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第四十話 イドの海


「じゃ、行くわよ」


 サクラが立ち上がる。


「って、どこに」


「イドの海へよ」


 んー、訳わからんわ。けど、ついていく。サクラが便所の奥の扉を開けると、そこは露天風呂を模した風呂場だった。もうもうと湯気を上げる岩で囲まれた浴槽に並々とお湯が満たされている。その手前には6つ程シャワーと洗面台のようなものが椅子つきである。なんで風呂場?


「お前ら、なんでもっとマシな部屋にしなかったんだ? トイレと風呂場しかない家って役に立たないだろ」


「私のスキルに一番相応しいのがコレなのよ。スキルを使う時に大量の水が要るのよ。そこに浸かる必要があるわ。とりあえず、シャワーでしっかりローションを落として」


 なんか胡散臭いけど、言われた通りにするか。


「脱衣所は無いのかよ」


「贅沢言わないで。服なんかそこら辺にかけとけばいいでしょ」


 まあ、正直風呂は有難いな。パジャマもパンツのびちょびちょだ。


「なあ、着替えは無いのか?」


「しょうが無いわねー。シノブよろしく」

 

「はーい、任せといて」


 僕とサクラは風呂場に入り扉を閉める。僕は服を脱いで、洗面台の間の衝立にかけていく。


「おい、ガン見するなよ。恥ずかしいだろ」


「大丈夫よ。あなたがパンツを脱がないのはみえてるから」


「当たり前だろ。マナー違反かもしれないがパンツは脱がん。お前も水着で入れよ」


「はーい」


 僕らは洗面台の前でシャワーを浴びる。どうしてお湯が出るんだ? どんな構造なのか気になったけど、早くサクラのスキルを見たい。


「ローションしっかり落とさないと、後で痒くなるわよ」


「お前、使い慣れてるのか?」


「そりゃそうよ。『双剣学園』の2巻では、主人公がローション使いのスキルに目覚めるのよ」


 その『双剣学園』ってさっきの同人誌か? まじか、2巻では僕はそんなゲスなスキルに目覚めるのか。なんか今の僕とあんまり変わらないような……


「ちょっと待っててね」


「おいおい、何するんだ?」


 サクラはL字カミソリを持って浴槽へ向かう。そのカミソリで何を剃ってるのか気になったけど、僕はデリカシーがある男だ。サクラはそれを軽く指に当てる。ポタリと一滴、指先から黒い血の雫が落ちる。落ちたとこからお湯がまっ黒に濁っていく。怖っ!


「ちょっと聞いていいか? 僕、それに入るのか?」


「そうよ。これが擬似的『イドの海』全ての人の無意識にリンクしてるわ。別に血じゃなくても私の体液ならなんでもいいんだけど、唾とかおしっことか汁とか入れた風呂にはみんな入りたがらないのよ。血出すの痛いから嫌なのに。私のだから汚く無いと思うんだけど、なんでだろ」


 なんでだろと思うお前の考えがなんでだろだよ。なんかまた自然に下ネタを吐いてたな。血でも嫌だけど、他のはもっと嫌だ。コイツは美少女と言っても過言じゃない。けど、中身は腐っている。そんな奴の体液が入った風呂に入るなんてドブ川に入るようなものだ。


「入るわよ」


 ちゃぽん。


 うわ、躊躇いなく石油のような風呂に入りやがった。コイツ、メンタル、ダイヤモンドなのか?


「うーい」


 サクラはオッサンみたいな声を上げて目を瞑る。そして、目を開けてこっちを見る。


「早く入りなよ。あ、もしかして、男の子だから、やっぱりおしっこや汁が良かったの?」


 あどけない顔で、また下ネタかよ。


「そんなんに入れるか! 血の方がまだマシじゃ」

 

 話が進まないので僕は恐る恐る足を入れる。あ、暖かい。僕はゆっくりと肩まで浸かる。


「じゃ、始めるわよ。スタートは次のラグナフェンへの転移からね」


 そのサクラの言葉を聞いた瞬間、体の力が抜け、グイッとお湯に引きずり込まれる。






「キャーーーーッ!」


 川の中でデカいゴブリンがマリンの右手を吊り上げて持ち上げている。デカいゴブリンはマリンの顔を長い舌で舐めている。戻って来た。あの場所だ。


『タッキはレベル6に上がりました。ウォーターガンがレベル3に上がりました』


 えっ、世界の言葉? もしかしてあっちでの経験がこっちでレベルアップ出来る? 体に力が漲る。やれるんじゃ?


「ウルル、下がれ」


 僕はウルルの横を駆け抜ける。川の中にゴブリン共が飛び込んでくる。


「ライラ! 逃げろ」


 背を向けてたライラはビクンとすると、こっちを向いて胸を押さえて走ってくる。ガン見したいがそれどころじゃない。僕はデカゴブリンに向かって走る。どんどんゴブリンが近付いてくるが、そんなのは放っといて、マリンを助け出せばいい。レベルが4も上がったんだ。ゴブリン程度なんとかなるはず。


「タッキ、逃げてー」


 マリンが叫ぶ。デカゴブリンはニヤニヤ嗤っている。舐めやがって、僕を全く警戒してない。バシャバシャ水を跳ね上げながら、僕はゴブリンに近づきその腹に渾身の一撃を放つ。


 バキッ!


「うがっ」


 僕は右手を押さえて尻もちをつく。クソッ、殴った手が折れちまった。痛い吐き気がする。


「ぐぼおっ」


 お腹が熱い、踏まれた。うわ、なんだ何かがお腹からこぼれてる。ヤバい死ぬ。やり直しだ。手も足も出ない……

 


 読んでいただきありがとうございます。


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