5話 師匠
下校しながらトウヤの父さんが営む揚げ物の店ザクバリの新商品であるコロッケを堪能して、家に帰った。
家族三人で夕食の席に着いた。
「大聖女様と女神セルリア様に拝謝」
「拝謝」
父が手を合わせ目を閉じながら最初の台詞を言い、後に続いて僕と母も拝謝と唱える。これが食事の前の挨拶だ。挨拶が終わり食事をしながら談話をする。
「そうだアデル、セイゲルさんが家を訪ねてきたよ。なんでも急用らしいから、明日学校で早めに聞きに行きなさい。」まさか家にまで来ていたとは、よほど重要な件らしい。
「わかった。師匠は元気そうだった?」師匠は若くない。 あまり無理をしてないか弟子として不安なのだ。
「ああ、最近は調子がいいらしい。顔色も良かったし、体も健康なんだそうだ。」父も気に掛けていたようだ。僕もそれを聞き胸を撫で下ろした。その後食卓ではこれと言って特別な会話はなかった。お互いに近況を話しながら食べ続け時間が過ぎていった。
しばらくして食べ終えた一同は皿を片付け、僕はベッドへ向かった。
「おやすみなさい。」僕が言うと二人は微笑んで答えた。
「おやすみアデル。」
深夜僕はセイゲル師匠と出会った頃の夢を見ていた。僕が10歳の時、待ちに待った女神セルリア様からの神託を受ける日だ。僕は剣士になりたかった。父も母も剣士なのだから息子の僕もそうなるに違いないと心の中では思っていた。しかし神官は信じられないことを言った。
「神託を告げる。アデル、そなたは無属性だ。」一瞬周りはざわめき、その会話が僕にも聞こえていた。剣士と剣士の子供から無属性が出たとか、ということは職業はやっぱり、など。無属性の神託を受けたものは職業は一つしかない。
手印術師。
魔法系だが杖を使わず手を使って術を発動する。英雄になる人間には分不相応の職業であり、尚且つ古代から存在する術だが、未だに解明されていない点が多く、扱いにくい術としても有名だ。僕はその場に固まり動けなくなった。妹の仇を討つため、3年間朝から夜まで父と母から剣術を叩き込まれて今日を迎えたが、こんな結果になってしまって父と母に申し訳ない気持ちで一杯だ。しかし、落ち込んでいる僕の元へ駆け寄り、両親は涙を流しながら抱きしめた。
「大丈夫よアデル、どんな職業だって今日までやってきた努力は決して無駄にならないわ。」
「そうだぞアデル、手印法だって強みがある。また特訓を頑張ろう。」
父も母も僕を慰めてくれた。僕は静かに泣いた。
「では奥の部屋で特殊スキルの調査を受けてください。」しばらく泣いた後、僕は神官に誘導されて奥にある真書の部屋へと向かった。真書、それは修練して得るものではなく、生まれながらにして持っているスキルを知るために用いられる古書の一種だ。開かれたページに手を当てることで本に文字が浮かび上がってくる。僕は部屋に入り、シスターから案内を受けた。
「アデル様、ではまずこの本に近づいてください。尚近づいたらページが開きますので、私が出るまで触れてはいけません。必ず私が出たのを確認してから触れてください。また読み終えるまで私は外で待機しています。読み終わりましたら扉を開けてください。終わった合図といたします。」
女性は丁寧に説明してくれた後、静かに部屋から出ていった。スキルは家族以外に明かしてはいけない。例外もあるが基本的には打ち明けないのが教会の決まりらしい。どちらにせよ職業が手印術師なのだ。スキルの方もあまり期待できそうにない。
「おや?」僕の読み間違いだろうか。
シスターに言われた通り扉を開けて部屋を後にした。そのまま父と母の元へ向かった。二人は教会の入口の前で待っていたらしく、すぐに僕を迎えに来てくれ、その場にしゃがんでアデルと目線を合わせた。
「どうだったアデル、スキルの方は?」父が少し不安そうに聞いてきた。母も不安そうな目でこちらを伺っている。
「二人のスキルを受け継いだよ。」その言葉に二人は安心したのか少し笑顔を取り戻した。
「良かった。さて後のことはうちに帰って話しましょう。」僕ら三人は家路を急いだ。
帰るなり母はお茶を淹れようと湯を沸かしながら聞いた。
「それでアデル、スキルの名前は何だ?」テーブルに座りながら父は聞いた。
「はい、一つは父の持つ千里眼、もう一つは母の起死回生のスキルが手に入りました。」
父は目を丸くし少しホッとした顔を見せた。
「そうかダブル持ちとは。噂程度しか聞いて来なかったけど、本当に存在したとは。上手く使いこなしなさい。」千里眼は望遠鏡のような役割と敵の強さを把握できる目だ。発動時は片目が紫色に変わり、父が使っている姿はとてもかっこよかった。起死回生は神聖力が失われかけたときに再び力を補填できるスキルだ。持久戦にとても強く、持っている人は少ないらしい。母がポットを持って来て三人のカップに均等にお茶を注ぎながら言った。
「起死回生は駆け出しの頃にとても助かっていたわ。それに一人で任務に当たった時も助けてくれた。今の私がいるのはこのスキルのおかげと言ってもいいほどよ。」母は自慢気に教えてくれた。二人の笑顔を久しぶりに見た気がする。
