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いつか、その音の止む日まで

 世界情勢やら正体不明の病やら、色々あって住数年。世界中の人口はとっくに消え去り、何処もかしこも閑散とした雰囲気が漂っている。街中は風で流されてきた砂や生え放題の植物に埋もれつつあり、立ち入ることのできる場所も随分と減ってきたと実感する。

車の運転などしたこともないので1人あてもなく時には自転車を漕ぎ、時には乗り捨てて歩いたり……。春も後半、厳しい寒さもようやく過ぎ去って移動もしやすくなった。


「今日は、この辺で良いかな」


以前はバス停として機能していた場所、そのベンチの汚れを払い腰掛ける。持ち歩いている非常食の一つを取り出し、傍には電源を入れたラジオを置く。ゆっくりと少ない食料を噛み締めながらラジオから流れ始めた雑音混じりの声に耳を傾ける。


『5月20日木曜日。今日の放送を始めます。』


今では聞き慣れた少し高く柔らかい声色と、一言ずつ区切られた言葉は季節によって内容が変わり、今は大阪城あたりの梅の開花について話している。地域はバラバラで、近い場所から遠い場所まで様々な話題を提供していた。毎日正午になると放送され、何処から放送されているのかも分からないが、私にとっては他の人が今でも生きているとういう希望の証であり、発狂してしまいそうな日常における唯一と言っていい心の支えであった。


『最近は皆様いかがお過ごしでしょうか。私は。梅の花を観るために大阪城へと赴きました。一面の赤と大きな城郭は絵として飾ってしまいいたい程の遺産と呼ぶべきものでしょう。昨今では建物の腐食も進みつつありーー』


きっかり一時間、放送は続いていく。発信元の特定をしようと試みたが失敗に終わり、それ以来は毎日欠かさず聴く程度に収める事にしている。缶詰を食べ終わり、ゴミを放置してラジオを流したまま移動を始める。以前であれば多少の罪悪感もあったが、今となっては迷惑を被る他人もいないのだと諦めている。ガラスの全て破れたコンビニや風化した本たちが並ぶ本屋を通り過ぎ、古いマップを覗きながら次の行き先を決める。


『今回もご清聴いただきありがとうございました。それでは。また。明日の正午にお会いしましょう。』


移動していると、今日の放送が終わった。途端、錆びついた自転車の音だけが取り残される。暖かい風も、眠くなる様な陽気も、今も私にとってはどうでも良かった。ただ、明日もあの声を聞きながら、この日常が終わることを願い続けるだろう。

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