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パリピ占い師ギャルは超絶イケメン貴族にベタ惚れされて今宵もほろ酔い

「…13番、死神の正位置。」私はタロットカードをめくって呟いた。


向かい合う女性客は口に手を当て青ざめる。


「蘭ちゃん、ビビりすぎ。死神って、見た目ほど悪いカードじゃないから~。」


大げさに笑って、軽い調子で女性客の不安を解く。


「ほんとに?麗羅ちゃん。だって、死んじゃうって事でしょ。私と彼どっちか死んじゃうの!?」


「そんなわけないじゃん。死神っていうのは一回リセットを暗示するカード。

二人の中で余分なものが剝がれるイメージ。別れるとかじゃなくって、

お互い心地よくあるためによりよい関係へシフトしていく流れ。

最近嫌だなって思ってた彼の部分が、変化していく兆しだよ。」


何か思い当たる節があったのだろう。


そう聞いて蘭は少し安心した顔を見せ「そっか。良かった。」とほほ笑んだ。

 

「はい。鑑定料。今日もありがとね。」


蘭は財布から一万円札を出して私に渡した。


「まいどあり。」片手で受け取る。


「麗羅ちゃん。ビールでいい?」


私の返事を待たず、蘭はスタッフにビールをオーダーしていた。


私、タロット占い師の|風見麗羅(かざみれいら)


大学卒業後、就職できず占い師になった。

 

大学時代からのバイト先であるクラブに籍を置かせてもらい、当面の飲み代を稼いでいる。


私はクラブの従業員としては無能そのもの。


接客では「注文が覚えられない」「サーブを間違える」「レジ打ちが苦手」といった理由で

ホールに立てない。

 

キッチン業務はろくに自炊もした事がない私にとって、未知の世界。

 

一度ボヤ騒ぎを起こし、店長から「麗羅をキッチンに入れるな」と業務命令が出ている。

 

そんな私でも人より秀でているものがある。

 

私はお客さんと喋り、場を盛り上げるのがめちゃくちゃ上手いのだ。

 

お客さんにお酒を注文してもらい一緒に飲んでしゃべりまくる。みんなを笑顔にする。

 

それがこのクラブでの私の業務だ。


就職できない事が確定した際、近所のカルチャーセンターでタロット占い講座をやっているのを知り

何となく通い始めた。


それが意外と楽しくて、ドはまりした。

 

就職先がない私を不憫に思った店長が占いブースを作ってくれたのが始まり。

 

私はフリー占い師としてクラブを拠点に活動を始めた。

 

SNSでお客さんたちが投稿してくれたおかげで、すぐに評判が広まった。

 

今では人気が出てきたし、「鑑定料は一回一万円と私にお酒をオーダーしてもらう事」としている。


お高めだがこれでいい。

 

安い鑑定料だとお客さんが来店しすぎて、お断りする事が多かったから。

 

こうして私は飲みながら占いで稼ぐスタイルを確立したのだ。

 

その日、クラブでの勤務を終え千鳥足で帰宅している時だった。

 

クラブから家まで徒歩圏内。途中、大きな橋を渡る。


橋の上から眺めるこの景色が私は結構好きだ。

 

夜の闇で活動した人間を、白み始めた朝陽があたたかく包んでくれる感じがするから。

 

いい気分に邪魔が入った。


「おい、麗羅!てめぇ、インチキ占いで金取ってんじゃねぇぞ!」


「お前の占いのせいで迷惑してる奴がいるんだよ。」

 

喧嘩を売られた。最近しょっちゅうだ。

 

占いが有名になればなる程、快く思わない奴らに待ち伏せされて喧嘩を吹っ掛けられる。

 

マジめんどくさいんですけど。

 

私を睨みつける数人の女たちに囲まれた。


こいつらもクラブで私が占いをやっているのが気に入らないのだろう。

 

女たちはじりじりと私に詰め寄り、私の背中が橋の欄干に触れるところまで迫ってきた。


「私が無理やり占ってるわけじゃないし、お客さんは自分から占ってほしいって店に来てんだよね~。

つーか、あんたらに関係ないじゃん?私急いでるからさ。どいてくれない?」

 

「はぁ?お前生意気なんだよ!」


 埒が明かない。


 このまま無視して立ち去ろうと思った時だった。


 視界がスローモーションになり、体がゆっくりと河に向かって落ちていく。


 私は橋の上から突き飛ばされた。

 

水面に上がろうともがくけど、浮かぶ事ができない。


水の底に引っ張られる。


「助けて!」


私の叫びは、泡になって消えた。


 ――


辺りが眩しい。眠っていたみたい。

 

私何してたんだっけ。

 

……そうだ。私、橋の上から突き落とされたんだ。

 

あいつら……まじで許さない。ボッコボコにしてやる!

 

勢いで起き上がった瞬間、唇にやわらかい感触が伝わる。

 

目を開けた先には、超絶イケメンの男が私にキスしていた。

 

反射的に離れる。

 

なに!? 誰!?

 

「美しいお嬢さん。もうお目覚めか?」

 

しかも私は、イケメンにお姫様抱っこされている。

 

この状態で眠りこけていたらしい。

 

どういう状況?

 

でもキスって! 初対面でキス!?

 

いや、私が急に起き上がったから事故よ。事故!

 

「あの……あなたが私を助けてくれたんですか?」

 

キスには触れず、平静を装って確認した。


「ああ。僕が偶然通りかかって良かった。川岸で倒れ込んでいたからね。具合はどうだい?」


相手もキスについては言及しなかった。安心だ。

 

美形につい見とれてしまう。

 

陶器の様な色白の肌に、対照的な黒髪。肩で切りそろえられたボブカットが印象的だ。

 

子猫を思わせるアーモンドアイの瞳に吸い込まれそう。

 

血色の良い薄い唇は艶っぽい。

 

この唇とキスしたのかと思うとドキドキした。

 

ずぶ濡れで意識を失った私を介抱してくれたんだろう。

 

「ありがとうございました。大丈夫です。私濡れてましたよね?お洋服を汚してしまったのでは……?」


彼の服は、まるでおとぎ話に出てくるような王子様みたいな服だ。

 

高級品に違いない。私に弁償できるだろうか。


「濡れていた?君はもうそんなことを考えているのか?軽いキスで盛り上がるとは、大胆だね。

構わない。積極的な女性は好きだ。」

 

は?こいつ……一体何を考えて……。

 

全てを理解した瞬間、顔が真っ赤になる。


()()を濡らしてんじゃないわ!!!!服の話だよ!!このド変態!!!」


「恥ずかしがらなくてもいいさ。自然な男女の営みだ。さぁ、僕の屋敷へ行こう。」


「ふざけんな!つーか、自分で歩けるから、さっさと降ろして!」

 

顔がいい変態は返事もせず、私を抱えて微笑みながら歩き出す。

 

「エリオット様!ま~た、女の子捕まえて。お父様に言いつけますよ!」

 

威勢のいい中年女性の声があたりに響く。


「なんだ。ジョアンさん。今日は見過ごしてくださいよ。素敵な女性をものにできたんだから。」


「ダメダメ。私はいつだって女性の味方なんだ。全くお兄様方を見習ってくださいよ。

道端の女性を口説いてるのはエリオット様だけです。」


ジョアンと呼ばれた女性はコルセットで締めあげた腰に両手を当て、エリオットをたしなめた。

 

「兄さん達と比較されちゃ分が悪いよ。仕方ない。」とため息をつき、エリオットは諦めて私を下ろす。


「エリオット・ファクシム・ダコールだ。エリオットと呼んでくれ。

麗しい姫君。粗相を許してほしい。君の名をうかがっても?」


なにこいつ。ジョアンさんの一声で突然紳士的になった。

 

そしてこの上目遣い。自分がイケメンだと自覚している奴の動作!

