第四十六話 猛獣
「おい、お前ら何してんだ?」
シノブはネネになんかスキルを使ってるように見えるし、エマはシノブに何らかの魔法を使っている。決して好意的な事をしてる訳じゃないだろう。
シノブもエマも僕を無視してネネを見ている。止めた方が良さそうだ。
「おい、止めろ、ぶん殴るぞ」
実際襲われない限り女の子を殴ったりしないけど、脅しってやつだ。シノブがちらりと一度僕を見る。
「黙ってて、集中が切れる」
シノブが投げたと思われるナイフがネネの影に刺さっている。それがブルブルと震えている。その足元の魔方陣が一際激しく輝く。そして光が弱まると、ネネの体が下がっていく。その足元が足首まで床のコンクリートに埋まっている。さっき豚共が召喚されたのを逆まわしにしてるような。送還、どっかに送り返す。ネネをどっかにやろうとしてるんじゃ?
「くっ、疲れててレジスト出来ない」
ネネはブルブル震えている。
「おいっ、どういう事だ? ネネをどうする気だ? 実力で止めるぞ」
今度はシノブは振り返る。
「信じて、悪い事はしてないわ。後で説明するから、私たちを助けて。ここからは心の勝負。先に集中が切れたら負け」
ん、助ける? 心の勝負? どういう事だ? ネネが僕を見る。
「そこの君、どうにかしてくれないかな。ボクとそのゲジゲジたち、どっちが大事なんだい?」
ネネは少しずつ沈みながらゆっくりと話す。冷静に見えるがその瞳はギラギラしてる。心の中は荒れ狂ってそうだな。それかバトルで出たアドレナリンがまだドバドバなのか? けど、そのゲジゲジって言葉がなんか引っかかった。なんか女子の口が悪いのは印象が良くない。口を開こうとしたがシノブが喋り始める。
「ネネさん、さすがに私たちにゲジゲジは言い過ぎだわ。三流三下三文アイドルの癖に」
おっ、シノブがヒートアップしてる。
「三流……三下……三助……」
ネネが顔を赤くする。これは間違いなく怒ってる。けど、軽く間違ってる。三助って言うのはお風呂で背中流す人の事だよな。さらにシノブが話し始める。
「確かに私たちはゲジゲジみたいに暗くてじめじめしたとこが好きだわ。アジトはトイレと風呂場だし。それに、女子力低いから色んなとこの毛は放置してるからゲジゲジみたいよ」
さらりとまた下ネタを……女子の下ネタはドン引きだ。もの申す。
「お前他の男子がいる時には絶対こんな事言わなかったのに。もしかして僕は男として見られてないのか?」
「……男子はここに居ない……」
エマがボソリと言う。ぐっ、そうだ。今は僕は可憐な女装男子。女装男子の前では女子は心の中のドロリとしたものをさらけ出すのか……
そうだよ、ネネは僕がタッキだと言う事を気付いてないんだよ。僕はネネにスカートをまくり上げトランクスを見せながら叫ぶ。
「変装してるけど、僕はタッキだよ。良ーく見ろ」
「はぁーっ!」
ネネの目が大きく見開かれる。
「ええーっ、マジ? よく見ると似てる。うっそでしょー! あー、馬鹿馬鹿、集中がーーーーー」
ネネは急にズブズブとコンクリートにに埋まって行って、最後には上げた右手が空を掻いていた。
チャリン。
ナイフが床に転がる。魔方陣は緩く1回光ると消え去った。
「ありがとう。タッキ君のおかげで雌ゴリラを飛ばせたわ。私たちだけだったらレジストされてたわ」
シノブが深々と頭を下げる。
「ええっ? 僕のせいなのか? あいつ大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。時間稼ぎだから」
「おわっと」
下から声がする。影の中から頭が出てて僕のスカートの中をガン見している。サクラだ。度しがたい変態だ。なんか目を開けるのはしんどいとか言ってたこにそこは見るんだ。僕はスカートを押さえる。
「スカートが様になってるわね。その恥じらいながら押さえる様子。ご馳走様でした」
ヌラリとサクラが影から出てくる。穴は高いとこにあったはずだけど、コイツらはどうやって楽々上がって来てるんだろう?
「私が基本的にネームを書いてるから、得意だから簡単に説明するわ」
サクラは目を閉じて語り始める。
まず、シノブのスキル『シャドースナッポ』は、相手の影にナイフを刺して動きを止めるというもの。精神世界をつなぎ止めるものだから、コンクリートとか固いものにも刺さるそうだ。昔の有名ラノベの魔法をパクッたものだから、著作権とか考えて一文字変えてるそうだ。
そして、エマがネネにかけたのは『送還』。『召喚』の反対の魔法で、『召喚士の迷宮』に相手を送るものだそうだ。エマの召喚術は、その『召喚士の迷宮』から魔物を呼ぶもので、自分のレベル以下の階層からしか基本的に魔物は呼べないそうだ。ネネは『送還』でその迷宮に送られたけど、弱いモンスターしか居ないから問題ないと言う事だ。
さっきみたいに魔法にレジストされたら、マナの押し合いになるそうだ。それで集中が切れた方にマナが流れ、レジストされたら魔法は効果を失い、レジストを抜けたら発動するそうだ。
なんで、あれしきでネネは集中が途切れたんだろう?
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