第八十二話 奇跡
「もっと絶望に染まる顔を見せてみろ」
くそデーモンが近づいてくる。チャンスは1回。一撃で仕留める。
「死ねぃ!」
僕は全力で、近づいたデーモンの顔を左手で押さえ、右手の親指をその目に突き刺す。思いっきり押し込ん出脳ミソかき混ぜてやる。
「おごっ!」
デーモンは僕を殴りながら逃げやがった。惜しい。あと少しでやれたのに……
「気がかわった」
「ぐあっ」
デーモンの手動く。伸びた爪が僕の首を一撃で切り離していた。意識が飛びそうだ。ダメだった。終わった……
「お前らは、ゴブリンの慰み者にしたあとに両手両足むしってやる。よろこべ、その絶望とお前らの血肉は吾輩を癒す糧になる」
ん、デーモンの声が聞こえる。首、くっついてる。手足の痛みが引いていく。これは、ミコの『アフターピル』。いつの間にかけられてたんだ。けど、有り難い。
「タッキはデーモンを押さえて、あたしとネネはあの娘たちを助けるから」
どこからかミコの声がする。僕の影から何人かが飛び出してくる。あ、シノブの影移動か。チャンスは今しかない。立ち上がり、全力でデーモンにタックルする。そして抱き着いて後ろから首を絞める。少し時間を稼いだら、ミコたちがマリンとウルルを助けてくれるだろう。
「ぐわっ」
手を爪で貫かれて力尽きて離す。僕はデーモンから離れる。立ち上がると立ってるゴブリンは居なかった。変わりにミコ、ネネ、サクラ、シノブがいる。ミコがマリン、シノブがウルルに肩を貸している。
「タッキ、右」
サクラの声で察して左に移動すると、右をデーモンの爪が通り過ぎる。ヤバい助かった。なんか視界がぼやけてる。涙が出てるのか?
ドゴン!
車が衝突するような音がしたかと思うと、デーモンが吹っ飛んでいる。デーモンが居たとこにはネネ。右手を突き出している。
「タッキ君。逃げるぞ。ボクではダメージが通らない」
ネネが声を張る。
「ダメだ。ライラがまだ川にいる」
もしかしたら、ミコならなんとか出来るかもしれない。
「シノブ、ミコ、コイツらを連れて逃げろ」
「サクラこの娘よろしく」
ミコはサクラにマリンを預け駆けてくる。
「アフターピル!」
ミコが魔法をかけてくれる。
「ありがとう。けど、なんで?」
「終わってから」
そうだ。デーモンをなんとかしないと。僕だけじゃ厳しいけど、ネネとサクラの協力があればデーモンを倒せるんじゃ?
「ネネ、膝!」
サクラの声に反応してネネが動く。
「タッキ、首」
僕は身をかがめる。頭の上を爪が通り過ぎる。
「ネネ右手!」
「ぐっ」
どうも爪がネネを掠めたみたいだ。どんどんデーモンからの攻撃が早くなってくる。
「タッキさん、もうそろそろ限界です」
サクラが叫ぶ。そうだよな。未来を予測する能力がそんな無尽蔵に使える訳ないか。ここは僕が引き受けるしか無い。僕は頭を守りながら、デーモンに向かって駆け出す。なんとか距離を詰めないと攻撃方法がない。近づく僕に向かってデーモンが爪を振るう。太めの爪だからなんとかかわせてるが、体のあちこちが刻まれていく。
「このクソ雑魚が。なんで雑魚なのに死なない?」
デーモンは激昂してるおかげか攻撃が単調になってきた。けど、このままじゃ、近づく前にまた、アフターピルになっちまう。少しづつ頭がクラクラしてくる。あ、いいの貰っちまった。左肩を貫かれた。少し、あと少し近づけば飛びついて押さえ込める。
「タッキ! スキルは?」
ミコが尋ねる。
「全部使った」
「よく聞いて、タッキのスキルは? 『ウォーターガン』なんでしょ? 『オシッコガン』じゃないんでしょ? なんでオシッコしかガンにしてないのよ!」
「えっ?」
そう言えばそうだ。なんで『ウォーターガン』なのにオシッコしか試さなかったんだろうか? 最初にスライムに使ったからか?
水と言えば涙?
ギン!
伸びてきたデーモンの爪を僕の目から放たれた涙が逸らす。え、まじか? 僕の全身の居たるとこから血が流れている。
「ブラッドガン」
僕の全身から噴き出した血が一瞬にしてデーモンを蜂の巣に変えた。
『タッキはレベル17になりました。ウォーターガンはレベル13になりました
』
えっ、まじか倒したのか? 終わったのか?
「タッキ、凄いわねー」
ライラがバシャバシャ走ってくる。えっ。
「なんか、誰かに回復してもらったのよ。水の中で死んだふりしてた」
あ、そうか、影の中にみんな居たって事はミコだな。僕がライラに駆け寄った時に。
けど、まだ終わってない。黒幕が居る。デーモンの契約者が。
パチパチパチパチ。
拍手の音がする。川原を1人の男が歩いてくる。いつきやがった? 学校の制服。カズマだ。
「さすがだなー。タッキ。デーモンやるなんて。やっぱお前が一番ヤベーよ。けど、今日のとこは見逃してやる」
カズマの姿はフッと搔き消える。
「やりそこなったわね。アイツは召喚で消耗してたのに」
サクラが悔しそうに言う。そうだ何呆けてたんだろう。デーモンと同じようにやれたはずだ。
けど、疲れた。僕は膝から崩れ落ち、寝転ぶ。血が、血が足りない。
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