 

まあいい。私の清らかさは保たれたようだから。

 

「麗羅です。……助けてくれてありがと。」ふてぶてしいお礼だと、我ながら思った。

 

「レイラ!なんて素敵な響きなんだ。何度でも君の名前を呼びたくなるよ、レイラ。」


 うざい。このセクハラ男は息するように口説いてくる。

 

「それで?あんた、どこの生まれ?ハーデンゲルグの人じゃないだろ?」

 

だんだん状況がつかめてきた。私は異世界に飛ばされたんだ。


ここはハーデンゲルグという地名か。

 

二人に経緯を説明するとややこしくなりそうだ。


「えっと……遠くから。」

 

「異国の人だ。この辺りの娘じゃないね。珍しい服着てるし、化粧も独特!」


私の顔をまじまじと見つめてくる。

 

ギャルメイクに興味深々のジョアンさん。

 

「行く当て、あんのかい?」


「あ~……それが、行くはずだったところの仕事パァになっちゃって……。」


ハッタリは得意だ。しかし、どうしたものか。


この世界で居場所を見つける必要がある。


「それは気の毒だな。よし、うちの屋敷に来ればいい。


僕の家は王宮に出入りする由緒正しい貴族だ。君の生活は保障する。何も心配する事はないよ。


僕と暮らそう。『レイラ、うちで働いてくれないかい?住み込みで。』」

 

二人が同時に提案したが、私はエリオットを無視してジョアンに答える。

 

「いいんですか?」

 

願ってもないオファーだ。これは飛びつくしかない。

 

「え!?ジョアンさん!?ダメだ!ジョアンさんのところは酒場じゃないか!

レイラにどんな悪い虫がつくか……。考えただけでも寒気がする!」 

 

悪い虫はお前だろ。


「エリオット様!うちのお客さんはみ~んな紳士ですよ。」


ジョアンが胸を張って答える。


「ジョアンさん。大丈夫です。私はここに来る前、酒場で働いていました。」

 

クラブも現代の酒場でしょ。

 

「経験者なのか。それは心強い!期待しているよ。よろしくね。レイラ。さぁ。早くうちに上がって。」

 

エリオットがなにかまだ言いたそうな顔をしているが、私は気づかない振りをした。


「はい。頑張ります。よろしくお願いいたします。」


ジョアンさんが私の手を引いて進む。

 

きっと大丈夫だ。タロットカードがボディバッグの中にある事を思い出したから。


 

ハーデンゲルグに来てからの毎日は、あっという間に過ぎていく。

 

セクハラ貴族のエリオットと、頼りになる酒場の女主人ジョアンさんに出会った日が大昔の事に感じられる。

 

酒場で働くのは楽しい。

 

常連さんたちは気さくですぐに打ち解けた。

 

酒場の2階部分は住居スペースになっていて、ジョアンさんとの二人暮らしには広すぎるくらい。


あの日、私が現世から持ってこれたのはボディバックだけだった。

 

中身はタロットカードと家の鍵。

 

奇跡的にカードは濡れておらず無事だった。さすが日本製防水仕様。

 

スマホはジーパンのポケットに突っ込んでたから、飛んでくる時に無くしたみたい。

 

もしスマホがあったとしても使えなかったけど。


そして今、私は厄介な問題を抱えている。


何事もすぐに解決策を出すジョアンさんでも、お手上げの様子。


「レイラ……。あんた本当に仕事ができないね……。」


「はい。前の店主からも言われていました。」


「雇ってもらえてたってことは、あんた幸せ者だよ。」


 レイラの人柄が魅力的だからだね、とジョアンさんは笑った。

 

しかし、仕事ができないのは困る。

 

私が来るまではジョアンさん一人で切り盛りしていたが、サービスが行き届かないことも多々あったそうだ。

 

従業員を雇うことを考えていた矢先に、私が現れたという経緯らしい。

 

「お客さんと沢山話してくれるのは助かってる。みんなかわいい娘と話せてご機嫌で、

飲みっぷりも良い。」


「私もたくさん飲ませてもらってます。」

 

酒場で働く意義はこれだ。合法タダ酒。

 

とはいえ、何もしない訳にはいかない。


「あの、ジョアンさん。私一つだけ得意な事があります。

その特技のおかげで、前の酒場でも雇ってもらえていたんです。」

 

ジョアンさんが不思議そうな顔で私を見る。


「これです。」


私はタロットカードを見せた。十番、運命の輪のカード。

 

ジョアンさんは目を丸くした。「まぁ。なんて綺麗な絵柄だ。素敵だね。」


「私はこのタロットカードを使って、酒場に来るお客さんを占っていました。私は占い師です。」


「占い師だって!?レイラ、すごいじゃないか!この国には占い好きが多いんだ。

みんな天気や着るものを占うんだよ。うわさでは王様も、政を占いで視たりするらしい。」


「ジョアンさん。私の占いは、未来を当てたり預言するものではないんです。

不安を抱える人に勇気を与える、お守りのようなものです。」

 

ジョアンさんは一瞬困った表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔になった。

 

「これはいけるよ。レイラ。うちで占いをやりな。」

 

異世界ハーデンゲルグで、私のタロット占い師デビューが決まった。


 

「ジョアンさん!酒おかわり!!」

 

「こっちにも酒!」


「私も占ってもらえるかい?」


「珍しい占いがあるんだな。」

 

酒場は客で溢れかえり、連日満席だ。

 

「儲けは大黒字だよ。レイラの評判を聞いてお客さんも増える一方。ありがとうね!」


ここ最近ジョアンさんはいつにも増して上機嫌。

 

私も貢献できるようになって嬉しい。

 

ハーデンゲルグでも私の鑑定スタイルは変えなかった。


鑑定料は金貨1枚と、お酒をおごってもらう事。

 

酒豪の変わった占い師がいると口コミで広まり、


お忍びで宮殿の貴族まで来ているとウワサも聞いた。

 

誰が来ようとも関係ない。


ただ占いができて、美味しいお酒が飲めればそれだけでいい。

 

「タロットカードっていうの?」


「はい。タロットは大アルカナ二十二枚、小アルカナ五十六枚、合計七十八枚が一つのデッキです。

各カードにはそれぞれシンボルが描かれているので、そこから意味を読み取っていく。」

 

占い好きの国民性だからか、みんなタロットについて知りたがる。


鑑定していると、別のお客さんがテーブルに集まってくる。


「レイラ!もっと飲めよ!」

「ありがとう。」こうやって、おこぼれもいただける。

 

最高な仕事。まさに天職。


「最近、彼とすれ違いが多いの。ほかにいい人でもいるのかしら?」

 

