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10年後の君へ  作者: ざこぴぃ
2学期
15/29

第14話・かみのこはる神社


 ――2020年10月9日土曜日。

 柏木白子が行方不明になり1ヶ月が経ち、ようやく動きがあった。猿渡一族の里がある【富士の樹海】の近郊で白子の目撃情報があったのだ。

 金髪、青い瞳、ガングロ……東方理子の真似はまだ続けているらしい。逆に目立つと思うが、気に入っているのだろう。

 週末からの3連休を利用して有珠達と富士の樹海へと向かう。

「夢夢の里は近くなのか?」

「はい、千家様。桜の里と言いまして1年中桜が咲き誇り、それはそれは美しい里で御座います」

「へぇ、1度行ってみたいな」

「まぁ!それは是非寄って頂きたいです!有珠様!いかがですか!」

「うむ。数百年ぶりに寄ってみるかのぉ」

「はぁ、またこの子は冗談ばかり言って。有珠、数百年ぶりっていったい何歳なんだよ」

「千家!貴様!ねぇさまが数百年ぶりと言ったら数百年ぶりなんだ!」

「おかしいだろ!数百年とか!黒子もそもそも何歳なんだよ!」

「黒子様!千家様!お二人共落ち着いて下さい!有珠様も何とか言って下さい!」

「何とか」

「……はぁ」


………

……


 バスに揺られ向かう富士の樹海。その日は樹海近くの町で宿を取り聞き込みをする。

 数日前に金平糖山の参道で、周囲とは明らかに違う格好で目立った女の子が歩いていたそうだ。金髪に青い瞳、ガングロだったらしい。その女の子が柏木白子で間違いないだろう。

