぞれあり、厳重な見張りを置き通行者を監視している。とはいえ、それほど陰険な見張りではない。


「やぁ、ニーアさん。今日は大量みたいだね。」


「どーも。そうなんだよ。ここ最近モンスターが活発でねぇ……繁殖期かな?」


「お偉いさん方もそんなこと言ってたなぁ……ま、気を付けてくれ。」


「ああ。あんたらも気を付けてくれよ。なんせ、街の門番なんだからな。」


「ははは……違いねぇ。」



 ほれ、この通り。なんかフレンドリー過ぎで大丈夫かと心配に成る程だろ? けど安心して、彼らは三日前に商人に化けた盗賊を捕まえたのだ。彼らの目はちゃんと機能してるよ……何で私には効かないのか……敵意が無いからか?



 ま、それはいいとして。



 先ずは毛皮とモンスターの素材を売らないと。



「おう!ニーア! どうだ今日の成果は?


「まだ売ってないから何とも言えねぇよ。」


「あら、ニーアちゃん。後で寄ってきな。野菜おまけしとくから♪」


「旦那に愚痴られるぞ、サービスし過ぎってな。」


「いいんだよ。どうせそこいらの若い子にちょっかい出してンだから。」


「ははは……見つけたら言っとくよ。」



 ここの街の住人は皆気さくだ。それはネロとのエピソードが関係しているのだ。



 この黒の綺麗な毛並みのネロは始めは普通の馬だと思われていたらしく、かなりの暴れ馬で誰も手をつけてなかった。そこにネロの目に藍苺の面影を見た私が近付いて手懐けたのを見て信用したらしい。


 何でも、昔ッから農業が盛んなこの土地には昔から「暴れ馬に認められたものは清らかな心の持ち主」何て言う言い伝えがあるもんで……早くも受け入れられた。そんなんで良いのか?


 まぁ、馬ってかなり頭が良いから一概にも違うとは言い切れないけど……私が心の清らかな……ってのは正直違うと思う。


 ま、それはそれとして。声を掛けられながらもお目当ての店に着いた。店の名前は剥ぎ取り屋……何ともな名前だが、分かりやすい名前だと思う。


 この店は名前の通りモンスターから剥ぎ取った素材を買い取ってくれる店だ。他にもその手の店はあるのだが……この店はきちんとしたレートで買い取ってくれるのでここの常連だ。店主は変人だけど。



(あのキャラじゃなけりゃ……)

《あの店主は特別異彩を放ってますからね…



 クラウドまで呆れるのだ。余程だろう。



 店前にある柵にネロの手綱を結ぶ。余談だが、馬は馬番に預けるのが普通だが、人見知り体質のネロはこうして店のまえで待っている方が大人しいのだ。盗難の心配もその点問題ない。不用意に悪意をもって近付けば手痛い仕打ちを受けることになる。たまに子供が興味本意で触れたりもするが、そこは頭のいいネロ、ちゃんと善悪を理解して大人しくしている。いたずらっ子には驚かして退散させる。ホントに頭いいな。


 待ってろよの意味を込めて首筋を撫でると早く行けとばかりに前足で土を掻いた。



 そんなネロから離れ店に入ると、案の定キャラが濃い変人店主が出迎えた……SAN値がガガガガッ



「いらっしゃーい♡」


「……もう少し色を抑えたら?目に痛い。」



 目の前にはドピンク、ショッキングなピンクと似合わないオヤジ顔が見たくないコラボをかましていた。見たくないコラボだ。


「んもぉ~ニーアちゃんは素直じゃないんだから♡」


「本気で言ってるんだけど……まぁ、今日はさっさと買い出ししたいから構ってる暇ないんだよ。さっさと換金してくんねぇか?」



 本気で言ってるんだけど彼?は鈍いのかはたまた気にしてないのか、始終クネクネして私のイライラが上がりそうだ。



「あらぁ~ん……グレートボアの毛皮は今需要が高いのよん♪ それに何時もお世話になってるニーアちゃんにはサービスしとくわネ♡」


「なら買い取り倍にして。勿論額が。」



 この世界で弱さは見せない。遠慮もしない。するだけ損だ。日本人の美徳なんて役に立たない。遠慮するだけ損をする。



「んもぉ~ニーアちゃんてば♪ お得意様だから特別よん♪」


「ドーモ」



 そして気があるような言動はしないこと。勘違いで襲われることが多々ある世界だ。何度襲われそうになってぶっ飛ばしたことか……手加減が面倒だったよ。ハハハハ……



「所で……聞いた?このご時世で英雄を名乗り出た輩が居るそうよ……何でも、周りの人々をタラシ込む名人何ですって~コワーイ……ニーアちゃんも気を付けてね。つい、イラッとして殴ったりしないようにね?



