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イニシエ  作者: 紡ぎ舞う者
第一章 学校編
3/9

3話 過去の傷(後編)

行事で川と村を行き来しながら水を汲むアデルとサナとトウヤの3人そこに謎のフルプレートメイルを着た人影が現れた。

第3話 過去の傷(後編)

 現れた人物に対し、僕は顔面めがけて殴ろうと高く飛ぶ。トウヤはそれに合わせて右側面からタックルをする構えをとったが。

「待った待った。」鎧の中から慌てた様子の声がした。僕らは急いで手を止め問い質した。

「村の大人じゃないな。誰だ!」僕の質問にその人物は答えた。声からして男だ。

「俺の名前はオーディン。王直属の近衛兵としてスフリル村に派遣されたんだけど、山道が木々で塞がれて本隊が通れなくなっているから、村の人に別ルートを聞こうと飛行の出来る僕が単独で来たって訳さ。」そう言ってオーディンは両手を後ろに回したと思ったら、背中から羽を出して見せた。青白く光り輝くそれはまるで空を彷彿とさせる色で、とても美しかった。僕は昨日の父さんと母さんの会話を思い出し、この人がその強いやつかと尊敬の眼差しで見ていた。しかし、一方でトウヤの方は納得がいっていないようで、疑いの目のまま更に質問した。

「近衛兵なら王からの授かり物、ガーベラの勲章を胸につけているはずだ。それに体装備は動きやすさ重視の鎖帷子が通常のはずなのに何故着ていない?」確かにトウヤの言う通り、母から教えてもらった近衛兵の格好とは少し違うようだ。オーディンは羽を消したと思ったら笑い混じりの声で答えた。

「坊主、頭いいな。確かに鎖帷子が近衛兵の標準装備だが、それは町中だけで国外や危険だと事前に分かっている場合はこっちの方が身を守りやすいんだ。そして栄誉勲章だが、ほれ。」そう言いながらポケットの中を探り、出てきたものをトウヤに見せた。銀色のオリーブの輪に赤い色をしたガーベラの形をした勲章が出てきた。トウヤも納得したようで、「すいませんでした、疑ってしまったこと謝罪します。」深々と頭を下げた。

「いいって、いいって、他の人なら怒ってるのかもだけど俺は勲章を胸につけてなかったし、見ず知らずの人を疑うのは別に悪いことではないと思うよ、このご時世。」そう言うとトウヤの頭をオーディンは撫でた。

「で、そんな偉い人がどうしてこんな村にいるの?」トウヤは疑問に思い、質問した。

「それはだな、子供には話しちゃいけないって決まりなんだ。だから村長か親御さんのところまで案内が欲しんだけどいいかな?」僕は昨日父さんや母さんが言っていたことと関係があるのだろうと、この人を案内することにした。

「トウヤ勝負は後回しにしよう。サナはトウヤと一緒に水汲みを、」言い終える前にオーディンが話を遮った。

「いや妹ちゃんも一緒に行こう。そのほうが君も安心だろう。トウヤ君は村長に水汲み行事を中止して子供を集めて村に戻ってくるように説得してくれる?」トウヤは黙って頷き、川の方へ走っていった。僕と妹もバケツを置き、家に向かって走り出した。

「そういえば君たちは何歳なんだい?」走りながらオーディンが話しかけてきた。

「僕は7歳でサナは5歳だよ。」僕は足を止めずに答えた。

「そうか兄妹か。なら兄のおまえが妹を守ってやらないとな。」すると、サナが足を止めた。

「ダメだよ、お兄ちゃんは私が守るんだもん。」

突然の言葉に僕は動揺し、理由を聞こうとしたがオーディンが先に聞いた。まるでこの言葉を待っていたかのように。

「どうして、兄を守ろうとするの?」サナは少し悩んだ後、オーディンのすぐそばまで近寄り、オーディンも片膝をついてサナの話を聞いた。声が小さく内容は分からなかったが聞き終えたオーディンがサナの頭をそっと撫でて言った。