 僕はバスの中で地図を開く。

「もし、白子が行くとしたら……」

「ここじゃろうな」

「かみのこはる神社?」

「あぁ、神聖な神社じゃ。今はもう管理する者もいないと聞くがな」

「有珠様、私も以前行った事があります。誰もいませんでしたがなぜか境内は綺麗な状態でしたね……」

「うむ。猿渡も知らぬであろうな。あそこはモノノ怪と呼ばれるあの世とこの世を繋ぐ者達が住むと言われておる。もし人柱の儀式を続けるとしたら……」

「ん?人柱の儀式は病院でもう終わったのではないのか?」

「千家、あれは人柱の最初の1手よ。大掛かりな陣となれば各地であと5回は術式を組まないといけないわ。その都度、大勢の命が普通は必要なのよ」

「そういう事じゃ。ただし修復者(リストーラル)の頭部が1つあれば命の代用が出来る。頭1つ持って歩いて術式を完成させるのが最も効率が良いのじゃ」

「うぅ……その度に、緑子の頭を捧げるのか……うっ……」

「吐くなよ。吐くならバス亭に着いてからにしてくれ」

「ねぇさまの前で吐いたら、承知しませんわ」

 金平糖山のふもとまではバスで行き、バスの終着点のある町からさらにタクシーで神社まで向かう。

 猿渡の屋敷を出発してから4時間。ようやく目的地の神社に着いた。

「ここから先は車では入れねぇべ、神社まではあと徒歩で5分程だべ」

「ありがとうございます。1時間程したらまた来て頂きたいのですが?」

「ええだべよ、近くの駐車場でまっとるだで。気をつけての……」

「はい、ありがとうございます」

 タクシーを降り山道を行くと、人が歩いた形跡もある。時々誰か来ているのだろうか。タクシーの運転手が言っていた様に5分程行くと鳥居が見えてきた。

「着いたぁ……遠かったな」

「うむ」

神社脇の空き地にはお墓が並んでいた。

「【星野瀬家之墓】【神野家之墓】……か。綺麗にしてあるな。花もまだ新しい。誰かお参りには来てるんだな……」

 僕はお墓に手を合わせる。隣で有珠が懐かしそうに墓をなでる。

「……久しいのぉ。また……会えたの」

――そう呟いていた。


 神社の本殿に入ると、血の匂いと何かを書いた跡がある。

「黒子、この術式はわかるか」

「はい、ねぇさま!これは……『神降ろしの儀』ですわね」

「やはりそうか。初手が『時限の儀』ときて、2手目が『神降ろしの儀』とすれば……」

「なぁ、有珠。本当にその災害は起きるのか?」

「千家よ、何を言う。貴様も災害を見……まさかもう記憶が薄れて来たのか……?」

「……すまない。その日に何が起きたかは……ここ数日で記憶が……」

「ねぇさま、これは千家にも時限の儀が働いている証拠。術式は成功しているものだと思われます」

「どういう事じゃ?千家は時追者(トラベラー)では無いのか……?もしや鍵持者(キーホルダー)なのか?」

「どういう事だよ、僕は2000……え?いつだった……?」

「うむ……いかんな、記憶が曖昧になってきておる。千家が鍵持者(キーホルダー)だった場合、最後に狙われるのはおそらく……」

「ですわね、ねぇさま。千家を連れて歩くのは得策ではありませんわ」

「そうじゃの。黒子よ、術式の解析を致せ。千家を一旦連れ帰るぞ」

「はい、ねぇさま」

「猿渡よ、わしがこれから起こる事をお主に伝えおく。命に替えても千家を守るのじゃ」

「はっ!有珠様!」

 有珠と黒子は何やら聞いたことのない言葉を発しながら、本殿にある術式とやらを綺麗に拭き取っていく。

 やることの無い僕と夢夢は縁側でひなたぼっこをして待つ。10月だと言うのにまだ日差しが暑い。

 夢夢が足をトントンし、ここに横になれと言う。僕は夢夢の膝枕に甘え横になる。

「夢夢、山向こうに屋敷が見える。なぜあんな山奥に建てたのかな」

「なんでも温泉が出る宿があると聞いた記憶があります。しかしもう誰も住んでおらず廃墟となっているとか」

「へぇ……そうなんだ……」

 夢夢の膝枕でウトウトとする。そろそろタクシーを呼ばないとと思いながらも、僕はそのまま寝入ってしまった。


………

……


「――この地にいつか千家の血を引くもの……あるいは神宮寺の血を引くものが現れたらこれを渡して欲しい」

「ご主人タマ、この刀ハ!」

「レイよ。我が家宝、お前に託すぞ」

「レイちゃん、私達はあなたより少し先に逝くだけです。いつかまた会えるわ。小春をよろしくね」

「ご主人タマ……のこサン……逝かないで……うぅ……」

「泣かないで、レイちゃん……ほら顔をあげて――」


……

………


「はっ!?」

「お目覚めですか?千家様」

「……夢?か。いつの間にか眠ってた」

「10分程です。有珠様達もそろそろ終わる様ですわ。タクシーを呼びましょうか」

「あぁ……。と、その前に夢夢……」

先程、夢で見た内容をかいつまんで話をする。

「と、いう夢だった。それは神野のお墓の裏に」

「……なるほど。千家様、ちょっと掘ってみましょうか」

「あぁ、気になるな」

 僕と夢夢は納屋からスコップを取り出し、墓の裏を掘ってみる。土は柔らかく1メートル程掘ると先端に何かが当たった。

『カツンッ!』

「鉄箱……?」

「千家様、私が掘り出します。あっ!有珠様、少々お待ち下さい」

「ん?お主ら、何をしておるのじゃ?こっちは終わったぞ」

「ねぇさま、千家が墓荒らしをしておりますわ。くわばらくわばら……」

「おいおい、言い方……」

「せぇの……!!」

 そう言うと夢夢が鉄箱を地面の上へと掘り起こす。表面の土を落とすと、細長い鉄箱には『かみのこはる神社―封―』という文字が書いてある。

「開けるぞ?」

 鉄箱は錆びていたが箱の中にはさらに木箱があり、木箱は綺麗な状態だった。僕は木箱を慎重にそっと開ける。

「わっ!!」

「ひょぇっ!」

 有珠が急に大声を出す。びっくりして木箱をひっくり返す僕。

「有珠っ!!」

「すまん、すまん。あまりに真剣な顔をしていたのでつい……」

「ねぇさまさすがですわ!あの千家の驚いた声!『ひょぇっ!』とか言ってましたわ!ぷふっ!」

「黒子、やめぬか。ちょっとしたたわむれじゃ……ぷふぅ!」

「お、お前ら叩き斬ってやる!!」

木箱から転がり出た刀を、半分冗談で引き抜くっ――!

「ちょ!!ちょ!この刀!うわっ!」

 引き抜いた刀が青白く光り出し、全身の力が抜けていく。まるで生気を吸い取られる様な感じがして、意識が遠のいていくのがわかる。

「千家様!刀をこちらへ!!」

 夢夢が僕の体を支え、刀を奪い取る。同時に周りの風景がしっかり見え始める。

「び、びっくりした……死ぬかと思った……」

「死にはせぬわ。それは妖刀ではないか、猿渡は何ともなさそうじゃの」

「はい、有珠様……何ともないどころか力が湧いてくるような感じすら致します……温かい……」

「ふむ。それはお主が預かっておくが良い」

「はい……有珠様……。千家様、いかがでしょうか」

「僕が帯刀してたら、銃刀法違反で捕まるし。夢夢に持ってて欲しいかな」

「はい!ありがとうございます!」

「ねぇさま、あの刀は?」

「ふむ。話せば長くなるがな……あれは《《獅子王丸》》と言って、かつて――」

 有珠の話を聞きながら、タクシーを呼び乗り込む。すでに陽は傾き、山が夕日で赤く染まっていた。


『いってらっしゃいマセ、ご主人タマ――』


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