第三十二話 地下
「ほらほら、もう行き止まりだ。逃げられたんだよ。帰ろーぜ」
ネネに引きずられてやっと行き止まり。車道を螺旋状に下って来て今地下三階だと思われる。広い地下の駐車スペースをぐるりとネネが携帯のライトで照らす。さらにグイグイと奥まで引っ張られていく。奥には非常口があり、ゴテゴテデコの携帯渡されてネネがノブを回すが開かない。
「おい、ぶっ壊すなよ」
「君は、ボクを誤解してるよね。壊せるけど壊したら弁償しないとかもだよ」
急に空の駐車場にライトが点く。振り返ると、コンクリート天井と壁が照らされる。床に円形の光が幾つも現れる。異常事態だ。間違いなく僕らのクラスメートの誰かのスキルか魔法だ。
「やっと何か起こるね。あれって魔方陣ってやつだよね」
円形に星、六芒星? 円の中にびっしりと見た事が無い文字が現れる。そしてそこから耳、顔、体、足と床から押し出されるように生き物が現れる。
「ほう、召喚魔法。こっちでも使えるんだね」
ネネは僕から手を離すと前に出る。
目の前には二足歩行の豚。いわゆるオークが5体立っている。
「へぇ、ここは豚小屋だったんだね」
「豚小屋じゃねーよ。て言うかお前大丈夫なのか?」
あっちではゴブリンですらかなり強かった。コイツらはデカい。体重だけなら、ネネの倍はあるんじゃないか?
「んー、ボクは豚肉はあんまり食べないから分かんない。生物系の魔物とはあんまり戦ってないからね」
まるで力士のような体型のオークたちがネネにジリジリと近付いてくる。寝間着にサンダルの少女の前に、前掛けと棍棒を装備したデカい豚が五匹。ミコはネネが強いって言ってたけど、さすがにこれは厳しいだろ。僕も寝間着だからすぐにガンは出せる。すぐ出せるようにガンに軽く手を添える。
「フゥオオオオオオオーーーーッ」
ネネが足を開いて両方の拳を腰に当てる。
「アチョー」
ネネの姿がぶれたと思ったら、オークの前に現れ拳を伸ばしている。あれは正拳突き!
ドン!
オークが口から血を吹き出してその場に崩れ落ちる。
ドン! ドン! ドン! ドン!
音がするたびにオークの前に現れるネネ。あまりにも移動が早すぎて僕の目ではかろうじて追っかけるのがやっとだ。パンチが当たった瞬間だけ動きが止まるので見えている。瞬時にオーク五匹が崩れ落ちる。こっちに腹をさらしたヤツの胸の真ん中が凹んでいる。やべぇ、ネネ、オーク全匹の心臓を一撃で潰して行ったのか!
「生き物は脆いからつまんないね。ゾンビみたいに頭潰されても襲いかかってきたり、スケルトンみたいに潰されるまで動いたりしないからね」
悶絶してるオークを背に、ネネは満面の笑みでこっちを振り返る。そして、ほっぺたに付いた返り血を親指で拭って舐める。オークたちはキラキラと光り、コトンと音をたてて、青色の宝石みたいなものが残る。
「ん、魔石? という事はダンジョン産のモンスター? 適度な運動したし、帰ろうか」
こっちに来るネネについ後退る。
コイツはやべぇ、がちバトルジャンキーだ。さっきコイツは舐められないため、仲間のために戦うとかほざいていたが。違う。絶対違う。間違いなく、自分が戦いたくて来ただけだ。つい恐怖でガンに手を伸ばす。
「君、なんでそんなとこ触ってるの? 緊張すると触るタイプなの? その癖直さないと生放送に出られないよ」
「大丈夫だ。生放送に出る予定なんか無いから」
「まあ、普通そうだね。じゃ行くよ」
確か忍者を追っかけてたのに、それはもういいのか? ミコといい、コイツといい好きなように動くよな。パーティー組んでるはずだけど、絶対上手く行かないだろ。
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
ん、車道の僕たちが来たスロープにシャッターが降りて来ている。やべっ閉じ込められる。
「おいっ、ネネ、急いで出るぞ」
走り出す僕の腕をネネが掴む。万力で挟まれたかのように、微塵も動かない。
「そうこないと、やっぱりあるよね、おかわり」
シャッターは閉まる。そして、床にさっきの倍くらいの大きさの魔方陣が現れる。ネネはズリズリと僕を引っ張ってその縁に立つ。
「なにがでるかな? なにがでるかな? 強いのがいいなー」
「おい、やべーんじゃないか? シャッター閉めたって事は、ここから逃げちゃヤバいヤツがでてくるんじゃ? 魔方陣デカいし、なんか準備に時間かかってるみたいだし」
「そうだね。君は下がってていいよ。けど、逃げない方がいいと思うよ。辺りにまだ気配がする」
僕は言われるままにネネと距離を取る。僕は巻き込まれても直接戦闘では何も出来なさそうだもんな。
魔方陣が一際光ったと思うと、中央に耳、ん、デカいぞ。豚顔、鎧を纏った体。右手には大きな斧、左手には大きな盾。強そうだ。さっきの奴らとは絶対に格が違う。
「おい、デカいぞ。ヤバいんじゃねーか。今、やれよ! 出てくる前にやれよ!」
デカ豚はもう腰まで出てる。
「君は解ってないなー。今やったらつまんないじゃないか」
ネネはこっちを振り返る。満面の笑みで。
「あっ!」
僕はそれしか言えなかった。デカ豚が地面から飛び出してネネに向かって眩く光る斧を薙ぐ。ボールのようなものが液体を撒き散らしながら僕の方に飛んでくる。それを僕は受け止める。ずっしりと重い。貼り付けたような笑顔で僕を見ている。ネネの首だ……
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