ショートストーリー イドの海に揺蕩いし者
「アンタ、誰なんだ?」
僕は水の中を沈んでいっている。けど、何故か苦しくはない。目の前にはギリシャ神話の神様のような白い布を巻いたような服の女の人が浮かんでいる。金色の髪の毛が水の中で広がり、その服も揺らめいている。その顔はギリシャ彫刻のように端正で目を閉じている。綺麗な人だとは思うけど、ハリウッド女優のように少しクドい。
「ここはイドの海。様々な可能性と、数多の絶望に塗れた世界。そうですね、私の事は『イドの海に揺蕩いし者』とでも呼んでください」
なんか頭の中に声がする。この人が話しかけてきてるんだろう。それより僕は何してるんだ。僕は水の中をゆっくりと沈んで行ってる。体は全く動かない。そうだ、確か僕は船から突き落とされたんだ。
「我が身を省みず犠牲にした勇敢な者よ」
何言ってんだコイツ。少しイラッとする。あれのどこが自己犠牲だ。なんかイジメを見てもじゃれあってるだけとか抜かす学校の先生みたいだ。
「いや、犠牲にしてない。突き落とされた」
「その勇気を称えて、あなたには可能性を与えましょう」
何か会話が噛み合わないな。自動音声なのか? まあ、録音されては居ないだろ。水の中だし。もしかしたらAIかもしれない。AIにゲスな事言ったらリアクションが面白いんだよな。
「いや、そんなの要らないから助けてくれ。ていうか、このまま沈むと、アンタのパンツ見えるぞ。そう言えば下着のライン見えないな。もしかしてノーパン? 痴女か! 伝説の痴女なのか?」
なんか少しだけ女の人の顔がピキッとしたような。
「どのような力を望むのか口に出しなさい」
「そうか、口に出して欲しいのか。口に出して欲しいっ言う女の子、ファンタジーの生き物かと思ってたけど、実際に居るんだな。やっぱ痴女だな。痴女確定だ! けど、あれって萎えるよな。あの男優が焦りながら口にブツを持ってくのを見るだけで笑えるし、その後、口に入れた女優の顔もヤバい。どんなに綺麗な女の子でも口にバナナとか入れてる顔って顔が伸びて間抜けだもんな」
ん、女の人が目を開く。うん、やっぱクドい顔だ。
「黙れ、このこわっぱ。痴女ちゃうわ! 私はこれが仕事なんだよ。女神捕まえて自分の性癖をクドクドのたまうな! 私がお前がクラスメートをかばって飛び込んだって言ってんだから、それでいいだろ。それで、その勇敢な者には望んだスキルを与えられるようになってんだよ。要はお前は当たりを引いたんだよ! ほら、さっさと言えよ。アンタにスキルやるって言ってんだろ」
え、こいつ女神なのか? やり過ぎたか? うわ、濃い顔の人って怒ると顔怖いな……
「水鉄砲」
「ん、なんだよ」
「鳩が水鉄砲食ったような気分だよ。そんないきなり言われても思いつく訳無いだろ」
「それを言うなら、『鳩が豆鉄砲』だろ。焦ってるのか? 悪い悪い怒り過ぎた。けど、はい、それに決定。言っちゃったからね。もう言っちゃったからね。アンタのスキルは『ウォーターガン』。自分自身を水鉄砲にするスキルだ。あと、私に会った事は忘れてもらう。アンタがスキルを使いこなせるようになったら思い出すだすわ。あ、ヤバ、時間が無い。あ、ゴメン、やり過ぎちゃった、少し多めに忘れさせちゃった。けど、問題無いわね。頑張ってねー」
そして、僕は沈んで行く速度が加速したと思ったら気を失った。
身を起こすと、周りには死屍累々と女の子が横たわってる。デーモン討伐パーティーの最後らへんに、ウルルが隠し持っていたお酒を振るまい始めたからだ。こっちでは16歳からお酒オッケーらしく、日本じゃないからとか言いながら、ミコ飲んで暴れ始めた。僕は死んだふりして逃げたけど、何人かはミコに捕まって飲まされて阿鼻叫喚と化した。サクラは吐くわ、ネネは歌い始めるし、サリナは脱ごうとするし、カオスだったけど、なんか楽しかった。いつの間にか僕は寝てたようだ。
さっきの夢を思い出してみる。いや、夢じゃない。確かに露出狂と思われる女神はいた。ノーパン、ノーブラだったもんな。
『露出狂じゃないし』
頭の中で声がしたような? そう言えば世界の言葉と女神の声って似てたような……
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