9話 古書
リーアとの決闘でこのままでは負けてしまう。そう思ったアデルは切り札のスキル、オーバードライブを使った。しかし、使い慣れてないのか過剰運用でアデルは負けてしまった。
目覚めた時には医務室のベットに横たわっていた。隣にはいつも面倒を見てくれるバレッサ先生ではなかった。そこには銀髪でスラッとした体格の決闘相手リーアだった。薄緑のカーテンを背にして彼女は椅子に座っていた。
「目が覚めたのね、良かった。」目を開けていることに気づいた彼女は、僕の顔色を窺っていた。
「銀髪、なんでここに?バレッサ先生は?」その問いに彼女はまた機嫌を悪くされたようだ。
「バレッサ先生は国院に手伝いに行ってるところよ。それと私の髪はブロンド!いい?」銀髪はリーアの僕しか呼ばない愛称だ。毎度こうやってツッコまれている。
「あなた決闘終了後に倒れたのよ。まあ元から倒れていたのだけれど、氷を解いた瞬間吐血してみんな焦ったんだから。ここにはトウヤ君が運んでくれたのよ。」思い出した。歓声が上がる中、オーバードライブの反動が本格的に体を襲って気絶したんだ。
「どのくらい寝てた?」まだハキハキとした声は出せないが、振り絞った声はリーアには伝わったようだ。
「2時間ほどよ。アリーナで私が神聖力を少し分け与えて応急処置したから。」時計の針は三時を過ぎたあたりを示している。
「でも本当にすごいのはバレッサ先生よ。あなたを見るなり一瞬で治療してくれた。あれを見せられたら各国がロザリア嬢を欲しがるのも頷けるわ。」ある意味僕の体は知り尽くしてるだろうし、治療が一瞬だったのはそれだと心の中で思っていた。
「その、悪かったわ。まさか神聖力を使い切りほど全力でかかってくるとは思わなかったから、最後の攻撃で加減ができていなかったかも。」彼女なりの謝罪なのだろう。口調や顔色から申し訳なさが伝わってくる。
「気にしないでくれ、あれは僕の実力不足だ。無茶してスキルを使った反動だよ。」そう、実戦だったら負けていた。もっと強くならなければ。あいつらには、妹を殺した奴らには勝てない。
「アデル聞いてる?」考え事をしていてリーアの質問が耳に入ってこなかった。
「ごめん、ほおけてた。」僕は慌てて気づき、聞き返した。
「だから、黒い煙が展開された後のあなたの人並みはずれた速さと力は何かって聞いてるのよ。」オーバードライブのことをいっているのだろうか。だとしたら言えない。そう師匠と約束したから。
「神速だよ。手印術師なのに使うところがあまりなくて黙ってたけど。」とりあえず適当なこと言ってやり過ごそう。これなら納得するだろうし。
「嘘ね。目がそう言ってる。それに力は神速では上げられないわ。」驚いた。まさかバレるなんて思わなかった。どう言い訳しよう。
「それならそっちこそ俺が攻撃しても5歩手前で来る方向が分かったのはなんでだ?先にそっちのスキルを明かせ。」少々強引だがこれで乗り切れるか。
「私のは、反射神経よ。スキルじゃなわ。」なぜ少し下を向いてそんな落ち込んだような表情をするんだ?でもこれはこれで言い訳できる。
「なら言わない。それにスキルは公開しないのが鉄則だろ。」リーアは少々考え納得したような表情をした。
「分かったわ。それに私としてはファーゼン先生の授業を真面目に受けてくれた方が良いし。」僕は決闘の趣旨を忘れていたため思わず天を仰いだ。
「じゃあね。約束破るんじゃないわよ。」そう言い残してリーアは先に出ていった。しばらくしないうちに、持っている資料を見ながら眼鏡を付けたバレッサ先生が入ってきた。
「あら、元気になったのね。」忙しいのか、ゆとりがあるのか曖昧な人だ。
「治療ありがとうございました。まだ体は重いですが、授業に参加してきます。」僕はバレッサ先生のところまで歩きながらお礼を言った。
「もう行くの?もう少し休んでいったら?」椅子に座り眼鏡を外した先生は視線をこちらに向け、心配そうな顔をしていた。
「ファーゼン先生の授業を真面目に受けるって約束しましたから。」そう言って僕は扉の方へと向かった。
