第4話
今回からまたトーマ視点に戻ります。
思ったとおり、路地の少し奥に、さっきの栗色ショートボブの少女がいた! 俺の姿を認めると、露骨に「ゲッ!」って顔をした。わかりやすい奴め! 少女が踵を返して逃げ出そうとした、その瞬間!
「待て、てめぇ、この!」
俺は文字どおり飛びかかり、逃走を図った少女の細い左腕を鷲づかみにした!
「痛ってぇ!? 何すんだよ!」
「逃がすわけねぇだろ、この泥棒ムスメ!」
俺は、(めちゃくちゃキレてます!)って気持ちをできる限り全面に出し、少女の腕を両手でガッチリつかまえた。内心はドキドキだけどな!
「はなせ! この変態! ロリコン!」
「誰がロリコンだ! 俺は被害者だっつーの!」
少女が暴れるが、残念だったな。見た目より腕力には自信があるんだ。お前みたいなガリガリ娘に振りほどけるほど、ヤワじゃないんでね!
そのまま、抵抗する娘の腕を引きずるようにして、路地裏から大通りへと引きずり出した。…で、出たところで、さっきの赤い髪の美少女とバッタリ顔を合わせた、というわけだ。
彼女は、俺が栗髪の少女の腕をつかんでいるのを見て、少し驚いた顔をしている。
「おい! あんた!」 俺は、自分の大失態は天高く棚上げして、彼女に向かって言った。
「こんな古典的な手に引っかかるなんて、無用心すぎだろ! さっきのギター泥棒とこいつはグルだぞ! まったく、お人よしにも程があるぜ!」
我ながらどの口が言ってるんだって感じだが、今は勢いが大事だ。
彼女は、俺の言葉に少し眉をひそめた後、俺が腕をつかんでいる少女に視線を向けた。
「…本当なの?」
少女は、チッと舌打ちすると、ぷいっと顔を背けて言い放った。
「…うるせぇな! この街じゃ、グズでマヌケなお人よしは、馬鹿を見るのが運命なんだよ! 常識だろ、このバァ~カ!」
うわっ、開き直り方がプロ級だ! しかもこいつ口悪ぃ! 俺はつかんでいる腕にグッと力を込めた。
「正直に言え! さっきのヒゲ親父は誰だ!? どこに行った!?」
「…知るか、そんなオッサン」
「盗んだリュックとギターケースはどこにやったんだ!」
「さあ? 私が盗ったんじゃねーし」
こいつ…! どこまでもシラを切るつもりか!
「…いいだろう。そこまで言うなら、この街の警備兵に引き渡して、じっくり話を聞いてもらうとしようか!」
俺がおどしのつもりですごむと、少女は腹を抱えて笑い出した。
「ひーっ! こ、この街の警備兵!? あんた、本気で言ってんの? プププッ!」
「な、何がおかしい!」
「あんた、やっぱり他所の州から来た田舎者か何かだろ? このカヌードルに、そんな立派なモンいるわけねーだろ! 甘っちょろい夢見てんじゃねーぞ、マヌケ!」
…………え?
け、 警備兵、いないの…? マジで…?
公権力は、か弱い市民を守ってくれないの…?
少女の言葉に、俺の心の中で何かがポッキリと折れた音がした。
(ああ、もう…本当に最悪だ。こんな街、一秒だっていたくない。俺、カヌードル嫌いだ。街も、人も、全部すげぇ嫌い…)
心の中で絶望していると、ふと素朴な疑問が浮かんだ。
「…じゃあ、せめて 盗まれたものがどこに行くかくらい教えろよ、 なあ!」
俺が訴えると、少女は鼻をほじりながら(!?)、面倒くさそうに答えた。
「さあねぇ。目利きが盗んだんなら、もうとっくに闇市にでも流されてんじゃない? 知らんけど」
や、闇市…! いかにもこの街にありそうな、前時代的な響き!
俺が絶望の淵でプルプル震えていると、隣で黙って聞いていた赤髪の少女が、意外なことを言い出した。
「それじゃあ、その闇市まで案内してよ」
腕をつかまれている少女は、目をパチクリさせながら言った。
「…はぁ? あんたバカ? なんでアタシが、アンタみたいなカモを案内しなきゃなんないわけ?」
「案内してくれたら、チップを払うから」
この子、さらりと言い放った! チップ!?
その言葉を聞いて、俺は思わず叫んでいた。
「おい! ちょっと待て! 正気か!? あんた、自分が何を言ってるかわかってんのか? そいつは、あんたの大事なギターを盗んだ共犯者だぞ!? その犯罪者に!お駄賃払って? 闇市までエスコートさせるだと!? アホか? それとも天使なのか!? いや、ただのアホだろ、それは!!」
俺のツッコミも虚しく、彼女はまっすぐ少女を見つめている。さて、このカオスな状況、どうなることやら…。
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