「安心しろ。そんなことが起こらないようにここに派遣されたんだから。」

 家の前につきアデルは扉を開けた。

「父さん、母さん。」すると調理場と二階から二人ともそれぞれ駆けてきた。

「早かったわね。本当に終わったの?それに後ろの方は、」僕が答える前にオーディンが前に出て挨拶をした。

「はじめまして、私は王直属の近衛兵オーディンと申します。以後お見知りおきを。」

二人は驚き、顔を見合わせた後、父が答えた。

「ご丁寧にありがとうございます。私はその子達の父のエドレスです。予定では日没ごろだったはず、それに仲間の方が見えないのですが。」オーディンはこれまでの経緯を話した。

 父は少し戸惑いながら答えた。

「承知しました、では私が兵士たちのところへ行きましょう。ストベラ、教会の裏の空き地を野営地として使わせてもらえないかシスターたちに声を掛けておいてくれるか?」ストベラは頷き、身支度を始めようとしたその時だった。遠くの方から体が押し潰されるような轟音が村中に響き渡った。僕とサナはその場に突っ伏した。「嘘だそんな、ありえない。」父から絶望する声が漏れ聞こえたのはこのときがはじめてだった。

 僕は顔を上げ父の視線の先に目をやった。その光景はあまりにも衝撃的で、今でも覚えている。無数のドラゴンの群れが川とは反対方向の森から村に向かってくる。そのドラゴンには頭から背中にかけて鞍のようなものがついていて、その上には黒い物体が見えた。

「亜種族だ、やっぱりこの村に目をつけていたのか。」オーディンは冷静に答え、羽を広げ膝を曲げていた。「私が討伐しに行きます。皆さんは鉱山の方に避難してください。こうなってしまっては教会が安全とは言えませんから。」そう言ってオーディンは敵の方へ飛び込んでいった。外では教会から警報の鐘をシスターが鳴らし、村のみんなに危険を知らせていた。

 父と母は顔を見合わせ、何も言わずに父は階段下の倉庫から二つの剣を取り出してきた。一つはいつも父が携えている一般的な片手剣。グリップは黒く、ガードは特注の白金製で、きめ細やかな細工は何かの木の枝と葉を表しているようだった。中心には赤い神聖石がついている。もう1本の剣はアデルは生まれて初めて見た。剣身は細く素早さを重視したような作りの片手剣だ。エメラルドグリーン色のグリップにネイビーのバラの花と茎が細工されている円環のガード。それを母に渡し家を出た。父は僕を、母はサナを抱き上げ走り出した。

「教会が危ないと言っていたがどうする?」

「念のため結界が壊れてないか確認してから、二人をシスターに預けましょう。」

しかしその時だった。目の前まで迫っていた教会にドラゴンが突撃をした。結界は粉々に砕け、教会の鐘がゴーンと音を立てながら地面に落ちていき壁の破片があちこちに飛び散っていった。父と母は即座に離れ飛んできた破片をなんなくかわす。

「ストベラ、大丈夫か?」父の呼び掛けに母は即座に反応した。

「大丈夫よ。それよりまずいわね。」母の強ばった声を聞き、父は上空の方を見た。そこには先程まで遠くの方にいたドラゴンが、村の上空を覆いそうなほどの数が飛んでいた。紅色の鱗に黄色い猫のような瞳孔は幼い僕らに恐怖を植え付けた。そのうちの一匹に黒い鱗のドラゴンに乗った亜種族が腕を振り上げ、それと同時にドラゴンが口を開け何かを溜め込んでいるのか橙赤色に光っていた。