「そう。ならちゃんと体に気をつけるのよ色男。」バレッサ先生の発言で、僕は室内から出ようとする足を止めた。
「僕の容姿のどこが色男なんですか?」ろくな理由ではないだろうと思いつつ聞いてみた。「学校一の才貌両全である彼女にお姫様抱っこで運ばれてきた男を色男と呼ばずしてなんとするのよ。」確かリーアの話ではトウヤに運ばれたんじゃなかったか。ふとリーアに運ばれている自身の姿を想像し頬が火照った。
「しっ失礼しました。」僕は急いで医務室を後にし、トウヤがいるであろう大書庫に足を進めた。
扉を開けるとそこには大空間が広がっていた。両サイドに縦12横4の配置で棚が並び、中央には机と椅子が数個、司書のスペース、二階へとつながる白い螺旋階段が人々を覗くように存在感を放っている。一棚964冊収納されているが壁にも本がびっしり詰まっており、総数は五万を超えるそうだ。所在は司書がすべて把握しており探す必要がない。国の中で本があるのはここだけのため、僕が来た手前の扉は学校とつながり、奥の扉は外の学生以外の人が入るための扉となっている。
「先生、いつものある?」中心にたどり着いた僕は司書兼初等生手印術師担当であり、僕もお世話になったニービル先生を訪ねた。
「あらアデル、今日も来たのね。残念だけどイニシエは他の人が読んでいるから今は貸すことができないわ。」古書イニシエは失われたとされているロストテクノロジーやオーパーツなどが記されたもので、破壊から再生まで数多くの神聖法や魔法が載っている。お世辞にも気まぐれで読みたいと思う本ではないが、ほぼ毎日僕が読んでいるため一人か二人読みたい人がいてもおかしくはない。
「分かりました。時間一杯はここにいますので返却があり次第声を掛けてください。」僕はそう言ってトウヤのいるであろう端の大窓へと向かった。遠くから見ると、トウヤは歴史の書を読んでいた。僕も昔その本を読んだことがある。その本曰く、世界は光球、闇球の双子星を中心に白く分厚い外殻をもつ円環が火、水、風、土、草、時、空、虚の8つの星を覆っている構造を創造者が作った。世界は互いに資源を交換し不足するものを補いながら生きてきた。しかし闇球に住む魔族が軍を従え世界に侵攻を開始し、虚を円環ごと破壊した。通行手段だった転移門を使い各星の中央国を制圧し、世界のつながりを断った。特に水資源は水球からの貿易に頼っていたため、入手には困難を強いられた。大まかな内容としてはそんな感じだった。内容を思い出しながらトウヤの元へ近づき、肩を叩いて声を掛けた。
「お待たせ、遅くなってごめん。」トウヤはそれに気づき、本から視線をそらした。
「全然、むしろ倒された後にここに来るって選択肢はないと思うけど。来ると思ったからこれ借りといたよ。」トウヤはそう言って読んでいる本の横に閉じてある本を軽く叩いた。その本は分厚く深緑の配色で、表面にはドラゴンのような鱗顔に羊の角が付いた魔獣が彫り描かれている悪趣味なデザイン。この特徴的な本は他にない。ひと目見てすぐその本がなにか分かった。
古書イニシエ。
表紙の魔獣はかつて最悪と恐れられた円環を壊した魔獣スイレン。魔族の使役下にあったその獣は、各星の英雄が力を合わせて倒し絶滅させた。イニシエの代名詞とも言われている。
「取っといてくれたのか。ありがとう。」僕は小声でお礼をした。
「いいって。どうせ読む内容は同じなんだろ?」トウヤの問いに僕は勿論頷いた。この本を手に取ってから読んでいる箇所はひとつしかない。ある冒険家が、戦争が日夜絶えないとある地方を訪れた事がある。その地域では兵力を損なわない為に死者蘇生で補っていた。武者が刀を死者に突き刺し何か唱えた瞬間、薄桃色の花を着けた木が生えてきた。それを刺した刀で切ると強く光を放ち、木が死者の形に変わり生き返っていたんだ。
9話読んでいただきありがとうございます。感想や誤字脱字の修正点などコメントお待ちしています。次回は記念すべき10話修練お楽しみに。




