6話 覚醒者
夜、師匠と出会った頃の夢を見ていたアデルはセイゲルから覚醒手印術師について聞く。
セイゲルはゆっくりと説明してくれた。
「覚醒手印術師は通常と違い0番目の術式を唱える必要がある。これは特に攻撃や付与の類ではなく、自分の奥底に眠る力を引き出す技だ。簡単に言うと詰まりを改善させるものだと考えれば良い。そういった人を我々は覚醒者と呼んでいる。0番の術式を唱えなければ、覚醒者は一生手印法を使えない。逆に手印法を使う前に0番を唱えれば通常の何倍もの力を出す事ができる。さあ、試してみるとしよう。」そう言うとセイゲルは立ち上がり僕の前に右手を向けた。
「私と同じ動きをしてみなさい。」僕は頷くと恐る恐る右手を向けた。僕らは手のひらを広げ上にした。
「ではこう唱えなさい。手印法第0、覚醒。」
セイゲルが言った後、僕は迷いなく唱えた。
「手印法第0、覚醒。」すると手のひらに丸く小さい光の玉がまるで元からそこにあったかのように現れた。一方のセイゲルにも色は僕のより緑がかっている光の玉が手のひらに乗っていた。
「セイゲルさん、もしかして。」僕は言いかけたがセイゲルが先に答えた。
「ああ、そうだ。この世界でたった一人の、いや今この瞬間二人になろうとしている、覚醒者の一人だ。」するとセイゲルは光の玉を思いっきり掴んだ。いや、握り潰したという表現の方が正しいのだろう。握った手の隙間から緑色の光の線が数本飛び出し、腕を伝い全身へと広がっていった。
「どうした?やってみなさい。」目の前の光景に驚いていたため、すっかり真似する事を忘れていた。僕は勇気を振り絞って手を握った。一瞬手の中で光の玉がわずかに振動したような感覚があったがすぐに落ち着き、光の玉が割れた感覚と同時に手から光の線が腕を伝い全身へと広がった。体が奮い立ち、だんだん熱くなるのを感じた。
「上手くいったようで良かったよ。」セイゲルは微笑みながらこちらを見ていた。その目はいつの間にか紫色に変色していた。
「12歳とは到底思えない神聖力を有しているな、今のわしと同等とは。」驚いていたセイゲルは僕の目を見て言った。
「では使えるようになったか、やってみなさい。しかし今回は手印法第4を私に向けて使うこと。」
僕はなぜ第1ではないのか疑問に思ったが石が尽きたのだろうと解釈し、指示に従い、両手の人差し指から小指までを顔の前で交差させて唱えた。
「手印法第4、束縛。」次の瞬間、目に見えない速さで何かがセイゲルを縛り上げた。だが僕が想像していた第4とは大きく異なる点があった。本来は木の蔦が出てくるはずなのだが、僕から出てきたのは鎖だった。しかも3本も。
「うむ、初めてにして3本同時召喚とはなかなかだな。しっかり鎖の形じゃ。」セイゲルは知っている様子だった。おそらく覚醒者だからなのだろう。
「アデルよ、わしの弟子になる気はあるか?」その質問を聞いて僕は固まった。手印法の統括局長って事は相当強い人だよな。願ってもないことだが、鵜呑みにしていいものか。
「まぁ覚醒者は必ず覚醒者から教わる決まりがあるから君に拒否権はないんじゃがな。」セイゲルが思い出したかのようにつけ足した。
「じゃあ了承するしか僕に道はないじゃないですか。」その付け足しに僕は思わず情けない声が漏れたが、
「分かりました。今のままでは成長できないと自分でも思ってましたから。師匠これからよろしくお願いします。」僕は丁寧に頭を下げた。
「わしは寿命があとわずかで、後継者を出せないかと心配していたのだ。託された物を受け継げないと私の師匠に怒られてしまうからね。」僕が頭を上げると師匠は嬉しそうだったが目が潤んでいた。
「だからアデル、改めて君のような子が生まれてきてくれたことに感謝を。」師匠は両手で僕の手を強く握った。ややシワのある手が震えているのが肌を通して伝わってくる。この人なら聞いていいだろうか。あのスキルについて。
「師匠質問があります。」悩んだ末に聞いてみることにした。位が上なのだから知っている可能性は高いと判断したためである。
「よいぞ。答えれる範囲であれば答えよう。」
師匠はまた椅子に腰を下ろした。
「師匠はスキルの・・・・・・・・についてご存知ですか?」その言葉を聞いた師匠の顔が固くなった。
「その名前を一体何処で誰から聞いたのだ?」師匠の強めの口調に少しおののきながらも説明をした。自分がトリプルスキル持ちであること、このスキルは誰にも口にしてはいけないことなど。師匠は悩んでいる様子だった。しばらくして師匠は再び口を開いた。
