表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

1番好きなパンはメロンパン

登場人物

・俺くん

・パン屋のお姉さん

・パン屋の店長

子どもの頃よく通っていたパン屋がある。菓子パンから惣菜パン、食パンやロールパンみたいなものまで様々なパンを取り扱っていて、行く度に目を輝かせて選んでいたものだ。

俺は決まって菓子パンばっかり買っていたからお店のお姉さんにも覚えられていたらしく『いらっしゃい〜今日も菓子パン買ってくの?』なんて言われていた。

「今日はこれください!」と言いながらメロンパンを手に取る。ここのメロンパンは人気が高くすぐに売り切れるため残っていたのが奇跡のようだ。

『またメロンパン?好きだね〜』って笑うお姉さんの表情が素敵で、ガキの俺にも優しく接客してくれていたのを覚えている。

大きな声では言えないが、お姉さん目的でこのパン屋に出向いてるまである。小学生の俺からしたら高校生だか大学生くらいのお姉さんなんてすごい大人に見えたし、働いてる姿を見てるだけでカッコイイと思っていた。いわゆる憧れの人ってやつだ。

「だっていつ来てもここのメロンパンすぐ無くなるからある時に買わないとさ〜」なんて生意気な口を聞きながらお会計をする。

店を出た俺は袋に丁寧に入れられたメロンパンを取り出して頬張る。外はカリッと中はフワッとしていて、口の中では香ばしく焼きあがったザクザク感とパンのもちもち感が同時に襲ってくる。こんなの嫌いなやつ世界に1人も居ねぇだろ!なんて思いながら食べ進める。

最近ではメロン果汁入だったりホイップ入りだとかチョコチップ入りだったりあるが、ここのメロンパンはそういう物がなく王道で勝負している。だがこれが一番美味いまである。


とある夏の日、外を歩いていた俺は今ほどでは無いがとても暑かったので涼しいところに行きたいと思っていた。そんな時思いついたのがあのパン屋だ。ちょうど小腹も空いていたので何か食べようと思いパン屋へと向かった。

店の中に入ると外とは全く違う世界かの様に涼しい空間が広がっていた。ドアを開けた時になるあの鈴の音と相まって余計に涼しく感じる。その音が聞こえたからか店の奥から『いらっしゃい〜』と男の人の声が聞こえた。店長だ。ここの店長はあのお姉さんの父親、らしい。以前お姉さんが「お父さん」と呼んでいたのを見かけたことがある。

『いつもの坊主か、こんな暑いのに来てくれてありがとな〜』なんて気さくに話しかけてくる。確かに今日はとても暑くお昼前なのに店の中には他に客もいない。

そういえばいつものお姉さんも居ないなと思って聞いてみると『なんだか夏バテっぽくて家で休んでもらってるんだ、すまんなおじさんしか居なくて』なんて冗談交じりに笑いながら答えてくる。

メロンパンも朝の段階で売り切れてしまったのか棚には1つも無く俺は別の菓子パンを手に取って会計へと向かう。

『メロンパンも無くてお姉さんも居なくて残念だったな〜。まあまた来てくれよ』とニヤニヤしながらからかってくる店長に「別にお姉さん目的じゃないから!」とちょっとムキになってしまった。

店の外に出てパンを食べながら「なんだよあの店長、パンは美味いのにひとをからかってばっかで!」なんてぶつくさ言いながら帰路に着く。確かにパンはどれも美味いからなんだかんだ通っている。小学生の頃から中学上がっても毎日では無いが朝の登校時や部活帰りに通っていた。


中学生活も残すところあと1年という時に親の都合で急遽転校する事になってしまった。突然の事で驚きはしたが、まあしょうがないかって思いながら友達との別れを惜しんだのを覚えている。