「まずい、ブレスが来るぞ。」父の言葉が言い終わった瞬間、亜種族の振り上げられていた手が素早く下に降ろされた。一斉に放たれたドラゴンブレスは四方八方に飛んでいき、森や家々が次々に焼かれていき立ち込めていた霧も晴れた。火の粉の舞う熱い空気が肌に触れ、人々の断末魔が耳をつんざく。恐怖を紛らわそうと呼吸をするも熱さと何かが焼かれた匂いが強烈だ。地獄とはまさにこの事を言うのだろう。そんな状況でも父は冷静に対処していた。

「ストベラ、とりあえずオーディン殿が仰っていた鉱山の方へ向かったほうがいいかもしれない。子供たちを避難させた後に村へ戻ってこよう。それに川にいる村長たちの安否も気になる。とにかく急ごう。」父と母は鉱山の方へ駆け出していった。鉱山は村から王国の方角に少し山を降りたところに入口がある。鉄が主だがミスリルが取れたりすることもあったのだとか、今でも村の収入源として活用している。

 しばらく進み山道を駆け下りるところに野太い声がした。

「団長?」父と母は足を止め僕らを下ろした。声のした方向には鎖帷子で全身を固めた大男が立っていた。胸にはガーベラの腕章をつけ、背中には近衛兵の団長だけが着れる紅色のマントをつけていた。その後ろには同じ格好をした二人と傭兵らしき人が数十名立っていた。

「やっぱりストベラ団長じゃないですか。それにエドレス様も。ガルスです、覚えていますか?」母のもとへ歩み寄った大男は両親と握手を交わしていた。どうやら知り合いらしい

「ええ、覚えているわ久しぶりね。」

「隊長その方は誰ですか?」傭兵の一人が軽々しく聞いた。

「無礼だぞ。この方々はケストレアが建国されて以来初の、」

ガルスの話を母が遮った

「自己紹介は後で。それよりあなたがここにいるってことは例の調査隊よね、お願い手を貸して!村が襲撃にあったの。」隊員内の空気が一変し表情が固くなった。

「敵の武装や数は?細かな情報など教えてください。」ガルスの先程までにこやかだった顔は今は険しくなっている。

「敵は亜種族です。数は不明、武装は多分ありません。一人一人がドラゴンを従え攻撃をしかけてきたわ。村はほぼ焼かれ、教会も体当たりされて崩れた。」母は淡々と答えていたが言葉に無念が込められていた。傭兵たちも動揺していたが近衛兵は冷静に質問を続けた。

「生存者はいないでしょうか?」今度は父が答えた。

「行事で村から離れていた村長含めた大人数人と子供、確か17人がまだ生きてる可能性が高い。村に居た者はもう・・・」父は口をつぐんだ。

「それだけ分かれば十分です。聞いたか諸君、任務を調査から生存者救出に変更する。」

ガルスは兵隊の方に顔を向け命令を出し始めた。

「足が速いスキル持ちは救助を優先で川の方へ急げ。術師は治癒に専念するため後方で待機、騎士はそれを護衛しろ。弓と遠距離攻撃に自身があるやつは俺含め近衛兵3人とドラゴンの足止めだ。」