この女貴族は最近毎晩やってきて、意中の彼との関係を占ってほしいと依頼する。

 

そして毎回結果に満足せず、ひとしきり泣いて帰っていく。


「今度、三番目のせがれが結婚するんだよ!いい日取りを見てくれ!」

 

大事な家族のイベントも、占いで決めるおじさんもいる。

 

そんなことまで?と思うような内容も占いでさくっと決断する。


ジョアンさんは「この国の文化だ」と笑う。

 

「レイラ!ごきげんよう。気分はどうだい?」


「最悪」


「なんだって!?調子が悪いのか!?当たり前だ。毎晩何十人もの客を占ってるんだから。」


「ジョアンさん!レイラに休暇を!」


「あんたの顔見たから、調子が悪くなったの。」

 

みんな大爆笑。

 

ここまでが毎日のお約束。


エリオットは、毎日酒場にやってきて私にちょっかいをかける。

 

気障な変態は、抱えきれないほどのバラの花束、でかい宝石がついたネックレスなど


センスのかけらもないプレゼントともに押しかけてくるのだ。

 

黙って酒だけ飲ませてくれればそれでいいのに。

 

本当にこいつの良いところは顔だけだ。

 

エリオット目当てでやってくる女性客も多いのだが、貴族であるエリオットに


庶民の彼女たちが声をかけることは許されない。

 

女子にとって憧れのエリオットに、暴言ともいえる軽口を叩く私は


僻まれるどころか羨望のまなざしを受けている。

 

「エリオット様がレイラに振り向いてもらえる日が来るか占ってあげて。」と冗談を言われる。

 

どうかしている。


「貴族のくせに、庶民の酒場に入り浸るなんて示しがつかないのでは?」


「何を言ってるんだい?社会勉強だよ。」


親父も公認だ、とか言い訳して酒をあおるイケメン。


「レイラ。聞いてくれ。」


急にイケメンが真顔になって顔を寄せてきた。

 

え。なに。

 

熱い吐息が耳たぶに触れる。

 

「僕は君の事が心配なんだ。酒場で働くのも、本当は辞めてほしい。

ここがジョアンさんの店だから容認してる。

しかし、君が占いを始めて客足は増える一方だ。休息はきちんと取れているのか?

元々華奢な身体が最近はますます痩せている。

僕の屋敷に来れば、働く必要などない。君はただ僕のそばにいてくれれば、それでいいんだ。」

 

甘えるような視線で見つめられては困る。


「エリオット、飲み過ぎ。」


照れ隠しでわざと顔を背けて無愛想な返事をした。

 

エリオットは少し濡れた目で「ああ、そうみたいだね」と悪い笑顔を見せた。

 

ほほが赤くなって上気しているのは、きっと酒のせいだ。

 

私も飲み過ぎてしまったのかもしれない。


ーーーー


だめだ。エリオットのことばかり考えてしまう。

 

理由は分かっている。さっきの耳元でのささやきだ。

 

思い出すだけで、全身が熱くなる。

 

ジョアンさんが店じまいを終えて、私の部屋へやってきた。


「あきれた。エリオット様がレイラにぞっこんなのは承知だけど。

このプレゼント、どうするんだい?また首飾り……。

あんたの首は一つだって言っておやり。」


毎日エリオットは何か贈り物をくれる。

 

ほとんどが花束と装飾品だ。その中でもネックレスは大量に増えた。

 

ジョアンさんの言う通り多すぎる。


「そうですね。まだ開けていない箱もあります。」

 

二人で天井に向かって積み上がった箱を見て笑った。

 

「エリオット様は、王室とも付き合いがある名の知れた貴族のお坊ちゃんだ。

庶民の暮らしに関心を持たれてね、私みたいな連中を気にかけてくださるんだよ。

あの器量だから、女はみんなしなだれかかる。

気さくな方でユーモアもあって、頭もさえる。

四男坊だから、お父様も多めに見てくださっている様で

エリオット様が庶民と交流をもつのは本人の為になるとおっしゃってる。

エリオット様はね、ハーデンゲルグの宝だよ。」


「ただの軽い女好き貴族だと思っていましたけど。」


ジョアンさんは「違う違う」と手を払い、おやすみを言って出ていった。

 

人望もあり、みんなの関心を集める男。

 

ジョアンさんを始め、年配の方からも信頼されている。

 

私を見れば、息するように口説いてくる。

 

そのくせ、突然真剣になって私の心配をしたりする。

 

彼は、ただの変態だ。

 

私を拾ったのも、持って帰っておもちゃにするためだったに違いない。

 

そもそも、私とエリオットは本来出会うはずがない者同士。

 

運命のいたずらで、私がハーデンゲルグにやってきただけ。

 

いないはずの人間が、エリオットを好きになることなど許されない。

 

気づいてしまった自分の気持ちに蓋をするように、私はベッドのシーツを頭まで引き寄せ目を閉じた。


ーーーー


極力エリオットを意識しないと心に決め、これまで通りの態度で彼に接した。

 

私の塩対応が軟化したと感づかれると、ますます変態度が増す気もする。

 

酒場の常連客も、私達の関係がどうなるのか見守る者、


エリオットが私を落とせるか賭ける者まで出てきた。

 


ある夜、エリオットは一人の男性を連れて酒場にやってきた。

 

またもや、花園から生まれたような気品のあるイケメンだ。

 

エリオットと並ぶと、この世の美を終結させたような二人組になる。

 

居合わせた女性客は鼻血を出し、卒倒した。

 

私も鑑定しながらギリギリ理性を保った。


「ごきげんよう。こっちは友人のマルクだ。レイラ、仲良くしてやってくれ。」


「君がレイラか。エリオットから話はよく聞いているよ。」

 

なにを話してるんだ。

 

マルクはエリオットに劣らない白い肌をしているが、バラの花びらを思わせる頬の血色が色っぽい。


金髪の巻き毛がとてもよく似合う青い瞳の美青年。


女性と見間違う華奢な体つきで、すらっとした長身だ。

 

現代人だったら、間違いなくモデルになれる。


「こんばんは。マルク。」

 

「エリオットの言うとおりだね。なんてエキゾチックで麗しい人だ。」

 

マルクは当然のように私の右手を取って軽くキスした。

 

息するように口説くのは、ハーデンゲルグの決まりなのだろうか。

 

固まっている私と嬉しそうなマルクを交互に見て、エリオットが慌てた。


「マルク、やめろよ!レイラは僕のものだ!!」

 

あんたのものではない。


「悪い悪い。エリオットをおちょくるのが楽しくて、つい。お嬢さん、驚かしてすまない。」

 

金髪の美青年は爆笑してもイケメンだった。


「レイラの占いが評判だって聞いたから視てもらいたくてね。

エリオットに頼んで連れてきてもらったんだよ。」

 

口ぶりから、マルクもいいとこの貴族のお坊ちゃんだろう。

 

夜な夜な遊びに出かける場所が占い師のいる酒場なんて。

 

貴族はもっと楽しい遊びを知らないのだろうか。


「鑑定料は、金貨1枚。あとお酒をおごってください。」

 

「承知している。好きなものをいくらでも飲んでくれ。」

 