 ここの店の店主は私の性格を把握している。流石何年もこの街の狩人や傭兵と渡り合ってきたお人だ。この一見オカマ……オネェ系オヤジは傭兵としても昔は凄腕で名が通っていたとか。


 失礼だが、その時はこの様な姿をしていなかったようで、羨望の眼差しを向けられていたと八百屋のオバチャンから聞いた。ドウシテコウナッタ!


 ま、そんな視線が鬱陶しくなったからとか、奥さんの化粧道具をイタズラしたらオネェに目覚めたとか……色々噂はあるけど、どれも定かではない。


 てか、結婚してることに私は今でも驚いている。心は女でも好きになるのは女性なのか?それとも女装癖があるだけなのか……さっぱり分からない。




「ちょっとアンタ!客が愛想尽かすからその姿で店に立つんじゃないよっ!」


「女将さんどうも。」


「ヒッドーイ。私の何がいけないっての!?」

「その格好自体が全部ダメ。」

「いやーん泣いちゃうわよ~…」




 もう一度店主の外見をお復習しよう。


 まず、頭はショッキングなピンクの刈り上げ坊主、元の色は黒らしい。体格は元の傭兵なためとてもガッチリした長身、今でも熊なら素手で倒せるとか何とか……。顔はオヤジ服装はこれまたショッキングなピンクの矢鱈胸元の空いた……もう説明したくないんだけど。口髭がトレードマークらしい……。言葉使いは変に伸ばす。


 もう、怪物で良くね?



「その格好だと客が気味悪がって逃げるよ。どうすんだい。おまんまの食い上げだよ!」

「そんなこと言ってもぉ~……ニーアちゃんは普通よ?ね?」


「……ここはレートがちゃんしてるからね。」


「それがなかったら?」


「来たくはないね。」


「ほら見な!!どうすんだい!?」

「えぇ~~……しくしくぅ~」




 クネクネしながら泣き真似している店主を無視して女将が現金を渡してきた。今日の収穫はまあまあの金貨5枚。平均月収が銀貨20枚のこの世界で結構な高収入だ。


 この世界の通貨は鉄銭、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、精霊銀貨、精霊金貨がある。


 鉄銭10枚で銅貨1枚、銅貨50枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚……と順にランクアップしていく。精霊銀貨は金貨50枚、精霊金貨は金貨100枚分相当とちょっと普通の王道ファンタジーとは違う。


 詳しく説明すると精霊銀貨と精霊金貨は滅多に市場にはでない。何でも精霊がくれるとか、貴族が独占してるとか……まぁ、庶民には到底手が届かないってのが流通しない理由だね。精霊銀貨と精霊金貨は通貨としても使えるけど素材としても使えるとか……そこはよく分からない。


 ちなみに、鉄銭5枚でお茶が飲める。鉄銭10枚で普通に食事ができる額だ。量は少ないけど。私が外食する場合は銅貨三枚分食べる。勿論毎日なんて勿体なくて出来ない。金貨5枚がどれだけ高いか分かった?



 ちなみに、貴族や富豪並みの食事は一回分だけ少なくとも銀貨10枚……いったい何が高いのかよく分からない程ぶんどられる。



「ったく……娘に嫌われたからってそんな格好をするなんて……ホントにどうしてそうなったんだい。」



 女将さんが呆れてため息をついている。そりゃそうだろう。旦那が突然女装癖に目覚めてケバい色の髪に染めるなんて……化粧してもう少しマトモに見れる成りになってほしいよね。


 え?違う? 私は嫁さん……えっとジンが女装癖に目覚めても視覚的に痛くなかったら別に構わないけど……それで浮気したら絞めるけど。


 そうそう、別に店主が嫌いって訳じゃないよ。だってこの女装癖は男嫌いの娘に嫌われない様にって配慮だからね……かえって嫌われそうな気もするけど……そんな一生懸命なオヤジは嫌いにはなれない……あの見た目は容認できないけど。


 娘に嫌われない様に努力する悩める父親の店主の事を理解しているから女将さんも見捨てず注意するにとどめているんだ。ま、それで客が減ったら世話無いんだけどね。


 店主と女将さんの娘は極度の男性恐怖症だ。理由は……昔小さい頃身代金目的で誘拐されかけたのか理由らしい。何処の世界でも狙われるのは小さい子だもなのだ。全く、いくら金に困っても子供に手を出すなんて人としてどうかと思うよ。



 女将さんの呆れた声と店主の嘘泣きをBGMをバックに店を出る。気を付けないとね、こんな換金したての客はよく狙われるからね……スリとかに。


 丈夫なミスリルチェーンをこれまた丈夫なベルトに繋いだ財布に換金した金貨を……入れない。首にかけた小さめの巾着に金貨を入れて服の下に隠す。私の胸元に手を突っ込む様な輩には……地獄の急所蹴りが待っている。


 来れるもんなら来てみろスリ共よ。激痛が待ってるぞ♪



 ニヤリと笑っているだろう自分の顔はさぞかし恐ろしげだっただろう。手綱を取って歩き出した私にネロは呆れた目を向けていた。






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