「トリプルスキルにも驚いたが、それよりもエドレスの息子であることにも驚きだ。じゃがこのスキルについては金輪際誰にも話してはならんぞ。そのスキルは、」その会話の続きを聞く前に僕は眠りから覚めた。
朝やることは家の裏にある井戸から水を汲みあげ、朝食を母と作り、3人で食事をして父と同時に家を出ること。これが日課だ。
「いってきます。」勢い良く母に挨拶をして、家を出る。
「いってらっしゃい。」母は手を振り僕らを見送った。学校へ向かう途中ザクバリへと足を運び、トウヤと合流した。
「おはようアデル、相変わらず朝は元気だな。」トウヤは眠気眼でこっちを見ている。
「今日は用事があるから急ぐぞ。ほら早く。」僕はトウヤの腕を強引に引っ張り、走った。
「痛い痛い、分かった自分で走るからその手を離せ。」悲鳴に近い声をあげるトウヤを無視して校門をくぐった。朝早いため、周囲にはまだ誰もいない。
「俺は教室行く前に応接室寄るけどトウヤはどうする?」振り返って聞いた先ではトウヤは地面に倒れ込んでいた。
「ちょっとここで休んでから教室行く。」
苦しそうな声でトウヤは答えた。
「分かった、じゃあな。」そんな事はお構いなしに僕は校舎に入り応接室に向かった。
学長室の隣、来客のための寝泊まりスペースを備えたその部屋は一種の宿泊室と化していた。本日はそこに一人の老人が泊まっている。その扉が早朝に叩かれた。
「失礼します、アデルです。」僕の声に老人は窓を見ながら入室を許可した。
「入って良いぞ、もう起きているからな。」僕が扉を開けると白髪が背中まで伸び、出会った頃よりシワの目立つようになった師匠がそこに立っていた。僕の方へ向き直った師匠の顔はやつれているものの、体調が悪かったときの青白い顔よりは健康そうな顔をしていた。
「おはようアデルよ、一週間半しか経っていないが、元気にしていたか?」師匠の声は前より弱くなっていたが今更だ。
「この通り元気です。師匠も元気そうで何よりです。」師匠は少し微笑んだ。
「老いぼれの心配をするのなら、ファーゼンの話をちゃんと聞いてあげるんじゃぞ。」それを聞いた僕は少し言葉に詰まった。
「そうですね余裕があれば聞くことにします。」僕の苦し紛れの返答が面白かったのか師匠は笑っていた。
「あいつは悪い奴ではないのだがなぁ。それはそうとして、本題に入ろう。」師匠の声が真面目になったので僕も耳を傾けた。
「今期の合同演習の予定が決まったのじゃ。場所は2年前に魔族と亜種族の連合軍が攻めてきた国、ディジェクラント王国じゃ。あの周辺には魔獣がまだうろついているため標的には丁度いいのだろう。」ディジェクラント王国、林山の頂上に出来た国で観光名所として有名な国だが2年前に行軍があってからは入国者が減っていると聞く。
「魔獣なら脅威にはならないと思うのですが、何か引っ掛かる点でもあるのですか?」高等生くらいの強さになれば魔獣やその上位種程度は対処可能だが、僕の問いに師匠は答えた。
「うむ、予定が決まった後に数人で視察に行ったのじゃがどうやら魔素が通常より多くなっていたようでな、当日想定外の事態に遭う可能性があるため場所を変更するよう上に掛け合ったのじゃが、どの国も演習の標的がいないとの事で却下されてしまったのじゃよ。だからくれぐれも気を付けるのじゃぞと伝えにきたのじゃ。」気にかけてくれていた事が嬉しかった。
「分かりました。心に留めておきます。」
その後はしばらく話を続け、近況などを報告した。
「では師匠また夕方に。」僕は応接室を出て朝の授業へ向かった。
昼休み。食堂でトウヤと昼食を取りながら師匠との会話について話していると回りがざわつきはじめた。
「わぁリーア様よ。」
「貴族様がどうしてここに?」生徒達の目を釘付けにしている銀色の長髪で純白の制服女子はこの学校の才女で、フリッグ家の令嬢だ。クラスによって制服の色が変わり、無属性の僕はグレーだ。そんな彼女は真っ直ぐこちらへと向かって来て僕の目の前で止まった。
「少しいいかしら?」彼女はクールな声で僕に向かって聞いてきた。
「食事中なのでお答えできません。」僕がぴしゃりというと彼女は机を叩き再度聞いてきた。
「少しいいかしらアデル君」冷ややかな目が僕を見ていた。やっぱりこうなるのか。
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次回貴族のたわむれお楽しみに。




