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10年後の君へ  作者: ざこぴぃ
3学期
21/29

第20話・霧川小夜子


 ――2011年3月10日(木曜日)14時46分。

 突如地面が揺れだし、留置場内が激しく揺れる。電灯は消え、火災が発生し、目の前で起きている事が頭の中で現実と結び付かない。

 僕達が独房から廊下に出ると、暗闇に立っている人影が見える。暗くて良く見えないが、それは隣の部屋……柏木望の独房の前にいた。

「あなた!危ないですよ!早く逃げないと!」

「……君は?見たことある顔だわね……」

「え?あなたは……」

「センケ……ワタシノ……オシエゴ……クックックッ」

「そう……千家君。こんな所にいたのね。また補習をしたいのかしら……」

「何を……言ってるんだ?こんな状況で……霧川先生……」

柏木望の独房の前には霧川先生が立っていた。

「霧川先生!説明は後だ!早く逃げな――え?」

 目の前の霧川先生があろう事か、銃を手に持ち銃口を僕に向ける。

「え?何をして……るんですか?」

「何を?千家君はおかしな事を言うわね。悪い子にはお仕置きが必要なんですよ?」

「先生、そんなもん人に向けたら駄目――」

『――カチッ!バァンッ!!』

一瞬だった。彼女は僕に向け躊躇なく引き金を引いた。

「千家様!危なっ――!!」

 銃弾は手を伸ばした凛子の腕を貫通し、目の前で血が飛び散り、僕の耳をかすめて行く。

「え?」

「ギャァァァァァァッ!!」

「凛子ォォォォォ!!」

凛子が悲鳴を上げ、美甘が倒れた凛子の腕を抑える。

「ヘヘヘ……サヨコ……ヤラセロヨ……ハァハァ……」

 柏木望が壊れた独房のドアを外し、霧川先生の足にしがみつく。まるで壊れた玩具の様に……。

「ちっ、気味の悪い……。柏木望。お前は新薬の実験台でもう用済みなんだよ……今日はお別れを言いに来たんだ」

「サヨコ……ヤラセテ……」

『――カチッ!バァンッ!!』

「ア……ガッ……!」

「柏木先生……!?」

 霧川先生が柏木望の脳天を銃で撃ち抜く。そのまま地面に這いつくばり、動かなくなる柏木望。

「おいっ!!霧川先生!あんた何をしてるんだ!気は確かか!」

「おやおや……千家君はもう少し賢い子だと思っていましたが……」

『カチッ……』

霧川先生はポケットからタバコを取り出し火を点ける。

「ふぅ……。私は霧川小夜子。数百年前から千家の家系を恨む者。何度も生まれ変わり、その度に千家の命を狙ってきた。今思えば何とも……幸せな人生か」

「何を言ってるんだ……人を殺しておいて何が幸せな人生だ!狂ってやがる!」

「はっはっはっ!何代続いても千家は正義感があってよろしい。それでこそ殺しがいがあると言うもの……」

「お前の目的は僕だろ!他の人を巻き込むな!」

「いやいや。今回のターゲットは千家のみではない。全国の千家の末裔がいる場所で災害を起こし、あたかも千家がいると災いが起こるという歴史を作りたかったのだよ。わかるかね?この壮大な計画が。そして柏木白子を使い、その計画を実行した……」

「柏木白子?白子もお前の命令で動いてたのか!」

「ふふふ。気付くのが遅かったわね。未来を知る者ならば3月11日に災害が起こると予想する。だけど私は腹黒いのよ……3月10日に術式を完成させれば『災害は起こらない』と白子に教えたの。白子はそうとは知らずに一生懸命、災害が起こる術式を全国で作ってくれたわ……ふふふ……あっはっはっは!!愉快だわ!!」

「白子は……元から災害を止める為にやってたのか……!それが災害を起こす引き金になるとも知らずに!!」

「だからそう言ってるじゃない?そろそろ警官が来る頃ね。お別れよ。この時代では私の勝ちの様ね。千家……さようなら――」

そう言うと、霧川小夜子は僕にまた銃口を向けた。

「くそぉぉぉ!!」

『――カチッ!!』

「――漆黒の太刀・影り月!!」

『バァン!!』

『シュンッ!』

 銃声が轟くのとほぼ同時に、何かが霧川先生の右腕を切り落とす!!