そう言って私の手を取り、金貨をにぎらせた。

 

「確かに……。ありがとうございます。それで、今日はどのようなことを占いましょうか?」

  

マルクは口元に手をやり、少し考えてからこう言った。


「カードを適当に1枚引いて、出たカードについて教えてくれ。」


「と、いいますと?」


「君のインスピレーションを拝見したい。」


試されているのだろう。


いつも通り、鑑定を始めると客が集まってきた。


「今日のお客は初めて見る顔だね。どこの貴族だ?」

 

「あの身なり、どっかの上流貴族じゃないのか。そんなの相手に変な占いしてみろ。

レイラの首が飛んじまうぞ!」

 

「まぁ。なんて美しい方なんでしょう。」

 

「あんなに美形な殿方でも、悩みがおありなのね。」


みんな今日も勝手なことばかり言っている。


しかし、相手が貴族だからといって私は遠慮したり鑑定結果に忖度もしない。

 

ただ自分の占いをやるだけだ。

 

「分かりました。みてみましょう」

 

私はタロットをシャッフルし、無作為に1枚のカードを引いた。

 

周囲の客が息をのむ。


「……22番。世界、正位置。」

 

マルクをじっと見つめると、マルクも私を見返す。

 

エリオットが後ろから不安げに見守っている。


「世界は、物事の完成を表すカードです。なにかやり遂げたいと思っていた事がおありなら、

それはすでに完成しているし達成している。あなたの望みは叶えられている状態です。」


「それで?」


「それだけ。答えはあなたが一番分かっているはず。」

 

「たまげたよ。当たってる。」そう言って笑った。

 

みんなは訝しげに私とマルクを見つめた。


「やらせじゃないってば。私の占い、みんな知ってるでしょ。」たしなめると、

 

疑うなんてとんでもない! とみんな慌てて私を擁護した。


「説明させてくれるかい?」マルクはグラスワインを一口飲んでから続けた。


「私は、いわゆる貴族で、今宵はここにお忍びで……来ている。

目的は余興を探すためだ。舞踏会のホストを任されてしまってね。

ゲストを楽しませるのが私の役目。

貴族というのは新し物好きで飽きっぽい。わがままなんだ。

常に目新しい遊びを探している。

どうしたものかと考えていると、妙な噂が耳に入ってきてね。

一風変わったカードを使う酒飲みの占い師がいる、と。」

 

酒飲みの占い師って、もっといい表現ないのか。


「エリオットは酒場に出入りする常習犯だ。

こいつに聞けばすぐ情報がつかめると思ったが予想以上だった。

うわさの酒飲み占い師は、エリオットの恋人だというじゃないか。

私も君に挨拶がしたくてね。会いに来たんだ。」


「恋人じゃないです!」

 

私の否定が聞こえなかったのか、意見を華麗に無視してマルクは続ける。

 

「君に私が主催する王宮の舞踏会で、余興として客人に君のタロット占いをやって欲しい。」

 

「王宮ですって!?」ジョアンさんが叫ぶと、店中が歓声に包まれた。


「舞踏会でレイラが占うぞ!」


「大出世だ!」


「たんまり稼いで来いよ!」

 

みんなは王宮に呼ばれたということで大騒ぎしているが、


私はギャラがいくらで珍しい美酒は飲ませてもらえるのかと、そっちの方が気にかかる。

 

私の心を読んだかのようにマルクが言った。


「心配するな。報酬は弾む。君の1か月分の鑑定料を金貨で支払うよ。

それに加えて……東の国から今年初物の酒が届いた。それも楽しめるだろう。」

 

東と言われてもイメージがつかない。

 

「東の酒って、パルミアあたりの地酒じゃないか?だったら、米が原料だろ。

口当たりはまろやかだが、後味がきりっとしていて僕は好きだね。

レイラ、君もきっと気に入るさ。」エリオットが補足する。

 

行くしかない。地酒と聞いてワクワクしてきた。

 

鼻息荒く、マルクに伝える。「ご依頼、承りました!」


「助かるよ。では、舞踏会は明後日。日没から始まる。

迎えの馬車をこの酒場に寄こすから王宮まで来てくれ。

では、僕はそろそろ失礼させていただくよ。今夜の出会いに。」


マルクは立ち上がり、私の右耳に軽くキスをして去っていった。

 

マルクからは薔薇の香りがした。


「ああああああああああ!!!!!!!マルク!許さないからな!!!!!!!!」

 

エリオットの悲鳴と、マルクの高らかな笑い声があたりに響いた。

 

マルクが店を去ってから、客の話題は彼でもちきりだ。

 

一体どこの貴族なのか、彼女はいるのか、

 

あんなに美しい男ならみんなが知っているはずなのに誰もマルクのことを知らない。

 

全く情報がないのだ。

 

唯一、エリオットは彼の友人だが「別れ際のキスはルール違反だ」と不貞腐れ


カウンターで酔いつぶれてしまった。

 

話などできる状態ではない。

 

今夜はこれくらいにしておこうと、ぽつりぽつりとお客さんは帰り、


一人残ったエリオットを従者のカザンが迎えに来て今日の営業は終了した。


「レイラ、あんた本当にすごい占い師だね!舞踏会で占うなんて、話題になるよ。

もしかしたら素敵な方に見初められてしまうかもしれない。

レイラはとっても美人だから、

うちみたいな小さな酒場にいるなんてもったいない器量だといつも思ってた。

エリオット様もぼーっとしてたら、あんたをいい人に持ってかれちまうよ。

しっかりしてくれないと困るね!」

 

ジョアンさんはいつも前向きで明るい。私を元気づけてくれる。

 

ただの占い師が貴族とどうにかなる訳ない。

 

でもエリオット以外の男性と……と考えると違和感があるし興味もない。

 

とはいえ、エリオットと進展するのかと言われても自信がない。


ーーーーーー

 

舞踏会は翌日に迫っている。

 

しかし私は困っていた。

 

「……ない。……着ていく服がな――い!」

 

開店準備中の酒場のホールに私の声が響き渡った。

 

「エリオットの奴!服がない!いっつもいっつも、なんかプレゼントしてくるくせに

花とかネックレスだけじゃなくって、せめて1着ぐらい服くれてもいいじゃない!

