第七十五話 知恵の力
「おい、まじで1人で行くのか?」
僕はサリナの顔をじっと見つめる。全く怯えは見えない。
「はい、見ててください。近接攻撃だけが物事を解決するものじゃないって事を見せてあげます」
サリナは微笑むと眼鏡クイッをする。眼鏡はずれてないのに。これって、私は頭良いキャラですよアピールだよな。
「優等生は面倒くさいねー。あんなの三発殴れば終わりじゃん」
脳筋聖女がなんか言ってる。三発ってキミ、さっき一撃じゃ仕留められなかったよね。そのせいで僕は死にかけたんだよ。
僕たちは部屋の入り口に立っている。奥には3匹のオーク。
「アイツら藁小屋と木小屋とレンガ小屋とか作ったりしないのかなー」
ミコが微妙なジョークを言う。
「それなら私は狼って事ですね。子豚ちゃんたちを吹き飛ばしてあげますわ」
サリナは素手で部屋に入っていく。
「けど、たしか、最後に狼は煮られて食べられるのよね」
なんかミコが不穏な事言っている。なんか昔の童話って結末がダークだよな。
サリナが歩いていく。ここまで届く噎せ返るようなラベンダーの香り。良い香りも強いとなんかクラクラする。サリナが近づくのにオーク共は気付くけど動かない。それにしても体格差が凄い。オークは多分2メートルはある。それに比べてサリナは160センチくらいだろう。ここから見ると大人と子供みたいだ。
「あなたたち。私は争う気はありません」
サリナは両手を広げ豚共の前に立つ。豚は日本語分かるのか? 争う気は無い? 何言ってるんだ。さっきまで殺意バリバリだったじゃないか。 こっちに背中を向けてるからその表情は分からないけど、気持ち悪いくらいの猫なで声だ。なんか危険は無さそうだから、部屋の中に入ってサリナが見やすい場所に移動する。
「さぁ、友好を結びましょう」
めっちゃラベンダー臭え。なんか口の中が苦いような気もする。強い香りって味がするんだな。けど、全く嫌な感じはしない。むしろ良い気分だ。このクスリのせいだな。吸う系の麻薬かよ。隣を見るとミコは鼻を摘まんでいる。そっか、鼻摘まめばいいんだ。なんか頭が働かないな。僕らですらこうだから、鼻がデカい豚にはもっと強烈にキまってる事だろう。
サリナが満面の笑みで豚に右手を差し出す。なんかめっちゃ綺麗だ。まるで女神様のようだ。いかんわ、変なクスリの香りにやられている。
一匹の豚がヨロヨロと前に出る。豚はたるんだ顔でサリナを見ている。結構距離がある僕たちでこうだから、至近距離の豚共にはたまらないだろう。間違い無くラリってるはずだ。豚は震える右手を差し出す。サリナは何をする気なんだ? 豚を魅了してしもべにでもする気なのか? 豚とサリナが握手する。おお、魔物と人間って仲良く出来るんだな。豚はめっちゃ幸せそうだ。
「せいやっ!」
一瞬だった。サリナが豚の右手を引いたと思ったら、その前のめりになった首に包丁が刺さっている。と思った時には二匹目の股間を蹴り上げて、その首を切り裂き、3匹目の心臓あたりを一突き。えっ、さっきまでのほのぼのは何だったんだ? 悪魔かよ。幸せそうな顔しながら豚は光と消えて魔石が残り、嬉しそうにそれをサリナが拾う。やべー、コイツも問答無用のサイコパスだ。
もしかして、錬金術師という職業がら、連中の中じゃコイツは一番弱いんじゃないかと思ってたが実は最強なんじゃ? たちの悪さは多分一番だ。
「どうだったかしら? 私は持ってるもの全て使わないと上手くいかないの。だって弱いのですから」
サリナがこっちを向いて微笑む。僕は背筋がぞわわーっとする。知恵の力を見せる、近接戦闘は苦手とか言ってたわりには完全物理で殲滅したような?
「嘘つけっ! どこが弱いんだ!」
言葉がほとばしる。多分、コイツはさっきのような小細工無しでも豚を秒殺出来たはずだ。
「少しは参考になれば良かったけど。持ってるものは何でも使うって事が少しでも伝わればいいわね。これあげますわ」
さっきの『マイトポーション』を四つと、濃いやつと、更に濃いやつをポーチに入れて差し出す。僕は少し躊躇いながらそれを受け取る。ポーション無しじゃ今の僕はオークとは勝負にならないもんな。けど、出来れば濃いのにはお世話になりたくないな。
「これも貸してあげます」
包丁も貸してくれる。
「では、目的は達成しましたので、帰りますね」
ん、目的って何だ? もしかして、ミコの魔法をクスリにするためにコイツは来たのか? 撮影とか言ってたわりには1回も撮影してなかったし。
「えっ? アンタ帰るの?」
「はい、忙しいですから。さっきの薬の効果を調べないとですから。あと賢者の薬の予備も作らないと」
なんかサリナはうずうずしてる。さっきのクスリを試したいんだろう。もう十分彼女の強さも分かったし、ミコとサリナ2人を制御するのは僕には無理だ。帰るというのを留めるメリットはないな。
「ありがとう。勉強になったよ。クスリもありがとう。大切に使うよ」
「じゃ、また後で」
ミコも引き止めない。
僕らはサリナを見送り、オーク狩りをまた始めた。
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