4話 日常
9年前にドラゴンブレスによって妹を亡くした主人公アデルそんな彼の今を見る。
過去の事を思い出しながらアデルは大理石の白く長い階段を降りていた。
王立神聖術学校。
ここは王国が次世代の傭兵を育成するために設けた施設だ。王国に住む子供が10歳頃に入学し、初等生2年小等生3年中等生2年高等生1年の計8年を経て傭兵団に加わる。
第二校舎一階の少し端の方。薄暗い教室が並ぶ中で、一日中明かりがついている場所が医務室だ。
「またファーゼンさんにしごかれたの?」艶やかな声と茶色い瞳。紫ロングの髪は、座っている椅子の足まで垂れ下がっている。名前はバレッサ・ロザリア。貴族の家系に生まれた彼女は、この人間種で大聖女に次ぐ治癒の才能を持っている。各国が喉から手が出る人材だが、誰も知らないが、この国に残る理由があるのだとか。
「あの人容赦ないんですよ全く。」僕が文句を言っている背後で、丁寧に傷痕を残さないように治癒術を施してくれているバレッサはニコニコしながら聞いていた。
「でもアデル君が真面目に受ければファーゼン先生も喜ぶと思うけどなぁ。」ぐうの音も出ない。強くなるために必要でない知識をつけようとは僕は思わない。だが、
「次の授業は真面目に受けます。」そう答えることにした。気は進まないが成績落とされても困るしと心の中では思った。
「うん。がんばれー」ゆったりと言いながら次々とアデルの傷を治していった。
「はい、おしまい。もう大丈夫よ。診断書の紙に名前書いといて。仕事をしていないと学校長怒られるから。」彼女も大変なんだなと僕は思った。名前を書き終え医務室を出ようとしたらバレッサ先生が思い出すように僕に伝えた。
「そういえばセイゲルがあなたを探していたわ。何でも急な要件みたいよ。明日にでも顔を出してあげなさい。」
僕は少し戸惑いながら振り返って答えた。
「分かりました。」
荷物を取り医務室を後にした。
夕日に照らされた校門に寄りかかったトウヤが腕を組んで待っていた。黒髪が風にたなびいて、焦げ茶の瞳が何処か遠い所をみていた。
「よぉ!遅くなって悪かったな。」僕は手を振りながらトウヤに声をかけた。
「いやむしろ早かった方だよ。」トウヤは腕をほどき、地面に置いていた鞄を勢いよく担いだ。
「今日は新作のコロッケを食わせてやるよ。」
意気揚々とトウヤが誘ってきた。
「コロッケってなんだよ。」
二人が笑いながら帰っている姿を学校の寮の窓から銀髪の女子高等学生が見ていた。「チッ、アデルめ。」
トウヤはあの村襲撃後、父親と一緒にこの国ではたったひとつの揚げ物の店を出し生計を立てている。トウヤは前世の記憶をもって生まれた、揚げ物もその知識のひとつだ。僕もよく試作品を食べさせてもらっているが、ほっぺが落ちそうなほどうまい。校門から東西に延びている横中央通りを下り、中央の噴水庭園を曲がって直ぐの所にお店はある。店の名前はザクバリ。揚げ物をはじめて食べた僕の感想がそのまま店の名前となっている。店の外壁は赤茶色のレンガで作られ、看板には文字がはみ出すくらいの店名とオープンの文字が黒く強調されている。店内の中心には大人一人が抱えても反対側まで手が届かないほどの太い丸太が店の屋根を支えている。商品はその柱と壁一面にずらりと並び肉や野菜などを揚げた商品や、週に一度中身を変える珍物を揚げた不思議な物まで幅広い品揃えだ。厨房に入るとトウヤの父が肉に下味をつけている所だった。
「おうアデルか。コロッケを食べに来たんだろ、待ってろ今作るから。」そう言ってトウヤの父は手を止め、後ろにおいてある既に衣の着いた物を油の鍋に入れた。カリカリと鍋に打ち付ける泡の音が僕の食欲を注った。揚げ上がると紙で包んで僕に手渡してきた。
「はい、お待ち。熱いから気を付けて食べな。」渡されたコロッケはほのかに湯気を出していた。一口食べてみる。外はサクサクなのになかはグズっと崩れる食感は初めてだ。だが、熱いせいか歯がジンジンと痛む。
「この四角いオレンジ色のやつはまさか!?」僕が言い終える前にトウヤが答えた。
「おまえの大好物のニンジンだよ。どうだ、美味しいか?」トウヤが自慢気な顔で僕の方を見てくる。認めたくはなかったが、これは旨いと言わざるを得ない代物だ。
「あぁうまいよ。」僕は小声で言ったがトウヤは満足そうだった。それにしても、
「どこで手に入れたんだ。水を多く使う野菜はどこも高くて貴族くらいしか手がでないだろうに。」その問いにトウヤは平然と答えた。
「揚げ物なんて料理、この世界何処を探しても作ってる店はここだけだ。その噂が広まったのか5日前に貴族の方が召し上がりに来てな。大層気に入ったのか食材と護衛を提供するから代わりにうちの料理人にならないかと言われたんだよ。ただ俺も父さんもここから離れるのは嫌だったから、護衛はいいから毎日この店から配達させていただきます。そう返答したら納得してくれてな、お陰で忙しくなったが作れる種類も増えたってわけ。」まさか貴族の方に目をつけられてたとは驚きだ。それに試作品の味見を俺にやらせてるのも驚きだが、庶民の舌を指標にして良かったのだろうか。
「ありがとうございます。トウヤの父さん。とても美味しかったです。」
忙しそうにしていたトウヤのお父さんにお礼を言い、
「じゃ、そろそろ帰るな。」手を振り挨拶をした僕はトウヤの店を後にした。
トウヤの店からやや離れた通りに僕の家がある。ドアを開けると父と母は夕食の支度をしていた。出迎えたのは母だった。
「アデルお帰り、遅かったわね。トウヤの所に寄ってたの?」何で分かるのだろうか。
「うん。ただいま遅くなってごめん。」恐る恐る答えたがこれと言って怒ってなかった。
「いいわよ。むしろこの前トウヤ君のお父様に会ったときにいつも助かってますって感謝されちゃったのよ。」母は少し嬉しそうに答えた。父母の笑顔を最後に見たのはいつだったろうか。あの事件以来二人は、いや僕を含め心の底から笑うことが無くなったような気がする。僕らは未だに妹が亡くなった現実を受け入れたくはないのだ。
4話を読んでいただきありがとうございます。
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次回師匠お楽しみに。