次々と命令に従い兵隊たちは山道を駆け上がりはじめた。

「私も同行していいかしら?」母が顔圧を強めたガルスに聞いた。ガルスは困った様子で答えた

「私には近衛兵をまとめる者としての責任があります。個人の感情で一般人を危険な任務に同行させることは出来ません。」しかし母は引かず一歩前へ出て言った。

「それでも元近衛兵団長として同行させて欲しい。しばらく戦闘から身を引いていたけど貴方たちに遅れはとらないわ。」

母の勢いに参ったという顔をしたガルスは、両手を挙げ少し顔が崩れた。

「分かりました。陛下には3人で応戦したことにします。それでもお子さんはどうするんです?それに装備は?」

母はもちろんという顔で父を指した。

「ここに元王国最強と謳われた剣神がいるのよ。心配は要らないわ。それに、」

母はサナの頭を撫でた。村が襲撃されてからこれまでサナはずっと離れずしがみついている。

「このティアラがあれば申し分ないでしょう。」

ガルスは目を丸くしながら答えた。

「加護のティアラ。古書では有名ですが、実物を見るのは初めてですね。どちらで手に入れたのですか?」

母は人差し指を口に当てて答えた。

「それは内緒よ。譲ってくれた人との約束だから。」

母はサナの手を握り聞いた。

「サナこのティアラ借りるね。」

母がサナの頭からティアラを取ろうとしたが、サナがそれを拒んだ。

「やだ。これをあげたらお母さん行っちゃう。」サナは懇願するように母にしがみついた。母は優しくサナを抱き締めた。

「大丈夫よ。私は何処へも行ったりしない。必ず戻ってくると誓うわ。」サナはそっと手の力を緩めティアラを自ら外し、母に被せた。

「母が必ず私たちの元へ帰れますように。」

妹は目に涙を浮かべながら母から離れた。

「ありがとうサナ。あなた、二人をお願いね。」

父は大きく頷き、剣を抜いて力強く地面に突き立てて言った。「君に勝利を。」

僕は母に手を振りながら言った。「母さん、気を付けて。」

母はにこりと笑うと、ガルスと共に鳥が飛ぶよりも早く山を駆け上がって言った。

妹は少し後を追いかけたが坂道で足を止め母の走る後姿をしばらく見つめた。

「サナ、こっちへおいで。」父の声にサナは反応しこちらに向かって来た。

「さあ僕らは鉱山の入り口へ向かおう。アデル、ティアラを渡してくれ。」僕は父に渡そうとティアラを握った。次の瞬間、横から思いっきり体を吹き飛ばされた。その方向を振り向くとサナが5歳の少女とは思えない力で僕を突き飛ばしていた。目の前の時間がゆっくり進んでいるような感覚に陥った。父は素早く僕の方へ手を伸ばしている。するとサナが口を開いた。

「さようなら。お兄ちゃん。」少し潤んだ瞳が僕を見つめながら笑っていた。しかし父の手が僕の腕を掴んだときには目の前が漆黒の業火に包まれた。妹はそれに飲み込まれ、父と僕はその衝撃で山の下の方へ吹き飛ばされた。命に差し支えない衝撃には反応しないのか、あるいはティアラの効果が失われたのか、僕は木に体を打ち付け、父はその反動で手を離してしまった。目が霞んでいてよく見えなかったが目の前が一瞬にして焼け野原となりサナも術師の方も見当たらない。

「やめろ!」意識がもうろうとする中、何処からか力強く、喉が潰れそうなほどの叫び声が聞こえた。直後黒いドラゴンが上から落ち、その衝撃が地面に伝わってきた。その上には羽を広げたオーディンさんが亜種族を下敷きにして立っていた。その姿を見ながら僕は気絶した。

 その後の事はあまり覚えていない。気がついたときには調査隊が山の麓に待機させていた馬車の上だった。母とガルス団長は村に着いたがそこにはドラゴンの死骸がそこかしこに散らばっており、すべてオーディンさんが倒した後だった。そんなオーディンさんは途中で姿を消し、行方知れずとなった。また村長たちは森で身を潜め、運良く全員生き残れたそうだ。包帯を頭に巻き、手足に固定具をつけていた僕は上手く起き上がれず、それに気づいた両親が僕の元へ近寄って来た。

「アデル!良かった。目を覚ましたんだな。本当に良かった。」二人は涙をながしながら僕の手を強く握った。サナは何処かと聞こうとしたが、聞けなかった。そんな両親の顔に、これまで曇り空で姿を見せなかった夕日の光が当たり、涙の雫がキラキラと輝いていた。その夕日を見ることなく僕は王国の門をくぐった。だから僕は夕日を見るたびに思い出す。あの日は一体どんな夕日だったのだろうかと。

3話を読んでいただきありがとうございます。

コメントや誤字脱字、表現の変更等どしどし書き込んでくれると幸いです。次回日常をお楽しみに。

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