「ギャァァァァァァ!!」

「夢夢かっ!」

「千家様!!」

右腕を切り落とされ、叫ぶ霧川小夜子。

「ご無事ですか!千家様!」

「た、助かった……」

「おのぉれぇぇぇぇ!!」

 霧川先生が自分の落ちた腕から銃を取ろうとする。夢夢が霧川先生と僕の間に立ち、剣を構えた。

「そこまでだっ!!動くな!!」

通路の補助灯を頼りに数人の警官が駆けつける。

『――カチッ!バァン!バァン!!』

「撃ってきたぞ!盾を用意しろっ!」

霧川先生が銃を取り、窓に向かい発砲した。

「霧川先生!逃げるのかっ!」

「覚えておけよ、千家!貴様は絶対に許さない!」

 そう言い残し、霧川先生は防弾ガラスであろう窓に向かって飛びこんだ。

『ガッシャァァァン!!』

 先程、窓に向かって撃ち込んだ銃弾でひび割れたガラスは霧川先生が飛び込む事でいともたやすく割れ、霧川先生はあっという間に落下していく。

「おい!誰か飛び降りたぞ!ここ5階だぞ!下に周れ!救急車の手配だ!」

「はぁはぁ……霧川先生……」

「凛子!大丈夫でござるか!」

夢夢が凛子の傷口を確かめ、服の袖で止血を始める。

「あね様……大丈夫です。それより早くあの者を……」

「病院が先でござる!掴まりなさい!」

「ちょいとお待ちなさい――」

「か、片桐刑事……!」

「千家さん、無事で良かった。遅くなって申し訳ない」

「片桐刑事!今はあんたの事情聴取を受けている暇はない!」

「わかっています。状況も先程、警官から聞きました。行きなさい。その子は私が責任を持って病院に連れて行きます」

「片桐刑事……。信じてもいいのか?」

「ご主人様……行って下さい……足手まといにはなりたくないです……」

「凛子……わかった。夢夢、行くぞ」

「はい、千家様。美甘、凛子を頼んだでござる……」

「はひ!あね様!」

「そうそう千家さん。下に車を用意させてます。私の部下なのでご自由に――」

「……ありがとう、片桐刑事」

 補助灯を頼りに夢夢と2人でエレベーターに向かうが、地震のせいか、エレベーターは動かない。仕方なく、非常階段から1階へと降りて行く。

「夢夢、やることは3つだ。霧川先生の拘束、真弓の保護、小夜子の……」

「千家様?どうされました?」

「いや……小夜子?偶然なのか。霧川先生と同じ名前だ……」

「そう言えばそうですね。あまりに違和感がありますね」

「あぁ……まさか南小夜子と関係があるのか……」


 ――駐車場では片桐刑事の部下が待っており、辺りではサイレンの音や慌ただしく走る警官の姿が見える。

「千家君、お待ちしてました。片桐刑事から話は聞いています。どちらに向かいましょうか」

「すいません……東海浜医療専門学校へお願いします!」

「わかりました」

 時刻は15時20分になろうとしていた。無線とラジオで地震の状況が次々と流れてくると、僕はそれに耳を傾ける。

『――14時46分に発生した地震は震度6強、震源地は東海沖でマグニチュード……』

『――ガガッ!こちら東浜交差点。信号が消え渋滞を確認。ひき逃げの目撃情報も有り。応援を要請する。繰り返す――こちら――ガガッ!』

「千家様、西奈真弓さんは東海浜医療学校におられるのでござるか?」

「あぁ、3月11日であれば自宅にいると言っていた。しかし3月10日は確か学校説明会があると……。3月10日なら大丈夫だと思い、特に何も忠告しなかったんだ……」

「そうなのですか……。千家様、大変言いにくいのですが海岸からは引き返すのがよろしいかと」

「え?どうしてた?また大きな地震が来るのか」

「いえ……地震も来ますが、この災害は地震よりも――」

夢夢が有珠から聞いた話を説明してくれる。

「そんな……!それがこの災害の……」

「えぇ、大きな被害が出たのは先の地震ではなく……そう有珠様は言っておられました」

「時刻は聞いているのか?」

「はい、ただズレも生じているかもしれません。先程からラジオと無線を聞いていますが、まだ情報がありませんし、千家様の携帯電話にも――」

 夢夢がそう言おうとした瞬間だった。突然、携帯電話が鳴った。

『――ピロピロピロン!!』

【大津波警報発令されました】

 携帯の画面が赤くなり、大津波警報の文字が表示される。

「夢夢……これが……!」

「おそらく、有珠様の言われてた……」

『緊急地震速報です。数十秒後に大きな揺れが起こる可能性が――』

 矢継ぎ早に、地震速報もラジオから聞こえる。

「揺れてますね。千家さん、少し車停めますね」

「はい」

刑事の判断で路肩に停車し揺れが収まるのを待つ。

『この先500メートル渋滞です』

「ナビ通りだと、どうやらこの先の東浜交差点から渋滞ですね。回り道は……」

「東海浜医療専門学校まではどのくらいですか」

「あと1キロ程ですが、渋滞次第では15分……いや20分はかかるかと思います」

「夢夢、行こう。刑事さんありがとうございます。ここから歩きます」

「大丈夫ですか?十分気を付けてください」

「ありがとうございました。片桐刑事にもお礼を言っておいてください」

「わかりました」

 僕と夢夢は車を降り、交差点に向かって走る。東海浜医療学校は交差点を右折してあとは真っ直ぐ海の方向へ向かうだけだ。

 東浜交差点は事故で大渋滞しており、車のクラクションがひっきりなしに鳴り、罵声も聞こえる。救急車も見えたがこの渋滞では動けない様だ。

「何だ……?胸騒ぎがする……」

「千家様、どうかされましたか?」

 なぜだろう……その時、急に有珠の言った言葉を思い出す。虫の知らせと言うやつだろうか。

『――南小夜子を死なせるな』

 僕はとっさに東海浜医療学校ではなく、事故現場であろう目の前の東浜交差点へと向かった。

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