今生の別れでもないのに『いつでも連絡してくれよな〜』って泣きながら抱きついてくる友達に「はいはい、わかったから」って宥めながら離す。

この時には頭に無かったが引っ越した後に「うわー、あそこのパン最後に食べたかったな〜」と後悔していた。

残りの中学生活、高校、大学を転校先で過ごしていたが何かの縁があってか就職先は小学生時代を過ごしたあの土地だった。

俺は初めて親元を離れて一人暮らしをするのと、懐かしい土地を訪れるのと二つの意味で楽しみだった。


引っ越して荷解きをしてる中、俺は久々の土地を見て歩きたくなってしまった。居ても立ってもいられなくなった俺は、続きは明日やろうと財布を片手に家を飛び出した。

当時住んでいた家の周辺、通っていた小学校や中学校の通学路、友達と遊んだ公園、祭りの時だけ賑わう古い商店街、親と買い物しに来ていたスーパー。

懐かしいな〜、子どもの時の記憶が蘇ってくるなんて思いながら街を歩いていた。ここのお店潰れちゃったんだ〜、ここの駄菓子屋まだあるの!?とか思っていると辺りはそこそこ変わっているのにそこだけ何も変わっていないかのような懐かしい看板を見つける。そう、あのパン屋だ。

俺は吸い込まれるようにそのパン屋へと足を伸ばす。看板も外観も全然変わっていない。ドアを開けるとあの鈴の音が鳴る。

何も変わっていないパン屋に安心感を覚えたのも束の間、中に入った俺は驚いた。なんと、イートインコーナーが出来ているではないか!

時間が時間だからか、他に客はおらず奥から『いらっしゃい〜』の声が響き渡る。ちょっと変わってるがこれは店長の声だ。懐かしさを感じながら奥から出てきた店長の姿を見てまた驚いた。白髪混じりでシワも出来ている。それもそうだ、10年近く空いていたのだから見た目も変わっているだろう。

「店長お久しぶりです、覚えていますか?10年くらい前によく来てたあの時の子どもなんですが」なんて声をかけると、店長は覚えていたらしく『あの時の坊主か!?でかくなったな〜!久しぶりだな〜』と返してくれた。

親の都合で転校したこと、就職先がこっちで帰ってきたこと、世間話に花を咲かせた。

「そういえばお姉さんは?今日は休みですか?」周りには俺と店長しか居らず、いつかの夏の日を思い出した。

『ああ、あの子なら結婚してもう家を出ちゃったよ。3年前くらいかな〜。坊主が来なくなってちょっと寂しそうだったんだぞ〜』

店長の言葉を聞いてショックを受けた。そりゃそうだ、俺が小学生の時から働いてて、俺ももう22歳。お姉さんもいい歳だし結婚くらいしているだろう。

「へ〜そうなんですね、おめでたいな〜。俺も彼女欲しいな〜」なんてショックを見せないように強がっていた。

店長はそんな俺を見透かしているのか『本当はお姉さんに会いに来たんじゃないのか?』なんてにやけた顔をして聞いてくる。

「別にお姉さん目的じゃないから!」と昔と同じやりとりをして二人で笑う。

『それはそうと何か食べるか?メロンパン残ってるよ』と、昔なら即売り切れてたメロンパンが夕方前でも残っているらしくこの街の繁栄さが伺える。

「じゃあ1つだけ」とメロンパン1つ購入しイートインコーナーの座席に座る。店内で食べるのはもちろん初めてだし、折角ならとコーヒーも一緒に購入した。

一口かぶりつくと昔と変わらない外はカリッと中はフワッとした食感を覚える。しかし味がおかしい。昔は甘かったはずなのに今はしょっぱい。さては店長砂糖と塩を間違えたな?なんて思い「店長今日のメロンパンしょっぱいですよ、間違えて塩入れちゃいました?」なんて言うと隣の席に店長が座ってくる。

『坊主…なんて歳でもないか。すまんな、おじさん間違えちゃったみたいだわ』とか言いながら俺の肩に手をポンと乗せてくる。この店長は子どもの頃の俺も、今の俺も見透かしていたのだろう。


あの頃は憧れのお姉さんとしか思っていなかったけど実はあれが初恋だったんだなと言う、初恋を初恋と気付かないうちに失恋する話。

初恋は必ず叶う、というものでもないし、ふとした時にあれが初恋だったのかも、と思うものだと思っています。


甘酸っぱいような話かと思いきやほろ苦い思い出、のような話は好きですか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