第五十九話 変身
「ちょっと待てよ。なんで、そんなもの飲ませたんだよ!」
つい、僕は声を荒げる。それに怪訝な顔してエマが答える。
「たっちゃん、何言ってるの。昨日は確かに騙して飲ませたけど、今日は自分から進んで飲んだじゃない」
確かにそうだ。前回は風呂上がりの飲み物に一服もられたんだが、今日は女装の一環として自分から飲んだ。しかも、少し女装を楽しみかけてる自分がいて、そこまで嫌々じゃなかった。
「けど、そんなに危ない薬なら一言言ってくれても」
「ん、危ない薬? たっちゃん、さっきあった事思い出してみて。もし、薬を飲んで無かったら悲惨な事になってたと思うわ。ミコさん、聖女の魔法で、欠損した部位を治す事出来るの?」
「『アフターピル』なら出来ると思うけど、試した事無いから確実じゃないわ」
アフターピルをネネが発動させたのは見たが、あれなら多分回復出来るのではと思うけど、そのために致死ダメージを受けるのは嫌だ。さらにエマが喋る。
「だから、もし、たっちゃんが女の子になって無かったら、さっき潰されてたのよ。しかも、サクラが言ってたわ。ミコさんの死亡蘇生の魔法には時間制限があって、潰されて時間が経ったら、無いのが普通の状態だと認識されて、治らなくなるそうよ」
という事は、サクラは潰されるのを予知してて、そうならないように錬金術師のサリナの薬を僕に飲ませたという事なのか? なんか有難いのか、有難く無いのか分からない話だな。
「で、これ、治るのか?」
「えっ、治したいの?」
エマがキョトンとした顔で答える。
「治したいに決まってるだろ。僕は男だ」
「えっ、もったいない。それ、『乙女の祝福』って言うレアな魔法薬で、男が女には成れるけど、女から男には成れないのよ。TSって最高じゃないの。せっかく楽しそうなのに勿体ない。時間が経ったら戻ると思うけど、薬の名前の通り、祝福の魔法薬だから解除する方法はそうそう無いわ」
何が祝福だよ。悪質な呪いだろ。
「で、時間ってどれくらいなんだ?」
「さぁ?」
「おいおい、そんな不確かな薬を僕に使ったのかよ」
「しょうがないじゃない。うちらには男の子の友達なんか居ないし、仲良く無い人はそんな怪しげな薬飲まないわ」
「そんな怪しげな薬を僕に飲ませるなよ!」
「それなら、飲まなかったら良かったじゃない」
「ううー。キャッ」
口から可愛らしい悲鳴が漏れる。胸に嫌な感触が……
「あっ、確かに中身がある。小っこいけど」
ミコが背中から抱き着いている。当たってる当たってる。
「ミコ、揉むなや、揉むなや」
揉まれるのは気持ち悪いが、背中が幸せだ。耳元でミコが口を開く。
「まあ、なっちゃったのはしょうがないじゃない。時間経てば治るんでしょ。じゃ、先にあのスライムなんとかしないと時間無いんでしょ?」
そうだ、シルバースライム! 僕は奴がぶち当たって開けた扉を見る。見事に穴が空いている。おお、やべぇ。あの体当たりを食らってよくこれだけのダメージで済んだな。少しだけエマには感謝した。もしついてたらバットもボールもぺっちゃんこだっただろう。けど、困った。この体になって『ウォーターガン』は使えるのだろうか? 使えるとは思うけど、今までみたいに狙いを定めては撃てないと思う。それに、パンツ脱ぐのは男でも駄目だけど、女の子ならもっと駄目だ。コンプライアンス的なものはこの姿に重くのしかかってくる。まあ、ガンは封印だな。今の状態には何のメリットも無いな。ただ女の子の服着ても、女の子の下着を着けても女の子だから問題ないくらいで。
「でも、アレ、どうやったら倒せるの?」
ミコがその場に足を投げ出す。パンツ見えとるぞ。もしかして僕が女の子になったからさらに警戒心が無くなったのか? けど、ミコが言う通りだ。倒す方法が思いつかない。接近戦では僕ら誰も触れる事すら出来そうも無い。今、僕らが使えるスキルを考える。僕は何も無い。ウォーターガンは隠れて試し打ちしないと使いものにはならない。ミコは接近戦と回復魔法。シルバースライムには役に立たない。エマも接近戦と召喚魔法。召喚魔法!
「おい、エマ、もっと強い魔物は呼べないのか?」
「スライム以外に呼べるのはゴブリンかオークだけど、あのスライムには触れる事も出来ないと思うわ」
「タッキ、タッキのフォースは?」
ミコが尋ねてくる。フォース? フォースってなんだ? あ、ガンをそういう風にぼやかしてたな。
「んー、どうもこの体じゃ使えないみたいだ」
「えっ、アレが無かったら、タッキってただの役立たずじゃない」
うー、何も言い返せない。ヌルヌルお化けの癖に。ん、ヌルヌル? そう言えば、ここではスライムは倒したら魔石を残して消えるけど、ヌルヌルのスライムなんとかしないと汁は残っている。シルバースライムは地面を進んだり跳んだりしている。それには床の抵抗が必要な訳で、このヌルヌル汁ならそのスピードを潰せるんじゃないか? それに体当たりも床を蹴ってるはず。その攻撃も無力化できるのでは?
「役立たずじゃないぞ。思い浮かんだ。アイツを倒す方法を!」
僕は二人に作戦を話す。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。




