第六話 苦境
「ライル、ライラー、ライラライララ、ウルル」
まるで妖精か何かが歌ってるような澄んだ声。ライラの歌声だ。また魔法か?
「おいっ、少ないマナを何こんな猿のために使ってるんだよ」
ん、ウルルの言葉が分かる。という事は、ライラが動物と話せる魔法をウルルに使ったのか。けど、見た所、ウルルは間違い無く脳筋だ。会話出来なくても問題無かったんじゃ?
「多分、私だけじゃ、この人との交渉は難しいわ」
「て言うか、なんだよ、このクソ雑魚は。こんな奴がゴブリン三匹も倒せるわけねーよ。やっぱコイツはゴブリンの手先だろ」
ウルルが剣の切っ先をこっちに向けて声を荒げる。その目は僕をじっと見て瞬きすらしてないように思える。僕の一挙手一投足を警戒してるようだ。僕は生まれてこのかた、ここまで人から強いヘイトを向けられるのは初めてだ。僕が何をしたって言うんだ?
「おいっ! 信じてくれよ。僕が居なかったらアンタたちは逃げられなかっただろ。もし、僕がゴブリンの手先なら、さっきゴブリンと一緒にアンタらに襲いかかってたはずだろ」
「じゃあ、お前のようなクソ雑魚がどうやってゴブリン三匹も倒したんだよ!」
「それは……」
ここで本当の事言った方が、信じて貰えず、逆にしばかれそうな気がする。その前に、彼女らの前にガンを出した時点で斬り殺されそうな……
僕とウルルは対峙する。さすがに斬りかかってきたらガンで迎え撃つ。
睨み合う僕とウルルの間にライラが立ち塞がる
「ウルル、さっきはやり過ぎよ。なんか奇跡か何かで、この人がゴブリンを倒したかもしれないじゃない。そんな事より、私達はこの人にも協力してもらって、町に帰るしか無いでしょ」
ダンッ!
何かがぶつかるような音。僕らは音の方に目をやる。勢い良く入り口の扉が空く。そこには二匹のゴブリン。森から出て来たのか?
「クソッ!」
ウルルは僕に背を向けて、ゴブリンと対峙する。小屋の入り口は狭く、入って来ようとした一匹のゴブリンをウルルが剣で突く。
「グギョッ!」
ゴブリンは奇声を上げながら吹っ飛ぶ。それを見て、もう一匹は外に逃げる。
ウルルが扉を閉め、扉の横にあった柱を閂にして開かなくする。
「クソッ。不味いな」
ウルルが空いた手の爪を噛んでいる。
「森の奴らに見つかったな。ここは頑丈だけど、囲まれたら逃げられ無い。ライラ、窓もしっかり閉めとけ」
ライラとウルルは窓を確認している。
「おい、逃げなくていいのか?」
「大丈夫よ、ここには保存食があるから、私達が戻らなかったら1週間以内には冒険者ギルドからヘルプが来るわ」
「そうだな。ここに籠もるしか無いか。まさか、私達がこの避難小屋を使う日がくるとはな。ここには堅牢の魔法がかけてある。ゴブリン程度なら百匹くらい来ても問題無いはずだ。その間に、お前の処遇を考える。正直に全て話せ。だんまりでもいいが、その時には小屋から叩き出すぞ」
やっとこの小屋が何なのか分かった。やっぱ避難とかして籠もる場所だったんだな。保存食が沢山あったのも肯ける。2人はここに保存食が有るって思ってるようだけど、あれ、食っちまったんだよな。彼女たちの神経を逆なでしないようにその事を伝えないとここから放り出されそうだな。
「あのー、さっき言ったと思うんですけど、僕、ここにずっと居たんですよ。そのー、なんて言うか」
僕はチラチラ、食料があった棚を見る。ライラはポカンと口を空けて、ウルルは剣を落とし、ガバッと走り、棚を齧り付くように見る。
「はぁーっ? 無い、無いぞ飯がっ!」
ウルルが声を上げる。ライラも棚に駆け寄る。
「ええーっ。何で無いのーっ! どうしよう。どうしよう。荷物、放り捨てたし……」
ライラはオロオロしている。2人とも冷静じゃ無いな。僕は棚を覗き込んでる2人に近づく。こういう時は。
「2人とも落ち着きなよ。まだ保存食は8食有る。それにゴブリンから奪った肉もある。水も汲んだばかりだ。3日くらいは凌げるだろ」
「凌げるだろじゃねーだろ」
「ほげぇ!」
僕は吹っ飛ばされる。ウルルが振り向きざま俺を殴りやがった。痛ぇ、また口の中切ったぞ。
「クソがっ。オメーが食ったって事だろ。ここは避難所だ。有事の時以外は使わないのがルールだ」
ウルルが真っ赤な顔で俺に近づいて来る。腹立つなポンポン殴りやがって。
「僕だってその有事だったんだよ。言っただろ。気付いたらここに居たって。こっちは前も後ろも右も左も分かんねーんだよ」
立ち上がって構える。もし、コイツが武器を使うなら、もう躊躇う事なくガンを使う。運が悪かったら殴られても死ぬ事有るからな。剣で斬られたら死ぬ。間違い無く死ぬ。正当防衛だ。けど、女の子だから殺しはしない。肩か足を撃ち抜いて無力化してやる。
「ちょっとー、ウルル落ち着いて。この人にあたってもしょうが無いじゃない」
ライラが僕たちの間に立ち塞がる。ライラ、マイエンジェルって言いたいとこだけど、ジト目で俺を見ている。虫や動物を見る目だ。
そうだ、飯食った事にアイツらが文句あるならば、金を払えばいいはずだ。
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