「それとさ、二人に聞きたいんだけど。」
ふと僕は疑問に思っていた事を二人に聞く。
「なんだい?なんでも聞きなさい。」父は右手で胸を叩き、なんでも答えるポーズをとる。
「二人はさ・・・・・・・・って知ってる?」
二人はお互いを見て首をかしげた。
「いや知らないな。そんなスキルの名前、初めて聞いたぞ。それはアデルが持ってるスキルか?」二人は知らないようだ。
「いやシスターさんが最近増えているスキルだって言ってただけだよ。」嘘だ。本当は僕はそのスキルを持っている。でも知っている人にしか教えてはならないスキルだと本に書いてあった。家族でさえも。
「それより、私たちでは手印法を教えられないから家庭教師を雇いましょう。」母が父に提案した。
「そうだな。お金もまだあるし問題ないだろう。アデルもそれでいいか?」父は僕の方へ視線を戻して聞いた。
「うん大丈夫。」
僕は勢いよく頷いた。
あれから2年の月日が流れ初等生も終わりを迎える頃、周りの子が手印法を使いこなしている中、僕と他数名は未だに術を出せてすらいなかった。家庭教師や学校の先生もお手上げ状態が続いていた。そんなある日、実践授業を行っている中、9人の手印法の統括局が学校を訪問してきた。
「今期の手印法が使えない生徒はこの6人で全員ですか?」白髪まじりのシャンパンゴールド色の髪の毛、口髭をややはやし緩い服を着た人が担任の女性教師ニービルに聞いた。
「ええ、これで全部です。セイゲル様。」
セイゲルという人は頷くと僕らの方を向いた。
「皆さんはじめまして。私は神聖法統括局手印術師部門局長のセイゲルと申します。今回は術式の解放に来ました。皆さんのように12歳を過ぎても神聖術が使えない人は少なからずいます。私たちはそれを解くために来ました。では皆さん一列に並び一人ずつ私の元へ来てください。」僕らはすぐに並び、最初の子が前へ出た。
「神聖術が使えない原因は主に体の通りが悪い人が多いのです。神聖力は体全体を通り初めて発動します。」セイゲルは前に出た子を見本にしながら説明をした。
「そして通りを良くするためには熟練者が体に神聖力を流してやれば済みます。こんな風に。」
するとセイゲルが肩に手を置いた瞬間、前の子が一瞬光りやがて消えた。
「ではこの石に手印法第一を使ってみなさい。」
セイゲルはポケットから石ころを取り出し地面に落とした。
前の子は右手の人差し指を伸ばし石に向けて言った。
「手印法第一、圧」石はたちまち音を立てながら砕けた。それを見た僕らは驚き、前の少年は嬉しさのあまり飛び跳ねて喜んでいた。
「さあ、どんどんやっていこう。」セイゲルは次々に生徒達の術式を解いていった。気付けば最後、僕の番だ。セイゲルは肩に手を置いたが首をかしげた。
「君、通ってるね。手印法は使えないのかい?」セイゲルは僕に顔を近づけて聞いてきた。
「はい、使えません。」少し後ろに下がりながら答えた。それを聞いたセイゲルはまたもや石を出し下に落とした。どんだけ石持ってるんだよと内心思った。
「やってみなさい。」セイゲルの片目が紫色に変わっていた。千里眼を使っているのだろう。
「手印法第一、圧」石はびくともしない。
「やはりか。ニービル、空き教室はあるかね?なんなら空き部屋でも構わん。」
セイゲルは先ほどより口調が早くなっていた。
「確か二階の端に使っていない部屋があったはずです。」ニービル先生は顎に手を当てながら答えた。セイゲルはアデルの腕を掴み言った。
「案内してくれ、しばらくの間他の5人の生徒達の面倒はリンに任せる。」僕は引っ張られるがまま空き部屋へと向かった。部屋は人が10人入るかどうかくらい狭く、薄暗い中椅子が一脚あった。
「ニービル、他の方が来ないように見張っていてくれ。くれぐれも近づかせるな。」
セイゲルは強めの口調で言った。
「分かりました。」
ニービルは扉から少し離れたところで待機した。僕らは中へ入りセイゲルは扉を閉め鍵をかけた。続いて部屋中を薄い半透明の膜が覆った。
「簡易的な結界を張った。これで外部に音が漏れることはない。」セイゲルは椅子に腰を下ろし僕に質問した。
「さて少年、君の名前は?」そういえば名前を
言ってなかったなと今更ながら思った。
「アデルです。よろしくお願いします。」僕は頭を下げながら言った。
「アデルか、よい名前だ。君が生まれてきてくれたことに感謝を。」セイゲルは片手を僕に向けて出してきたので、僕は両手でその手を掴み握手を交わした。
「さて、これから話すことだが他の人には絶対に言ってはいけない。もちろん家族にもだ。守れるか?」セイゲルは穏やかな顔で聞いてきた。僕は深く頷いた。
「よろしい、では覚醒手印術師について話をしよう。」
5話を読んでいただきありがとうございます。
読者の方からX (旧Twitter)のアカウントが見つからないと指摘を受けましたので@tumugimaumono から飛んで頂けると幸いです。次回覚醒者お楽しみに。




