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夜中の血は沸騰する

 何度目かのリピート再生を終えた曲が前奏へと戻り、夜空を流れていた雲が窓の枠から完全に姿を消した頃。点けたままになっていたテーブルランプの明かりが部屋を照らしていた。

ランプの隣には眠りこけた男が独り、大の字に転がっている。騒がしい歌詞に掻き消されていた寝息は段々とゆっくりとした深呼吸へと変わり、開かれた瞼から覗く瞳がゆっくりと左右へ動く。


「今は……ああ、2時か」


 男はそうとだけ呟くと体を起こし、鳴り響いている曲を止めた。冷蔵庫を開き食パンが敷き詰められた上段から視線を下へ移し、そこに置かれていた250mlの牛乳パックの中身を飲み干す。少し時間が経ってしっかりと見えるようになった視界を部屋全体へと向けると、開いた窓から夜風が吹き込んでカーテンがバタバタと煽られている。床には倒れた漫画の山が転がり、一見すれば空き巣でも入ったのではないかという程の荒れ様である。


「これじゃあ明日は風邪引くかもな」


 先程まで自分が寝落ちていた環境に苦笑しつつ、男は散乱した本の中から一冊を取り出した。

それは他のようにしっかりとした単行本ではなく、複数の紙を紐で纏めただけの紙束とも見えるものだった。古い友人から貰ったそれは、昔に男とその友人とが漫画を描いて見せ合ったものの集積物だ。しかし中身は友人が描いた分だけであり、男が描いた分は随分前に破り捨ててしまっていた。それを握りしめる男の目は手の力に反してやけに冷たく、夜中にこれを読んで衝動的に物語を書き散らしていた人物のものとは思えないものになっている。床と机に漫画と共に散らされた衝動の欠片は物語的な意味を持たず、ただ断続的に綴られた誰かの時間でしかない。

 下唇を軽く噛み、沸き上がる何かに耐えながら次の用紙とペンを手に取ろうとして男は自問した。──俺は今何をしているのだ──

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