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庶務の僕にできること  作者: 師部匠
プロローグ
5/8

はなの下

「これからどうする?」

「探すしかないでしょ」

「でもさ、もう探せるところは全部探したと思う」

 中庭にある時計塔の前で僕たちはこれからのことを話し合う。時刻は正午を軽く回り、おやつのティータイムに差し掛かろうとするぐらいになっていた。何故そんなに時間が過ぎているかというと、答えは簡単である。僕たちは広い学園の花を全て引っこ抜いた。全てと言っても僕たちが見つけた花壇だけだから見落としがあるかもしれないけど。ひたすら花を引っこ抜きお腹が減り始めた時、薄々とだが鍵は見つからないことを感じていた。

 彼女は鍵が見つからない苛立ちを隠そうともせず言う。

「だからってこのまま鍵を見つけないまま終われないでしょ!」

「そうだけどさ……」

 学園の花をこれだけ探しても鍵はみつからなかった。

 だとしたら鍵はどこにあるのだろう。

 手紙で鍵の在りかがわからないようなアンフェアな謎なのか?

 いや、そんなことなら初めから手紙など出さないだろう。手紙の内容から鍵の場所までたどり着けるようになってるはずだ。なら、

「もう一度手紙の内容を考えよう」

「え? だって鍵は花の下にあるって書いてあったじゃない」

 僕の提案に彼女は首をかしげながら答えた。

 手紙にはなんて書いてあった?

 僕は手紙を取り出し、見て、気付く。

 そうか……。最初から間違ってたんだ。

 僕の表情がおかしくなったことに気付いたのか彼女が言った。

「どうしたの?」 

「うん、手紙を見てごらん。手紙では[はなの下]と、[はな]はひらがなで書かれてる。僕たちはそれを植物の[花]と決めつけていたけど、ここまで見つからないとなるとそうじゃないのかもしれない」

 彼女も手紙を取り出し、「あっ」と声を上げた。僕はさらに、

「しかも、手紙にはわざわざ[]をつけて[はなの下]と書いてある。鍵の場所は[はなの下]であることは間違いないはずだよ。でも、[花]ではないんだ。なにか他の[はな]なんだ」

「他の[はな]って言うと、[鼻]しかわからないよ」

 彼女は自分の鼻を指さしながら言った。

「そうだね。それぐらいしか思いつかないよ」

 鼻の下か。鼻の下をのばすというけど、関係ないだろうな。そうなると、

「鼻の下にあるのは口じゃないかな」

 安易かもしれないけど鼻の下にあるのは口だ。唇の可能性もあるけど、口に含んでもいいだろう。

「口に鍵があるって言うの?」

「まあ、そうなるかな」

「どういうこと、意味分かんないよ」

 確かに意味がわからない。口というのも何か別のものを表しているんじゃないだろうか。だとしたら、それは何を表してる? 

 口、くち、クチ、英語でマウス。マウス、ネズミなどと色々なことを考えても一向に答えにたどりつける気がしない。

「口ってなんだろうね。学園にあるものなのかな」

 彼女は首を左に傾げながら言った。こういう仕草は子供っぽいんだな。最初は怒りっぽい性格なのかと思ったけどそうじゃないのかも。多分、すごい素直な子なんだけどそう思われるのが嫌なのかな。

 まあ、今は関係ないか。

 とりあえず考えをまとめよう。

 [はなの下]の[はな]が[鼻]であるとして、鼻の下は口になる。[口]に鍵ある。それは学園にあるはずだ。それは……、考え、気付いた。自分の出した答えを整理したくて彼女に聞いた。

「学園にある[口]って何だと思う?」

「わかんないから考えてるんじゃない」

 彼女は僕の顔を見つつそう言い、「何かわかったの?」と言った。

 顔に出てしまったんだろうか。

「合ってるかなんてわからないけど、こじつけることはできたよ」

「こじつける? 言ってみなさいよ、聞いてあげるから」

 試すような表情で彼女は言った。

 これで、もし鍵が見つからなかったら結構恥ずかしいな。だけど、花の下を探して見つからなかったんだから、最初に花を探してた彼女の間違いでチャラになるかな。

「口って言っても色々な口があるだろ。最初は顔にある口しか思いつかなかったけど、それ以外の口も考えれば山ほどある。例えば入口、出口とかさ」

「そんなとこにあるわけないでしょ! 学園の入り口は校門だし、出口は裏門になるかもしれないけど、それじゃあなんでもありになっちゃう」

 呆れたように彼女は言い、顔をしかめた。

 確かに彼女の言うとおりこのままじゃ何でもありになってしまう。けれど、僕の考えが正しければまず間違いなく答えは一つに絞られるはずだ。

「この学園に[口]と付く場所は多分一つしかない」

 僕はそう言うと生徒手帳を取り出した。生徒手帳にしては分厚いものをぱらぱらとめくり目当ての場所を探す。なんでこんなに分厚いんだ、嫌がらせだろ! 生徒手帳には長ったらしく生徒会規約なるものがずらっと並んでいたが、そんなものは無視する。

 目当てのページは時間をそうかけずに見つけることができた。

 この学園は在籍生徒数に比べ大きな敷地であるため、慎重に、見落としがないよう探す。「何やってるのよ……、こら! 私を無視するな!」と彼女は騒いでいたが、どうせすぐに話すことになるから聞こえないふりをする。

 生徒手帳に書かれたものを見て僕は確信した。

 やっぱりそうだ。間違いない。鍵はここにある! ……はずだ。

「おい! ふざけるな! 私を無視していいと思ってるのか、こんちくしょー!」

 漫画だったら彼女の背後にぷんすかという擬音が書かれてそうだなあと思いつつ僕は[はなの下]の答えを言った。

「昇降口。そこに鍵はあるはずだ」


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