第四十五話 送還
「消えなさい! 変態!」
ネネの声が聞こえたと思ったらお腹に激痛。蹴られたのか? 急な加重で内蔵がシェイクされて「オエッ」となるが痛くはなかった。蹴ると言うよりも押したような感じ。僕の前にでっかい影が飛び込んでくる。
ギィーーーーーーーン!
金属を叩きつけた音。みると、さっき僕が居たとこに豚が斧を叩きつけてる。アブねー。ネネに蹴っ飛ばされなかったら、今ごろ両断されてたかも。僕はコンクリートの床を転がる。頃転がってばっかだな。まだ、下腹部が上がってくるように痛い。けど、蹴られたお腹の痛みのおかげで、少し和らいた。ネネに礼くらい言わないと。
「ありがとう、ネネ、でっかい借りだ」
「でっかいカリ? あんたラリってるの? もしかしてオークみて興奮してるの? ていうか誰?」
横にネネが来る。不機嫌そうなウンコを見るような目でこっちを見てる。顔は所々赤黒く腫れ、パジャマの前ははだけてて、服はボロボロ沢山の傷から血が滲んでいる。けどその目は爛々と輝いている。
「『でっかいカリ』って、命を助けてもらったカリ。僕は変な事は言ってない。言葉を受け取る側の問題なんじゃないのー?」
なんかこんな格好で高い声だと、言葉までなんか引っ張られて女の子みたくなってるような。
「ん、こんなとこにいきなり現れてオナニー始める変態とはもう話さない。消えなさい。戦いの邪魔」
そう言うとネネは駆け出す。デカい豚に向かって。豚もボロボロだ。鎧はベコベコで、斧は欠けている。コイツら僕が居なかった小一時間バトってたのか? ヤバすぎだろ。
なんとか僕もふらつきながらも立ち上がる。痛みでなんか吐きそうだ。
ネネと豚の戦いは伯仲している。重そうな鎧を着て長時間戦ってスタミナが切れかけてるからか、豚の動きは散漫だ。
けど、ネネの方は素手で破れた服のみ。前ははだけて胸の谷間などは見えるんだけど、その先端は一度も晒されてない。さすが芸能人の端くれ。放送事故は早々起こさないって事か。残念。
ネネは一撃いいのを貰ったら勝負はつくだろう。今はみるとこネネが押してるようだ。けど、さっきに比べネネの体の光が弱くなってるような。
「まずい、もうすぐ切れる」
豚と間合いを取りながらネネが呟く。そう言えば、なんとかってスキルでネネは強化してたんだよな。それ、切れたらまずいんじゃないか? 召喚士のエマの事を思い出す。あいつに頼めば送還してくれるんじゃないか?
「おい、居るんだろ、アイツを送り返してくれ」
僕は僕の影に向かって話しかける。
「大丈夫か? やっぱお前ラリってるのか?」
戦いは激しいはずなのにネネからツッコミが。そうだよな。影に向かって話しかける人ってヤバいよな。んー、返事ないな。もう闇の住民たちはどっか行ったのか?
「おい、変態、逃げろ。もうじき私では押さえられなくなる」
なんだかんだでさっきも助けて貰ったし、ネネはいいやつだ。僕は戦ってるネネたちの方に歩き始める。弾は十分あるな。
「聞こえないのか! 馬鹿、逃げろ」
拳聖ともなると、振り返らなくても状況が分かるのか。ネネは僕に背を向け戦いながら叫ぶ。
ネネの体の光が蛍みたいに点滅する。そしてフッと光が消える。
「くそっ。切れたか」
ネネは豚が振り下ろした斧を受け止める。豚は力を入れネネが押される。ネネの背中が少しづつ沈む。けど、そこで斧は止まり硬直する。まじかよ、あのゴリマッチョ豚と小柄なネネの腕力があんま変わらないのかよ。こっわ。
ドゴッ!
鈍い音がしたか思うと、ネネが吹っ飛ばされてくる。豚の蹴りを食らったみたいだ。
「う、うぐっ」
ネネの声がする。大丈夫のようだな。
僕は無造作に豚に向かって歩く。豚は斧を振り上げ駆けてくる。
「フォーーーーッ!」
僕は技名を叫びながら、パンツをずり下げ、スカートをまくり上げネネへのブラインドにして腰を前に振り狙いが定まった瞬間、ガンからシュートする。今回は一発分残しての大盤振る舞いだ。過たず豚こ頭に当たり散華する。
ドサリ。
首を失った豚は数歩進むと前のめりに倒れる。そして、光りの粉になりそこそこ大きめの魔石が残る。
僕はスカートを降ろし、パンツを整える。
「ミッションコンプリート」
高いけど、頑張って低めの声を出す。イメージはツンデレ無感情ヒロインだ。僕の好物だ。ん、好物になってる? 僕が求めてるものと少し違うような……
「え、ナニソレ?」
良かったネネはなんとか無事みたいだな。聞こえた声はまだ元気だ。僕は魔石を拾い振り返る。そして、床に座ってるネネの方に向かう。
「あなた、何者なの?」
ネネが右手で服を纏めながら立ち上がる。そしてジリジリと後退る。こっちは見た目女の子なのにガード固いな。
シュッ。
風を切る音がする。
「シャドースナッポ」
僕の足元から誰か出てくる。忍者? シノブだ。ネネの動きが止まり、その顔に驚愕の表情が。
「かっ、体が動かない」
「さすが拳聖、私の影縛りが刺さっても話せるのね」
「シノブ、何してんだ?」
「エマ!」
シノブは僕を無視する。
「……はい」
更に僕の影からノソッと人が出てくる。キグルミパジャマのエマだ。
「……送還」
エマの声と共にネネの下に光輝く魔方陣が現れる。
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