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第五十八話 驚愕


「タッキ! 大丈夫! キンタマは?」


 ミコが大声を出す。女の子が堂々とキンタマって叫ぶんじゃないよ。


「うおっ。ぐぅ。こぉおおおおあーっ」


 いかん、答えようにも声にならない。


「……股間いじって、悶える美少女……」


 エマには赤い血は流れてないのか! 僕を撮影してやがる。くそー、女の子はこれだから。この痛みを知らないもんな。一度でもこの痛みを体験した者は『こつかけ』という琉球空手の秘奥義を会得しようとした事があるはずだ。パンツの上から撫で撫でして、なんとか痛みを散らそうとする。なんか最近こんな目にばっかあってるな。嫌なデジャブだ。


 ん……


 しっとりとした手をじっと見つめる……働けども働けども 我が闘争楽にならざり。有名な石川啄木の歌が頭に思い浮かぶ。誰しも『啄』の感じを間違って『豚』ってかいたり、『啄』を『ブタ』って読んだ事があるはずだ。


 あまりの痛みとショックでトリップしてしまった。


 手に血はついてない。ていうか、ボールも含めてちんちんがついてない。ついてない! ついてないんだ!!  


 もう一度、ガンを確かめる。やはり無い。つるりんとしている。


「ううっ、ワァーーーーーーーッ!」


 気がついたら叫んでいた。大きくなってから声を出して泣いたのなんて初めてだ。涙が止まらない。無くなった。無くなっちまった。


「タッキ!」


 ミコが近づいてくると、僕の頭を優しく抱きしめる。頭にやらかいものがあたる。


「あらあら、こんなに泣いちゃって。タッキちゃん。ちんちんいたかったんでちゅねー」


 優しく撫で撫でしてくれる。違う。痛いからじゃない。女の子が堂々と『ちんちん』言うなや。


「うう、ぐすん。無い。無いんだよ」


 痛みはもう引いてきた。


「んんー? タッキちゃん何が無いの知性?」


「それはお前だろ。だから無いんだよ。無い!」


「だから、何が無いんでちゅかー」


 ミコの顔が近い。撫で撫でしてくれる。


「んー、なんかコレ悪く無いな。チャイルドプレイに走る奴に共感出来そうになるな」


 つい、感じた事を言っちまう。確かにミコが言ったように知性も無くなってるかも。


「やっぱり。タッキちゃんは変態さんなんでちゅねー」


 とか言いながらも赤ちゃん言葉を続行してるミコの方が変態寄りなんじゃ? 


「違う。僕は変態じゃない」


「どの口がそんな事言ってるんでちゅかねー。お化粧して、声まで変えてセーラー服を楽しそうにヒラヒラさせてねー」


「うっ……」


 そうだな。今の僕を傍からみたら間違いなく変態だ。


「待て、けど、ブラジャーはしてるけど、ショーツは穿いて無いからセーフだろ」


「何がセーフよ。例えばタッキちゃんの男のお友達のシャツの肩にブラひもが透けてるの見たらどう思う? とある男のあたしの友達、今、現在進行形でブラひも透けてるわよ」


「うっ……」


 がちで言葉に詰まる。そうが僕は変態さんなのか……


「違う。たっちゃんは変態じゃないわ」


 ここでエマが会話に加わってくる。まぁ撮影してやがる。やっぱ一度コイツにはヤキが必要なのか? まあ、けど、僕を擁護してくれてるようだから勘弁してやろう。


「長沢、何言ってるのよ」


 ミコの声は僕に対する猫なで声と違ってめっちゃ冷たい。


「タッキは正真正銘のド変態よ。あんたたちもやられたんじゃないの? 女装趣味で、誰彼構わず女の子におしっこぶっかける、もう帰ってこられないとこまで上り詰めた変態オブ変態よ」


 エマは気圧される。けど、拳を握って反論する。頑張れ!

 

「確かにたっちゃんは、女の子におしっこをかけるわ。けど、それは結果であって、それには大声で言えないちゃんとした理由があるの」


「あんた頭大丈夫? 女の子におしっこかけるちゃんとした理由なんてある訳ないじゃない。女の子に火がついてるのを消したとでも言うの?」


「うう、確かにそうだけど、これについては約束でうちからは言えないわ」


 エマが僕を見る。僕は首を横に振る。スキルがミコにばれたら間違いなくオモチャにされる。多分1時間くらいは腹抱えて笑われる事だろう。


「えっ、なによソレ。タッキ、なんであいつが知っててあたしが知らない事がある訳?」


「たまたまだ。あんまり人におおっぴらに言えるような事じゃないんだ。いつかは打ち明けるから、まだ時間が欲しい」


 僕は出来るだけ真面目に言う。ミコはこう言うのに弱いからな。


「そう、タッキがそう言うなら、今はまだ保留しててあげるわ」


 なんとかミコは押さえられたみたいだ。『今は』とか言ってるけど。


「それと、たっちゃんのその格好だけど」


 まだエマが喋る。あんまボソボソじゃ無くなったな。ミコにも馴れたのか?


「女の子が女の子の格好してるだけだから、何も問題ないわ」


 ん、今、なんて言った? 僕が女の子?


「どういう事だ?」


「えっ、たっちゃん聞いてないの? サリナの薬の事」


「サリナの薬?」


 この声変わりの薬の事か?


「喉仏を小っちゃくして声を高くするんだろ」


 なんかそんな事言ってたような。


「はぁー。やっぱり言って無かったのね。あの薬は時間をかけて男の子を女の子にする薬よ。前回のは味でばれないように薄めだったからあんまり実感してないと思うけど、今回はちゃんとした量だから、今、たっちゃんは正真正銘女の子よ」


「「はぁーーっ?」」


 僕とミコの言葉が被る。なんじゃそれー!!





 


 


 読んでいただきありがとうございます。


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