第1話裏 司書長代行、下界降り
扉をあけた先には、小学生高学年と低学年くらいの女の子が2人、
30代くらいのむさくるしいひげ面の男が3人いた。
だが、一瞬それが何なのかわからなかった。
――というのも、5人ともコスプレしてるのだ。
女の子ふたりは――乞食?
なんかずた袋を被って……目が粗い麻布? らしきものを被り、腰のあたりで麻紐で締めてる。
首にアクセサリ……か? この実をつないだネックレスを二人ともつけている。
――って、高学年の子、下なんも穿いてないじゃない!?
小学生にしては発達した――おけけが――ってイカン。
オレは紳士。しーんしー。びーくーる、びーくーる。
むう。低学年の子の方も穿いてないみたい。おまたは見えなけど。
ってあのカッコ――貫頭衣?
大きな布の真中に頭を出す穴をあけて頭を出して腰で紐でくくった格好。
古墳時代から弥生時代くらいの格好だった……か?
どろだらけだが、二人とも顔立ちはどこか日本人っぽい。
んで、男どもの方――うげぇ、野郎ども、ちんこおっ立ててやがる。
こっちはまんま山賊衣装だ。あるいは原始時代。
動物の毛皮をそのまま肩にかけて腰で紐で固定している。片方の肩は素肌をさらしている。
ズボン穿いてないが……そのかわり腰に乾燥させた藁――腰蓑? を付けている。
髪が赤い――赤茶? 目は緑? 不自然な……
一番大きい男でおおよそ170cmくらい、横の子男二人は160cmくらいか……
――ちなみにオレは186cmだ。ちょっと高め。
どういう状況――いや、わかる。見たまんまだ。
信じられないことに、この3人が子供二人をレイプしようとしているんだろう。
――マジ?! おいおい、子供だろ?
よく立つ……いや、違う。とんでもない犯罪者どもだ。
義憤に駆られ数歩近づいて――ちょっと疑問。
――って此処どこよ?
ちょいと周りを見渡すと――アレぇ?
地下じゃねえぇ? 天井がねえ。青空じゃん。
周りは森。しかもどう見ても植林の森じゃなく天然の森。
後ろを振り向くと――? ハレれ? さっきまでいた部屋がねえ。つーか扉もねえ。
なんだよ……と首をかしげ――え?
首が――いや、なんか体が重い。
重い? 霊力に負荷でなく――? 体が?
――コレは――――まさか、受肉?
体全体が重い。
着ている司書服の重さを感じる。
靴の重さも感じる。
リングの重さを感じる。
剣の重さも感じる。ちょっと重い。
そして――森の匂い、太陽の光と熱。
そして大気、地の精霊たち――彼らから感じる躍動感。
天界での穏やかな感情ではなく、活発な子供のような感情も。
――うん。下界だ。
受肉して下界。間違いない。
やべえんじゃね?
たしか――天界の法律だと
――オレら死人にゃ影響ないから本でさわりしか読んでないけど――
たしか天界人向けの法律で――問答無用で地獄行き。あるいは消滅刑。
いやいや、コレは天界人向けで――オレはそんな意図ないし――
……くっ。ダメだ。神族はそんなに甘くない。
言い訳無用だ、彼らは。
だめだわ。ここに転生したって考えるしかねえ。
そんで天界人から隠れて過ごし――
此処で――死ぬまで住むしかない? か……
覚悟を決める。――いや、決めよう。決めるしかないよう。
あと30年ほどで天界人になれたのに――いや、無念だが……
――くそう。
無理。むりぽ……
そんな簡単に覚悟なんて無理。
ええいゆっくり決めよう。
混乱した頭で、ここまで高速で思考。
――とりあえず、彼女らを助けないとな。
まぁ、下界の人間相手なら……術でも使えば大丈夫だろう。
これ以上、考えるのは後にしとこう。
観察しながら彼女たちに近づく。
……なんか、男どもは怯えている。後ににじりって下がってる。
いかにも真中でえらそうにしてるのがおそらくボスクラス。
ボスは木の棍棒――いや先端に大きな石をくくりつけて――斧みたいな獲物。
子分どもは単純な棍棒。
ただ、棍棒やオノの先は黒っぽくなってる。――血? か?
彼女らは……? はえ? ボーッとしてる? 年長の娘は赤くなって照れてる?
よく見ると体中傷だらけだ。やわ肌に血が流れている。
ちゃんと風呂にはいってまともな格好をすれば、けっこうかわいいと思うが――
今の彼女は体中の傷と髪に絡まった葉っぱ。蜘蛛の巣、全体についた土。
汗と涙と土が混じってどろのようになってる顔。ずいぶんひどいかっこうだ。
年小の子は、それほど年長の子ほどでもないが、こちらも同じように汚れている。
ただ、傷は圧倒的に少なく、蜘蛛の巣もついていないところを見ると年長の娘が
守っていたんだろう。――ん。小さいのに感心なことだ。
「%&$#? %%$=%$)&?」
「"!#$#$)$(#'#$($#"=$"#$$$&&%$&$&」
小さい娘がなんか言ってる。
そして大きい娘もさっぱり意味がわからんが――なんか言ってる。
――が、OK。この状況で言うことなんざ一つしかないわな。
つまり――助けてくれってことだろ?
「「「))#$"%!&$&#$$&$&&$&」」」
腰が引けてる男どもはなんか叫んでる。
女の子に向かってなんか言ってるようだ。
――が
『君たちの言葉が理解できないが、どうやら子供たちに害なすもののようだな』
とりあえず念話で、告げる。念話なら言語関係ないし。
5人とも驚いている。――うん。どうやらいけそうだ。この世界では念話がないのだろうな。
余分な殺しはしたくないし。これ以上――罪を重ねたくないし。
だから――
『去れ、ケモノども』
おもいっきり威圧的におどす。
奴らから見たら、背が高いし、
たぶんオレは突然現れた理解不能なハズだから悪魔のように見えてるハズ。
脅せば、逃げるだろうと期待してのことだ。
が――
「■■■■■$%#%$#%*/*///$!!!!」
失敗! やべ、おどしすぎたか?!
悲壮な覚悟を決めたかんじのボスが石のオノを振りおろす!
っ!
重さがある武器だったし、おそらく考えなしの攻撃だったからだろう、なんとか避けれた。
オレが必死で避けたのがわかったのか、にやっと笑ったボスはギラリと目をひらめかせると
振りおろした斧を横になぎ払おうと――
――術は間に合わないっ!
とっさに手にもった天界人の剣を抜いて、オノをガードすべく渾身の力こめて振りおろす
――ってぇ、タイミングミスった。
やべえっ! ボスはフェイントをかけてたみたいだっ! 剣を振りおろすの早すぎたっ!
「――え?」
あれ? あれれ? ボス――真っ二つですよ?
剣、届いてないよ? ボスに。
えーーーと? ……しょうげきは? 剣から? どこのゲームですか?
剣から出た衝撃波(?)でボスと、それと子分の腕が真っ二つになってる。
えーーと。
……まぁいい。
『去れ』
とりあえず剣を収め、動揺を押し殺して子分どもを威圧する。
顔面、真っ青になった子分たちは悲鳴をあげて森に逃げた。