全く気が利かない変態貴族!」

 

ひどいことを言っている自覚はある。もらっておきながらなんて言い草だろうか。

 

でも私は困っているのだ。

 

ジョアンさんに落ち着けと散々なだめられたが、


彼女もいいアイデアが浮かばずじれったそうにしている。

 

ジョアンさんだって一般庶民。貴族が夜な夜な開く舞踏会に行った事などないのだ。


アクセサリーは適当にエリオットからもらったものを選んでつければいいし。

 

ジョアンさんにお出かけ用のナイトドレスを貸してくれと頼んだが、


サイズが違い過ぎると無下に断られた。

 

コルセットで締めあげればサイズなどもはや関係ない気がすると言ってみたけれど。

 

そもそもジョアンさんが持っているドレスでは舞踏会には地味過ぎるし、


エリオットがくれたアクセサリーと全くマッチしていないと言い返されてしまった。


街に出ればドレスショップはある。しかし予算問題。

 

流行の新作ドレスを買う余裕などない。

 

頭を抱えていると、酒場のドアが開いた。


「お客さん!まだ営業前だよ!」時々いるのだ。


昼間でもお構いなしにやってくる飲んだくれが。

 

ジョアンさんはこの手の連中を追い返すのはお手の物。

 

「ジョアンさん、失礼するよ。」

 

顔を見せたのは不躾な飲んだくれではなく、エリオットだった。


「あら、エリオット様。まだ日が高いうちから、どうされましたか?」

 

「僕のプリンセスに会いたくてね。」

 

エリオットはそっと目くばせをした。

 

目線の先に、いつの間にいたのか従者のカザンが大きな荷物を両手に抱えて無言で後ろに控えていた。

 

「なに?」反射的に尋ねる。


「レイラ嬢へ僕からのささやかなプレゼントさ。気に入ってくれるかな。」

 

大きな箱を押し付けられる。

 

ジョアンさんと二人で箱を開けた。

 

シックな黒のドレスが丁寧に折りたたまれている。

 

「うそ……なによ。これ。」驚いてエリオットを見上げる。

 

「お節介だったら申し訳ない。ただ君が、少々お困りかと思ったんだ。」

 

カザンが次々にリボンが結ばれた箱を運び入れる。

 

靴にアクセサリー、装飾品の山だ。

 

「ちょっと待って!これ……一体……。」

 

「僕の愛しい人の初めての舞踏会だ。

華々しいデビューを飾らなければエリオットの名が廃る。明日の衣装を用意したよ。」

 

十分前、エリオットの悪口を叫んだことを心から反省した。

 

涙目で叫んだ。 


「エリオット!ありがとう~~~~~~~!!!!!!!!!」

 

勢いで抱き着いていた。

 

カザンとジョアンさんが目をまん丸にしてエリオットに絡みつく私を見ている。

 

いつもの私では考えられない行動をとったからか、


エリオットも状況が理解できない様子で柄にもなく顔を赤くして黙っている。

 

エリオットは返事をする代わりに、そっと私の背中に手を添えた。

 

明日の舞踏会、私頑張るからね。



ーーーーーーー

 

舞踏会当日。

 

私は、持っていくタロットカードを検めていた。

 

タロットに浄化は必要不可欠だと何回もシャッフルしたり、


セージの煙に一枚ずつカードをくゆらせる占い師もいるそう。

 

私は一度もしたことがない。

 

単に面倒くさがりというだけだが、誰かを占ったことでカードが穢れるなど全く思わない。

 

神秘的な力を持っていないからかもしれないが、幸か不幸か私は何も感じない体質だ。

 

私にとって、タロットはただの紙にすぎない。

 

しかし、カードが揃っていなかったり破れているとお客さんは嫌だろう。

 

接客業だ。商売道具は整えておかなければ。

 

なので、私は毎日日中にタロットの枚数を数えてカードの状態を確認する。

 

毎晩酔っぱらっているから、元通りに片付けているのか前の晩の自分を信用できないのだ。


「はい。今日も大丈夫。」タロットをベロア素材の巾着袋へ入れた。


ジョアンさんがくれた巾着。お気に入りだ。

 

一息ついたタイミングでジョアンさんが部屋に入ってきた。


「レイラ。そろそろ支度を始めようか。」


「え?まだ早くない?」


「何言ってんだい。間に合うかどうかも怪しいよ。

助っ人を連れてきたからね。みんな入っておくれ!」


「おじゃましま~~~す!」

 

いい匂いのする若い女性が三人、ズカズカと部屋に入ってきた。

 

3人とも手足が長く、くびれたウエストと上を向いたヒップを持ち合わせている。

 

細身の体には似つかわしくない豊満なバスト。


谷間を強調するぴったりしたワンピースを着ているから余計に身体のラインが目立つ。


「街で踊り子やってる三人姉妹だよ。時々うちの酒場でも踊ってくれるんだ。」


ジョアンさんが娘たちを紹介する。

 

三人は順に、フィオーレ、アリア、ローザと名乗った。

 

美人三姉妹と街でも評判だろう。

 

長女のフィオーレが「レイラ。ウワサは聞いてるわよ~。今日は私達に任せてちょうだいね~。」

と言った。

 

おっとりした仕草が印象的。

 

私は胸を凝視したまま返事をした。「よろしくお願いします。」

 

「心配しないで!今夜の舞踏会で主役も黙るぐらいかわいく綺麗に仕上げるから!」

 

次女のアリアはやる気満々で、もうメイク道具を鏡台に並べ始めている。

 

「ジョアンさん。ドレスはレイラさんのサイズにお直しは済んでいますか?」

 

三女のローザは、一番年下でありながら一番落ち着いていた。針と糸を用意している。


「ああ、ローザ。助かるよ。昨日レイラが試着したらドレスの袖が少し余っていてね。

ちょっと長いんだよ。……間に合うかい?」


「なるほど。問題ありません。」


ローザは私のサイズをメジャーで測り、袖の長さを確認すると無言で袖を詰める作業に入った。


動きに全く無駄がない。

「大丈夫よ~。ローザちゃんはお針子さんでもあるの。

姉の私が言うのもなんだけど~、腕は確かよ~。安心してね。」

フィオーレはウインクして私の顔をマッサージした。

 

メイク前にマッサージをすると、むくみが取れて化粧ノリが良くなるんだっけ。


メイクとヘアセットをアリアが担当し、ローザがドレスのお直し。

 

フィオーレが監督となり、指示を出した。

 

ドレスと装飾品のコーディネートを組んでくれたのもフィオーレだ。

 

三姉妹のスキルはなかなかのものだった。

 

メイクが完成して瞼を開けると、鏡に映っていたのは清楚なお姫様だった。

 

「ええ!?これ私!?」びっくりして顔をつい触ってしまう。


「こら!まつ毛取れるよ!」アリアが怒鳴った。

 

しっかり作り込まれている完璧なメイクでありつつ、厚塗り感が一切ない。

 

真っ赤なリップが黒のドレスに映えている。


「ありがとう……私このメイク好き。」うっかり自分に見惚れてしまう。


「でっしょー!レイラを見た瞬間に、あ。これだってアイデア出ちゃってさ。

イメージ通りに仕上がって、私も満足!」


アリアも得意げだ。褒めると機嫌がいい。


「お袖はいかがでしょうか。」


「うん。ぴったり。短い時間でこんなに丁寧に縫ってくれてありがとう。」

 

ローザは照れた様子で目線をそらして頷いた。

 

どういたしまして、ってことかな。

 

フィオーレの言った通り、ローザの裁縫スキルは見事だった。


「さぁ。お迎えの馬車がもうじき来るわよ~。みんな急いで~。」

 

フィオーレの一声で二人の動きがさらに俊敏になった。

 

甘いお花の香りの香水を吹きかけて、私の身支度は終わった。

 

「まあ!なんてかわいいの~!!舞踏会にいらっしゃる殿方の視線を

全部レイラが持って行っちゃうわね~。」

 

ジョアンさんは私の頭の先からつま先まで眺めて涙ぐんだ。


「レイラ!とっても綺麗だ!エリオット様に早くお見せしたいよ。」

 

褒められるとまんざらでもない気がする。

 

