第6話
ここまで先導していたコリンが、俺たちの方を無言で振り返り、あごでクイッと店の方を指し示す。
「ここで待ってろ」ってことか?
俺たちが立ち止まったのは、なんというか、年季の入った雑貨屋…と呼ぶのが正しいのかも怪しい店だった。正面入り口の上には、古くて汚い木の看板がかかっている。
「なんでも屋 ブシドー」
…かろうじて読める店名の横には、なぜか、ぷっくりと太った、やけに愛嬌のあるおじさんのイラストが描かれていた。文字はところどころ掠れてるし、看板自体もボロボロ。ミスマッチ感がすごい。
コリンは、そんな店の入り口から中を覗き込み、奥に向かって大きな声で呼びかけた。
「おーい、ブシドー! いるかー!?」
「ああん? …コリンか、うるせぇガキだな」
店の奥から、地鳴りのような、やたらとドスのきいた声が返ってきた。…え、今の声の主が、あの看板のイラストのモデル…? いやいや、まさか。
「あいかわらず不景気そうな店だな! つまんねぇガラクタばっかり並べやがって!」
コリンのやつ、店主相手に容赦ないな…。
「余計なお世話だ! てめぇみてぇなクソガキに、物の価値がわかってたまるか!」
ガラッ、と音を立てて、店の奥から姿をあらわしたのは――。
えええええええ!? 嘘だろ!?
筋骨隆々、岩みたいな体躯。丸太みたいに太い腕。鋭い眼光。どう見てもカタギじゃない、厳ついスキンヘッドのオヤジだった。看板の、あのほのぼの系ゆるキャラおじさんはどこ行った!? 詐欺だ! これは看板詐欺だ!
やばい、こいつは絶対やばいタイプの人間だ! 俺の動物的な第六感が、警鐘をカンカンカンカン鳴らしまくってる! 思わずコリンの後ろに隠れるように、体を小さくする。
しかし、俺の恐怖心などどこ吹く風、コリンは厳ついオヤジ――ブシドーに向かって、さらに気安く悪態をついた。
「へっ! 物の価値がわかる奴なら、そもそもこんなゴミ置き場みてぇな店、来るわけねぇだろ!」
「へっ、口の減らねぇガキだな。誰に似たんだか…ん?」
ブシドーの鋭い視線が、コリンの後ろに隠れていた俺たちに向けられた。ヤバい、見つかった!
「あ、えーと、あの、すいませんでした! 」
なんで謝ったかって? いや、だって怖いんだもん…。
「…なんだ、こいつらは」
俺とユーノをジロリと一瞥し、ブシドーは怪訝そうにコリンに尋ねる。その威圧感たるや、そこらのチンピラとはレベルが違う。
コリンがニヤニヤしながら答えようとした、まさにその時。
「あの!」
それを遮って、隣にいたユーノが、凛とした声でブシドーに話しかけた。
「この店に、黒いギターケースは持ち込まれていませんか? もしくは、この辺りのお店で、ギターを持ち込んだ人を見かけたり、そういう話を聞いたりとかは?」
お、おい! マジか、この子! この見るからにヤバいオヤジ相手に、物怖じゼロかよ! 俺なんか、もう膝が笑い始めてるっていうのに!
「あぁん?」
ブシドーは、値踏みするようにユーノの頭のてっぺんから爪先までじろじろと眺めた。それから、視線をコリンに戻す。
「…どういう風の吹き回しだ? コリン。お前がカモをこんなとこまで連れてくるなんざ、珍しいこともあるもんだな」
「カモ」って言ったぞ、このオヤジ! やっぱりグルか!
コリンは、「カモねぇ…まあ、カモはカモなんだけどさ」と、さっき俺たちがやられた一件を思い出してか、ニヤニヤ笑いながらブシドーに説明しようとした。
「いや、実はこいつら――」
しかし、コリンの言葉はまたしても遮られた。今度は道の向こうからだ。
「おーい! ブシドー! コリン!」
息を切らせた、切羽詰まったような声。見ると、一人の男がこっちに向かってあわてた様子で走ってくる。
ブシドーとコリンが、声のした方を同時に向く。
「お、ライゾウじゃねえか。どうしたんだ、そんな血相変えて」
「あ、コリン! お前、無事だったのか!?」
ライゾウと呼ばれた男は、コリンの顔を見るなり、少し安堵したような表情を見せた。
「は? 何がだよ?」
「何がじゃねぇよ! ルシアーノ・ファミリーだよ!」
ルシアーノ…ファミリー? なんだそれ、どっかのレストランの名前か? いや、この雰囲気、絶対に違う! もっとヤバいやつだ!
ライゾウはそう言うと、店の前にあった古びた縁台にドサッと腰を下ろした。よほど急いで走ってきたのか、肩で大きく息をしている。
「ブシドー、わりぃ…水、一杯くんねぇか?」
「おう。一杯2,000イェニーだ」
「つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ! 早く!」
ブシドーが店の奥から持ってきたらしいコップの水を、ライゾウは文字どおり一息で飲み干した。ぷはーっと大きく息をつき、ようやく少し落ち着きを取り戻したようだ。俺とユーノは、突然の展開に完全に置いてけぼりだ。
ライゾウは、険しい顔つきで、ブシドーとコリンに向かって話し始めた…。
第1話のエピソードの最後に、本作品のメインヒロインであるユーノのイラストを掲載しました。