第二十七話 重騎士
「地獄の底から這い戻って来た」
僕は低い声を出す。ビビって逃げてくれないかなー?
「まじか、どうやって海から出てきた? そうか、縛り方が甘かったのか。まさにゴキブリだな。けど、おめーバカか? せっかく拾った命、捨てに来たのか?」
タケシは顔が引き攣ってるけど、逃げなさそうだな。謎の攻撃で仲間がやられたんだから、逃げればいいのに。考えが甘かったな。あと弾は一発半。多分、当てればクォーターで無力化出来るだろうけど、アイツのスキルが分からないな。せめてミコが起きたら有利になりそうなんだが。僕はじりじりとミコに近づく。タケシは気圧されてか少し下がる。
「もう、お仲間は居ないのか?」
「どうだろうな。おめーなんか本気出せば俺1人で十分だ。ミノもマコトも強いが俺には逆らわねー。なんでか解るか? そりゃ、俺が強ぇからだ」
「ほう、そうか。嘘だろ。お前、口だけだろ」
僕はじりじりミコに近づく。アイツが変な動きをしたらすぐに撃つ。
「ミノとマコトをやったのがお前の『フォース』ってスキルか。そんな物理系スキルは俺には効かない。装着したら魔法もほとんど俺には効かない。見せてやる。装着!!」
僕の目の前で、タケシの両足、両手、胴体が銀色に輝く金属に覆われる。そして、頭に兜が現れ、バイザーが降りる。やべ、格好いい。そして、右手にランス、左手に大盾が現れる。
「俺のスキルは重騎士。極めて高い防御力と、極めて高い攻撃力を誇る。さあ、ひざまずけ! 這いつくばれ! フル〇ンゴキブリヤロー」
まずいな、あの分厚そうな鎧に僕のガンが効くようには思えない。全弾込めた、フルバーストハイメガカノンくらいじゃないとダメージを与えられ無いんじゃないだろうか? まだ一度も試した事無いけど。
なんとかミコの所についた。なんだコイツ。口開けて白目剥いてやがる。怖え。
「おい、起きろ!」
止むなく、足でミコの顔をつつく。しょうがねーよな。手使えないし。
「んんーっ、うげっ」
起きたミコが僕のガンをガン見してる。そんなに見るなよ。
ブチッ!
ミコは転がって僕から逃げようとする。その拍子に足の縄が解けたようだ。ミコは器用に立ち上がる。
「も、もしかして、タッキ? 下穿いてないけど、アイツらにやられたの?」
「そうだ。けど、後にしろ。アイツをなんとかしないと」
僕はあごでタケシを差す。
「うわ、アイツ武装してる。あたしたちじゃ倒せないわよ」
「当たり前だ。もう、いい、お前らをぶっ殺す」
ガシャン! ガシャン!
タケシがランスを構えて僕らに向かって歩いてくる。万事休す!
「とりあえず、面倒くさいから逃げよっか?」
「はぁ?」
ミコはそう言うと、走り出す。僕もついていく。壁のそばに置いてあった僕とミコのバッグの前で立ち止まる。2人とも手は縛られてる。なんとかしゃがんで後ろ手にバッグを取り工場を出る。
「お前ら卑怯だぞ! 戻って来い! 俺と戦え!」
ミコは手を縛られて腕と胴体を魔法縄で縛られたまま、僕は下半身丸出しで後ろ手に縛られたまま廃工場を後にした。なんとか助かったのか?
「なんで、あのバカ、鎧脱いで追っかけて来ないんだ?」
僕らはフラフラとあてもなく走ってる。
「あっそっかー。タッキ知らないのね重騎士。重騎士の必須魔法の装着はマナをバカみたいに使うのよ。かなりレベル上げないと2回はつかえないのよ」
「装着ってどんな魔法なんだ?」
予想はつくけど、確認だ。
「アイテムボックスから決められた装備品を一瞬で装備する魔法よ。重騎士の鎧って、誰かに手伝って貰っても装備するのに十分くらいかかるし、1人だったやその倍くらいかかるのよ。けど、強いわ」
「けど、強くてもあそこまで遅いと役に立たねーな」
「そうね。けど、レベルアップして重力操作を覚えたら、もっと動けるようになるそうよ」
「そうなんだ」
防御力高くて攻撃力も高くて普通に動けたらもしかしたらメッチャ強いのかもしれない。
「で、お前は大丈夫なのか?」
興味無いけど、社交辞令だ。
「ありがとう。おかげで助かったわ。けど、なんか口の中がしょっぱいのよ。あー!!! あんたまたあたしにぶっかけたでしょ!!!」
もしかして、ミノかマコトに当てた弾の飛沫が口に……
「知らねーよ」
「ちょっとー、それより、あたしのどきどきを返して。やった誰か助けてくれたっ! イケメンかもって、思ったら、妖怪だったのよー」
「妖怪で悪かったな。けど、お前、なんとかなんないのか? 僕たちの格好ヤバすぎだろ」
「多分、結構走ったからもう大丈夫。背中合わせに座って、お互いの縄を解くわ」
資材置き場のような所の地べたに僕らは背中合わせに座ってお互いの縄を解こうとする。生で地面に座るのは地獄だ。早くお風呂に入りたい。
「あんた下手ね。動かないで、あたしに任せなさい」
お互い縄をいじってたら、相手の手が邪魔で上手く行かない。僕は力を抜き、ミコに任せる事にする。
「くっ、くうっ。ダメっ。濡れてて締まりすぎてて。太くて入らない」
そりゃしょうがない。僕の縄は濡れてるからより締まってる。縄は太めだから隙間からも解けなさそうだ。
カサカサッ。近くの建物の影から音がする。
「誰だっ! 出て来い!」
僕は立ち上がり音がする方に体を向ける。敵でも振ればシュートできる。
「ネネですよぉ。見つかっちゃったー。邪魔はしないわ。あっち行くわねー」
黒髪パッツンの美少女ネネちゃんが顔を押さえて指の間から僕を見ている。
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