「馬車が来た!」


アリアが玄関扉を開いたところだった。


「レイラ様。マルク様の使いでお迎えに上がりました。」


 老紳士が馬車に乗ってやってきた。


「はい、ただいま参ります!」


返事をしてから、みんなを振り返る。


「フィオーレ、アリア、ローザ今日はありがとう。ジョアンさん、行ってきます!」

 

三姉妹は笑顔で手を振ってくれた。


「行ってらっしゃい!たんまり稼いできな!」

 

ジョアンさんの掛け声を背に、私は馬車に乗り込んだ。


ーーーーーーーーー


 

「どういう事よ!?」


「冷たいぞ。」


「なんであんたが私の馬車に乗ってんのよ!」


「僕も招待客だ。」


舌を出して、招待状を胸ポケットからちらりと見せる。

 

「一流貴族なものでね。当然、王宮の舞踏会にはお呼びがかかる。目に余る光栄だ。」

 

「分かった!分かりました!!一流貴族様!では、言わしてもらいますけど……

これは、マルクん家の馬車でしょ?あんたは自分の一流馬車に乗ってくればいいじゃん!!!」 


遡ること五分前。私はジョアンさん達に見送られ、馬車に乗った。

 

その馬車になぜか変態貴族のエリオットが乗っていた。

 

エリオットは私を見るなり、猫が瞳孔を開くように目を大きくまん丸にした。

 

動揺を抑えるかのように、ゆっくりと時間をかけ私の手の甲にキスし


「こんばんは。麗しい人」と挨拶した。

 

その流れで口にキスしようとしてきたから、思いっきり色白の頬をひっぱたいてやった。 

 

「なんで嫌がるのか理解ができない。」エリオットがため息をつく。

 

「あいさつのノリでキスとか勘弁して。」

 

「誰が、君のために仕立てたようなこの麗しいドレスをプレゼントしたか覚えているかい。

僕には君を上から下まで眺め、愛する権利があるはずだ。

それにしても……今宵は誰にも君を見せたくないな。」

 

急に真剣なまなざしでこちらを見つめてくる。

 

「え?」

 

そのまま距離を詰めてくる。20センチ、10センチ……5センチ! 


イケメンが視界を満たしてくる。

 

お願い。やめて。意識しちゃうから!

 

唇が触れあいかけたその時

 

「お二人とも、到着いたしました。」

 

馬車が丁寧に動きを止め、老紳士の声がした。

 

「残念だ。お楽しみはお預けだな。」


私の頬に軽く唇を当て、エリオットは颯爽と馬車から降りた。

 

一方私は恥ずかしさでドキドキは止まらないわ、


慣れないボリューミーなドレスに手こずるわで上手く降りられない。

 

そんな私の手を取り、エリオットがふざけてささやいた。


「お姫様。今宵のお相手を務めさせていただくのはこの私、エリオットにございます。

何なりとお申し付けください。まずはこの馬車からあなた様を救出いたします。」


私はエリオットの本気か冗談か分からないセリフについ笑ってしまったが、彼に身を預けた。

 

エリオットは私を軽々と担ぎ上げ、お姫様抱っこしたまま歩き始めた。


初めて出会った日と同じ格好になった。

 

あの日とは全く違う感情が私の中にひしめいていた。

 

「見て!ダコール家のエリオット様よ!」

 

「相変わらずお美しいわ。お近づきになりたい~!」


「あの方はどちらのご令嬢かしら?お顔立ちが異国の方みたい。」


「抱かれて登場なんて、嫉妬しちゃうわ。それにしても絵になるお二人ね。」


「エリオットだよ。めずらしいな。女連れで来てる。」


「全くだ。いつも一人でやってきて、女を口説くだけ口説いて1人で帰る変わり者なのに。」


「ってことは、あの子が本命なのか?」

 

「しかし、登場から派手だね~。女性客が釘付けだよ。」


舞踏会の客人たちが、ざわつき始めた。

 

目立ちすぎている。急に恥ずかしくなってきた。


「エリオット……。降ろして。みんな見てるから。」


「嫌だ。」


エリオットは涼しい顔で、私の申し出を拒否した。


結構な距離を歩いた気がするが、まだ舞踏会会場に着かない。


馬車を降りて、エントランスを抜けると吹き抜けの庭園が広がっていた。


ここは執務を行う建物ではなく、客人を招くパーティー用の建物らしい。


そのせいか、雰囲気も穏やかで人々を歓迎するようなあたたかみが感じられる。


庭園には立派なバラが咲き誇っており、いい香りが辺りを満たしていた。


バラ園でも招待客が談笑していて、お茶を飲めるように東屋がある。

 

「さぁ。着いたよ。お姫様。」


舞踏会会場は大広間だった。


真紅のベルベット絨毯が敷き詰められ、


豪華な装飾が施されたシャンデリアが天井からぶら下がっている。

 

優雅な音楽を奏でているのは王宮の楽器隊だ。

 

円卓が等間隔で配置され、軽食が配膳されていた。


「私は、どこで占いすればいいのかな?」場の雰囲気に圧倒されて、声がうわずった。

 

大丈夫。いつも通り占えばいいだけ。


でもその前に、景気づけの一杯が必要だ。

 

「エリオット。私何か飲み物をもらいたいわ。」

 

「ああ。ワインを持ってくるよ。あと、東の国からの地酒もね。」

 

さすがだ。私がアルコールを欲している事を理解していた。

 

察しがいい男は嫌いじゃない。

 

エリオットと離れた直後に見知った顔が現れた。

 

相変わらずの美男子だ。

 

「レイラ!ごきげんよう。今夜は一段と美しい。まるで夜に咲く1輪の赤いバラだ。」

 

歯の浮くようなセリフもさらっと言ってのける。


「マルク。こんばんは。お招きどうもありがとう。」


「来てくれて嬉しいよ。こっちだ。」


マルクはさりげなく私の腰に手を回し、エスコートした。


「この円卓を使ってくれ。何か困ったときは遠慮なく爺やに頼んで。君のそばに控えているからね。」

 

爺やと呼ばれた初老の男性は、微笑んで会釈した。

 

「ありがとうございます。」よかった。一人ぼっちにはならないのは心強い。

 

「レイラ!!探したぞ!勝手にうろうろするんじゃない!」


ワイングラスを両手に携えてエリオットが駆け寄ってきた。

 

ごめん、と言いかけたところを遮られる。

 

「彼女は自由に散策する権利もないというのかい?エリオット・ファクシム・ダコール?」


マルクが挑戦的な目つきでエリオットに尋ねる。


「なんだ……マルクか。不慣れな場所だから心配しただけだよ。急にいなくなって驚いた。」


「へ~。みんなの憧れエリオット様がこれ程までに慌てるとは。充分酒の肴になるぞ。」


「……からかうのはよしてくれ。」


走ってきたのだろう。ほんのり額に汗をかいている。


エリオットからグラスを受け取り一気に飲み干した。


ワインの味など分からなかった。 

 

マルクが客人に向けて声を張る。


「さぁ。紳士淑女の皆様。今宵の舞踏会はお楽しみいただいておりますか?

