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庶務の僕にできること  作者: 師部匠
プロローグ
2/8

入学式

 私立桜ヶ丘学園。この学園を一言で表すと「奇妙」である。なにが奇妙なのかというと、この学園に入るために必ずしも学力が必要ではないということだろう。といってもある程度の学力は必要であるが。全国模試で上位の成績を取った生徒が受験して落ち、平凡な成績の生徒が合格するという話はよく聞く。生徒総数は少なく一学年で百名に達しない時もあるそうだ。そのように生徒数が少なくて経営が成り立つのかと思うだろうがこの学園に授業料は必要なく無料で通うことができる。そのための生徒数の少なさである。何故、授業料が不要なのかというと桜ヶ丘学園は初代理事長の趣味で始まり、卒業生の援助で成り立っているからだ。初代理事長である桜ヶ丘秀一は日本有数の資産家であり事業家だった。金銭的な余裕もあり日本の未来を考えた桜ヶ丘秀一は桜ヶ丘学園を設立した。学園の卒業生は非常に優秀であり、日本を背負うにふさわしい人物を数多く輩出し、在学中に学園から受けた恩を卒業してから返すようになった。学園の運営はすべて卒業生の寄付金から成り立ち、今日に至る。全寮制であり、イベントの多い学園でも知られている。これから毎日生活を送る校舎を眺め、学園の特徴を思い出していた。

「それにしてもよく合格できたよなあ」

 思わず声が漏れた。

 僕の中学校での成績は中の上であり偏差値は六十五であった。この学園の偏差値は七十で到底合格できるとは思ってなかったが何の因果か合格してしまった。

 やっぱり面接が決め手だったのかなと思いつつ、配属された一年一組を目指すことにした。




 幸い迷わず教室に着くことができ、指定されている席に座る。周りも初登校で緊張しているのか話をするわけでもなく先生が来るのを待っていた。

「入学おめでとう! 早速だが講堂で入学式が行われるのは九時ジャストだ。遅刻しないように」

 先生がドアを開けるなりそう言った。教室の時計を見ると八時五十分だ。周りの生徒が教室から出て体育館に向かう流れに逆らわないよう僕も体育館に向かうことにした。

 講堂に入り先生に言われるままに席に座り入学式が始まるのを待つことになった。

 講堂の広さはそれほどでもなかったが、一年生百三名が入るには十分なようだ。内装はありふれたものとは違い、ゴシック調の装飾がなされ、そんな装飾を眺めていると、おかしなことに気付いた。時計の時刻が八時三十分、先程教室の時計を見た時は八時五十分だったのでどちらかの時計は間違っていることになる。腕時計や携帯電話で確認しようにも桜ヶ丘学園は装飾品や携帯電話などといったものの持ち込みを禁止している。流石に初日から校則違反をすることはできないので時間の確認をすることはできなかった。

 そんなことを考えていると講堂に凛とした声が響いた。

「新入生諸君、入学おめでとう! 私は生徒会会長の天使志乃だ。桜ヶ丘学園に在籍することになった諸君に私や教師から言うことは一つだけだ。楽しみたまえ。以上だ」

 そう告げると生徒会長はステージ上から颯爽と姿を消してしまった。

「入学式はこれで終わりです。新入生は自分のクラスに戻ってください」

 え? これで終わりなのか?

「はい。皆さんクラスに戻ってくださーい」

 先生がクラスに戻れと言ってるのを聞く限りどうやら本当らしい。周りの生徒も戸惑いを隠せないようでざわついていたが、それも少しの間で皆教室に戻るようだった。

 当然僕も教室に戻ることにした。




「今日はこれで終わりですので帰るなり学園を散策するなり自由にしていいですよ」

教室に着いた途端先生は言った。

 クラスメイト達は口々にこれから学園を見て回ろうだの、遊びに行こうだのと言って打ち解けようとしている。僕にも話しかけてくれる人はいたが、僕はどうしても先程の時間の矛盾が気になっていた。なぜなら教室の時計の時刻は八時五十分のままだったからだ。時計の針は動いているようだし壊れてはいないのだろう。なら、なんで時刻にずれが生じているんだ?

 誰かが意図的にずらしたとしか思えない。でも、なんで時刻をずらす必要があるのだろう?

 先生は入学式が九時ジャストに行われると言った。しかし、講堂の時計では八時三十分に入学式は始まった。先生がわざわざ九時ジャストに始まると言った入学式が八時三十分に始まるのはおかしくないだろうか? 

 教室の時計の時刻は八時五十二分だ。今から講堂に向かえば丁度九時ごろに着くだろう。

 僕は講堂に向かうことにした。

 なんとなくだが、何かが起こると思い込んでいたんだ。

 そして、その思い込みは正しかった。


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