本日の余興をご用意しております。

異国から参った占い師レイラによるタロット占いをお目にかけましょう!」

 

タロットカードを円卓に出し、シャッフルを始めると招待客が物珍しさで集まってきた。

 

皆占いに興味があるから、新しい占いは試さないと気が済まない性分だ。


今日のレイラはとんでもなく忙しいだろうとエリオットが 馬車の中で言っていた。

 

「お嬢さん、占ってくださる?」


「私も占っていただきたいわ。」


「順番に並びましょうか。」

 

秩序がある。

 

いつも相手をするお客さんとは違った。


我先に、と順番抜かしから喧嘩になることは酒場では日常茶飯事だ。 

 

でも今夜は私から注意をしたり、声かけする必要などない。

 

「では、1番前の方から鑑定いたしますね。」

 

「はい。お願いするわ。」

 

今宵最初のお客様は、小柄で姿勢の良い貴婦人だった。

 

そこから私は休む暇もなく、鑑定を続けた。

 

後ろには爺やがマルクの言いつけ通り、常に控えていて私の様子を察し


ベストタイミングでお酒のお替りをグラスに注いでくれる。

 

おかげでいい気分だ。

 

おまけにエリオットも爺やの横で、銅像の様に仁王立ちしている。

 

男性客が世間話で、どこに住んでいるのかと聞いたら


私の代わりに「無関係な話をするな。」と一蹴した。

 

男性客は反論しようとしたが、エリオットの射るような視線に気圧され黙った。

 

占い結果も芳しくなく、男性は肩を落として去っていった。

 

彼が気の毒なのと、占いの邪魔をされてはたまらない。

 

後ろを振り返り、エリオットを見つめて小声でまくし立てた。

 

「ねぇ。営業妨害はやめてくれる?さっきのお客様、下心なんかないよ。

実際お悩みも、恋人との今後についてだったでしょうが。

ここにいらっしゃる方は皆紳士淑女なの。

息するように口説くあんたとは違うの。分かる?」

 

「レイラ、鈍感すぎる。あの男は君をどうにかして誘い出す口実を探っていたぞ。

占い師のくせに人の心理も読めないのか。呆れたものだ」

 

嫌味がひどい。

 

うるさい、と言いかけると爺やがすかさずワインのお替りをつぎ足し目配せした。

 

そうだ。お客様がまだ何十人も列をなして待っている。

 

喧嘩はあとだ。

 

深呼吸して営業用の笑顔をつくる。

 

「すみません。お待たせいたしました。お次の方、お掛けください。」

 

お客様のお悩みを聞いていると、円卓に一人の女が近づいてきたことに全く気付かなかった。

 

エリオットと爺やが、列に並んでほしいと頼む声も私の耳に入っていなかった。

 

女は二人を無視して、持っていたワインを私の頭めがけてぶっかけた。

 

「この嘘つき占い師!」女の怒りに満ちた声が広間に響く。

 

髪の毛から赤ワインが滴って、純白のテーブルクロスの上に血が飛んだように見える。

 

会場内が一気に静まった。

 

私がゆっくり顔を上げ、怒りに震える女の表情をとらえた。

 

「……あんた、酒場の……」


酒場に毎晩通って、彼との未来を占ってくれと毎回依頼する女貴族だった。

 

「うるさい!何がタロット占いだ!異国から来た占い師ですって?

冗談じゃないわ。あんたの占いなんてなんにも当たらないじゃない!

全てデタラメ!この詐欺師!」


「ご令嬢。失礼だが……」


エリオットが口を挟もうとするのを、私は制した。

 

私の問題だ。


「毎晩毎晩小汚い酒場に通って、金貨を払い続けたのに彼に振られたわ!

あんたの占い、なんのアドバイスにもならなかったわよ!!!

詐欺じゃない!本当に馬鹿げてるわ。私はあんたに毎晩タダで酒を飲ませただけ!

あの酒場の女主人もグルなんでしょ?

物珍しさを語って人を集め、適当なことをうそぶいて

善良な人たちからお金を巻き上げているに違いないわ!!!」

 

私の中で何かが弾けた。

 

ガタン!!!!!!!!!!!

 

私は両手で卓を叩き、立ち上がった。

 

「……おい。黙って聞いてりゃ、ベラベラベラベラとよく回る口だな。」

 

「ヒィッ!」威勢の良かった女が黙った。涙目になっている。

 

「お前が依頼してきたんだろ。

頼んでもないのに毎晩毎晩同じことを占ってくれって。

私の占い結果はいつも同じだったはず。

それをお前が納得しなかった。

聞く耳を持たなかった。

占いを預言かなんかだと勘違いしてるから、お前の様にバカな考えに行き着く。

『占いが全て解決してくれる。占いが全て正しいんだ』ってな。

結果を聞いて、お前は自分を見つめ返したことはあんのか?

一度でも、自分の彼に対する言動を振り返った事あんの?

なんで彼が日ごとにお前から距離を置いて行っているのか考えた事があんのかって

聞いてんだよ!!!!!」


「ヒィイイイイ!!!………………ごめんなさい。ごめんなさい」


すでに彼女は別人のように弱気になって床にへたり込んだ。


「謝って済む問題じゃないのよ、お嬢さん。あんたのせいで商売あがったりだわ。

あんたがワインぶっかけてくれたおかげで、みんなドン引きしちゃってるし。

そして、何よりも……私の大切な人を侮辱した罪は重い。」


女の胸倉をつかんで無理やり立たせる。

 

大広間には女のすすり泣きと、詫びる声がかすかに聞こえ、そのほかは静寂に包まれている。

 

招待客はみんな私たちを凝視したまま、微動だにしない。

 

「私のことを詐欺占い師って、騒ぎたててもらって結構。

こっちも、あんたが貴族のご令嬢のくせに

夜な夜な供も連れず毎晩場末のきったない酒場で、

きったない庶民と酒を飲み交わしてたって騒ぐから。

いいゴシップができたね。」

 

女の顔が蒼白になる。


「嫌……や...めて…………やめて!それだけは!!!!

お父様とお母様に!!!私!!殺されてしまうわ!!!」


女が泣き叫びながら私に縋り付いてくる。

 

綺麗に整えられていたであろう髪は、メドゥーサのように乱れ


メイクも涙と鼻水で崩れてしまい見るに堪えない。

 

「お父様とお母様にチクられたくないなら、今すぐここから消えろ。

そして、二度と私の前に姿を見せるな。」

 

それを聞くなり、女は一目散に駆け出し大広間から出ていった。

 

女が退場した後も、招待客はびくともしない。

 

人形の様に固まったまま動かないままだ。

 

気まずい沈黙が流れる。


やばい。さすがにキレすぎたか。


「うふふふふふ。」

 

いたずらっぽい女性の声が、地獄のような沈黙を破った。

 

「さすがね。レイラ。私の目に狂いはなかったようです。」

 

女神の様な装いで着飾った金髪の女性が優雅に私の方へ歩み寄ってくる。

 

誰?この美女!綺麗すぎる!!

 

パニックになる私をよそに、客人、従者、エリオットまでも大広間にいる全員が(私を除いて)


その女神へ頭を下げている。

 

私のそばに来た女神は高身長で、見上げる形になった。

 

でもこの人、私どこかで……。

 

「うふふ。まだ気づいていないのね。」困惑する私を見て美女が笑う。

 

「ちょっと待って。……できるかしら。……失礼。こほっ。」


小さく咳払いをして続けた。


『レイラ。実に麗しい人だ。』

 

「ああ!!?マルク!?」一瞬で酔いが醒めた。


「騙すような真似をして、ごめんなさい。私、男装が趣味なの。

改めまして、ハーデンゲルグ王国 第四王女 マルゴートよ。よろしくね」


「王女様!?え……マルクが!?いや、マルゴート様!

えっと……えっと……数々のご無礼、大変失礼いたしました!!!!!!」 

 

土下座。


マルクが、いやマルゴートが高貴な身分であることは分かっていたけれど。まさか王女だなんて。

 

必死でマルクに何を言ったか、何をやらかしたか記憶をたどる。

 

だめだ。酔っぱらっていて全く覚えていない。

 

「やめてちょうだい。レイラ。早くお顔を上げて。

水くさいわ。マルゴート"様"なんて。私たちお友達でしょ。」


マルゴートがしゃがんで私の顔を両手で包む。


「あの女に暴言吐いてごめんなさい!せっかくの舞踏会を台無しにしちゃいました……。」

 

マルゴートはきょとんとした表情を見せ、にやりと笑った。


そして私の耳元でささやく。 

「さぁ?何の事かしら?さっぱりわからないわ。」

 

そう言うと、私の手を取り立ち上がらせた。

 

そして大広間にいる全員へ聞こえる様に声を張って、マルゴートは毅然と告げた。

 

「占い師レイラ。見事な余興でした。そう。占いは預言ではない、

占いは限りある人生をより良く生きていく為の助言にしか過ぎない。

私達は自分で決断して自らの手で人生を切り拓いていかなければなりません。

とはいえ、私達はみな迷う者。

時には先の不安に押しつぶされそうな夜を明かす事もあるでしょう。

そんな時の心の支えとして、お守りとして、占いを扱っていく事が必要ですわね。」

 

マルゴートの言葉に、固まっていた客人たちがざわつき始める。

 

「占い師レイラ。初めての舞踏会での余興、大儀でありました。

あの貴婦人も素晴らしい演技でしたわ。

皆様、レイラと共演したご令嬢に大きな拍手を!!!」

 

一斉に大広間から拍手が巻き起こった。


「なんだ。余興だったのか~。女同士の喧嘩だと思って、すっかり騙されちゃったよ。」


「あの貴婦人、真に迫る演技だったよな。劇場の女優かな?」


「その辺の芝居より良くできてたぞ。」


「マルゴート様の見込んだ占い師なだけはある!」


「芝居の演出、演技もできる占い師か。多才だな。」


よかった。マルゴートのおかげで、みんなの動揺を沈められたみたい。


「そして……。」


再びマルゴートが口を開くと、みんなおしゃべりを止め彼女の声に耳を傾ける。


「ただ今より、占い師レイラを私マルゴート専属の占い師とする!」

 

さらに歓声が大広間を満たした。


なに?専属?


「レイラ!!やったぞ!お抱え占い師だ!」

 

いつの間にこんなに近寄ってきたのか、エリオットが後ろから私を力の限り抱きしめた。

 

「痛いってば!やめてよ!!」

 

「なぜ怒る?王族の専属だぞ!お抱え占い師になったんだ。喜べ!

そしてその喜びの気持ちとともに、僕の胸に全てを委ねろ!」


「離して!!苦しい!!!」


「うふふふふふ。エリオット。せっかく仲良しになったのに、レイラにまた嫌われちゃうわよ。」


「マルゴート。言わせてもらうが、レイラと僕の絆は海よりも深いんだ。」


「そうだ!エリオット!あんた、マルゴートが王女様だって知ってたの!?

最初、マルクは友達だって言ってたし。」


「当然さ。王女様の夜遊びに付き合うのが僕の仕事だ。」


「エリオット。夜遊びじゃないわよ。社会見学。ダコール家は宮廷に出入りして、

色々と王家の仕事を手伝うのがしきたり。王との謁見も認められている上流貴族だから。

私とエリオットは同い年で、子どもの頃からよく遊んでいたの。

今でも、私が男装するときは付き合ってもらってるのよね。」


マルゴートは軽く言って笑った。

 

何と、はねっかえりの王女様だろうか。夜な夜な男装して庶民の酒場に出入りしているとは。


「とんでもない王女だと思っただろう?」

 

「あら。ひどい。レイラはそんないじわるな子じゃないわ。」

 

「第四王女だから、国王もマルゴートには甘いんだよ。夜遊びしようが、

こうして舞踏会を派手に開こうが、全く気にされない。

マルゴは見聞を広めているんだってね。」


「エリオット、パパへの不敬罪で牢屋に入れるわよ。」


「悪い冗談はやめろ。」

 

合点がいった。

 

子どもの頃から一緒に過ごす時間が多かった第四王女と通いの貴族の四男。

 

継承権がない彼らは、おおらかに育てられたのだろう。

 

高貴な身分の家族に生まれ、兄弟の中で四番目という境遇も

お互いに通じるところがあるのかもしれない。


二人がまるで兄妹に見えてくる。

 

エリオットのマルゴートに対するぞんざいな物言いに対しても、


従者たちはあたたかく見守っているようだ。

 

普通なら牢屋どころか処刑だよね。

 

「さぁ、レイラ。これからあなたは、私専属の占い師よ。」

 

「あ……ありがとう。でも私、専属とかあまり分かってなくて。」

 

「言っただろう。彼女は、ハーデンゲルグの常識に疎いところがあるんだ。」

 

「そうね。説明していなかったわ。ハーデンゲルグの人がみんな占い好きなのは知ってるわよね?」

 

私は深く頷いた。


占いを受け入れる国民性だから、私は今日までタロット占いができたのだ。

 

「ハーデンゲルクは政治にも占いを活用するの。

そのため王族は占い師を国中から探し、最も優れた占い師を自分のお抱え、

つまり専属占い師として任命する。

専属占い師は仕える王族の良き顧問、頭脳として彼らを支える。」

 

「補足しておくが、専属占い師は誰もが憧れる国の花形職だ。

一生食いっぱぐれることもない。

どこの出自であったとしても、上流貴族と同等の扱いを受けることになる。

レイラ、貴族の仲間入りだ。」


まだ状況をしっかりと掴めたわけではないけど、


私はマルゴートに気に入られ、占い師として認められた。


だから、専属占い師になったんだ。


ジョアンさんの言葉通り、「しっかり稼いでくる」のは達成できた。


「私、頑張ります!」

 

マルゴートを中心に、大広間にいる全ての人達が私にあたたかい拍手を贈ってくれる。

 

エリオットが歩み寄り、私の右手を取る。

 

「レイラ。君のことを誇りに思う。そして、これからも僕のそばにいて欲しい。」


子猫の様な瞳が私を捉えた。


美しい彼の顔から、視線を外す事ができない。


見つめ合ったまま、おずおずと距離を近づけ。


そして、唇を重ね合わせた。


歓声が聞こえたが、私達の耳には何も届かない。

 

この時間が永遠に続けばいい。ここには幸せがある。


私は居場所を見つける事ができた。


【了】

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